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奈良クラブ・浜田満社長が語る『どん底からのJリーグ参入』のストーリー

2023.05.10 / AZrena編集部

苦境を迎えていた奈良クラブをJリーグ参入へと導いた浜田満社長。FCバルセロナソシオ日本公式代理店の運営など異色の経歴を持つ浜田氏に、Jリーグ参入達成までの軌跡、これからの奈良クラブが目指す姿について伺いました。

2023シーズンからJ3リーグを戦う奈良クラブ。2019年には過去の入場者数の水増しが発覚し、Jリーグ百年構想クラブの失格処分を受けるなど、クラブは苦境を迎えていました。そんなクラブを立て直したのが、2020年から代表取締役社長に就任した浜田満(はまだ・みつる)氏です。

奈良県出身の浜田氏は大学卒業後、FCバルセロナソシオ 日本公式代理店の運営、育成年代選手のサポート業務などに従事。国内外で豊富な知見を蓄え地元に戻り、奈良クラブを悲願のJリーグ参入へと導きました。

「私が社長に就任したとき、奈良クラブはどん底の状態にあった」。そう語る浜田氏は、どのようにクラブを立て直したのでしょうか。これまでの経歴からJリーグ参入達成までの軌跡、奈良クラブが目指す姿について伺いました。

「奈良をサッカー大国にできると思っている」

私が社長に就任したとき、奈良クラブはどん底の状態にありました。多くの問題を抱えたなかで「奈良にJクラブなんて絶対できるわけがない」と、みんな思っていたはずです。それでもやれると思ったから、私はオファーを承諾しました。

人は上手くいっているものを変えようとは思いませんよね。どん底の状態だったから、逆に挑戦しやすかった部分もあります。自分が描くサッカークラブ運営の手法を実証して、それをみんなに見てもらいたいと思っていました。

もともとクラブ経営をするのであれば、奈良でやりたいと思っていましたよ。今はまだ奈良県全体のサッカーのレベルは高くありませんが、私は奈良をサッカー大国にできるのではないかと思っています。そのためにも、まずは奈良クラブを地域に愛され、選手が集まってくるクラブにしなければいけません。成功事例をつくることで共感が生まれ、少しずつ街全体が変わっていくと思っています。

2023年で社長就任4年目となりますが、順調にクラブづくりを進められていると思います。ここまでとくに注力したのは、チームの強化と、事業面の体質を改善すること。実は、奈良クラブが2023年1月にオープンした新拠点『ナラディーア』の建設も、お金が回る仕組みをつくるための事業の一環です。

今までの練習場所は公共の施設を借りており、毎回お金を払ってトレーニングをしている状況でした。移動にかかる費用も考えると『ナラディーア』ができたことによって、トップチームにかかるコストを削減することができました。育成やコミュニケーション、クラブPRの拠点、コスト削減、あとは地域のコミュニティになるなど、『ナラディーア』をつくった背景には、複数の目的があります。

今後についてはチームの成績と連動するところもあるので、絶対にこうだと言い切ることはできません。ただ、「2031年にはJ1へ行きたい」と思っています。これも細かく計算したうえで掲げた目標です。

まずはJ3とJ2、J1では規模がまったく違うことを理解しなければいけません。サッカークラブは売り上げを毎年倍々に増やしていくということはできないので、しっかりプロセスを考える必要があります。そうすることで、上のカテゴリーに昇格してから落ちにくくなるんです。サッカーは積み重ねなので、徐々に上がっていくしかありません。

大切なのは、方針がぶれないこと。クラブ経営もサッカーも、同じことをやり続けることが重要です。そして奈良には奈良のやり方があると思っています。奈良と東京では、企業や街、人の感覚が違いますからね。奈良クラブのスタイルが色濃く出たときに、ファンはものすごく増えると思います。

FCバルセロナで学んだクラブ運営のいろは

私は小中高と奈良で育ち、大学は大阪・枚方の関西外国語大学のスペイン語学科へ進学しました。大学ではスペイン語を専攻していました。海外に興味を持ちはじめたのは、英語が得意だった2歳年上の姉の影響です。ライバル心から自然と自分も勉強するようになりました。

高校2年生のとき、オーストラリアから留学生がやってきました。もともと英語の授業の成績は良かったのですが、彼らと生活を共にしたとき、コミュニケーションがまったく取れなかったんです。そこから「もっと勉強して、海外に行きたい」と思うようになりました。スペイン語学科を選んだ理由は、みんなが話せる英語よりも価値があると思ったのと、サッカーにもつながると思ったからです。

小学生時代からサッカーが好きで、海外サッカーやワールドカップ、国内は高校サッカーまで、あらゆるカテゴリーの試合を録画して見ていました。アトランタ五輪の予選をマレーシアまで見に行ったこともありますし、サッカーに絡む仕事ができたらいいなと、漠然と考えていました。

大学卒業後は一般企業に就職し、24歳からは在ベネズエラ日本国大使館で2年間はたらきました。その後は、26歳で日本に帰国し、27歳から欧州サッカークラブなどのグッズを製造・販売していた東京の企業に入社しました。

ただ、その会社が入社から1年後に倒産してしまったんです。ただ、FCバルセロナと日本を繋ぐ貴重な仕事。それが無くなってしまうのはもったいないと思い、独立して立ち上げたのが、今年で19年目を迎える株式会社Amazing Sports Lab Japanです。最初はFCバルセロナのソシオ(クラブ会員)の受付からはじまり、グッズ販売や観戦ツアーの実施、2007年から「バルサアカデミーキャンプ」を開始しました。

当時はSNSもなかったので、個人運営のファンサイトでソシオの会員募集をしました。バルセロナ側は「本当に人が集まるのか?」と半信半疑だったので、提案書をつくるときにファンサイト上でアンケートを取ったこともあります。「バルサのソシオに入会したいですか?」と聞いたところ、千数百件の回答が返ってきて、そのうち9割が「入りたい」という回答でした。最初に募集したときは、2週間で最終的に500人ほどが参加してくれましたね。

当時のバルセロナは、ライカールト監督のもと、ロナウジーニョがいて、メッシがトップチームに昇格して、盛り上がりを見せていた時期です。あの時代のど真ん中で、バルセロナの人たちと一緒にファンクラブ、スクール、グッズ、キャンプ、大会と、サッカークラブの運営に必要なことを網羅してきました。「これで生きていけるな」と感じましたし、実際その流れのまま、規模を拡大しながら今にいたります。

そして2019年12月、奈良クラブの前社長から、直接電話がかかってきたんです。「社長をやってくれへんか?」と。

新拠点『ナラディーア』が果たす役割とは?

FCバルセロナと関わる仕事をはじめてから、日本のサッカー界に対して「こうしたらいいのにな」と思うことが増えてきました。とくにトレーニングや育成の手法は、今までの自分が知っているものと全然違うと気づいたんです。

スペインで育成に関わる人は、実際に「見る」ことに高い価値を置いています。多くの子どもたちが「プロになりたい」と口にしますが、自分に何がどれくらい足りていないかを正確に把握できていないケースは少なくありません。具体的なイメージが無いから、難しいんです。そのギャップを認識することができれば、やらなければいけないことがハッキリします。

奈良クラブの新拠点『ナラディーア』は、2階を中学生・高校生の選手寮にしました。朝起きた瞬間に窓からトップチームのトレーニングが見れますし、食堂ではプロ選手が何を食べているのか、どれくらい体が大きいのか、どんな話をしているのかも、すぐ近くで見聞きすることができます。自分とプロの距離感を測ることによって、何をしなければならないのか、目標を明確にすることができます。

また『ナラディーア』はコミュニケーションの拠点としての役割も担っています。トップチームとの距離が離れていると、ユースの選手がトップの選手の顔を知らなかったり、声をかけるのをためらってしまう。それはすごくもったいないことですよね。結局、人って自分の目で見たものからしか世界を想像することはできません。だからこそ、プロを目指して奈良にくる子どもたちにとって、このような施設環境がいちばん大切だと考えています。

奈良クラブに入りたいと思ってくれる選手を増やすために、まずはトップチームのスタイルを確立することが大切です。子どもたちを試合に招待したり、巡回指導をしたり、目標となる姿を目の前で見ることができる機会をクラブとしてつくっていきたいです。