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中山雅史と鈴木啓太も賛同。身体のケアの情報を蓄積・共有する重要性

2017.02.01 / 石津 暁

中山雅史氏、鈴木啓太氏、清水俊太氏

2016年12月17日、ONE ATHLETEシンポジウムin東京が開催された。

この日はアスリートの視点に立った真のケアとは一体何なのかをもう一度考え直し、選手の治療やパフォーマンスの向上という“結果”を追求するために必要な考え方やノウハウについて、様々な分野のスペシャリスト達が集結して談義を行った。

第1部では、現アスルクラロ沼津所属・中山雅史氏、元浦和レッズ・鈴木啓太氏、MLS・LAギャラクシーメディカルスタッフの清水俊太氏の3人でアスリート・治療家それぞれの目線でのケアのあり方と、これから求められる情報の共有・活用について話し合われた。

 

トレーナーは選手の状態を調整するために必要な存在。

アスリートにとって1番の喜びはピッチに立つ事だ。しかし、怪我の発症によりその喜びを奪われている人もいるだろう。怪我が無い競技人生を送る為にも、アスリートの体のケアは重要になる。そのケアに奮闘するのが、トレーナーである。

まず、選手にとってトレーナーとはどういった存在なのだろうか。

中山雅史氏は「日々の練習で自分をどこまで持っていくのか、試合までどのように持っていくのかという所が非常に重要になります。その中で自分が抱えている身体の問題がありますよね。トレーニングをやりすぎてもマイナスになりますし、やらなすぎてもマイナスになる。そこのさじ加減というものは、トレーナーの存在が僕の中では重要でした。僕はやり過ぎてしまうタイプなので、そこを抑えるトレーナーが僕には必要だったんです。」

しかし、トレーナーの指導の下、バランスを取りながらトレーニングを行っていても怪我を発症してしまう事はある。そして多くの選手が怪我をした際には、自分が所属するチームで治療を受ける事になるわけだが、時折選手の間でもこの治療が1番の方法なのかと疑心暗鬼になる事があると言う。「これが本当に正しい治療かどうか分からなくても、実際にそれを相談できる人がいないのが現状です」と鈴木啓太氏は語る。

人によって治療の方法は異なるため、どれがベストなのか選手も断定が出来ない。では、選手としてトレーナーに対し、どんなアプローチをする必要があるのか。中山雅史氏は、ジュビロ磐田からコンサドーレ札幌に移籍した時の事を例に上げ説明する。

「札幌に移籍した時に感じたのは、今までジュビロでされていた治療が札幌ではされないことです。治療する人それぞれに十人十色のアプローチ方法があるからです。なので自分が怪我した時のアプローチの仕方、ケアの仕方をちゃんと理解して、新しいチームに移った時に持っていき、怪我の遍歴を全ての人達に共有する必要があると思います。」

情報を共有する事の重要性に関して、鈴木啓太氏も語気を強める。

「治療家の人もその選手がピッチに立ってくれるのが1番の喜びだと思うんです。アスリートはとにかくピッチに立ちたい、競技人生を全うしたい、そこに尽きるので。だからこそ、皆で怪我を見ていく事も大事だと思うんです。その為には治療家がもっと情報を共有する必要があると思います。」

怪我に関する情報をもっとオープンにして共有する事でベストなケアを施すことができ、選手のピッチに立ちたいという想いの実現に近づいていくのだ。

 

中山雅史氏、鈴木啓太氏、清水俊太氏

治療家間で“共通言語”を作らないといけない。

多くのアスリートが怪我で苦しんでいる現状がある。では、その選手を1番近くで見ているトレーナーの声はどうなのか。多くの選手を治療家・トレーナーとして見てきた清水俊太氏は、専門家間で“共通言語”を作る必要があると言う。では、一体“共通言語”とはどういった事なのだろうか。

「それぞれのスペシャリストが集まっても、共通言語が無いので、自分のセオリーが中心になってしまい、まとまりがありません。話し合う時に何かベースとなるものを作りあげないといけないと思います。そのためにはまず、アスリートを観察した上で、データを取っていく必要があると思いました。客観的なデータが抜けた状態で各々が持つ主観的な知識を持ち寄っても、結局部分部分しか見えてこないので。そうなると選手達が感じている事さえも理解できません。専門家それぞれが持つ主観的な部分、客観的なデータ、選手が感じていること、それら全部を合わせてコンプリートなデータを継続的に見ることで何が効くのか初めて分かるのではないかと思いました。 “自分に何が効くのか”という情報を得るためには、やはり多くのデータが必要になります。何が共通点になるのかを確認する必要があるので。気の遠い話かもしれませんが、しっかりとやっていれば見えてくるでしょう。」

治療家といえども、その時点で自分が持っている知識が絶対ではない。本当に良くなっているのか、という結果をしっかり見て、データに基づきそれぞれに合ったケアの方法を提示できる状態をつくることこそが重要であるはずだ。そのためには治療家間で情報を共有し、話し合うための共通言語を持つことが求められる。

怪我で苦しむアスリートが多くいる以上、治療家はそれに対して最良のアプローチをしていかなければならない。そのためにはまず、アスリートが自分の身体についてもっと知り、怪我についてどのようにケアを行ってきたか、などの情報を周りに共有していく。そして治療家は自分の主観的な判断だけでなく、データに基づいた客観的な事実を見た上で、選手の怪我の状態が良くなっているのかを最終的に確認しなければいけない。その中でアスリートと治療家はより綿密に関わる必要があり、信頼関係を築いていくことが鍵になるだろう。