世界連覇を達成。ラフティングのガイドが「競技者」に転向した理由

2016.02.29 森 大樹

池田拓也

 

川のレジャーとして知られているラフティングだが、競技スポーツとしても行われており、世界選手権も開催されている。実は、その中でも日本は強豪国の一角を占めているのをご存知だろうか。

日本で唯一のプロラフティングチーム・TEIKEIでコーチを務める池田拓也氏はラフティングのガイドとして活動後、2004年に競技ラフティングに転向し、同チームに加入。2010年、2011年にはキャプテンとして世界選手権2連覇を達成した。2012~2014年に選手兼任監督を務めた後、現役を引退し、2015年は監督として行進の育成にあたった。現在はチーム・TEIKEIのコーチとして指導をしながら、2017年に徳島県三好市の吉野川で開催される世界選手権に向け、精力的に活動を続けている。

 

ガイドとしてのラフティングから、競技としてのラフティングへ

 

-まず、池田さんのスポーツ経歴から教えてください。

子供の頃は水泳をやっていました。小学校5年の時からタイムが伸びてきて、選手コースに移り、週3~4日は練習していましたね。中学に進むタイミングでは水泳部か、バスケットボール部か、吹奏楽部で悩みました。

 

-かなり選択肢のジャンルがバラバラですね(笑)

吹奏楽は小学生の時に少しやって楽しかったからです。でも結局モテそうという理由からバスケットボール部に入りました(笑)もしそこで吹奏楽部を選んで文化系に進んでいたら今、ここにはいないでしょうね。そこから高校までバスケットボールを続けました。

高校卒業後はスポーツトレーナーを養成する専門学校に進みました。そこで行われたキャンプで初めてラフティングを知ったんです。卒業学年になって、進路を考えた際にそのことを思い出して、ラフティングのツアーを運営する会社に研修に行くことにしました。それが面白くて、ツアーガイドになることを決めたのですが、そこから現在までずっとラフティングに関わっています。

日本には季節があるので、ラフティングはだいたい4~11月がシーズンです。つまり、冬の間はできないわけですが、僕は1年通してずっとラフティングをやりたい!と考えるようになっていきました。

単純に南半球に行けば季節は日本と逆ですよね。それでワーキングホリデーの資格を取ってニュージーランドに行ったんです(笑)次の年はオーストラリアに渡りました。オーストラリアには2年半ほどいて、現地でラフティングのガイドをやっていました。

でも、オーストラリアでの生活にもだんだん飽きてきて、「このままずっとツアーのガイドを続けていっていいものか」と疑問を抱くようになっていました。ちょうどその頃に友人がラフティングの選手募集を見つけてきてくれて、「これだ!」と思い、日本に帰国して今のチームに入ったんです。

 

池田拓也

 

-同じラフティングとはいえ、レジャーと競技では違いも大きいですよね。転向することに抵抗はなかったのでしょうか?

僕はガイドを始めた頃、その中でも特にラフティングが下手で、周りからバカにされていたので、これで一番になってみたいというのは漠然とありました。ただ、ツアーのガイドは評価されることはあっても明確な優劣がつくわけではありません。でも、「競技としてやってここで一番になれば、世界で最もラフティングがうまいと言えるのではないか」と考え、競技に転向することにしました。

しかし、競技として始めてから3ヶ月で出たヨーロッパの大会では70チーム中39位で、自分の現状を知ることになります。とても世界一は簡単になれるものではないと実感しましたね。

 

-そんな壁にぶち当たった時に他の水に関わる競技の選手に意見を求めたそうですね。

ラフティングはまだ新しいスポーツで、今も競技として確立されているわけではありません。そこで五輪種目になっているカヌーのスラロームやスプリントの選手から講習を受けたり、ネットや本で調べてラフティングの動きにはどんなトレーニングが有効なのかを調べたりして、自分達で試行錯誤しながら取り組んでいきました。チーム自体も僕が入った時点でまだ2年目で、しかも1年目にやっていた人達はみんないなくなっていたので、ボートはあってもやり方が分からないという状態だったんです。

初めは海外のトップチームのビデオを撮影しに行って、帰ってきて見ながら研究するという毎日でした。競技を始めて3年ほど経った頃からようやく世界選手権で結果が出始め、方向性が見えてきたという感じです。ただ、その時期に自分達で苦労してやってきたからこそ今があると思っています。

 

 

選手と監督を兼任することの難しさ

 

-池田さんは2012~2014年まで選手兼任監督を務めています。

自分もボートに乗っているわけですから、なかなか全体を見渡すことが難しくて大変でしたね。選手兼任監督になって初めて出た世界選手権は準優勝でしたが、前年に優勝していたので、順位は下がったことになります。結局、選手兼任監督を務めた3年間で結果は出ず、選手も3人辞めていってしまい、チームも存続の危機に立たされました。まだ選手としてやりたい気持ちもありましたが、責任を取って引退し、昨年は監督専任で臨むことになりました。しかし、やはり思うような成績は残せず、今はコーチという立場で指導をしています。

 

-自分もやりながら、周囲に気を配るのは大変なんですね。

一度古田さん(古田敦也:元プロ野球選手・選手兼任監督・監督)にお会いする機会があったのですが、やはりプレーヤーと監督両方の視点を持つのは難しいと話していました。結局、組織は上から見渡してくれる人がいるからうまく回っているんです。その点EXILEのHIROさんなんかはすごいですよね。

特に僕らの競技は1つの物体を全員の力で動かさないといけないというのが、難しい部分です。僕だけ速くても意味がないわけです。かといって遅い人に合わせていくのでは勝てなくなってしまいます。しかも自然の中でやる競技なので、経験に基づいた判断を求められ、かつ選手の間でそれが共有されていないといけません。だからある程度メンバーと一緒に過ごす時間も長くなっていきます。昨年世界選手権で優勝したブラジルなんか、選手の顔ぶれが10年くらい変わっていないですからね。

 

-ボートの左右どちら側で漕ぐかはどのように決めているんですか?

一番初めにどちらで漕いだかで決まってしまうことが多いですね。僕は体の左右のバランスが悪くなると思ったので、両方できるように練習しましたが、そういう選手は多くありません。あとは利き腕とは逆だとうまく漕げるというのはあります。利き腕だと器用に使える分、腕の力に任せて体全体を使わなくなってしまうことがあるんです。逆の腕だとうまく体を使わないと力強く漕げないですからね。

僕が逆の腕で漕ぐようにした時は、慣れるために普段の生活も全て反対の手を使うように意識していました。

 

池田拓也

 

-試合までの間にチーム全体としてはどのようなことに取り組むのでしょうか?

去年1年間はメンタルトレーニングの専門の方に付いてもらっていたのですが、それまではメンバー間で本をシェアしたりしていましたね。結局試合だからといってすぐに全員の感覚を合わせられるわけではないので、競技とは全然関係ないところで一人ひとりがどのような人間なのか、知る必要があります。例えば食べ物の好き嫌い。知らないよりは知っていた方が相手との距離も近く感じるじゃないですか。それがタイムに直結するかどうかと問われれば、明確に証明するのは難しいですが、僕らは同じボートに乗っている運命共同体なわけですし、ブラジルのように10年も同じメンバーでやっているところに勝つためには必要なことだと思っています。

 

-とはいえ人間ですから、メンバー間でぶつかることもあると思います。そういう場合はどうするんですか?

事前にコースを見て、どういうルートでボートを進めるか話し合うのですが、その時に意見がぶつかることが多いんですよね。今の選手達には基本的に納得がいくまで議論してもらっています。それでも決着が付かない場合にはどうするのか、最終的な意思決定の方法まで、前もって決めさせています。例えば最後の判断はキャプテンに任せるとか。多数決でもメンバーは6人なので、割れる可能性がありますしね。

議論も長くなり過ぎないように、こちらで時間制限を設けてその間で効率良く話し合える方法を自分達で考えてもらうようにしています。

基本的に僕は見守りますが、話し合った後に実際に2本やってみて、それでも議論の中でベストなプランが出ない場合にはアドバイスをします。だいたい僕がアドバイスしたプランの方がタイムは速いです。でもそれを初めから教えてしまったら自分達で考えなくなってしまいますからね。だから正直、もどかしいこともありますよ(笑)予想した通りのミスを犯したりするので、イライラすることもありました。しかし、僕ができることをどんどん手放していかないと選手が育っていきません。

昨年も結果が出せず、支援してもらっている会社には申し訳ない気持ちですが、僕は育成の一年として大切な期間だったと思っています。世界選手権でも4種目中1種目は1位になることができ、表彰台の真ん中で君が代を歌うという成功体験を選手達は得られたので、またあの場所に戻るためにどうしたらいいのかを自発的に考え、モチベーションにしていってほしいです。

 

-ラフティングはもしかしたらボブスレーにも近い部分がありそうですね。

確かにそうですね。実際メンバーとクールランニング(ボブスレーを題材とした映画)を観たこともありますよ(笑)一緒に同じ映画を観たとしても、感想はやはりそれぞれ違いますから、意見が食い違うことも仕方ないですよね。

 

 

【後編へ続く】