【後編】すべては女子ラグビーを広めるため。横尾千里はタックルを武器に、リオ五輪での飛躍を誓う

2015.07.14 森 大樹

横尾千里

 

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私にできる唯一のプレーがタックルだった

 

-ラグビーはコンタクトプレーの多い競技なので、怪我もこれまでたくさんされてきていると思います。

大きい怪我は(※)「恥骨結合炎」というものになりました。走り過ぎでなってしまう怪我です。長い間ラグビーを休まないと治らないと言われていたのですが、時間がない中でそういうわけにもいかず、やれるならやりたいというのが私の本音でした。当然やってしまえば怪我は再発するので、そのもどかしさと戦ってきたという意味で私にとってはすごく大きな怪我でした。今も常に気にしながらプレーを続けています。

以前は限界まで追い込んでプレーをして、痛くなったら休むというのを繰り返していましたし、それが正しいと自分の中で考えていました。少し痛かったとしてもラグビーという競技はやらないといけないと思い込んでいて、それが当たり前になっていました。

 

-でも無理をすればその分治るのも遅くなってしまいますね。

そうです。それで代表としてプレーをする期間が長くなってくるに連れて、大切なのはいかにして試合にベストなコンティションで臨むかだということを学んできたんです。それからは痛くなりそうだと感じたら練習をやめたり、周囲の人に相談したりする勇気を持つことができるようになりました。同時に今は他の怪我を防ぐことができている気がしています。大変な怪我でしたが、すごく大きな気付きだったと思います。

ラグビーというスポーツは本当に怪我との付き合い方が難しいです。例えば捻挫くらいならテーピングを巻いてやるのが当たり前で、それで練習を休むなんてありえない、といった風潮が選手間にはありましたし、私もそう思っていました。でもチームのコーチの方々は現役時代のそういった怪我の積み重ねを後悔していて、隠していると怒られます。今は私もコーチの言っていることの意味がだんだん分かるようになってきました。怪我に対する姿勢は私が一番成長できた部分だと思います。

女子ラグビーは代表として活動している期間がすごく長くて、今は合間の短い期間にクラブチームで試合に出ています。そうなるとクラブチームで怪我をすることは代表活動に影響するので、絶対あってはならないことだと思っていました。なので特にクラブで怪我をした時には気になってはいるものの、言い出せないという状態がありました。今は代表のスタッフもそれを受け入れてくれるようになりましたし、後々大きな問題になることを回避できています。

※恥骨結合炎:骨盤の前方部、恥骨の結合部が損傷し、炎症を起こしてしまうもの。急な方向転換や動作・停止によりが原因で引き起こされ、スポーツ選手や妊婦が発症することが多い。中田英寿氏、中山雅史氏(いずれもサッカー元日本代表)なども悩まされた。

 

横尾千里

 

-激しいプレーをすること自体への恐怖心や、女性として抵抗を感じた時期はなかったのでしょうか。

私自身は小さな頃からラグビーをやっていましたし、タックルが好きなプレーなので、抵抗を感じたことはないです。

最近では少しずつ女子ラグビーが注目を集めるようになってきて、大人になってから始める人も増えてきています。それを見ていて、なぜやりたいと思ったのか気になりました。私であれば大人になってからラグビーを始めようとはしなかったと思うんです。実際に質問してみると、「人にタックルしてみたい」という人ばかりでした。パスを繋いで、相手をかわして走り抜けるというのではなく、コンタクトに魅力を感じている人が多かったんです。もちろんそんなにすぐ人に当たれるわけではありませんが、練習が楽しいと言っていました。私としても人に当たりに行くことを楽しんでいる人がたくさんいることは意外でした。でも確かに普段はなかなかできないことですよね。

 

-横尾さんのアピールポイントを教えてください。

何度も出てきて申し訳ないですが、タックルです!

私の場合、初対面の人にラグビーをやっていると話すとそうは見えないらしく、驚かれるのですが、個人的にはむしろやってそうだと言われる見た目になりたいんです。

でも他人から見て、そこまでラグビーらしい体型をしていない私が「タックルが強み」だと言うことで小柄な人にも大きな選手に当たっていく抵抗を感じてほしくない、立ち向かっていけるということを発信できると感じています。

 

-横尾さんが日本代表で活躍を続けていくことで勇気をもらえる人も多いと思います。

私は特に高校時代、中学男子に混ざってギクシャクした中でラグビーをしていました。当然信頼がないのでボールも回ってきませんでした。でもタックルしてくる相手を選ぶことはできません。そこに立ちはだかる私を避けて通ることはできないからです。私にできる唯一のプレーがタックルだったんです。初めは自信があったわけではないですが、それしかやれることがない状況になってずっと続けてきたのですごくこだわりを持っています。自分のアピールポイントでもあり、一番グラウンド上で見せたいプレーです。

 

-反対にこれから先、伸ばしていく必要があると考えている部分はどこですか。

アタック(攻撃)の部分です。タックルの場合は自分の中でスイッチを入れて、激しくいかないといけませんが、アタックの場合は少し落ち着いて周りを見ながら、余裕をもってやる必要があります。私はまだその余裕を持てていなくて、練習でやったことを試合で発揮する難しさを感じています。でもこれからは点も取れる選手にならないと生き残っていけないと思うので、強化していきたいです。

五輪の結果が今後の女子ラグビーを左右する

 

-横尾選手の今後の目標を教えてください。

まず、代表としては今年11月に2016年リオ五輪のアジア予選があるので、そこでしっかり勝って来年の五輪で結果を残したいです。それが今後の女子ラグビーを左右すると思っていますし、責任を感じています。

クラブチームとしては太陽生命カップでシリーズ優勝することが目標です。

 

東京フェニックスRC

 

-横尾さんが感じている世界との差はどのような部分ですか。

やはりフィジカル面での差は大きいです。外国の体の大きな選手に対してであれば私達は2人ずつマークに付く必要があります。その分相手の運動量も上回らなければなりません。でもフィジカルの強さがあれば1対1で勝負できます。

 

-海外に遠征に行かれることも多いと思いますが、苦労したことはないですか。

インドに行った時のことなのですが、まず試合の会場が田舎の方で、しかも出てくる食事が基本的にすごく辛いカレーだったんです。暑い中でそれを食べるのは難しいので、日本食をチームとして持っていき、現地のものは全く食べませんでした。ラグビーは体重を維持、増加させていく必要があるスポーツなので、食事面での工夫は必要になります。

 

-以前は横尾さんのように厳しい環境でプレーをしなくてはならなかったと思いますが、徐々に改善されてきてはいるのでしょうか。

最近は私のように女子が男子の中でプレーをするということが受け入れられやすくなってきているようです。男子も対戦相手の中に女子がいたりしてもそこまで気にしなくなってきています。女子のチームが新しくできるというよりは男子がそうやって受け入れてくれるようになってきています。すごくいいことだと思います。

 

-今後女子ラグビーを広めていく上でどのようなことが重要だと思いますか。

やはり一番は私達代表が五輪で結果を残していくことだと思います。それ以外にも今は少ないですが、女子ラグビーに興味を持ってきてくれる人をしっかり受け入れて魅力を知ってもらうこと、その人達をうまくしてあげることが私達にできることだと思っています。

あとは何気なく触ったボールが、ラグビーへの第一歩になってほしいという話をしていて、私達もそういった機会を作りたいという話をしています。

 

横尾千里

 

-ここまでは競技について伺いましたが、横尾さんご自身についてお聞きします。

 

-時間がある時にやっている趣味はありますか。

書くことが好きで、ラグビーノートや手紙をよく書いたりします。

 

-ご自身で思う、自分の魅力を教えてください。

人からよく「天然ボケ」だと言われます。みんなにとっては笑えることでも時々私には笑えないような一大事が起きたりします。チームとしてはピリピリした中で和ませる部分を持っていると言ってくれますが、私は治したいんですよね(笑)

 

-もしラグビーをやっていなかったら何をしていましたか。

ラグビー以外に夢中になれることを別で見つけて、そればかりやっていたと思います。でもスポーツではなくて、室内で座ってやるようなものに夢中になっていたかもしれません。

 

-試合前に聴いたりするような、好きな音楽はありますか。

具体的な曲が決まっているわけではありませんが、試合前には誰かが聴いている音楽をスピーカーで流し、チームみんなで共有しています。みんなで同じ曲を聴いて、同じ気持ちでいるということですね。

 

-試合前のゲン担ぎやルーティーンワークを持っていたら教えてください。

必ず土踏まずのところにテーピングを巻きます。最初は怪我の予防のためにやっていましたが、だんだんそれがないと不安になっていきました。今は試合に気持ちを入れていくための儀式として大切にしています。

 

-大事にしている言葉を教えてください。

最近改めて「信じる」ということが重要だと感じる機会がありました。自分達が試合で勝つということ、隣にいるチームメイトを最後まで「信じる」ということです。当たり前のことではあるのですが、簡単に見えて実は難しくて、でもすごく大切だと体感しました。これから大事にしていきたいと思っています。

 

東京フェニックスRC

 

-具体的にどういった出来事があったのでしょうか。

太陽生命カップの東京大会にクラブチームとして出場してきた時のことです。チームに加入してきたニュージーランドの選手がその試合で失点した時に「私達の勝利を信じよう」ということを言っていました。今まで私達もずっと言ってきていたことではありますが、本当にその言葉を信じられていたか、と改めて考えさせらました。彼女が心の底から信じてその言葉を言っていると伝わってきたからこそ気付けたことだと思います。

特に7人制ラグビーは広いグラウンドを少ない人数でカバーする必要があるので、その分信じてスペースを任せたり、攻めたりしないといけません。しかし今まではその「信じる」気持ちが足りていなかったから点を取られたり、負けていたりしたのだと思います。今回「信じる」ことの大切さ、そう思っていると自分が発信することの大切さを実感して学ぶことができたので、大事にしていきたいです。

 

-最後に読者の方にメッセージをお願いします。

まだ女子ラグビーを身近に感じている人は少ないですが、一度観に来てもらえれば次も観たい、応援したいと思ってもらえる自信があります。

ほとんどのメンバーが自分の生活をラグビーに捧げているので、プレーを通して何か感じ取ってもらえるものがあると思います。ぜひ一度グラウンドに来てください!

 

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