森 大樹

リオ五輪から採用されるセーリング新種目。出場枠獲得へ松苗・原田ペアの戦いは続く。

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2016年リオデジャネイロ五輪から新しく正式種目に採用されたセーリングの「49er FX」で五輪の出場枠をかけて世界へ挑戦されている松苗幸希さん・原田小夜子さんのインタビューです。

大学時代のペアを昨年復活し、日本のトップでご活躍されているお二人に、セーリングの魅力についてお話頂きます。

セーリング(Sailing)競技:ヨットやウィンドサーフィンなどの帆走船で、帆にうける風から生じる揚力を主な動力として水上を滑走することやその技術を用いて海上に設置されたブイを周回しその順位を競う競技のことである。ヨットを用いての航海やヨット競技のことをセーリングという。

 

全く別のアプローチで競技の世界へ入った二人

 

–  まず、今までのスポーツの経歴を教えてください。

原田:私は小学校6年生からヨットをしています。きっかけは父が趣味でヨットをしていたからで、物心が付く前から週末にはよく連れて行かれていました。兄が先に競技を始めて、それが面白そうだったので、自分も本格的に始めました。小学生の頃は水泳を習い、中学校の部活ではバドミントン部に入っていましたが、土日はヨットをしていました。

 

–  そうなると原田さんはヨット一家に生まれ育ったということですね。

原田:母以外はみんなそうですね。母は日に焼けるのが嫌みたいです(笑)

 

–  競技として始めたのはいつ頃でしょうか。

原田:小学校のときに、競技として上を目指す地元のクラブに入りました。中学、高校も続けてきて、大学でもやりたかったので、鹿児島の海が近くにある鹿屋体育大学に進みました。

 

–  松苗さんはどういったスポーツを経て、ヨットにたどり付いたのでしょうか。

松苗:私は北海道出身で小さい頃からスキーとスノーボードをしていました。動くのが好きで、小学生からは水泳とミニバスケットボール、空手、ヨットを始めました。ヨットと出会ったのは、いとこが地元のヨット少年団に入っていて、それに連れて行ってもらったのがきっかけでした。実際にやってみて楽しかったのを覚えています。でも、ヨットは競技志向ではなく、趣味で週に1回するくらいでバスケットボールと空手に熱中していました。ヨットが競技としてあると知らなかったくらいで、本格的に始めたのが高校生のときです。北海道ではヨットの競技人口がすごく少ないので、1番になれば国体に出場できると知り、それに出てみたい一心で真剣に取り組み始めました。そして無事に念願の国体にも出ることができました。

 

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–  いろいろなスポーツをされてきた中でヨットを最終的に選んだ理由を教えてください。

松苗:ヨットを一生懸命やりたいとは思わなかったですが、一生やりたいとは思ったからです。

原田:名言が出ましたね(笑)

 

–  タイトルにしましょう(笑)ヨットを始めるとなった場合は一人乗りと二人乗り、どちらからスタートするのでしょうか。

原田:始める時期にもよりますが、小学生のときは一人乗りの箱型の転覆しづらい安全なヨットから始めることが多いです。高校から始める人は二人乗りから始める人も多いです。インターハイの種目が二人乗りだけなので高校はそちらがメインになります。しかしオリンピックの種目には一人乗りも二人乗りもあります。

 

–  お2人はどちらをメインでやっているのでしょうか。

松苗:私達はペアで※49er FX(フォーティーナイナーエフエックス)という競技をしています。元々男子種目のみだった49er級ですが、49er FX級として女子もリオデジャネイロ五輪から新しく出来たので、2人で挑戦しています。今までのヨットと違うのは、スピードもあって、見た目も派手なのでメディア向けになっているということです。競技種別はいろいろありますが、主な違いは船の性能によります。艇の大きさや帆の枚数、乗る人数、それぞれの競技に合った体格も変わってきます。

49er FX(フォーティーナイナーエフエックス):セーリングで最もエキサイティングで華やかな競技と言われている49er級。艇の全長は4.99m。2016年リオデジャネイロ五輪から女子2人乗り新種目49er FXとしてオリンピック競技に採用された。

 

競技と二人の出会い

 

–  セーリングは競技として何を競うのでしょうか。

原田:まずはゴールに一番早く到着する順位を競います。その順位がそのまま得点となり(1位が1点、2位が2点といったふうに)、シーズントータルで競い合い、合計点数の低い人が勝ちになります。

 

–  ペアを組んでいるとのことでしたが、お2人はどこで出会ったのでしょうか。

松苗:大学で出会いました。私が1年先輩になります。大学時代も小夜子とペアで乗っていましたが、卒業後はお互い地元で一人乗りの活動を行いライバル同士でした。しかし去年からペアを復活して、今の船(49er FX)に乗っています。

 

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–  互いの初対面の時の第一印象はいかがでしたか。

松苗:小夜子は高校生の時に国体で優勝していて、スター選手だったので、すごい後輩が入ってくると気になっていました。会った時は我が強い後輩が入ってきたなという印象でした(笑)

 

–  逆に原田さんは松苗さんと初めて会った時、どのように感じましたか。

原田:先輩の代は幸希さんが女子一人だったのですが、よくそれでやっているなと思いました。もし自分だったら女性一人ではきついです。私の代も女子2人と人数は少なかったですが、その分先輩に優しくしてもらったことが印象に残っています。

また、私が高校2年の時の国体で、北海道の選手が入賞するというセーリング界の中での事件がありました。それまで北海道はセーリングが弱い!というイメージがあったので、北海道の選手の活躍に驚いていたのですが、実はその時の選手が幸希さんでした。

 

–  なぜ一人乗りからペアを組んで今の49er FX(フォーティーナイナーエフエックス)に乗ろうと思ったのでしょうか。

松苗:私はこの種目ができたときに純粋に「乗りたい!」と思ったんです。アクロバティックな船に興味を惹かれました。でも、肝心のパートナーがいなかったので、信頼できる小夜子にお願いしたという形です。

 

–  一人乗りとの違いを教えてください。

原田:49er FX(フォーティーナイナーエフエックス)は、アクロバティックなので、乗っているだけでも楽しいですが、一人乗りと最も違うところは勝った時の喜びです。1人の時の喜びの量は倍以上です。1人だと勝ってもこっそりガッツポーズしかできませんが、2人だと大はしゃぎできます(笑)

 

–  先日ポルトガルまで遠征に行っていたとのことですが、遠征はいかがでしたか。

松苗:ペアで海外遠征に行くのは初めてでした。往復は2人だけだったので、チケットの手配や飛行機の乗り継ぎなど、慣れていない部分も多くて苦労しましたが、いい経験になりました。

原田:世界のトップ選手と一緒にレースができたことも良い経験になりました。今の自分たちの力が世界でどれくらいなのか把握できたのは収穫です。

 

–  遠征に行く際には船も持っていくのでしょうか。

原田:今回は現地で中古の船を手配して試合に出ました。海外のオリンピックに出場するトップの選手になると3、4艇所有していて、W杯が開催されるヨーロッパに1つ、自国に1つ、遠征用に1つといった感じです。私達は練習用の古いボートしか持っていません。

今回私達が使用した船は11月のアルゼンチンで行われる世界選手権に向けてコンテナで運んでもらっているところです。

 

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これからの目標と競技の注目ポイント

 

–  今後の目標を教えてください。

松苗:まずはリオデジャネイロ五輪に出場することです。日本はまだ出場枠が決まっていないので、まずはそれを確保しないといけない状態です。今はその枠を取った人がそのまま五輪に出場できる状況なので、私たちも狙っています。

 

–  やはり海外選手の方が体格で有利なこともあるのでしょうか。

原田:一人乗りは体格が大きいと有利になると思いますが、49er(フォーティーナイナー)は小さい人でも乗れるので、体格での差はありません。今回の遠征では海外の選手も小柄な人が多かったです。一方で一人乗りの時は自分が世界で一番小さいのではないかと思ってしまうほど、海外の選手は大きかったです。そのため49erに小柄な選手が多かったことに驚きもありました。

 

–  ヨットにおいて注目してもらいたいところを教えてください。

原田:アクロバティックな競技でもあるので、ワイヤーアクションを見て欲しいです。また順位を争うので、F1や競輪などと同じように競い合っている姿を見てもらえると楽しんでもらえます。

 

松苗:9月26日~27日に神奈川県の江ノ島で全日本選手権が開催されるので、関東に住んでいる方は是非見に来てください!

 

–  どのようなところがヨットの魅力だと思いますか。

松苗:乗る楽しさや気持ち良さはもちろんですが、生涯スポーツとして何歳でも始められるところだと思います。子供から高齢の方までできます。定年後に始めるスポーツとしてもおすすめですよ!

 

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–  ここからはプライベートの質問に入らせていただきます。

–  趣味の時間は何をされていますか。

原田:起きている時間はヨットのことばかり考えています。朝起きて、走って、食べて、トレーニングして、ヨットに乗って、帰ってきて寝るという生活ですね。オフの日は体を休めるので精一杯です。

松苗:私も同じような生活です。買い物やカラオケが好きですが、今住んでいる福岡には友達がいないのでなかなか行けてないです(笑)

 

–  お二人は一緒に住まれているのでしょうか。

原田:節約のために当初は一緒に住もうと考えていたのですが、365日24時間一緒だとしんどいだろうと周りの人に止められてしまいました。仕方なく、今はお隣に住んでいます。

松苗:でも結局、一緒にご飯作ったりしているので、ほとんど同居しているのと変わりませんね(笑)食べる部屋とミーティングの部屋のように使い分けている感じです。

 

–  お互いのいいところを教えてください。

原田:行動力があり、破天荒なところです。実は強烈なエピソードがあるんです。

ロンドン五輪をそれぞれ一人乗りの種目で目指していた時、年に1回のナショナルチームの選考レースが神奈川で開催されたのですが、基本的にそのような大きな大会の前はどの選手も早めに現地に来て練習を行い、試合に臨みます。幸希さんも1ヶ月前から北海道から出てきて練習していたのですが、お金がないことを理由に泊まる宿もないまま出てきたと聞いてびっくりしました。普通なら宿を予約して、準備もしっかりして来るはずですよね。結局現地の人にお世話になったりしながらレースに臨んでいましたが、驚きました(笑)

松苗:その時は一応、北海道の知り合いに、現地の漁師の方を頼りなさいと住所と名前を渡されて紹介はしてもらっていました。その方の使っていない小屋を自由に使わせてもらえる予定だったんです。でも、その漁師の方にいざ会いに行ってみると、なんとまだ小屋は作っている途中だと言われてしまいました。戸惑いましたが、他に頼れるところもないので、小屋を作る手伝いをしました。結局その日は半分ほどしか完成せず、風が通る未完成の小屋で寝ました。ただ完成しても隙間だらけで、空が見えるような作りでしたね(笑)真冬の1月のことだったので本当に寒かったです。

 

–  そこに選考会のために1ヶ月間も滞在したのですか。

松苗:2週間ほど泊まっていたのですが、近所のおばさんがそれを見て、かわいそうだから、うちに寝なさい!と言って泊めてくれました。本当に夜中は寒くて泣いていましたからね。

ただ最終的にナショナルチームに入れたのでよかったです。こんな寒い思いして負けたらシャレにならないと思って頑張りました。

 

–  反対に原田さんの良いところを教えていただけますか。

松苗:小夜子はめげないところです。そして人にどう思われるかを気にしません。言い換えると鈍感ということですね。普通の感覚でないところがすごいです。

原田:それ、全然褒めてないですよね(笑)

 

–  今度はご自身で思う、自分の強みを教えてください。

原田:私は我が強いという話がありましたが、自分でも頑固な方だと思います。これと決めたら貫きます。

松苗:私は決めないとやらないタイプですね。でも、やると決めたら諦めません。諦めないことを楽しんでやるということは人よりできると思っています。

 

–  それでは最後に読者の方に、一言お願いします。

原田:ヨットをもっともっと広めたいと思っています。自分たちでもマイナー競技というのは感じているので、ヨットというスポーツを伝える活動をしていきたいです。そして人々に身近な競技にしていきたいです。

松苗:まずは競技を見てもらって、海や海洋スポーツに興味を持ってもらいたいです。また競技以外にも、子供達に浜遊びや海に親しんでもらえるような活動をしていきたいと考えています。

もう1つは海のことをより知ってもらって、人の命を守れるようになって欲しいです。自然は危ないことも多いですし、海では水難事故の危険性もありますが、上手に付き合うことでより楽しめるということを伝えたいです。

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今回取り上げたのは…
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松苗 幸希

(まつなえ さき・セーリング)

1986年7月29日生まれ。鹿児島・鹿屋体育大学に入学し、大学4年生でヨット部創部初のスナイプ級団体で優勝。卒業後は北海道室蘭市でヨット指導を行いながら、世界選手権にも出場した。2012年に日本代表へ選出され、現在はリオ五輪出場を目指している。

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原田 小夜子

(はらだ さよこ・セーリング)

1988年1月8日生まれ。小学校から競技を始め、セーリング一筋の学生時代を送る。2005年の国体優勝を皮切りに、数多くの国内タイトルを制覇。現在はペアの松苗選手とともに、リオ五輪出場を目指している。