森 大樹

まるで魔法。多くのトリックショットを生み出す日本ビリヤード界の至宝・長矢賢治

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高校時代にビリヤードを始め、これまで全日本プロ選手権や全日本ローテーションオープン、全日本アーティスティック選手権など数々のタイトルを獲得してきた長矢賢治。現在は本文中にも紹介している曲玉(トリックショット)やビリヤード指導者として活躍している。トリックショットを一度見れば、現実に起こっているものだとは信じられないだろう。

 

-ビリヤードを始めたきっかけを教えてください。

僕は高校時代まで剣道と空手をやっていました。昼は剣道部で練習して、夜は空手の道場に通っていました。

実は初めからビリヤードをやろうと思っていたわけではなかったんです。元々はボウリングのプロになりたいと思って、17歳の時に半年間ほど練習していた時期がありました。しかし、当時はボウリングブームが来ていて、ボウリング場が混んでいて、それで片隅に4台ほど置いてあったビリヤード台で暇つぶしをしていたところ、ハマってしまいました。しばらくは両方並行してやっていましたが、ビリヤードの方が面白くなって本格的に切り替えて始めることにしたんです。

 

-なるほど!当時のボウリングブームの波はそんなにすごかったんですか。

すごかったですね!ボウリング場に行けば1~2時間待ちは当たり前でした。一方でビリヤードは空いていました(笑)高校を卒業して、就職してからも暇さえあればとにかくビリヤードをしに行っていましたね。

 

-ちなみにビリヤードもブームが来た時がありましたね。

ビリヤードを題材とした映画、ハスラー2(1986年公開)が日本で公開された時です。その時はビリヤード台が2~3時間待ちになっていて、一番多いところで7時間待ちというのもありましたね。それをきっかけに今まで少し怖い場所だったビリヤード台のある酒場などが、キレイなバーに変わっていき、女性も入りやすくなっていきました。

 

-長矢さんがプロになるきっかけを教えてください。

まだサラリーマンとして働いていた頃のある日の夜、知り合いのビリヤード場の人と横浜の中華街に食事に出かけることになって、一緒に車に乗っていました。すると途中でタクシーに追突される事故に遭ったんです。そのせいでビリヤード場の従業員の人達はみんなむち打ちなどの怪我を負ってしまいました。それでビリヤード場の営業を手伝える人がいないという話になり、怪我が軽かったものの会社から休みをもらっていた僕が代わりに働くことになりました。結局僕はそのまま会社を辞めて、そのビリヤード場に勤務することになったんです。だから高校卒業後、サラリーマンは1年ほどしかやっておらず、あとはビリヤードにどっぷり浸かった生活をしてきました。そこからプロになっていきます。

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若き日の長矢さん

 

-長矢さんは今までどのような種目をやってきたのでしょうか。

(※)ポケット(ビリヤード)はもちろん、(※)キャロム系もほぼ全種目を、オールラウンドプレーヤーとしてやってきました(笑)

 

※ポケットビリヤード:ポケットのある台でやるビリヤード。プールと呼ばれることもある。[種目例・ナインボール、ローテーションゲーム、14-1(フォーティーンワン)など]

※キャロムビリヤード:ポケットのない台でやるビリヤード。自分が撞いた手球を2個の的球に当てることで得点を競う。[種目例・四つ球、スリークッション、ボークラインなど]

 

-その中でも得意な種目、好きな種目は何ですか。

やはり僕はポケットで、特に14-1(フォーティーンワン)が好きでしたね。でも今は目が良くなくてゲームに出られないため、曲玉(トリックショット)が中心になっています。目が悪くなると距離感覚がなくなるので、難しいんです。今は勘と匂いだけでやっています。

※14-1:ポケットビリヤードの種目の1つ。1~15番すべての的球と手球を用いて行う。番号に関係なく球を落としていき、1個1点で先に規定の点数を取ることを競う。

 

-ビリヤードの魅力はどのようなところにあると思いますか。

奥が深いということです。選手達もそれぞれ追求する部分に差があります。野球選手にヒットメーカーやホームランバッターがいるのと同じことです。だから僕も自分なりの目指すべき目標を作ってやっていきました。

 

-長矢さんはどういった目標を立ててやっていったのでしょうか。

僕は関東で一番初めのプロ選手でした。しかし日本のビリヤードの本場は関西にあったので、遠征に行くのですが、やはり向こうの選手に遠い球を入れるシュート力では敵いません。なので、僕は近くの球を入れるための力加減を一番意識していくことにしました。それを続けていったところ、1年ほどで他の選手にも実力が追いついてきましたね。悪い部分を練習するのではなく、長所を伸ばしていったということです。それに伴って短所も消せるようになってきました。

 

-早い段階で長所に気付けるということも重要ですね。

自分でも気付いていましたし、周りからも指摘されていましたからね。ただ、撞き方に特徴があったので、それを直すことに時間がかかりました。キャロム系とポケット系では撞き方が全く違うからです。キャロム系はカーブをかけたり、捻りを入れたりしますが、ポケットの場合は真っ直ぐキューを出す必要があるからです。どうしてもキャロムの時のように手首だけで小細工をする癖がポケットの時に抜けなくて、直すのが大変でした。

 

-それを教えてくれる人が近くにいたんですね。

若い時に始めたので、周りの先輩方が教えてくれました。早い段階から直せたことは大きかったです。

 

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-ビリヤードをする上で一番大切なことを教えてください。

 

 

まず、自信を持つということが大切です。実力が五分だったら、自信を持っている方が勝つでしょう。自信があれば、ない方に対して優位に立つことができます。相手がそれに飲み込まれて、勝手にミスをしてくれるような流れを作ることが重要だと強い人から教えてもらいました。

スポーツ選手でも絶対に勝つということを言う人がいますが、結局は言葉に出すことで、自分に暗示をかけているんです。人に言ってしまえば何がなんでも勝とうとしますよね。自信を身に纏って、応援してくれる人に余裕があるオーラを見せる必要がありますし、それを相手にも感じさせることで対戦していて嫌だな、と感じさせた方が勝ちです。観客もオーラがあるとそちらを応援したくなるものなので、味方に付けることができればこちらへの拍手も大きくなって相手にさらにプレッシャーをかけられます。

 

-ビリヤードをしてきて、今までで印象的だった場面を教えてください。

アレン・ホプキンスという世界チャンピオンが日本に来た時に曲玉の大会があって、決勝戦で対戦したことはよく覚えています。最終的にバタフライという種目を決めた方が勝ちというところで、先に僕が入れて勝ちました。でも僕はそれを入れる直前のしぐさで勝ちを確信しましたね。

確実に入る球のセッティングから少しずらしたところに印を付けておいたんです。それで自分は覚えておいた確実に入るセッティングに沿って撞いて、入れました。相手は当然僕が打ったのと同じところにセットしようとしますから、付けておいたその印の通りに置くわけです。案の定それで向こうは外しました。今思うと騙しか違反か分かりませんがね(笑)

 

-でも咄嗟にその発想はなかなか出てきませんよね。

もう一つは14-1ゲームの大会の時のことです。100点先取のルールで99対99になり、自分も相手も(※)セーフティを連続させていました。確かベスト8くらいの試合だったと思います。でも1つ勝つと数万円賞金が違いますので、入ったらラッキー、もう空振り覚悟のヤケクソで撞いてみることにしたんです!空振りしたとしても配置はそのままで1点減点されるだけですからね。そうしたらそれが奇跡に近いような形で入っちゃったんです!自分でも驚きました(笑)

 

※セーフティ:守備のためのショット。自分が入れることが難しい等の場面で的球を別の的球の裏に隠すなどして相手が次のショットを打ちにくくするために用いる。

 

-1つ目と2つ目のエピソードは対照的ですね。

あとはやっていて、自分で自分にいいオーラというのが出ていることが分かる時があります。狙った球は何でも入るという状態になるんです。全日本で優勝した時はそれでした。240点先取のローテーションをブレイクショットからすべて撞き切る(パーフェクト)というのは難しいのですが、それを何回も決めて勝ちました。

 

※ローテーションゲーム:1~15番までのすべての的球と手球を用いる。番号の若い球から落としていき、その数字がそのまま点数として加算されていく。

 

-逆に競技を続ける上できつかったことを教えてください。

負けるはずのない相手に負けると次の試合では手が震えてしまったりして、ダメですね。一度テンションが落ちてしまうとそれを上げることはなかなか厳しいです。

あとは新聞やテレビを試合直前に観てはいけないことです。目のピントが合わなくなって、距離感覚が分からなくなるからです。だから先輩達にも試合前は遠くを見ていないといけないと教えてもらいました。

 

-非常に繊細な競技なんですね。

ピントが合わない、距離感覚が分からないといっても本当にミリ単位のずれなんです。でもそのくらい細かい調節が求められます。他にもワックスの効きや(※)ラシャの新しさ、湿度まで関係してきます。新しいラシャですと球が転がりやすいですし、湿度が高ければ転がりにくくなります。基本的にラシャは試合前に張り替えることが多いので、新しいものに合わせられる方が強いですね。

 

※ラシャ:ビリヤード台の表面に貼られている布のこと。

 

-コンティションについては事前に確認するのでしょうか。

特設会場でやる場合にはできませんが、ビリヤード場の場合には電話をかけてラシャの張り替えの時期などを確認します。それを頭に入れて試合に臨みます。うまい選手というのは当日会場に行って人が撞いた球を見たりすることで、すぐに感覚を掴みますが、下手な選手はいくらやってもそのコンディションに合いません。

 

-道具のコンディションに対応するには経験の積み重ねが必要ですね。

僕の場合、試合前は友達のプロ選手と一緒に練習するようにしていました。お互いが所属しているビリヤード場のラシャを交互に張り替えて、練習しに行き合い、新しいラシャに対する感覚を養っていくと同時に、試合に向けてテンションを上げていきました。

球も新しくなることが分かっていれば、選手達も新品を買って必ずそれで練習をしていました。観客や選手に人数が増えれば、当然時間が経つにつれて湿度が上がってきますから、会場ではそれも考えなくてはなりません。

 

-道具へのこだわりはありますか。

僕は柔らかみのあるキューを好みます。なぜなら僕は無茶に入れたりせず、球にやさしく撞くということを心がけていますから、キューもそういうものがいいんです。MUSASHI(アダムジャパンのキューブランド)は柔らかみがあるのでいいですね。

試合の時はシャフトを4本くらい持っていきます。それもコンティションに合わせて使い分けます。

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-本当に奥が深い競技ですね!他に気を付けていることはありますか。

選手にはそれぞれ球を撞く時のリズムがあります。最近言われるようになってきたルーティーンのことです。下手な人にはそのルーティーンがありません。見ていてもいつ撞くか分からないんです(笑)

あとは撞く時は息を止めます。テニスや投てき競技なんかでは投げる瞬間に息を吐いて力を出すために声を出しますよね。しかしビリヤードでそれをやると必要以上に強く撞きすぎてしまいます。ブレイクショット以外は力加減が重要ですからね。呼吸を止めることで体の線を動かなくするという目的もあります。

 

-プレーする上で考えるべきことがたくさんありますね。

普段の練習から考えるということを癖にするリズムを自分で作っておかないといけません。それは今曲玉をやる上でも重要なことばかりです。