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ヴェルディというブランドが彩る渋谷の未来と、新スタジアムの理想像

2020.03.06 / AZrena編集部

金山淳吾氏、羽生英之氏

(左から)金山淳吾氏、羽生英之氏

※トークセッションの内容を一部抜粋してお届けします。

 

東京ヴェルディは、クラブ創立51年目のシーズンを前に、東京都渋谷区で「TOKYO VERDY BUSINESS TALK SESSION」を開催。2020年2月17日(月)には「スポーツ×街づくり」をテーマに、代表取締役社長の羽生英之氏と、一般社団法人渋谷未来デザイン理事/プロジェクトデザイナーの金山淳吾氏がトークを繰り広げました。

 

渋谷未来デザインは「スクランブルスタジアム渋谷」と題し、2027年を目処に代々木公園内での多目的スタジアム建設を目指しています。その大型プロジェクトに、スポーツの垣根を超えた“総合型クラブ”を志すヴェルディは、どのように寄与していくのでしょうか。

 

ヴェルディという“ブランド”は、どこでも「ハブ」になれる

ーいちスポーツクラブとして、東京ヴェルディは渋谷区とともに何か実現できることがあるのではないでしょうか?

羽生:私は世田谷区に住んでいますが、渋谷は住むには敷居が高いというか、若者の中に入りにくいということも少し感じています。特に家族連れの方は住みにくいと思いますし、そういった垣根を取り除く意味でいうと、スポーツはすごく良いなと思います。

 

渋谷にもっとスポーツができる場所がたくさんあると、自然と家族連れの方も増えて、住みたいと思う方が増えるのではないでしょうか。その中で、私たちができることはたくさんあるのではないかと。

 

ー具体的にはどのような取り組みが考えられるでしょうか。

羽生:2020年から私たちのビジネスは「ブランドビジネス」だと言い切っています。ヴェルディというブランドをどのように掲げていくか、ということに注力するようにしました。2020年にエンブレムを変えたのは、50年の歴史の中でも随分と大きな出来事だと思います。

東京ヴェルディ

 

私たちはどこでも「ハブ」になれると思っています。2020年1月には、宮崎県宮崎市と包括的連携協定を結びました。宮崎市は、東京と違って土地がたくさんあります。気候も良くて、食べ物も美味しいので、アスリートを育てるにはすごく良いんです。錦織圭選手を輩出した、アメリカのIMGアカデミー(※)のような取り組みもできるかもしれません。

 

※世界最大級の総合スポーツアカデミー。学生からトップアスリートまで、世界中の約80カ国から生徒が集まる。

 

渋谷は人が集まっていて、ファッショナブルな街なので、ブランドイメージがかなり高いです。全国に市区町村は約2,000カ所ありますが、どれだけ昼間人口や夜間人口を増やすか、競争ですよね。その中で突き抜けるような都市が出てくると、恐らくそこを真似しようという動きが出てきます。

 

Jリーグも同じで、今は“頂”を高くしようとしています。日本ではようやく収益が100億円に近いクラブが出てきましたが、ヨーロッパでは100億円でも小さなクラブです。そういったところと戦っていくために、頂を高くすることで裾野を広げようとしています。

 

ただ、Jリーグの分配金が上のクラブにばかりいくと、私たちはお金がないクラブなので、実力差も出てきてしまいます。その中で、私たちはアカデミーに特化して、子どもたちを育てて戦うんです。スポーツやエンターテインメントのハブになるということが、絶対にできると思っています。

 

金山:私もずっとスポーツをしてきましたが、例えばラグビーやアメリカンフットボールの経験者は、仕事をしても根性がありますし、人脈も持っています。サッカーにおいても、Jリーグのユースにいたというだけで、少し別格感があります。そういった形で、ヴェルディというブランドが付いてくると、その人の価値がさらに増幅されますよね。

 

新スタジアムに求める世界遺産レベルのインパクト

ー現在はスクランブルスタジアム渋谷構想が進んでいますが、スタジアムはどのようなポテンシャルを秘めているとお考えですか?

金山:サッカーを中心とした地域振興は、ぜひ進めたいと思っています。1チームだけであればいいわけではなく、何チームでも渋谷にやってきてほしいです。渋谷は多様な価値観の方々の集積地なので、一つ一つのコミュニティが小さいんですよね。5万人、10万人が集まるようなコミュニティはなかなかない。

 

スポーツというコンテンツは大きな力を持っていますが、バスケットボールはまだ数千から1万人くらいのコミュニティの市場だと思います。サンロッカーズやアルバルクがBリーグに参戦したことで、大きなコミュニティができた実感はあったものの、その次のサイズを狙うのであれば、サッカーか野球しかないなと。

 

野球はヤクルトスワローズが神宮球場を本拠地としていて、広域でいうと渋谷の経済区域になります。ただ、サッカーだけは都心部にないので、ぜひ渋谷を拠点とするチームがほしいんです。そのためには練習か試合をする場所がないと、拠点とは言えません。スタジアムができれば、試合をする拠点として、チームを迎え入れることができるのではないかと思います。

金山淳吾氏

 

ースタジアムは防災拠点としても大きな役割を果たしますが、2011年には味の素スタジアム(東京ヴェルディの本拠地)が東日本大震災の避難所となりました。

羽生:当時を思い出すと、たくさんの方が味の素スタジアムに避難していました。スタジアムには厨房やシャワー、部屋があるので、住環境としてはそれなりの快適性があります。渋谷にスタジアムを建てるとなると、当然ながらコストの話も出てきますが、コスト以上に大きな機能を備えることは可能なのではないかと思います。

 

ー建築物としての美しさや、観光地としての機能性はどのように突き詰めていくのでしょうか?

金山:緑の景観は守っていきたいですね。渋谷には表参道や代々木公園、明治神宮などにレガシーとして緑があります。ただ、森に埋没したスタジアムを作ってしまうのは、はたして正しいのか。せっかく作るのであれば、世界遺産になるくらいインパクトのあるスタジアムにするべきではないか。自然との共生をどのように進めていくかというのは、プロジェクトの最大の争点になると思っています。

 

羽生:サッカー場を作るというより、「この中でサッカーもやっているんだ」と思えるような施設が良いですよね。今のスポーツ界の課題は部活動にあって、特に中学年代の部活は大きな問題があります。先生方がそこまで手が回らなくて、顧問の成り手がいないんです。

 

そもそも「体育」は「スポーツ」と言うべきだと思いますし、スポーツに役割がなくてもいいんですよね。スポーツクラブに来てくれればやれますから。私たちはサッカーしかなかったですが、これからどんどん競技を増やして、スポーツの垣根を超えていきます。

 

例えばスタジアムでは、渋谷の小・中学生がスポーツの授業をするようになって、ヴェルディのプロデュースで指導できる可能性があります。また、運動会も私たちが企画して開催できるかもしれません。そういうことをしないと総合型クラブ化する意味がないと思っていますし、365日使えるスタジアムにできるのではないかと感じています。

 

金山:アヤックス(オランダ)の本拠地であるヨハン・クライフ・アレナは、高速道路の終着点にスタジアムがあります。高速道路を走ってスタジアムに入っていく感覚は、すごくワクワクします。渋谷にも表参道や代々木公園、明治神宮の歴史も汲み取りつつ、このスタジアムがあって良かったと思えるようなスタジアムを作りたいんです。

 

羽生:あとは芝生の問題もありますよね。前日にコンサートをやっても、その翌日には普通にサッカーができると良いですし。

 

金山:芝生のイノベーションを起こす企業はもっと出てきても良いですよね。天然芝やハイブリッド芝への負担による機会損失はありますし、何を前提条件として作っていくかが複層的に絡み合っています。ぜひ皆さんからも意見を寄せていただきたいです。

 

渋谷の未来と歴史が調和したスタジアムへ

ー2027年の建設を目指していますが、どのようにプロジェクトを進めていくのでしょうか。

金山:「未来の街」と表現すると、すべてが変化してしまうように思われがちですが、何を残して何を変えるかという明確な仕分けと、残し方の手法を掛け算することが大事だと考えています。変えるべきものに関しては、どう変えるのかシナリオを描いて、新しい技術やアイディア、クリエイターを取り入れて、いつでも良いシナリオにアップデートしながら進めていこうと思っています。

 

ー最後に、ヴェルディが渋谷と共創していく未来についてお聞かせください。

羽生:ヴェルディは、2010年に親会社である読売グループが撤退して、経営難に陥りました。ただ、それから10年経った今でも、練習場はよみうりランドにあるんです。私は2010年に社長になりましたが、早くこの場から出なければいけないとずっと思っていました。でも、あの場所には何かが宿っていて、だからこそアカデミーの選手たちが育っていくのではないかと感じています。

 

練習場までの坂を登りながら、選手たちは何を考えて、毎日つらい練習に来ていたのか。その想いが染み付いて、50年の歴史になっていると思うわけです。新しいスタジアムができるのであれば、そういった歴史の積み重なるスタジアムになってほしいと考えています。

羽生英之氏

 

私たちは、総合型クラブとしてハブになりたいという話をしてきました。一つのことではなくて、多様な目的のために使える。スタジアムの中で、私たちができることをやる。そういったハブにしていただきたいと思います。

 

2020年に入って、ヴェルディは大きくブランディングを進めましたが、ブランディングチームに『どこまで変えていいのか』と聞かれた時に、私は「緑以外は変えていい」と言いました。ヴェルディのアイデンティティで、チーム名の由来となっている緑以外は、全部変えるくらいの気持ちでやってくれと。

 

変えてはいけないもののほうが少ないですが、それが変わらないからこそ大切なんです。このスタジアムも形がいろいろと変わっても、年々その地に馴染んでいくような存在になれば良いと思っています。