menu

軽量化と「+2℃」の暖かさ。TEIJINの技術で実現したHEAT-X制作秘話

2021.02.22 / 竹中 玲央奈

スーパースポーツゼビオの吸湿発熱素材「HEAT-X(ヒートクロス)」をさらに軽量化し、消臭機能を加えた「HEAT-X PREMIUM HEATBINDER」。帝人フロンティアとの共同開発で生まれた同素材について、制作秘話をお伺いしました。

冬の必需品として、各ブランドが幅広く展開している吸湿発熱素材。大手スポーツ用品店のスーパースポーツゼビオ(以下、ゼビオ)も「+2℃」を売りに、吸湿発熱素材「HEAT-X(ヒートクロス)」を開発しています。そして、それをさらに軽量化し、消臭機能を加えたのが「HEAT-X PREMIUM HEATBINDER(ヒートクロスプレミアムヒートバインダー)」です。

帝人フロンティア株式会社との共同開発で生まれた同素材は、2015年の発売以降、多くのスポーツをされている方々から支持を受けています。帝人フロンティア・テキスタイル第一部の北島隆さんに、その制作秘話と今後の展望をお伺いしました。

HEAT-Xの特集ページはこちら

 

「+2℃」に加え、27%の軽量化

―吸湿発熱素材を使った製品は、他社でも数多く展開されていますが、HEAT-Xの特徴としては何が挙げられますでしょうか?

HEAT-Xは「+2℃」というのを基準にしていて、素材メーカーの立場としていえば、2℃上がらなければ採用されません。他社でも吸湿発熱素材が使われている製品は多いですが、明確に何℃上がるかを謳っているものは少ないと思います。

私たちにとってはハードルでもありますが、消費者の立場からすると、この分かりやすさは安心感があるのではないでしょうか。

 

製品を開発するに至った経緯を教えて下さい。

HEAT-Xという素材自体は、私たちとビジネスを始める以前からゼビオさんが開発をしていましたが、私たちも素材の開発に携わることになりました。帝人フロンティアはポリエステルのメーカーですが、ポリエステルだけでは吸湿発熱はできません。そこで、レーヨンを混ぜて不織布といわれる生地を作り、+2℃を実現しました。

ダウンコートであれば、その生地を裏地とダウンの間に入れることで、吸湿発熱の機能が加わります。それを2年続けていましたが、不織布の1平方メートル当たりの重さが55gだったので、もっと軽くできないかなと。

 

―1平方メートル当たり55gというのは、どのくらいの重さなのでしょうか。

正直55gでも軽いほうですが、もっと軽いに超したことはないですよね。私たちのグループ会社が開発した吸湿発熱性の高い綿を活用することで、約40gまで軽くすることができました。

それが「HEAT-X PREMIUM HEATBINDER(ヒートクロスプレミアムヒートバインダー)」です。たかが15gと思うかもしれませんが、割合としては27%も軽くなっています。

 

生地が軽くなると、吸湿発熱の効果も下がるように思いがちです。

生地を軽くして、その上で機能を保つというのは1つのトライでした。そのトライが成功して、HEAT-X PREMIUM HEATBINDERは、2015年から今まで採用され続けています。また、消臭機能がついているという特徴もあるんです。

 

冬も意外と汗をかくので、消臭機能はありがたいですね。

スポーツはもちろんですが、通勤や通学でも汗をかくことはありますよね。そういう意味では、HEAT-X PREMIUM HEATBINDERが支持されている要因の一つに、この消臭機能の存在があるのかもしれません。

 

「入っているのに気づいてもらえない」が理想

+2℃という実証実験はどのように行なっていますか?

湿度40%の状態の検査機に生地を入れて、90%まで上げた時に生地の温度がどのくらい上がっているのかを確かめています。それを新品と、洗濯を3回した状態の2つの水準で試験を行なっています。

 

素材が完成するまでに、どのくらいの期間を要しましたか?

1年くらいはかかりましたね。大前提として、+2℃という数字を出さないといけない中で、55gのものを50、45、40……と少しずつ軽くして、どこまで+2℃をキープできるのか。そこが難しかったです。

理想は、服を見た時に、吸湿発熱素材が入っているのに気づいてもらえないことです。今まで使っていたコートやジャケットと一緒だけど、暖かい。こういう素材は主張されないほうが良いので、いかに黒子に徹することができるかが求められています。

 

吸湿発熱といえばインナーが代表的ですが、アウターや手袋、帽子など様々な製品に使われていますよね。

様々なカテゴリーの製品を作ることで、用途に合った選び方ができるのは大きいと思います。どの製品を選んでも、機能性は変わりません。

 

―HEAT-Xは普段使いというイメージがありますが、スポーツでの使用も多いのでしょうか。

スキーやスノーボードなどのウインタースポーツでは、リフトで移動している時間や、どこかで止まっている時間が多いので、その時の防寒対策に有効です。また、ゴルフウェアにも採用されています。

 

黒子としてスポーツ界を支える存在に

北島さんは野球経験者と聞きましたが、素材メーカーとしてスポーツに携わる中での喜びはありますか?

自分が開発に携わっているウェアを着た選手が、良いパフォーマンスをしている時は喜びを感じます。もちろん選手の力が1番だとは思いますが、ほんの少しでも貢献できたのであれば嬉しいです。

 

北島さんが所属するテキスタイル第1部とは、どのような部署なのでしょうか。

スポーツ用途の生地を開発・生産・販売する部隊です。日本だけでなく、世界中のスポーツメーカーのウェアの生地を作っています。私たちが開発に携わったウェアを着た選手が活躍したら、部内でも話題になりますよ。

 

メーカー側からの要望を実現するのに、苦労されることも多いのではないでしょうか?

難題に取り組むこともありますが、実現できた時に認めていただける喜びは大きいです。特にゼビオさんは、様々な競技で活躍されてきた方が多いので、幅広い方々からフィードバックをいただけることはありがたいです。

 

素材メーカーとして、今後どのようにスポーツ界を支えていきたいと考えていますか?

例えば、ベンチコートを着ながらアップするよりも、HEAT-Xを着たほうが効率良く暖かくなって、パフォーマンスの向上や怪我の予防につながる可能性があります。より軽量なHEAT-X PREMIUM HEATBINDERを着れば、身体への負荷も小さくなるはずです。

スポーツをされる方が少しでも良いパフォーマンスを出せるように、素材メーカーとして陰ながら貢献できればと思っています。あくまで黒子ではありますが、ものづくりの質を高めることによって、皆さんの活躍を支えていきたいです。

 

HEAT-Xの特集ページはこちら