パラリンピックで輝くために。洞ノ上浩太がチームで戦う理由

2015.08.07 森 大樹

洞ノ上浩太

 

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日本人が世界で勝つために必要なこと

 

-様々な国際的な大会に出てきた洞ノ上さんが今までで感じている世界との差、足りないと思う部分を教えてください。

瞬発力やパワーは足りないと感じています。実際、数年前からそれを課題にもしていて、改善に取り組みました。今まで後ろにずっと張り付かれてゴール前のスプリントで一気に抜かれてしまうということが多かったんです。そこで最後のスプリントでも負けないハイパワーを身に付けるということに約1年半取り組んだのですが、なかなか難しいものがありました。当然海外選手も真剣にトレーニングしていて、中には体が大きくてプロレスラーみたいな体格の人もいます。取り組んだ結果、自分の年齢的な部分と小さな体、フィジカル的な部分を考えて、そこで追い付くのは厳しいという結論に達しました。その部分だけは負けを認めたという感じです。

 

-その部分では勝負をしないということでしょうか。

はい。気付くまでに1年半もかかったことになります。しかし1年半やらないと気付けなかった。本当はやれるのではないか、負けを認めてはいけないのではないか、という自問自答を繰り返しながら、いろいろな方法をやり尽くして、ここで勝負すべきではないという結論に至ったということです。アスリートとしてその負けを認めるというのは辛い作業でしたが、今はもうスッキリしています。そこで得意とするスタミナ面との融合の話になります。スプリント勝負にももちろん今後、なる場合があるとは思います。それまでに相手にスタミナを消耗させて自分と対等な条件に持ち込んだ状態でスプリントに臨めるようにしていきます。スタミナありきの勝負に引きずり込みたいと思っています。

 

-今後はアピールポイントでもあるスタミナを強化していくということですね。

-特に外国人は強い選手が多い印象を受けますが、その理由はどのようなところにあると思いますか。

健常者の方でも一緒ですが、短距離だとどうしても日本人選手と海外選手では骨格や筋肉の質が全然違うので不利です。ボルトみたいな体型や筋肉にはどれだけ真面目に練習に取り組んでもなれません。でもその分長距離になればなるほど勝負はできます。それは他の部分で補える要素が大きいからだと思います。勝負が短く、パワーで決まってしまう種目は日本人には向いてないのでしょう。淡々と毎日積み重ねていく、我慢比べのようなスタミナ系の種目の方が向いています。

 

洞ノ上浩太

 

-今、洞ノ上さんにライバル選手はいますか。

外国人で言えば、スイスのマルセル・フグとイギリスのデイヴィッド・ウェア選手になります。その二人が今世界的に強いのでそこに勝ちたいという目標でやっています。

 

-5月に車いすマラソンチーム「TEAM BLUETAG 2 ARM DRIVE」を立ち上げられましたが、発足の経緯を教えてください。

いつも練習は仲の良い6人でやっていて、そこで教え合ったりもしていました。大会にも一緒に出ていたりしたのですが、みんなモチベーションも高く、メンタル的にも強いメンバーが集まっていて、しかも日本代表になってメダル取りたいという高いところに目標を置いているような選手が多かったんです。それならみんなで同じ目標に向かってチームで活動することで、上手く情報共有をしたり、合宿を行ったりもできるのではないかと考えました。

 

-チームでやることによってお互いに高め合っていけるという効果もありそうです。

チームでやる意義というのは他にもあります。車いすマラソンはスピードが速く、平均速度30kmほどで走ります。レース中は前の選手が風を受けてくれて、その後ろに付く方が楽です。前の選手が100%の風の抵抗を受けるとしたら後ろの選手は70%で済みます。ツール・ド・フランスのようなマラソンの距離を走る自転車競技に近いということです。

しかし日本ではまだ車いす「マラソン」という言葉に捉われているので、個人のイメージが強く、チームで戦うことがありません。例えばロンドンパラリンピックでも先頭集団の6人中、日本人選手が3人いましたが、全員がバラバラで走っていて意思疎通ができていませんでした。他の外国人3人はゴール前のスプリント勝負に持ち込みたいわけですから、日本人3選手のことを終盤まで逃さなければ大丈夫だという感覚だったのでしょう。だから同じ先頭集団にいる中でも実質日本人は勝負において蚊帳の外にいたことになります。自分はスプリント勝負になったら敵わないことが分かっていたので途中で仕掛けたのですが、結局最後まで持たずに差を付けられてしまい、ゴール前スプリントでは先頭集団に加われませんでした。他の2人の日本人選手は最後まで付いていってゴール前のスプリント勝負になりましたが、結局4位と5位に終わりました。でももしそこで3人が作戦を立ててチームで戦っていたらもっと面白い勝負になったと思います。他の外国人はそれぞれ国が違かったのでみんなバラバラでした。そうなると日本人はもったいなかったという話にもなります。

 

-確かにチームで戦っていればまた違った結果になっていたかもしれません。

そこで日本はチームとして戦えないのかという話になり、身障陸連(日本身体障害者陸上競技連盟)に提案もしました。でも陸連側がまとめきれませんよね。なぜなら選手一人一人が自分の環境を整えてトレーニングを重ね、速くなってきているからです。実際陸連のスタッフやコーチとは年に1、2回しか会いませんし、そういう人達からパラリンピックはまとまってチームになろうと言われても嫌がるのが当然です。だから、日本代表が選手をまとめきらないのであれば自分がチームを作って、その中から代表を出したらいいと思ったんです。将来的に自分のチームから3人代表選手が出ればレースプランを考えて、どのタイミングで誰が仕掛けるかなどを組み立てることができるようになります。例えば他の選手を勝たせるそのサポートをするために、チーム内の1人を先頭に立たせて、他の選手は後ろの集団で追わないでいると外国人選手は誰かが追わないといけなくなるので前に出ていきます。それにくっついて追いかければこちらのリスクは少なくて済みますし、相手の体力も消耗させることができます。そういった駆け引きが可能になるので、チームでやっていきたいです。

そして、ツール・ド・フランスのようにサポートした選手にも2位や3位を獲らせてあげる、もしくはメダルでなくても、しっかり評価をしてあげるようにすればいいと思います。その上で例えばメダルを獲った選手が次の大会ではサポートしてくれた他の選手を勝たせるということもできますね。国内の選考でもそういう作戦が立てられればやりやすいです。もちろん個々の能力はかなり上げないといけないですが、むしろこの作戦をまだ誰もしていないのが不思議なくらいです。もしかしたら、東京パラリンピックや次のパラリンピックでは当たり前になっているかもしれません。

 

-見ている方も作戦や展開が楽しみになりますね。

先頭集団に残ったからこそ、その中で気付くことがあると思います。残った同じチームの選手同士でそういうことをレース後にすぐ話し合い、課題に対してアプローチすることができます。自分で頭の中や紙に書いて整理していくのと実際の場面を振り返りながら話して整理していくのとでは全く違うと思います。

 

-選手同士が話しをするというのも意味ありますよね。

本当に真剣に戦ったからこそ分かることがあると思います。試合毎のリアルなことはどんな指導者にも分かりません。その場にいる人が一番分かるので、そういうものはすごく活きてくるのではないでしょうか。

 

洞ノ上浩太

 

競技の普及・発展と選手としての目標

 

-洞ノ上さんが思う、車いすマラソンの魅力を教えてください。

一番はスピード感です。車いすの他の競技では迫力があってもやはり球の速さやシュートの豪快さなどでは健常者には負けるんです。でも車いすマラソンだと健常者より速いという点で自分は迫力があると思います。あとはレース中の駆け引きであったり、リスクを背負って集団から抜け出す勇気だったり、そういう部分はすごく面白いです。スタートからゴールまで速く走ればいいという単純な競技ですが、その分細かい様々な要素がたくさん絡み合っています。

 

-今後競技を普及していくためにはどうしていくべきだと思いますか。

よく言っているのは、若いパラリンピックを目指す選手を増やすことが大事だということです。今自分の勧めで車いすマラソンをやり出したという選手も何人かいるのですが、その選手には俺に感謝するのであれば2人本気でパラリンピックを目指す選手を育成するように伝えています。その2人が感謝されてまた2人、育成する選手が生まれるという形でアスリートを増やしていくわけです。選手の意識が変わるというのが大事だと思います。自分は車いす陸上と出会って夢を持ったり、目標を持ったりできるというありがたみや大切さを知ることができて、競技に感謝しています。競技に恩返ししたいと思う時には、自分のように陸上競技と出会って幸せになってくれる人を増やすというのが一番なのかなと思っています。そして自分がやり続けていくことによって選手が1人でも2人でも増えることが、この競技をやった意味に繋がってくると考えています。

 

-そのようにして洞ノ上さんの気持ちがどんどんと広がっていけば、競技人口も増えて盛り上がりますね。

後はリハビリの部分から変えていく必要があるということです。日本のリハビリは日常生活ができるようになるところまでがゴールです。日常生活ができるようにトレーニングをして、それがある程度できるようになったら退院する、それがゴールなんです。一方でスイスのパラプレジックセンターという脊髄損傷専門の病院では敷地内に陸上トラックなどがあって、そこには車いす陸上競技の世界記録保持者がソーシャルワーカーとして滞在していたりします。昼休みに入院している人が車いすで散歩に行くとそこで練習していて、一緒に乗ろうと誘ってくれるようなすごく良い環境ができています。その競技にまず出会う機会を作ることが重要なんです。競技に出会ってもやるかやらないのかはその人次第です。でも出会うこともなければ、選ぶことすらできません。しかし、出会う機会といっても自分達が講演などをするだけでは限界があります。

そこでうまくリハビリという機会を活かせたらいいと思っています。結局、中途障害の場合は絶対どこかの病院のリハビリを通ることになります。リハビリの先生の意識が変われば、もっと競技をやりたい人は増えると思います。自分も講演に行って病院の先生と話したりしますが、先生はやりたいという人がいれば紹介できると言います。

 

-しかし、満足に体を動かせない状態ですぐにスポーツをやりたいとはなかなか言わないと思います。

その通りです。今まで普通に歩けていた人が障害になって入院して仕事もできなくなって、この先どうして生きていくのかという状態でスポーツをやりたいとはなかなか言いません。自分は経験したから分かるんです。それどころではありません。私は気晴らしでテニスをやっていましたが、ほとんどの人はできないと思います。そこでまずは少し強引にでも河川敷に連れていって、心地いい風に当たって楽しいという気持ちにさせたりするところから進めるのがいいのではないでしょうか。徐々に心を広く、穏やかにしていき、スポーツに繋げていきます。それで実際に始めたとしても、きつければやめてもらえばいい。車いす陸上という競技に出会わせることがすごく大事だと思うんです。それにスポーツをやるようになれば自分で目標設定するようになって、そのためにいろいろとアクティブに動くようになるでしょう。

中にはいきなり車いすになると落ち込んで自殺を考える人もいます。リハビリだけを頑張らせるのでは限界があるんです。神経をやってしまえば回復にも頭打ちがあって、これ以上歩けるようにはならないということもあるわけですが、その事実を先生が言えないこともあるそうです。しかし現代の医学ではもう戻らないわけですから、そこから何ができるのかを探して、音楽やスポーツなどの趣味の部分までを含めたリハビリのゴールを設定していけるように欲しいです。

 

洞ノ上浩太

 

-今後の目標を教えて下さい。

やはりリオデジャネイロパラリンピックのフルマラソンで金メダルを獲ることです。そしてそれまでの細かい目標として選考レースがあります。先ほど言った通り日本人はマラソンに強いので、パラリンピックのスタートラインに立つためにもそこで勝ち抜いていく必要があります。具体的にはまずは今年の11月頭にある大分国際マラソンで全体3位以内かつ日本人選手1位、タイムは1時間27分以内を目指します。もし何かそこでトラブルがあれば東京マラソンで、全体3位以内かつ日本人1位、タイム1時間28分30秒以内をクリアすることです。それがダメなら、ランキングの上位を目指すことになります。でも選考は関係なく優勝を狙って行きたいとは思っています。

 

-洞ノ上さんの性格的な強みはどのようなところにあると思いますか。

メンタル的な部分です。結構、周りからもメンタルが強いと言われます。チームも立ち上げたので、メンバーが自分に引っ張られてみんながメンタル的にも強くなっていけばいいです。

自分は結果を残すだけではダメだと思っています。結果を残すのは選手として当然です。でも人として結果だけに走った選手はろくな人間にならないということも分かっているからです。スポーツにおいては人間的な成長も必要だと思うので、自分はそういう部分もメンバーに指導していきたいと考えています。現役でやりながらも同時進行で若手の育成といった部分をやっているというのがが、他の選手にはない自分の良いところかもしれません。もちろん好きでやっているだけなのですが。

 

洞ノ上浩太

 

-大切にしている言葉や座右の銘はありますか。

「不言実行」という言葉がすごく好きです。有言実行も大事なのかもしれませんが、それは人に言うことによって自分にプレッシャーをかけ、引き返せない場所に持っていって実行するということです。それはそれで素晴らしいと思うのですが、不言実行はさらにそれの前の段階だと思うんです。できない、やらない言い訳なんていくらでも言えます。でも言わずにしてやるということが日々のトレーニングに影響してくると思っています。そして有言を実行したかどうかは、レースや大きな大会で成し遂げた時に初めて分かるものです。それでしか測れないんです。でも、不言実行は毎日のトレーニングで決められたことを一生懸命に淡々とやるだけです。なので、「不言実行」は自分のそういう奥深い部分で大事にしている言葉です。

 

-最後に読者へのメッセージをお願いします。

車いすのマラソンと聞くと、一般的な車いすで少し長めの距離を健常者の人が横で応援しながら付いていけるような速度で走っていると思っている方も多いと思います。でも実際は車いすといっても全然違う乗り物に乗っていて、競技性も高く、世界的にもプロ化が進んできているスポーツです。本当に一生懸命トレーニングをしても勝てるか分からないような世界になってきているので、昔のようなリハビリの延長ではなく、一スポーツとして、一アスリートとして僕らを見て頂けたらありがたいと思います。リオデジャネイロパラリンピックや東京パラリンピックでも見て頂ける機会が今後増えると思うので、ぜひ応援してください。

 

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