大学野球部のマネージャーが光を当てた、ウグイス嬢という道

2015.08.27 森 大樹

赤荻福枝

 

今回はウグイスプロモーション代表・赤荻福枝さんにお話を伺います。赤荻さんは現在、野球の試合におけるウグイス嬢や公式記録員、大会の式典の司会などを手配し、実際にご自身も球場へ行ってアナウンスを行っています。

アマチュア野球だけに限らず、プロ野球球団の2軍チームなどの業務を幅広く手配されています。

 

大学野球部のマネージャー時代に、ウグイス嬢を経験

 

-まず初めに、赤荻さんご自身が何かスポーツをやっていた経験があれば、教えてください。

実は私自身は全くスポーツをやっておらず、中学時代も写真部でした。高校から野球部のマネージャーをやり始め、それは大学でも続けました。

 

-野球自体には小さい頃から興味があったということでしょうか。

自分自身はどちらかというと運動が苦手な方で、元々プレーヤーとしてやることは考えていませんでした。でも人の面倒を見るのが好きだったので、選手を支える仕事としてマネージャーを選んだということです。ただ中学では野球部がマネージャーを取っていなかったので入れず、結局始めるのは高校になってからです。まず、どこの部に入るかを選ぶにあたって、女子の部活だとよくマネージャーが揉めているという話を聞いていました(笑)そこで男子の部活でスポーツの中でも比較的ルールが分かる野球部のマネージャーをすることにしました。

 

-そうなるといつから野球自体に対して強い思い入れを持つようになったのでしょうか。

進学後、青山学院大学の野球部のマネージャーを務めることにしたのですが、高校までとは部活の雰囲気が全然違いました。高校まではある意味、同好会の延長のような形でしたが、大学の部活では甲子園に出たような選手がたくさんいて、私自身も野球に対する考え方が変わっていったんです。どれを取ってもプレーの質のレベルが高かったですね。そこから野球に魅力を感じるようになり、観戦にもよく足を運ぶようになりました。

 

赤荻福枝

当時所属していた選手の中にはプロ野球へ進む人も

 

-ちなみに当時、野球部に所属していてプロになった選手はいるのでしょうか。

何人かいますが、誰もが聞いてパッと分かる人でしたら、まず、2つ下に(※)小久保さんがいました。先日河原井前青山学院大学野球部監督に感謝する会が開催された時は彼が発起人で、私が事務局を務めたりもしています。

5つ下には(※)井口さんがいて、学生時代は被っていないのですが、彼が4年生の時の野球部のアメリカキャンプに通訳として私も同行したので、面識はあります。

また、私は2人の2000本安打達成を祝う会でも事務局のお手伝いをしました。

 

小久保裕紀氏:ダイエー、ソフトバンクなどで活躍した元プロ野球選手で、現在侍ジャパン野球日本代表監督を務める。青山学院大学在学中の1993年に主将として同大学を史上初の大学日本一に導いた。プロ通算・.273、2041安打、413本塁打。

井口資仁選手:メジャーリーグでも活躍し、現在はロッテに所属するプロ野球選手。青山学院大学在学中の1996年に大学日本一に輝き、個人としても「青い核弾頭」として東都大学リーグ唯一の三冠王、通算最多本塁打記録(24本)、1シーズン最多本塁打記録(8本)など、今も破られることのない成績を収めた。

 

河原井前監督に感謝を伝える懇親会

先日、河原井前監督に感謝を伝える懇親会が開催された

 

-赤荻さんとウグイス嬢の仕事との出会いのきっかけを教えてください。

高校だと高野連(日本高校野球連盟)によって各学校で試合の手伝いの当番が決まっています。私は初め、電話番として手伝いに行っていたのですが、アナウンスもやらせてもらったことがありました。

そのまま高校でアナウンスを本格的にやることはなかったのですが、大学に進むとその業務が必須でした。私は青山学院大学だったので、東都大学野球の試合でアナウンスをするわけですが、当時、1部の大学全体でも女子マネージャーは1人、2部にも1人しかいなかったんです。そのくらい女子マネージャーがいませんでした。

 

赤荻福枝

大学の野球部の同期と成人式

 

-意外ですね。大学野球のマネージャーはすごく人気がありそうなイメージです。

人数が少ないので、当然試合日は毎日アナウンスしていましたね。

そして私が大学3年目になった時に、ロッテの(※)村田兆治投手が引退しました。その村田さんが引退したタイミングで六本木に個人事務所を立ち上げるので、アルバイトを探している、と日刊スポーツの記者の方からお話を頂き、私はそこで働くことになりました。次第に村田さんのマネージャー業のような仕事をするようになっていき、卒業後もそのまま事務所で働くようになりました。

 

村田兆治氏:ロッテオリオンズ(元千葉ロッテ)で活躍した元プロ野球選手。当時日本ではタブーだった肘の手術を受け、見事に復活し、1990年・40歳で2桁勝利を上げて引退。通算215勝。65歳になった今も球速120kmを超える速球を投げる。

 

-ここで大投手の名前が出てくると思いませんでした。

その中で村田さんが元ロッテという繋がりで(※)川崎球場さんからお仕事を依頼されるようになりました。川崎球場のスコアボード操作やアナウンスなどの依頼が来たら、それを私が手配、業務を行うという形になっていったわけです。そこから今度は東京ドームさんの貸しグラウンドのアナウンス業務のお仕事も村田兆治オフィスで受けるようになっていきました。

しかし、村田さんがダイエー(現ソフトバンク)のコーチとして再びユニフォームを着ることになり、講演依頼などを受けられなくなるので、事務所は引き上げることになりました。それに伴い、川崎球場や東京ドームの案件は私個人として引き受けることになったのが、今の仕事の大きなスタートになります。

 

川崎球場:ロッテオリオンズが1978年~1991年まで本拠地として使用していた球場。現在は「川崎富士見球技場(富士通スタジアム川崎)」となっている。

 

-それまでに赤荻さんが積み重ねてきた信頼があったからこそ、任せてもらえたのでしょうね。

当初は個人で業務を行っていたのですが、東京ドームさんからも「会社にして、しっかりとした形にした方が仕事を依頼しやすい」とアドバイスを頂いて、立ち上げることを決意しました。

いざ始めてみるとありがたいことに意外とニーズはあって、元々繋がりもあった明治神宮野球場さんや西武プリンスドームさんからも会社立ち上げをきっかけにお仕事の依頼が来るようになりました。東京ドームさんを含めた3球場に関しては契約し、一般向け貸しグラウンドのアナウンスを弊社で担当させて頂いています。

その流れの中で、東京都軟式野球連盟さんと出会いました。初めは1つの大会の開会式だけを任されていたのですが、そのうちどんどんご依頼が増えていき、今では年間を通してほぼ全ての大会の開会式やアナウンスを担当させて頂いています。

その後もボーイスリーグの全国大会や東日本選抜大会など、様々な連盟・団体から各地の大会についてもご依頼を頂く機会が増えていきました。

 

声の質よりも野球のルールが分かることが重要

 

赤荻福枝

 

-そして現在ではプロ野球の球場でも業務を行われていますね。

今業務をさせて頂いている北海道日本ハムファイターズさんは、2軍のアナウンスをしていた方の退職に伴い、後任を探されている中で弊社のホームページをご覧になってくださったようです。また、私と退職予定の方とは元々、社会人野球のアナウンスなどで以前から面識があったため、球団の担当の方に「赤荻さんのところなら大丈夫」と推してくださり、4年前から2軍のアナウンスを担当することになりました。

そして今年の7月、千葉ロッテマリーンズさんからも2軍アナウンスのお話を頂きました。日本ハムさんからのお話を耳にしてくださっていたようです。そのように口コミで徐々にお仕事の機会が増えていきました。

 

-夏の暑い中でも外でアナウンスや司会をしたりするのは大変ですね。

でも楽しいです!話すのも好きですから。

 

-業務としては具体的にどういったことをされているのでしょうか。

試合のアナウンスや司会進行、あとは公式記録員の手配もさせて頂いています。

例えば今は女子プロ野球の埼玉アストライアさんと東北レイアさんのアナウンスと記録、全日本実業団野球の記録などを行っています。

 

-記録員のヒットやエラーの判断は難しそうですね。

そうですね。でも小学生の大会などは多少甘めに付けているところはあると思います。反面女子プロ野球は判定に対して厳しいです。

 

赤荻福枝

 

-何人ぐらいで業務を行っているのでしょうか。

社員は私1人です。あとはアルバイトで、昨年は約40人の方にお仕事をお願いしました。

 

-やはり野球が「分かる」ということがこのお仕事においては重要なのでしょうか。

その通りです。声の質よりもしっかり野球のルールが分かることが重要です。特に選手交代が大事なので、そこが分からないと厳しいです。よく弊社のホームページに野球のアナウンス未経験の司会業などの仕事関係の人から問い合わせが来ますが、話すことだけがうまくても務まらないんです。

 

-ホームページに依頼する際の料金が書かれていますが、幅がありますね。

ご依頼の内容によって変動はします。でも実際はホームページからお問い合わせ頂くことはほとんどないですね。だいたいはこれまでの人脈や繋がりから、ご依頼を頂くことが多いからです。

 

-ちなみに赤荻さんにアナウンスをお願いすると値段が違ったりするのでしょうか。

それはありません! 誰が担当しても全て一律料金です。

やはり人を手配するということだけではなかなか経営が厳しいので、私自身も一定数以上のアナウンスを担当しないと成り立ちません。

 

赤荻福枝

 

-事前の打ち合わせはどの程度やりますか。

新しくお仕事させて頂く時はもちろんですが、特にイベント野球の時などは念入りに行います。

一口に野球の試合といっても、きっちりルールに則ってやるものもあればそうでないものもあります。ルールに則った試合の場合のアナウンスは楽ですが、そうでない場合はいかにそれに合わせられるかということが問われてくるので、自分はもちろん、臨機応変に対応できる人に担当してもらうようにしています。

 

-今までにあった変わった依頼を教えてください。

もうだいぶ前のことですが、東京ドームでの貸しグラウンドで、フィールドに出ている何十人ものお客さん全ての名前をアナウンスしてほしいとリストを渡されて、延々と読んだことがあります(笑)

あとは打順20人や守備位置なしで打順と名前だけ読み上げるようなことはあります。出ている選手に背番号がない場合もあって、そうなると確認することができないので、本人かどうかを服装で判断して名前の呼び間違えがないように工夫しています。

 

-その場に応じた対応をするというのは大変ですね。

でも楽しいですし、面白いです。先日行われたプロ野球OBの試合ではいつの間にか選手が代わっていたり、交代について審判さんから伝えられるものとバックヤードから来るものが違っていたりすることはよくあります。それをいかに早く自分の目で確かめて、正しく呼べるかという戦いです。無事に終われば自分の中で「勝った!」という気持ちになります(笑)

 

-かなり機転がきく対応が必要そうですね。

監督さんが勝手に選手を代えてしまっている場合はあえて選手名のアナウンスをしないで、電光掲示板だけ表示を代えてもらうこともありますし、逆に人気のある選手、話題になっている選手が出てくる時は会場を盛り上げるためにも名前をコールすることがあります。そうすることでスタジアムの雰囲気を作ることができると達成感があります。特にプロ野球OBの試合では往年の巨人と阪神の選手同士の対戦など、一段と盛り上がる組み合わせが決まっていますからね。

 

-お仕事を依頼する上でアナウンスの仕方を指導することはありますか。

私の場合はやり方として、マニュアルに沿ってアナウンスするというより、本人が話しやすい方法でやってもらうようにしています。もちろん回、裏表、チーム、打順、名前、背番号等の基本的なところはどこでも一緒なので統一ですが、それ以外の選手交代などの部分についてはやりやすい形でやってもらっています。

しかし、試合前も含めた全体の流れの中で、アナウンスを入れるべき箇所について決まり事はあるので、それはお伝えします。

 

-技術的な指導はされるのですか。

大事な仕事をお願いするようになってくると、その場でイントネーションやアナウンスを入れるタイミングについての細かい指導をすることはあります。ただ、何よりも場数をこなして経験を積んでもらうということが一番です。

 

一般の方や連盟のアナウンスを担当されている方向けの講習会を頼まれて指導することはありますが、弊社で現在アナウンス担当している人たちには改めて教えるということはあまりありません。

 

-赤荻さんご自身はアナウンスについてどのように勉強、練習したのでしょうか。

大学時代にアナウンスをやる必要が出てきた時に、アナウンスアカデミーに通いました。ただ、そこに来る人は皆、テレビ局やラジオ局のアナウンサーを目指しているので、授業内容も画面やカメラを見ながら話す、というものでした。そうなると私はあまり関係がないので、基礎コースの途中で辞めてしまったのですが、そこで知り合った人達は実際にアナウンサーになっていたりして、時々お仕事でご一緒することもあります。

あとは、全国各球場で様々なアナウンスを聞いて、この言い回しはいい、といったところを真似させて頂いたりしながら、自分自身が回数を重ねていく中でタイミングや注意すべき事を工夫して現在に至っています。

 

-うまく話すためのワンポイントアドバイスがあれば教えてください。

下を向いて話すと声が低くなるので、必ず前を向いて話します。原稿も下ではなく、前に持ちます。あとはお腹から声を出します。そうでないと喉が疲れてしまいますし、響きません。細い声だといくらマイクの音量を上げてもたくさんお客さんが入っている会場では応援の音にかき消されてしまって、聞こえないものです。

 

-やはり喉のケアは入念に行っていますか。風邪を引いたりしたら、大変ですよね。

喉には気を遣っていますね。もちろん風邪を引いたりしたら大変です。あとは例えば居酒屋などに行くとタバコの煙に加え、周りが騒がしいので声を張って話さないといけませんよね。そうなるとすぐ喉に影響が出てしまいます。飲み物も私は喉が渇いてしまうので、ウーロン茶は飲みません。シンガーの方でもそうしている人がいますが私も同じで、大事な仕事の時は水を飲むようにしていみます。

 

-それでも喉の調子が悪いということはあると思いますが、どのように乗り切っているのですか。

当然私も風邪を引くことがあるわけですが、その時はマスクをして、家ではほとんど話しません。その上で私が気にいっているのどスプレーをしていれば、何とか声は出ます。今までお仕事の時に声が出なかったことはありません。

司会の場合は難しいですが、野球のアナウンスであればマイクのカフ(スイッチ)を細かく切れるので、多少喉にたんが絡んでも咳払いをすることができます。それは他の話す仕事と比べると楽な部分ではあると思います。

何かに真剣に取り組むために、犠牲にすべきこともあるものです。付き合いが悪いと思われるかもしれないと考えつつも、大事なアナウンスの前の日にはお酒を飲まない、といった我慢はしています。

 

赤荻福枝

 

自分が緊張していることを周囲には言わない

 

-今後の赤荻さんの目標を教えてください。

誠心誠意アナウンスを行い、皆さんに喜んでいただく事。そしてアナウンスをやりたい人に少しでも多く依頼していければと考えています。

 

-アナウンスをしてみたい試合はありますか。

究極の舞台として、メジャーリーグで英語のアナウンスをしてみたいです。でもそれは現地に行かないといけませんし、こちらでの仕事もあるので難しいですね。でも私は以前から英語が好きで、最近もまた英会話の勉強を再開して通っています。

 

-英語を話すという面では準備万端ですね。

日本では英語のアナウンスはしたことがあります。

私はメジャーリーグも好きで、実は学生時代にも11泊13日でアメリカ中のメジャーリーグやマイナーリーグの試合を観て回ったりしていました。野球、大好きです。またそのように観て回りたいですが、今は仕事で2週間も休むなんて絶対無理です(笑)

 

赤荻福枝

アメリカ女子プロ野球チーム、コロラド・シルバーブレッツの選手と

 

-赤荻さんの野球愛が伝わってきます。特定の球団を応援している女性ファンはいると思いますが、なかなかそこまで野球全般が好きな人はいませんよね。

確かに私の場合、特に決まったところのファンというのもないので珍しいかもしれませんが、同じように好きな人はいると思いますよ。

 

-ここからは赤荻さんご自身についてお伺いしていきます。

-時間ができた時にしている趣味はありますか。

野球を観に行きます(笑)休みができればすぐに行きます。この前も都市対抗野球の予選を観るために熊本まで日帰りで行きました。北海道に旅行に行った時にNPBジュニアトーナメントの試合を観に札幌ドームに行くなど、とにかく旅行に行けば必ずついでに野球を観ます。基本的にアマチュア野球の方が多いと思います。

 

-ご自身で思う、自分の魅力を教えてください。

考えたことがないですね。欠点はたくさん思いつきますが…フットワークの軽さでしょうか。人とのコミュニケーションが好きで、細めな連絡は苦ではないので、各試合にアナウンスや記録員を手配する際には再確認の連絡をするなど、常に心配りは意識しています。

 

-もし話す仕事をしていなかったら、何をしていたと思いますか。

私の大学時代はバブルだったので、就職が有利で、みんないい会社に進路を決めていました。私も村田兆治さんとの縁がなければ普通に会社員をやっていたと思います。あとはプロ野球の運営に関わるような球団の仕事には興味がありました。

 

-これまで数々のお仕事をされてきた赤荻さんでも緊張することはあると思います。その場合に心がけていることはありますか。

絶対に自分が緊張していることを周囲には言いません。言葉に出してしまうとそれが現実化し、本当に緊張してしまうので、していない素ぶりを通します。多少足や手が震えていても絶対に言いません。

 

-誰かから言われて大切にしている言葉や座右の銘があれば教えてください。

今はもう亡くなってしまったのですが、野球の試合の手配をするようになってからお世話になっていた神奈川の野球関係の方から、「手配をする人はまずはみんなの希望を聞き、優先させた上で最後に自分が空いたところに入るものだ」と言われたことがすごく印象に残っています。今でもそれは頭の中に常に置いて手配するようにしています。

 

-それでは最後に読者の方にメッセージをお願いします。

時々、どうすればウグイス嬢になれるのかと聞かれることがありますが、人数がすごく限られている狭き門なので、タイミングと運次第と言うのが本音です。でももし本当にやりたいのであれば、実際に野球場に足を運び、人との繋がりを作ることからまずはやってほしいですね。

基本的に弊社が担当させて頂く試合のアナウンスはBGMと同じでありたいと考えています。決して前には出ず、耳障りにならないながらも、出てくる選手が誰かお客さんが気になった時に自然に選手の名前が耳に入ってくる、ということが大事だと考えています。

そういったことを意識して業務を行っているというのを、観客の方たちに少しでも感じて頂けると嬉しいです。