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パラアスリートに10億円!日本財団が障がい者スポーツ支援を行う理由

2017.04.21 / 森 大樹

日本財団パラアスリート奨学金授与式

3月31日、日本財団パラアスリート奨学金授与式が日本体育大学で行われた。この奨学金は2020年の東京パラリンピックを見据え、世界で戦えるパラアスリートを養成する目的で創設されたもので、今回はその第1期生として18人が選出され、総額約7,400万円が給付される。今後50人の選手に1人あたり年間500万円の支援を行うことを予定している。

来たる2020年に向けて。夢と希望を与えるパラアスリートを。

まず、授与式に先立って、松浪健四郎学校法人日本体育大学理事長からの挨拶が行われたのだが、彼は衆議院議員としても活躍したが、元々は日本体育大学OBの元レスリング選手である。メキシコ五輪日本代表候補にも入った人物だ。

2020年東京パラリンピックでの活躍が期待される奨学生を前に、松浪理事長は1964年の東京五輪男子レスリング・フリースタイル・バンタム級銀メダリストのフセイン・アクバス選手を例に挙げ、「ハンディキャップがあっても、心の持ち方によって、人々に夢と希望を与えることができる。そしてここにいる皆さんは日本の社会を、世界の社会を変えるその一翼を担うアスリートになって頂きたい」と激励した。アクバス選手は小児まひによる障がいで左足が不自由であるにもかかわらず、世界選手権を4度制し、国際レスリング連盟殿堂入りを果たしている。

笹川陽平氏の挨拶を聞く奨学生

笹川会長の挨拶を聞く奨学生

今回の奨学金の設置を行った日本財団・笹川陽平会長は2020年の東京五輪・パラリンピックを一つの契機として、障がいの有無にかかわらず、生きていける“インクルーシブな社会”(包括的共生社会)を目指していくと話した。

その中で奨学生には競技で活躍することはもちろん、次の世代の育成に向けて、将来的には指導者となり、パラスポーツの裾野を広げる活動をしていく役割の担い手として期待を寄せる。

「多くのスポーツが国民に夢と希望を与えているわけですが、その部分だけを取ってしまうと選手たちには気の毒です。彼らが長い人生の一青春時代をここに集中することで、その結果を私たちは期待していますが、その後の人生の方がはるかに長いわけです。

障がいの方に目が行きがちですが、彼ら一人ひとりの人間としてのすばらしい生き方を我々も学ばせてもらわなければならない。皆さんの努力で、すべての日本中の、世界中の人に感動を与え、人生かく生きるべきだという見本をぜひ示して頂きたいと思っています」

また、笹川会長は2020年以降も長期的に続いていく五輪・パラリンピックにおけるレガシー、ポジティブな意味での遺産を残すために奨学金制度による支援を継続していくことを明言。ただ、時代の流れやその成果によって、その形は変化していくことを示唆した。

松浪健四郎氏から奨学金賞状を受け取る奨学生

日本体育大学・松浪理事長から奨学金賞状を受け取る奨学生

トップに育つまでの過程にも支援を

今回奨学生に選ばれたのは既にリオパラリンピックに出場するなど、一定の競技成績を残した選手たちだ。一方でそこにたどり着くまでの援助や競技そのものの普及、選手の育成という点においてはまだ十分でない現状がある。

「今までは両親からお金を出してもらっていたので、すごく負担をかけていましたし、節約しながら、という形でした。他にも兄弟がいるので…。でもこの制度ができたので、競技にうまく取り入れていくことはもちろん、食事やケアといった部分に活用したいと思います。」(池 愛里選手/水泳・リオパラリンピック出場)

「学費、遠征でかかる費用に充てられると思っています。家の事情なんですけど、3人兄弟で1つ上にも大学生がいるので、金銭的に厳しい状況は多々ありました。また近々遠征やジュニア世界選手権、日本選手権もありますが、1つ1つ成果を出していきたいですし、2020年に向けて、奨学金をもらっていることを含めて良い結果を残さないといけないと思っています。」(鳥海 連志/車いすバスケットボール・リオパラリンピック出場)

実際に2選手が語るように、トップへ上り詰めるまでの過程に金銭的な課題があることは間違いない。家族の協力が不可欠であり、それでも潜在的に資金面の問題で競技を諦めざるを得ない選手というのもいるはずだ。競技によっては特殊な器具が必要な場合もあり、通常の遠征費や食費に加え、そういったものを揃え、メンテナンスをする費用がかかる。

さらに今後はトップ選手だけでなく、パラスポーツの2020年以降も含めた持続的な発展に向けて、草の根における支援や障がい者とスポーツとの接点づくりがより一層求められる。

その中で日本財団は就労支援を目的としたフットサルコート併設の飲食店・E’s CAFEの支援を通したCP(脳性まひ)サッカーの活性化や、鳥取県×日本財団共同プロジェクトとして行う、競技場のバリアフリー化などを進めているほか、パラスポーツの振興を目的としたパラリンピックサポートセンター(リンク)の設置、健常者と障がい者がタスキを繋ぐ駅伝イベント「パラ駅伝」(リンク)の開催支援など、幅広い形でスポーツの支援を行っている。

「E’s CAFÉは就労支援だけではなく、障がい者のスポーツをサポートする企業との連携モデルでもあります。我々だけでは解決できないことも多いので、こういった拠点となるような場所が他でもつくられて、そこから支援の形が広がっていってほしいですね。日本財団はその中でハブとして、学校や企業等とパラスポーツを繋げて、多様な接点をつくっていければと考えています。」(飯澤 幸世氏/日本財団コミュニケーション部)

東京パラリンピック開催の決定により、今学生パラアスリートの卒業後の就職は売り手市場となっている。よって、社会人になってからも競技を続けられる環境が整いつつある。(※)障害者雇用促進法により、障害者雇用率2%が義務付けられたことで、企業側にもそれを遵守した上で社内のスポーツへの関心を高められるという点で障がい者を雇用する意義が出てきた。

そして今回、学生パラアスリートを支援する奨学金も支給されることになった。

となると、これからは雇用以外の面で、企業がパラアスリートを支援し、トップはもちろんのこと、草の根の部分での障がい者スポーツを活性化させていくことが求められるだろう。今後も民間企業や日本財団のパラスポーツ支援に関する取り組みを引き続き、注目していきたいところだ。

※障害者雇用促進法:雇用する労働者に占める障害者の割合を一定以上にすることを定めた法律。50人以上の従業員がいる企業が対象となり、民間企業の場合、2%以上の障害者雇用率が必要となる。