世界連覇の立役者が、ラフティングを通して海外へ発信したいこと

2016.03.01 森 大樹

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プロラフティングチームTEIKEIでコーチを務める池田氏。後編ではラフティングの難しさ、そして2017年に日本で開催される世界選手権のオーガナイザーとして世界に発信したいことを伺った。

 

【前編はこちら】

 

 

天候に左右されるラフティングという競技

 

-(※)ラフティング4種目の中で、特にポイントとなるものはありますか?

スラロームが最もラフティングにおける様々な要素が詰まっていると言われているため、まずはそれを上達させることが必要とされています。ただ、4種目の中でも配点に差があるため、どこに重きを置くかの判断は難しいところです。

結局、初めの方の種目でつまずいてしまうと後半に取り返すのは試合の流れもあるので難しいんです。だから全ての種目は別であるように見えて、繋がっていると言えます。そう考えると2種目の(※)ヘッドトゥヘッドが鍵を握っているかもしれません。振り返ってみると世界選手権で優勝した年は必ず3位以内に入っています。どうしても船同士が接触したりするので、体重が軽い日本人は不利なんです。それをいかに埋めていくか、ということが今の課題でしょう。

※ラフティングは4種目に分けられ、
・スプリント:短距離走(100点)
・ヘッドトゥヘッド:2艇同時スタートの短距離走。トーナメント方式。(200点)
・スラローム:所定のゲートを通過し、ゴールタイムを競う。(300点)
・ダウンリバー:長距離走(400点)
の合計得点で総合優勝を決める。

 

-意思の疎通や戦略などに加え、当日の天候にもかなり左右されると思います。

天気の変化、それに伴う急激な水量の増減などがあるので、経験が物を言う場面は多いです。夜の間に大雨が降って、次の日起きてみたら全然違う川になっていた、なんてこともありますし(笑)

そのせいかラフティングで結果を出している選手は年齢が高めで、現在世界選手権3連覇中のブラジルも僕と同じくらいの30代中盤です。アンダー世代でトップクラスの成績を残していたチームであっても上のカテゴリになると全然勝てなくなったりするものなんです。

 

-水量の多さによって、具体的にどういったことが違ってくるんですか?

水の量が減れば当然岩がむき出しの状態になります。そうなるとボートを浮かせて水があるわずかな隙間を肩輪走行のような形で通さないといけなくなることもあります。

だから事前のコースの下見でどこまで水量が上がってくれば走路ができるのか、話し合いが必要になります。下見の際はボートにカメラを付けて撮影し、コース上にある岩の位置まで全て覚えます。

例えば昨年のインドネシアの大会の川は長さが12kmで目安タイムは約1時間、約60の瀬(浅く、流れが急な箇所)がありました。その場合、コースを10分毎に区切って各々の担当セクションを決め、覚えていきます。例えば、サメのヒレのような形の岩=「フカヒレ」といった具合でポイントに名前を付けるような工夫もします。

試合直前には撮影した映像を早送りで観て、おさらいをしてから臨みます。今はカメラも高性能になって、ちゃんとした映像が撮れますが、昔は誰かが持って撮影していました。でも当然流れの激しいところを通るわけですから、映像もブレちゃってましたね(笑)

 

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-川で危ない目に遭ったことはありますか?

何回もありますよ(笑)まだガイド1年目の時に、今まで経験したことのない水量の川を見てテンションが上がり、やってしまったことがありました。出発してすぐの瀬で転覆したわけですが、そこで初めて危険が伴うスポーツだということを学びました。実際、次の年にその近くで立て続けに3人が亡くなる事故があったんです。自分がやっているスポーツで人が亡くなってしまうのは残念なことです。だから常に準備や装備は怠らないですし、コンディションに対して過信しないことは心がけています。特に責任ある立場になってからは絶対に事故も起こせないですから、気を付けています。

 

-特にどこの川が一番難しいのでしょうか?

富山と岐阜の間にある宮川です。そこは川に陸上からアクセスできないので、一度スタートしてしまうと何か(が?)あっても助けられないんです。しかも携帯の電波が入りません。瀬も難しく、水温が低いのでリスクの高い川です。業界の中でも難易度が高いことで有名です。

 

 

ラフティングをきっかけに自然を学ぶ

 

-来年は世界選手権が日本にやってきます。それを踏まえて、今後の目標を教えてください。

地元開催ですから、もちろんそこで優勝することを目標にしています。たとえどんな競技であっても日本人が世界を相手に戦って、勝つということはいいニュースですから、目指していきます。

僕個人はその大会のオーガナイザーとしての立場もあります。今まで世界選手権の主催者は各国の協会の理事の方などが務めてきましたが、僕のように30代で任されるというのは異例です。でもなぜか日本なら問題ないという意識が外国人の中にはあるようで、昨年の世界選手権でも散々プレッシャーをかけられました(笑)

まだ模索している段階ですが、せっかく世界選手権が日本で行われるわけですから、何かメッセージ性のあるものを国内外に向けて発信したいと考えています。

僕らは川を舞台に競技をしています。山と海を繋ぐ道が川であり、人間はその間で生活しているんです。それもただ繋いでいるわけではなくて、例えば森の土砂やミネラルを海に運ぶことで僕達はおいしい海の幸を頂くことができています。自然のサイクルの1つなんです。

人間の歴史でも文明は川の河口の体積した土砂による肥沃な大地に発展してきました。でも今は護岸工事が行われることで土砂が運ばれなくなり、日本の砂浜はどんどん減っていっています。

もちろん洪水が起きれば死者も出ますし、困る人はたくさんいると思います。でも制限し過ぎることで別の問題が起きていることも事実です。本来、自然災害は身近なもののはずなのに、人間がそこから離れてしまっている。だから、人々の間でも自然へのリスペクトが薄れてきてしまっているのではないでしょうか。

今、ゴミをポイ捨てしている人がラフティングをするためにすごく綺麗な川に行けば、『ここが汚れていたら嫌だと』思うはずです。もしかしたらポイ捨てしなくなってくれるかもしれません。僕はラフティングを通してそういうことを発信していきたいと思っています。

それをビジネスとしてやっていけたらいいですよね。体験型の研修でチームやコミュニケーション、自然のことなどについて学ぶ機会を提供し、そこで頂いた資金で将来的にはラフティングチームを運営していきたいと考えています。

今はチームのメンバーであり指導者でもありますが、今回日本で行われる世界選手権をその先の枠を超えた場所に行くための一つのステップにしたいですね。今も定期的に大会が行われる吉野川がある徳島に行って、直接地元の方とやり取りをするようにしています。

 

-そうなるとなかなかプライベートの時間も取れなさそうですね。

一応、週1日はオフの日を作るようにはしていますが…その日は家族サービスですね(笑)子供が3人いるのですが、合宿や遠征になると2~3週間家を空けることもあるわけです。その間に子供の誕生日なんかがあろうものなら、『なんでそんな時に合宿なのよ!」と言われて大変です(笑)だから一緒にいられる時は家族と過ごします。

でも、僕がいない間に一人で子供の世話をしている嫁の方が大変だと思いますよ。ただ、今はスマホとWiFi環境さえあればどこでもLINEやSkypeで会話ができますから、海外にいる時のストレスはだいぶなくなりました。

 

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-座右の銘を教えてください。

親父からもらった「人間万事塞翁が馬」という言葉です。

基本的にうちの親は僕のやりたいと言ったことに対して反対もしませんでした。どうやら祖父がそういう人だったらしく、父も同じ方針で僕を育てることにしたそうです。

 

-それでは最後に読者へのメッセージをお願いします。

まず、ラフティングをやったことがない人はぜひ一度やってみてください!そこでしか味わえない感覚があります。そもそも普段川に行くことがないですよね。ましてや川に落ちて泳ぐなんてことはめったにないと思います。

とりあえず若い人は「悩んだらボートに乗れ!」という感じですかね(笑)大自然の中に行くだけでも開放的な気持ちになれますし、そこでさらに人の心に響く何かを提供することができれば、より価値あるものを僕らは伝えられると思います。そういう活動を今後はしていきます。

 

 

【前編はこちら】