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谷口由夏は、東京五輪を目指す。大家族の大きな愛を胸に

2017.04.20 / 荒井 隆一

谷口由夏(たにぐち・ゆうか)。柔道、レスリング、グラップリング、柔術。1996年5月10日生まれ。大阪府出身。8人家族、6人姉弟の長女として生まれる。大阪府強化選手選考会に2度Aランクに選出され、次の東京五輪へ期待がかかる選手の一人。柔道・柔術・グラップリング・レスリングで世界一になることを目標にしており、世界一の指導者になり妹たちを世界一にすることも目標に掲げている。

谷口由夏

10人家族、8人姉弟の長女として生まれ育った谷口由夏は東京五輪での活躍が期待される柔道選手の一人。谷口家は家族全員が柔道に関わっており、まだ幼い子ども達も練習についてくるなど、生まれながらにして柔道一家の遺伝子をついでいる。

この谷口家、実は家の中にジムがある他、父の隆志さんが接骨院を立てるなど、子ども達の活躍のために環境を整えている。

そんな家庭で育った谷口は柔道だけではなく、柔術、レスリング、グラップリング※の3種目を練習で取り入れている。そこにはどんな意図があるのか。そして東京五輪へ向けての思いや、まだ背負ったことのない日の丸への熱い思いを語った。

※打撃のない寝技主体の格闘技。

一人の強い女性になるために。

谷口が柔道を始めたのは4歳の時。

「物心がない時に親が何かさせてあげようとするじゃないですか。それで父が柔道を教えてくれて『自分の身は自分で守れるように』というので柔道を始めました。誰かに助けてもらうことは必要かもしれないですけど、立派な一人の女性になるというのが今、私がこの競技をしている理由ではあります。堂々と自信を持った柔道選手、一人の女性になることが目標です」

親から与えられた競技を続ける理由は、いつしか一人の女性としての想いへと昇華していった。

谷口は中学に入ると柔道で成功するために、他の競技を取り入れる目的で本格的にレスリングを始めている。レスリングにおいても柔道の技が活きるそうだ。

しかし高校に上がった時に谷口に困難が訪れた。それは進学した芦屋学園高校のレスリング部が入部して半年で廃部になってしまったのだ。レスリング、そして柔道の両方で試合に出られなくなってしまい、転校を余儀なくされた。

 

そんな困難を乗り越え、昨年の12月に柔道一本に絞り、柔道家として再スタートさせている。実は最初は柔道で苦しんでいたという谷口。しかし同時に柔道の奥深さに気づくこともできた。そこでより難しさを感じた柔道で先に金メダルを取るために競技を絞ることを決意する。

ただ、レスリング・グラップリング・柔術の技術が必要なくなったわけではない。それらをうまく活かせるようになった今はむしろ「柔道のためにこの3つ(レスリング・グラップリング・柔術)が欠かせない」と語る。

谷口由夏

目標にしている人は「いない」

女子高生という年頃の女の子でもある谷口だが、普段はとにかく競技中心の生活を送っており、最近の流行りごとには一切目を向けていない。「何が流行っているか教えて欲しいです」と筆者に逆質問するほど日々、トレーニングに励んでいる。

そこまで競技に集中できるのはサポートをしてくれている人への感謝があるからだ。

実際、谷口が一番嬉しいのは試合に勝った時でもなく、優勝した時でもなく、家族の存在があることだと話す。

「自分が試合に負けた時に一緒に泣いてくれて、勝った時は一緒に喜んでくれて、良い時だけではなく悪い時でも一緒にいてくれるというのはすごく嬉しいです。

(尊敬している人は)父と母です。ここまでやってくれる人はいないと思うんですよ。借金までしてジムを作って、家族がこんなにいるのに毎日洗濯物をしてご飯を作ってくれて。しんどくなるはずなのにしっかりやってくれて、父は時間なくてもトレーニングを一緒にやってくれて今回も応援をしに来てくれて、そこまできる親はなかなかいないと思うし、自分の先生であるいつこ先生(監督・増田仁子)にも感謝をしています」

一方で目標にしている人について尋ねると「いないです」と即答した。

「五輪に出て金メダルを獲っている人は凄いと思うんですけど、『自分は自分』という思いで(五輪に)出ていきたいので目標という人はいないです」

常に己を忘れることなく、感謝を胸に突き進んでいく。そうすることで思い描く選手像、女性像に近づいていける。

谷口由夏

東京五輪に向けて一歩ずつ、着実に。

谷口はまだ、日の丸を背負ったことがない。初の全国大会となった第39回全国高等学校柔道選手権大会では2試合目で敗退している。しかし、この結果も谷口にとってマイナスなものではない。

「今回は攻め続けるということが目標で、引かない柔道ができたので悔いのない試合をすることができました。次に繋がる良い経験をさせてもらいました」とこの大会について振り返ってくれた。

谷口はいつでも前向きな姿勢を崩さない。視線は常に先にあり、それはもちろん東京五輪へ向けてのものである。だから今は結果が出なくても、慌てない。やるべきことを一つずつ積み重ねていき、来たる勝負の時に備えている。

「今はまだ、何回も負けたりすると思うんですけど、それは自分のためにある負けだと思うので、ちゃんと受け止めることができます。最終的には絶対東京五輪の時には自分が日の丸を背負っているので」

谷口の中ではすでに東京五輪へ出場することは決まっており、イメージは完璧にできている。そして最後にこう宣言した。

「絶対日本代表になって、日の丸を背負って絶対に金メダルを取ります」

大家族の大きな愛に支えられ、日本を背負って立つ柔道家を目指してー。谷口由夏の2020年に向けた戦いは始まったばかりだ。

谷口由夏