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環境から、女子サッカーの未来を変える。アディダス「HER TEAM」プロジェクト

2020.06.05 / 市川 紀珠

2020年3月8日、アディダス ジャパン株式会社が、日本の女子中高生のスポーツ継続率の向上を目指したプロジェクトの第一弾「HER TEAM」を日本サッカー協会(JFA)とともに立ち上げた。アディダス ジャパン株式会社の七田佳代氏に、本プロジェクトへの思いを聞いた。

 <写真提供:アディダス ジャパン 株式会社>

国際女性デーであり、2020年から日本サッカー協会(JFA)により女子サッカーデーにも定められている3月8日。アディダス ジャパン株式会社が、日本の女子中高生のスポーツ継続率の向上を目指したプロジェクトの第一弾、「HER TEAM」を日本サッカー協会(JFA)とともに立ち上げた。

プロジェクト概要はこちら

中学生になるタイミングで、約5人に1人がサッカーをする環境を失い辞めてしまう。そのような現状を打破し、女子サッカーを続けられる環境を拡大したいという思いから始まった。

U-15の女子カテゴリで新しく発足するチームを対象に、メンバー募集のための告知ツール作成のサポート、ユニフォームの提供、サッカークリニックの開催サポートを行なうといった内容だ。

自身が幼い頃にスポーツをする環境を失った経験を持つアディダス ジャパン株式会社の七田佳代(しちた・かよ)氏に、本プロジェクトへの思いを聞いた。

(取材日:2020年5月11日 聞き手:市川紀珠)

 

圧倒的な環境不足。中学生に特化したチーム数は男子の約3%

ーこの企画を立ち上げたきっかけを教えてください。

アディダスでは、会社として3つのブランドパーパス(存在意義)を掲げています。ひとつは、女性がスポーツを続けていける環境を整えていくこと。さらに、障害・宗教・性別・年齢など関係なく全ての人に平等にスポーツをする機会を与えていくこと、そして地球環境に配慮した活動をすることです。

本企画は、この内の1つ、女性のスポーツ環境を整えていくことにフォーカスをしたプロジェクトになります。特に、10代のスポーツ継続率が男性と比較して低い状況にあり、女子中高生年代を主なターゲットとしています。

また、日本では、スポーツの熱が高まる2020年というタイミングで、キックオフをしました。

 

ー海外ではすでにやっているのでしょうか?

そうですね。2018年から、アメリカでスタートしました。続いて、昨年は2019年FIFA女子W杯の女性スポーツが盛り上がったタイミングより、フランスでも関連したプロジェクトが立ち上がっています。

国によって女性がスポーツをする際のハードルが異なるので、その国の状況を調査するところから始めています。その上で、その国にとって「最適かつ継続性のあるアクションは何なのか」を考えて実行しています。

 

ー今回、なぜ女子サッカーにアプローチすることを決めたのでしょうか?“する”環境が整っていない女子スポーツは女子サッカーだけではないかと。

女子サッカーは、他の競技と比べて中学生年代の競技人口やプレー環境のギャップが圧倒的に大きかったんです。中学生年代の登録選手数は、男子の約5%しかいない状況です。その主な要因の1つは、プレーができるチームがまだまだ少ないということでした。競技人口と同様に、女子の中学生年代に特化したチーム数は201チーム。同年代の男子主体のチームと比較すると、約3%に留まります。2011年になでしこが世界一を経験しトップの世界で活躍し続けているにも関わらず、育成年代の環境がまだ十分には整っていない。これはなんとかしたい、と。(※2018年度JFA競技者登録データより)

かつ、アディダスは日本サッカー協会(JFA)とも長いパートナーシップがあります。共に思いを形にしていくことができるパートナーがいたので、まずはサッカーを選びました。

女子サッカーをする少女たち

 

リアルな指導現場の声をもとに、内容を設計

ー「HER TEAM」というプロジェクト名の由来を教えてください。

「女子サッカー選手の受け皿=チームを増やす」というコンセプトが伝わりやすく、かつ女子中学生にもわかりやすい単語でと思って、シンプルに「HER TEAM」という名前にしました。

 

ープロジェクトの動画も、メッセージ性がありとても良かったと感じました。反響はどうだったのでしょうか?

アディダスがこれまで出してきた動画コンテンツの中でも、とてもよい反響を頂きました。嬉しかったと共に、とても驚きました。誰もが認めるスーパースターの映像でもなければ、限定商品の映像でもない。シンプルに女子のスポーツ環境の課題を映し出したものが、ここまで多くの反響をいただけるとは正直思っていませんでした。

女子スポーツに可能性を感じましたし、興味を持ってくださる方がいることを実感しました。もともとサッカーに関わっていなかった方からも、とても良い反応をいただきました。これからも、このプロジェクトのレポートとして、例えばサッカークリニックの様子なども発信していき、女子サッカーの魅力を多くの方に知って頂けたらと思っています。

ー具体的なサポート内容についてお聞かせください。各チームのメンバー募集の告知手段をチラシなどの紙媒体にしたのはなぜなのでしょうか?

女子チームを立ち上げる際のハードルについて、現場の指導者の方にさまざまなヒアリングを行ないました。その中でみなさんが口を揃えて言うのが、「指導をしたいと思っている人は一定数いる。だけど、そもそも選手がどこまで集まるのかがわからない」ということでした。

そこで現場の声を参考にしながら、メンバー募集に関してわれわれにできることは何かと考えました。WEBやSNSを通じた告知活動もひとつの有効な手段だとは思いますが、今回ターゲットとなる小・中学生へのアプローチには、ポスターやチラシも合わせて必要かなと。特に小学生だと、まだスマホも持っていないことが多いです。

アナログな方法ではありますが、これもひとつ重要だと感じています。チームで作成するとなるとデザインや印刷など、費用がかかってくるので、ここはわれわれがサポートしていきたいと思いました。

 

ーサッカークリニックの開催というのもサポート内容として挙がっていますが、これはどういったものなのでしょうか?

アディダスは、全国でサッカースクール事業を展開しているクーバー・コーチング・ジャパンとパートナーシップ契約を結んでいます。今回、クーバーさんにも賛同していただき、出張クリニックという形で開催することになっています。クーバーさん独自のコーチングメソッドを活かして、普段とは違ったレッスンを体験いただければと思っています。

アディダスと契約している現役あるいは引退したアスリートを招待することも考えています。現役なでしこの選手の方々も協力的なので、巻き込んでいきたいです。中学生年代の女子選手にとって憧れの存在だと思いますし、「ああいうふうに上手くなりたい」と感じてもらいたいですよね。こういうことができるのも、アディダスとJFAのパートナーシップが持つ強みだと感じています。

女子サッカーをする少女たち

 

続けられる場所を。きっかけは、自分自身が環境を失った原体験

ーここまで聞いていて、かなりスポーツへの熱量がある方だという印象です。七田さん自身の経歴を教えてください。

もともとスポーツには興味があったので、体育大学に進んでスポーツトレーナーを目指していました。でも次第に、スポーツをもっと広めたい、知ってもらいたいと思うようになったんです。

大学卒業後はPR会社に5年間勤めました。スポーツを普及させたいとずっと思っていたので、そこからアディダスに転職して8年目を迎えているところです。

 

ーなぜスポーツへの興味があったのでしょうか?

幼少時代を海外で過ごしていたのですが、当初は言葉が話せず苦労をしました。そんな時に、救ってくれたのがスポーツでした。スポーツを通して、多くの友人が出来ましたし、活動的になれたと思います。

中学時代に日本に帰国しましたが、海外と比較すると、中高生年代がスポーツを続けていける選択肢が少ないと感じました。私自身も、幾つか続けていたスポーツの中でも、サッカーが好きだったのですが、通っていた中学には女子サッカー部はありませんでした。クラブチームを探すにも、当時はまだネット環境が今ほど整っていなかったので、ハードルが高かったのを覚えています。

 

ー「女子スポーツの環境を整えたい」というのは、七田さん自身の経験からも持っている思いなのですね。

まさにそうなんです。アディダスに入社してから今回のプロジェクトの実現に至るまで、さまざまなアイデアがありました。例えば何かの大会のスポンサーをすることも、もちろんひとつの女子スポーツへの関わり方です。でも、もっと女の子たちにダイレクトにメリットを与えたいと思ったんです。

女性指導者が少ないことなど、女子スポーツの課題は多くあります。なので、他のことも力を入れていきたいとは思っています。ただその中でも、まずは続ける環境を整えていくことが必要だと感じたので、今回はそこに特化することにしました。

女子サッカーをする少女たち

 

まずは一歩進めてみること。女子スポーツの未来を創る

ー今回のプロジェクトを通じて、女子サッカー、ひいては女性スポーツ界にどのような影響を与えていきたいと考えているのでしょうか?

競技を問わず女性が、好きなスポーツを続けられる環境を整えていきたいです。スポーツが、女性のライフスタイル自体の一部になって欲しいと思っています。

アディダスの企業理念は、「Through sport, we have the power to change lives.スポーツを通して、私たちには人々の人生を変える力があります。」と掲げられています。今回のプロジェクトはまさにそうだと感じています。

 

ーアディダスだからこそ、実現できることでもありますよね。

はい。世界のスポーツメーカーとして、当たり前のことだとも思っています。アディダスとしてなりたい姿というよりも、そもそも「なぜスポーツ分野でモノを作っているのか?」という根本的なところからきています。スポーツをやってもらいたい、続けてもらいたいという思いがあるからやっています。スポーツブランドの存在意義の延長線上にあることなんです。

 

ー最後に、今回のプロジェクトに応募される方にメッセージをお願いします。

すでに遥かに予想を上回る数の応募をいただいています。全国22都道府県のチームから集まってきています。指導者の方々からのコメントも非常にリアルで、ニーズを感じているところです。

現場のみなさんが同じ思いだということを痛感しています。「この地域ではやる場所がないから、始めてみたい」と。われわれアディダスも全く同じ思いで、女子スポーツの未来を創っていくという挑戦に一緒に取り組んでいきたいと考えています。

今回のプロジェクトを実行するにあたって、様々なハードルもありました。ですが、まずはアクションを起こさないと良いも悪いもわかりません。小さいことでも前に進めてみることこそが、未来を創っていくための重要な一歩だと思っています。

さらに、女子サッカーには未来があると感じています。2019年のフランスで開催されたFIFA女子W杯では、ヨーロッパがこれまでにない盛り上がりを見せました。10年や15年前では考えられなかったことです。国内でも、2021〜2022年になでしこリーグのプロ化、さらに2023年の女子W杯招致も現在動いているところです。

このプロジェクトでひとつ良いスタートを切り、将来活躍できる選手を育てる。そしてそれを見た下の世代の子どもたちに、サッカーをやりたいと思って欲しい。このプロジェクトが、そんな流れの起点となることを強く願っています。

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