ラクロス女子代表・小堀優子は、なぜ茶道の重要性を説いているのか

2015.08.20 森 大樹

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今回は2013年ラクロス日本代表で、社会人クラブチーム・MISTRAL所属の小堀優子選手にお話を伺います。大学からラクロスを始めた小堀選手は競技の実力は日本代表になるほどでありながら、遠州流茶道の宗家の生まれで、その普及活動もされています。今回は競技と茶道両方のお話を伺いました。

 

剣道一筋から、ラクロスへ転向した理由

 

-まず初めに小堀さんのスポーツ経歴を教えてください。

ラクロスを始めるまではずっと剣道一筋でした。5歳から高校3年まで続けて、段も三段まで持っています。

 

-ずっとやってきた剣道からラクロスに転向したきっかけは何だったのでしょうか。

きっかけは同じ学習院大学にいた2つ上の姉の影響です。姉が大学でラクロス部の主将を務めていて、私も体験に行きました。当初は大学でも剣道をしようと考えていたのですが、部員が少なかったんです。一方体験に行ったラクロス部には部員もたくさんいて、私もその中でレギュラー争いをしてみたいという気持ちが沸いてきました。そして姉から、努力次第で日本代表にもなれるし、学習院大学ラクロス部であれば日本一を目指せると言われたことで転向を決めました。

 

-なかなか新しい競技に飛び込んでいくというのは勇気がいりますよね。

剣道は小学生から学習院でずっと一緒にやってきたメンバーなので、その中での自分のレベルも分かっていました。

当初行こうと思っていた大学の剣道部は全日本選手権に「出場」するということを目標に活動していました。一方でラクロス部は競技人口などの違いはありますが、「日本一」を目指していました。どちらにするか悩んだ時に、「日本一」に挑戦してみたいという思いが私の中で強かったので、思い切ってラクロスを始めることにしたんです。

ただ剣道もラクロスもやりたいという葛藤の中で毎日泣いていました。特に父自身も剣道をやっていたということもあって、剣道をしている私を応援してくれていたので、正直すごく迷いました。しかし、ラクロスに転向してからも変わらず、試合の際には応援に来てくれます。

 

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-小堀さんが思う、ラクロスの魅力を教えてください。

私はそれまで剣道という個人競技をやっていたので、ラクロスのチームスポーツという部分はすごく魅力に感じています。選手各々に個性があるわけですが、フィールドに立つみんなでそれぞれの短所を長所でカバーし合い、勝つことができれば喜びは何十倍にもなります。辛さはメンバーみんなで分け合って、喜びはメンバーみんなの分だけ大きくなる、と思います。

 

-小堀さんのアピールポイントを教えてください。

私は精神面で「竹の心」を持っています。絶対に気持ちの面で折れないということです。今私はチームでキャプテンをしています。学生時代もやっていましたが、競技を続けていれば本当に色々な出来事が起きます。自分のことだけを考えていてはダメで、チームが勝つためにどうしたらいいか、常に思考を巡らせています。その中で良いことも悪いことも含めた、予期せぬ事態が起きた時に折れない心を私は持っていると思います。竹は風が吹けばなびきますし、冬に自分の上に雪が積もっても、それに従ってしなり、冬が明けて雪がなくなるとまた真っ直ぐ上に伸びます。私も竹のように状況に応じて柔軟に対応しつつも、絶対に折れない心を持っています。

 

-今後の目標を教えてください。

MISTRALで日本一になることです。ライバルチームは(※)FUSIONですね(笑)

 

FUSION:以前インタビューした日本代表・水戸理恵選手所属のクラブチーム

 

ラクロスと両立して行っている遠州流茶道

 

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-ラクロスを続ける中で、遠州流茶道もされている小堀さんですが、どのような形で活動をしているのでしょうか。

小さい時からお茶会や年末年始の行事の際には着物を着て、お客様の前に出て、会席料理やお菓子を運んだりしていました。大変な仕事ですが、お正月にはお年玉を頂けるのを楽しみにやっていました(笑)

でも本格的に茶道を始めたのは大学を卒業してからで、今はお茶会を催したり、遠州流茶道の広報活動やスポーツと文化の融合を図ったりしています。

 

-今も毎日着物を着ているのですか。

そうですね。ジャージ→着物→スーツ→ジャージ…の繰り返しです(笑)朝出勤する時は全員スーツでないといけないんです。出勤といっても家の1階に降りるだけなのですが、スーツに着替える必要があります。お茶会の準備の時も力仕事が多いので、着物ではなくスーツでします。

 

-ちなみに遠州流茶道というのはどういったものなのでしょうか。

江戸時代に徳川将軍家に茶道を教えていたのが、私の先祖の小堀遠州という人物です。遠州流はその中でも特に人と人との交わりを大切にします。皆さんも「侘び寂び(わびさび)」というのは聞いたことがあると思います。それは千利休が唱えた、無駄なものを全て削ぎ落とした究極の美を求めることを指しています。例えば色は黒で、場所は狭くて暗い方がいいといったものです。しかしそれを追求することはある程度精神的に磨かれている、限られた人にしかできません。一方で遠州さんはみんなにお茶を楽しんでほしいということで、誰もが美しいと感じることができる白の茶碗を用いたり、明るさや広さを取り入れたりする「綺麗さび」という概念を大切にしています。これが遠州流茶道です。

 

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-ラクロスを始めるきっかけをくれたお姉様も茶道をされているのですか。

姉の仕事は幼稚園の先生で、茶道の仕事はしていません。しかし大きなお茶会がある時には手伝いに来ますし、幼稚園の園児向けにお茶会をしたこともあります。遠州流は私の弟が継ぐことになっています。

 

-やはり後継は男性が継ぐものなのでしょうか。

ありがたいことに今までうちは14代ずっと男の子が生まれているので、自然と長男が継いでいます。

 

-茶道でやっていることがラクロスに活かされたりもするのでしょうか。

私はラクロスと茶道を一緒にやっているわけですが、基本的に切り離して考えてはいません。当然茶道でやっていることがラクロスに通じるところもあります。茶道ではお客様の好みやお茶の席の熟れ具合に合わせて、今相手が何を求めているかを察することを大切にします。そのために来たお客様の会話を障子の裏で聞いて探ったりもします。

それはラクロスも同じで、今このタイミングでパスが欲しいなど、言葉では表現しきれないようなチームメイトとのやり取りがプレー中にはあるんです。それを察するということが茶道にもラクロスにも通じていて、役に立っていると感じています。

 

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-茶道における目標を教えてください。

あらゆる競技の日本代表の選手達に“真の日本代表”になってもらうことです。

外国の人は自分の国をすごく愛していて、文化についても知っています。でも日本の人は自国の文化を全然知りません。海外で自分の国の文化を表現する機会があっても日本人は何も話せないんです。

私自身が2013年のラクロスW杯に出場した際に感じたことは世界から見る自分はちっぽけで、日本人としても認識されていないのではないか、ということでした。

そこで今、私は(※)JFAアカデミーの子供達を中心に茶道を教えに行っています。将来なでしこジャパンとして世界で戦うなら、日本文化を理解し、“本当の意味での日本代表”になって欲しいと考えているからです。そのために茶道の普及に務めているということです。

茶道は世界中の人が知っていて、他の国の文化と間違われることはありません。私はそれを一服のお茶を通して経験することができました。言葉が通じなくてもお抹茶が「おいしい」ということを通じて、一人の日本人として尊敬された部分がありました。だからこそ私は世界で戦うスポーツ選手には日本文化まで背負ってほしいという想いを持っています。

 

JFAアカデミー:中学、高校の6年間においてサッカー選手のエリートを養成することを目的とした育成機関。

 

-国際大会に臨む国を代表する選手にとって、本当に必要なことだと思います。

 

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JFAアカデミーの選手達へも茶道を教えている

 

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他の分野と横の繋がりを作って一緒にやっていくこと

 

-ここからは小堀さんご自身について質問していきます。ラクロスと茶道以外の趣味の時間は何をしていますか。

なかなか2つもやっていると時間がないですね(笑)でも強いていうなら父の影響で格闘技が好きなので、プロレスを観に行ったりします。仕事終わりでも急いでメインマッチに間に合うなら行きます。あとはジムに行くのも好きで、走ったり筋トレしたりします。

 

-仕事との両立はいかがですか。

私は特別に土日にお休みを頂けているので、助かっています。今は茶道の「静」とラクロスの「動」という両極端な生活を送っていますが、それが私にとってすごく合っていると思います。平日はお茶会なども多く、言葉遣いを始めとした私の行動は「静」の世界に合うものになっています。それが週末になってラクロスで爆発しているという形です。土日の活動中に関してはお茶が似合わないと言われてしまうほどです(笑)もちろん時間や体力の部分できついこともありますが、それはみんな同じことなので、仕方ないです。

 

-代々伝わる家系に生まれ育つと特に結婚について聞かれることもあると思います。

周りの人からどういう人と結婚するのか聞かれることはあります。でも父は寛大な人なので、よほどのことがない限り、私が選んだ人であればいいと言ってくれると思います。

 

-どういうタイプの男性が好みですか。

やはりスポーツをやっている人がいいです。あとは物事を決めてくれる人がいいですね。立場上、茶道においてもラクロスにおいても決断を迫られることが多いんです。特にキャプテンとしてはグラウンドをどこにするか、といった小さなことからチームの采配、怪我人への気遣いなど、様々な決断があります。一方で私生活において、私は決めることが本当に苦手で、例えばレストランでメニューを注文する時もすごく悩む人です(笑)なので私生活ではリードしてくれる人がいいです。

 

-それでは最後に読者の方にラクロス、茶道両方の面からメッセージをお願いします。

私はラクロスや茶道に限らず、何か他の分野と横の繋がりを作って、一緒にやっていくことを常に考えています。

この前なでしこジャパンの宮間選手がサッカーを文化にしたい、と言っていました。そこで歴史のある茶道とサッカーを合わせれば日本において、絶対に文化にすることができると思います。茶道も堅苦しいなどのマイナスイメージがどうしてもまだあるので、みんなの憧れの存在である、なでしこジャパンの選手がやってくれたら、一気に広まると同時に、世界から見ても日本人は格好いい、憧れや夢の対象となると思います。

各スポーツ界でご活躍の皆さんもぜひ、茶道の力を持って一緒に国内外で戦っていきましょう!