成功のカギは「フィールドを2つ以上持つこと」。津久浦弘子が照準の先に見据える世界の舞台での戦い

2015.07.09 AZrena編集部

津久浦弘子

 

今回は(※)ライフル射撃・津久浦弘子選手のインタビューです。津久浦さんは進学した慶應義塾大学でライフル射撃と出会い、2011年全日本学生ライフル射撃選手権3位という成績を収め、卒業後も働きながら競技を続けられており、現在はライフル射撃日本ランキング12位(50mライフル3姿勢女子)とご活躍されています。

※ライフル射撃とは:ライフル銃を用いて固定された的を撃ち、得点を競うスポーツ。種目に応じて違った時間・弾数・距離・姿勢(立射・膝射・伏射・3姿勢)が指定されている。

 

工夫次第でいくらでも勝負できる

 

–  数多くあるスポーツの中で、ライフル射撃を始めるまでの経緯を教えて下さい。

私は小学校3年生から中学3年生まで地元でバスケボールをしていて、とにかくスポーツ漬けの毎日を送っていました。高校でも最初はバスケ部に入りましたが、全く違うメンバーとまた一からチームを作っていく自信がなかったことと、先生と合わなかったこともあり(笑)あっさり辞めてしまいました。委員会中心の学校生活を送っていましたが、3年間を振り返ってみたとき、何も残せてないと思いました。イベントごとの思い出はあっても、何か物足りなさを感じてしまったんです。

その反省から大学では勉強や委員会活動以外の何かをしたいと思って、体育会に入る事に決めていました。高校時代から3年間のブランクがあったので運動部系に戻るのは厳しいのではないかと悩んでいる時に、友達から射撃の体験に誘われました。興味があったので行ってみたところ、自分だけ見事に射撃に取り憑かれてしまいました。

 

–  初めて撃った時はどのような感触でしたか。人によっては怖いと感じる人もいると思います。

私がやっている10mと50mの競技では反動も音もさほど大きくは無いので、怖くはなかったです。照準器を覗いて見える視界は本当に少しです。じっと的に狙いを定めて、そして撃つ。初めて真ん中に当たったときは周りからたくさん褒めてもらって、とても嬉しかったですね。初心者にしてはなかなか当たる方だったと思いますよ(笑)

あとは銃への憧れをすごく持っていました。刑事ドラマの「あぶない刑事」が大好きで語り出すと止まらなくなります。もともとは「踊る大捜査線」に始まり、刑事ドラマ全般が好きだったのですが、叔母がこちらのほうが面白いと「あぶない刑事」のビデオを全部貸してくれたのがきっかけです。その時から憧れの職業は警察官でした。

 

–  大学卒業後は警察官になろうとは思わなかったのでしょうか。

ずっとなるつもりでいました。つい最近まで未練があったほどで、今でも憧れの存在です。でも、大学在学中に自分は警察官になりたいのか、大好きな刑事ドラマに携わりたいのかはっきりしない時期がありました。結果的に東映に入って映画やドラマを作る道を選んだのですが、“最近まで”と言ったのは、ついに先月「あぶない刑事」最新作の現場にスタッフとして参加する事ができたのです。夢のような日々でした。4年目にしてやっと未練も断ち切れたかなと感慨深いです。

 

–  競技で使用するライフル銃はご自身のものですか。所持するには制限もあると思います。

はい。射撃は1つの銃に対して1つ(1人)の許可しか認められないという「一銃一許可制」をとっています。銃はかなり高価なので初めは引退された先輩が使っていた銃を引き継いで使わせてもらっていました。働き始めてからお金をためて、去年念願の新銃を買いました。

 

–  かなり銃は重そうですよね。どのくらい重量があるのでしょうか。

6〜8kgくらいです。最初はなかなか銃を構えたまま静止することができません。でも筋力で銃を支えようとすると微細動が起きてしまうので、基本は骨格に乗せるような形で支持します。なのでそんなに重さは気になりません。

 

津久浦弘子

膝射-Kneeling-

 

–  大学からライフル射撃を始めた津久浦さんですが、競技成績はいかがでしたか。

大学4年生のときに全日本学生選手権で自己記録を大幅に更新して3位に入りました。3位という結果は嬉しくもありましたが、同時に中途半端な結果だとも思っていました。就職活動中で、あまり練習もしていない状況での大会だったので、もっと練習をすれば上を目指せると感じました。

 

–  それが卒業後も競技を続ける原動力になっているのでしょうか。

自分の性格では、競技に限らず学問や仕事でも上位争いができないと思ってしまったら、努力をし続ける事ができません。その点射撃には“できない理由”がありませんでした。

自衛隊や実業団でやっている選手には練習量では敵わないかもしれませんが、幸い今の職場は、土日と平日の夜を使って競技を続けられる環境で、会社の理解もあります。勝つことが不可能ではない、工夫次第でいくらでも勝負できると思い、ライフル射撃を続けることにしました。

 

–  土日と平日夜に練習をすると自由に遊ぶ時間もなくなってしまいますよね。

あまり遊びたいという気持ちはないですね。もちろんドラマや映画は大好きですし、仕事と射撃両方のモチベーションにも繋がるのでよく見ます。ただ、休みの日にダラダラ寝たり遊んだりという過ごし方には罪悪感を感じます。何か自分の成長に繋がるように過ごせたときが、一番充実していて楽しいんです。

射撃に体調管理は欠かせないので適度に運動もします。体がだるいと集中も切れやすく、視界もぼやけてしまいます。試合や練習に良いコンディションで臨むには、日常生活から食事や睡眠に気をつけなくてはいけないのですが、そんなことも苦ではなく、私に合っているのだと思います。

ただ熱しやすく冷めやすい、というか冷めてしまうとそれまでなのであまり根詰めずゆとりを持ってやるようにしています。お金も結構かけているので、正直飽きたらどうしようかとも思うのですが、試合に出ることや、新しい装備を買うことで、自分のモチベーションが上がるように工夫しています。

 

–  自分のモチベーションを維持することは非常に大切ですね。銃はいくらくらいするのでしょうか。

ざっくり言うとお給料4か月分くらいです。貯金も何も空っぽです。清水の舞台から飛び降りる程でしたが、それだけ想いが強いという事で自分を納得させています(笑)

 

–  日本で買えるのでしょうか。

日本でも買えるのですが、入社二年目の秋に思い切って本場・ドイツに行き、ライフル射撃W杯の出展ブースでメーカーの社長に直接オーダーをし、最高に良い銃を手に入れました。私が今使っているものは日本の選手の中でも一番いい銃だと思っています。そう思える事が大事です。銃や道具への絶対的な信頼があるので、結果が悪ければ全部自分のせいだと認めることができます。そうでないと、結果が悪かったときに銃が悪い、弾が悪いと言い訳してしまいそうになりますからね(笑)

 

–  そうなると海外の方がライフル射撃は盛んなのでしょうか。

圧倒的に強いのが中国です。中国は設備も整っていて小さな頃からエリートを育てています。中国ではW杯で勝つことよりも国内大会で優勝する事の方が名誉な事だと言われているそうです。W杯においても中国が上位に複数名入っていることが多いです。体型が違うと構えも変わってきますが、競技力にあまり体型の差は関係ないので、欧米の選手とも対等に闘えるというわけです。

 

津久浦弘子

伏射-Plone-

ライフル射撃は自分との闘い

 

–  ライフル射撃をする上でどのようなことが重要だと感じていますか。

やはり集中力が大切です。あとは体を支える体幹、バランス力、反射神経ですね。極論を言えば、銃が止まっていれば反射神経は必要ないのですが、照準が合うタイミングでいかに直感的に指を動かせるか大切です。あとは視力も重要だと思います。私は裸眼なので悪いとどうなるのか分からないのですが、コンタクトだと瞬きの回数も増えるのでその分ハンデにはなるかもしれません。

 

–  どれくらいの年齢の方が多いのでしょうか。

多いのは10〜20代ですが、射撃は生涯スポーツなので、下は小中学生から上は70代の方もいます。因に現在、世界で活躍されている日本のトップ射手の中には40歳になろうと言う方もいます。体力や視力の面で年齢も大事ですが、経験値がモノを言う競技でもあるんです。

 

–  ライフル射撃を始めたい時はどうしたらいいのでしょうか。

ビームライフルであればどなたでも体験することができます。弾はでませんがエアーライフル射撃と同じ感覚で、安全に射撃を楽しむ事が出来ます。都内でも体験の場を設けているところがあるので是非そちらを訪ねてみてください。

本格的に弾を撃ちたいとなると警察署で講習や試験を受けて“所持許可”を取る必要があります。その後の指導者や装備などの事を考えると、どこかに所属するほうが始めやすいと思います。

 

–  津久浦さんが思う、ライフル射撃の魅力を教えてください。

やはり狙い通り当たっている時の快感ですね。試合では60~120発ほど撃ちますが、自分が集中できるゾーンに入ると頭であれやこれやと考えなくても無心に撃つことができます。練習量やコンディションによってゾーンの幅を広げていくことが勝利への近道になるのです。

また、他の多くの競技は相手との駆け引きがありますが、ライフル射撃は自分との闘いです。じっくり競技と向き合い、試行錯誤を重ねて結果につなげていきます。当たらなければ自分のせいで言い訳もできません。競技自体は「止めて撃つ」という極めてシンプルなものですが、シンプルだからこそ奥が深く追求のし甲斐がある競技だと思います。

 

–  どれくらいの時間で撃つのでしょうか。

60発だと1時間45分です。膝立ち、伏射、立射の3姿勢で撃ちますが、自分で時間配分を決めて行います。一番姿勢が不安定で難しいのは立射ですが、意外に苦しくて私が最も苦手なのは伏射です。重量のある銃を、地面に近い位置で、しかも地面には置かずに支えているので非常にきついですね。慣れないうちは弾を一発一発入れる作業も拷問のようでした(笑)

 

津久浦弘子

 

–  一般の方も観戦はできますか。

もちろんいつでも観戦できます。ただ場所やタイミングを選ばないと、見えにくい(わかりにくい)会場もあります。本戦は応援の声等もなく静かに行われるのですが、決勝に残った8人で上位決定戦を行う“ファイナル”では、応援も煽りもありますし、負け抜け制なので最後は1位と2位の一騎打ちになり、やる側も見ている側も大変盛り上がります。興味のある方は、是非ファイナルのある試合を狙っていらしてみてください。

 

–  津久浦さんの今後の目標を教えてください。

短期的な目標は国体(国民体育大会)への出場及び入賞です。長期的な目標はやはり、日の丸を背負って世界で戦うことです。

2020年のオリンピックが東京に決まった時に、「今からでもオリンピックを狙える競技」として射撃が取り上げられたのは有名ですが、確かに競技人口が少ないのでチャンスは多いのかもしれません。 “競技歴の長さ”がモノを言う他競技とも少し違うので、今本気でライフル射撃をしている人はみんなオリンピックを目標にしていると思いますよ。

 

–  先ほどはあまり遊ばないとのことでしたが、プライベートでの趣味があれば教えてください。

やはり映画やが好きで、仕事帰りに一人で観に行ったりもします。TVドラマや読書などのインドアも好きですが、刺激的なことや未体験なことにワクワクするタイプなので、思いついたら友人を誘ってどこへでも出かけていきます。最近はボルダリングデビューをして、近いうちにはバンジー、パラグライダー、スカイダイビングなど“飛ぶ系”に挑戦しようと計画しています(笑)

 

–  最後に読者の皆さんに一言お願いします。

“2つ以上のフィールドを持ちましょう!”

というのは、仕事だけを頑張っているとそれがうまくいかない時に折れてしまいますが、もう1つあればそちらを向くことができます。私自身、仕事で落ち込むこともあるますが、射撃があるから頑張ろうと思えますし、逆に射撃がうまくいかないでもやもやしている時は、仕事から刺激を受けたりする事があります。案外調子がいい時はどちらもうまくいっていることが多いんですけどね。

競技でなくても、例えば家庭と習い事・仕事と趣味などフィールドを2つ以上持つことで両方うまくいくかもしれません。皆さんも自分を高めてくれるフィールドを新たに増やしたり変えたりしてみてはいかがでしょうか。