東北ダービーを日本一に。海外でサッカー文化を学んだ大場脩の願い

2015.08.01 森 大樹

大場脩

 

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海外サッカーから感じた、文化としてのサッカー

 

-大場さんはモンテディオ山形のコールリーダーをする傍ら、Local Football Japanというサポーター文化に注目してもらうための活動をされています。

この前なでしこジャパンの宮間選手も「ブームを文化に」と言っていましたが、Jリーグにも同じことが言えると思います。Jリーグが始まって20年経ちましたが、まだ日本においてそれが文化になったとは言い難いでしょう。僕も文化にしていきたいという想いがあってLocal Football Japanの活動をやっています。

 

-なぜLocal Football Japanの活動を始めようと考えたのでしょうか。

大学時代、ドイツに行った時に初めて知ったのですが、スタジアムではサポーターを特集した雑誌が300円ほどで売られています。選手は一切載っていない、スタンドしか写っていないもので、2ヶ月に1回発行されています。当時既にサポーター活動を始めていた僕はそれにすごく感銘を受けました。そこで作成しているサポーター集団にコンタクトを取って一度お会いし、日本のサポーターを紹介するコラムを書かせてもらったこともあります。コラムを見て、興味を持って連絡してきてくれたドイツ人とも何人か実際に会って今も関係は続いています。

 

-フットボールを愛する気持ちが国境を超えたということですね。

本来試合を「観る」側であるはずのサポーターのことを「見る」という視点にはすごく驚きました。そして何より、ヨーロッパでは下部の小さな街の小さなクラブでもスタジアムには大勢の観客が詰めかけるくらいみんなフットボールが好きです。日本でもこういう形を作っていきたいと一緒に行った大学の友人と話して始めたのがLocal Football Japanです。日本でももっとサポーターに注目が集まるようにしていきたいと考えて活動しています。

具体的な活動としては僕達も先ほどのドイツの雑誌のようなものを作りたいと思っています。その試みの1つとして作成費用を集めるためにクラウドファンディングに出したりもしました。目標金額に達成しなかったので、実現しませんでしたが、やはり今でも紙媒体を出したいという気持ちはあります。でも日本では紙媒体が減ってきているという現状もあるので、別の方法も模索している段階です。

 

ドイツのサッカーファン

 

-大場さんが現地で感じた日本と海外のスタジアムの雰囲気の違いを教えてください。

まず、海外の方がより純粋にフットボールを観に来ているという感じを受けます。例えば海外のスタジアムの食事といえばソーセージとパンとビールしかなかったりします。一方日本では出店がたくさん出ていたり、スタジアムグルメが話題になったりします。これは日本にいろいろな娯楽があるからかもしれませんが、よりピッチに注目が集まるような形になっていくといいですね。あと、海外は結果に対してより厳しいです。

日本のスタジアムのいいところは治安がいいことです。例えば2つのチームのサポーターが各々のクラブのユニフォームを着て同じ電車でスタジアムに向かうなんてことは海外ではありえないことです。ケンカに発展して、人種差別や宗教的な問題に派生しかねません。海外では警察や機動隊も出動しますし、ダービーマッチになれば放水車まで出てきて厳戒態勢が敷かれます。それがないのは日本の誇るべきところだと思います。

 

-日本ではレプリカユニフォームを着用するサポーターが多いですが、海外では必ずしもそうではないという違いもあります。

それには実は理由があります。サポーターの中心メンバー達は自分達独自のグッズを作って売っているんです。それを資金源にして、サポーター活動費やバナーの作成、(※)コレオグラフィーの準備を行っています。

日本ではオフィシャルのものを買うことがチームのためになると考えている人が多いので、あまり浸透はしていないかもしれません。ただその中で僕らもマフラーなどを作って同じように弾幕やコレオグラフィーに資金を回しています。でも遠征費などは全て自己負担です。

日本との違いの部分でいくと、海外にはフレンドシップというものがクラブ間に存在します。大きなクラブでいうとドイツ・ブンデスリーガ、内田篤人選手所属のシャルケと過去に清武選手や長谷部選手が所属していたニュルンベルクは仲が良くて、互いを讃え合うバナーを出したり、コレオグラフィーをやったりします。これは歴史的に様々な出来事がクラブ間であって、それが脈々と受け継がれており、サポーター同士の仲がいいと行われます。これは日本にはないことですが、海外に行くとサポーターから日本にもフレンドシップがあるのか、結構聞かれますね。

 

コレオグラフィー:大人数で色画用紙などを使って人文字や絵、模様を作り上げるパフォーマンス。サッカーでは主にホームのチームの応援席で行われる。

 

コレオグラフィー

海外クラブのコレオグラフィー

 

東北ダービーを日本一のダービーマッチに

 

-今後モンテディオ山形を、そして日本のJリーグをどのようにしていきたいと考えていますか。

リーグ全体を僕だけの力で変えていくのは難しいと思うので、まずは身近なモンテディオ山形を盛り上げていきたいと考えています。それで最近はネットなどを使って情報を発信しています。具体的には次の試合ではどのような応援の取り組みするか、どういった心構えで臨むのか、などです。どうしてもチームが弱いとみんながバラバラになってしまうので、試合前に気持ちを集約するような集会を開いたりもします。僕は最近、とにかく今は1つになって応援しようと呼びかけています。

 

-実際ゴール裏にお伺いしましたが、試合後不満そうにしているサポーターがいましたが、その方に声かけをしていましたね。

(※)2ヶ月も勝っていないですから気持ちも分かりますが、ここで不満を漏らしすぎると空気が悪くなり、例年降格しているチームと同じになってしまいます。もちろんこれから先、結果が出なければ言うべきタイミングも出てくるかもしれませんが、少なくともこの時期ではないと考えています。まだ試合数も残っていますし、下馬評から見ても健闘している方なので、悲観せずに勝つために僕らができることをやっていこうというのを強調しています。

あとはせっかくこんな田舎に国内最高峰のリーグに所属しているプロのサッカーチームがあるわけですから、地域の盛り上げに使っていきたいという考えを持っています。しかし僕は選手ではないので、サポーターという立場でできることをやっていきます。山形の人みんなが週末サッカーを観に行くことを好きになってくれると嬉しいですね。そのために僕らもいつもスタジアムが満員になるような環境をゴール裏から作っていきたいです。

 

5月27日の仙台戦の勝利を最後に、取材した7月19日FC東京戦まで未勝利。(5分3敗)

 

モンテディオ山形

モンテディオゴール裏のコレオグラフィー。チーム名はイタリア語の「モンテ(山)」と「ディオ(神)」を組み合わせた造語で「山の神」を意味する。

 

-そうして山形がサッカーを中心に盛り上がればチーム自体が強くなっていくことにも繋がりますね。県外にいる山形出身の人も注目してくれるでしょうし、誇りに思うと思います。

そしてモンテディオ山形には同じ東北のJ1クラブ、ベガルタ仙台というライバルチームがいます。昔から(※)昇格を止められたり、向こうのホームゲームでアウェイ席を著しく狭められたり、様々な因縁があって、山形vs仙台の試合は「東北ダービー」と呼ばれています。僕は「東北ダービー」を日本一のダービーマッチにしたいと考えています。もちろんケンカするとかそういうことではなく、熱気に溢れた試合にしたいんです。今は日本各地でダービーマッチと呼ばれるものがたくさん生まれていますが、本来は伝統の一戦であり、昔からチーム間に何かしらの因縁があったりするものです。

今、Jリーグはどんどん悪い方向に向かっていると思います。例えば最近だと審判の質が問われていますが、まだ改善されているようには思えません。もっとトップが危機感を持ってやっていかなければ、競技力の低下を招きかねません。

あとは遅延行為や見苦しいプレーをしないようにしようという動きがありますが、W杯で勝っているチームは露骨な時間稼ぎをしたりもします。それが勝つための手段だからです。それを公に否定してしまっては日本の選手は世界で勝てなくなってしまいます。本当に世界で勝ちたいのであればそこで通用するようなスタイルでやっていくべきです。もちろんフェアプレーももちろん大切ですが、キレイ事ではないことをやっていってほしいです。

サポーターに対する規制も厳しくなっています。これは今の時代、ネットが発達し、情報がすぐに広まってしまうので仕方ないのかもしれませんが、例えば2ステージ制反対など、リーグの方針にそぐわない発言をするとすぐに罰則を受けることになります。

確かに差別的な内容の弾幕を出したりしている他クラブのサポーターもいましたし、問題は問題だと思います。ただダービーマッチで相手を少し煽ってみたり、昔であれば気にされなかったちょっとしたことまで規制したりするのは違う気がしています。

最近だと方言を用いた応援が問題視されたりもしていますが、そうなるとそもそもJリーグが掲げる地域密着の理念自体を否定することになりかねないのではないでしょうか。方言には言葉の微妙なニュアンスが含まれるので、厳密な意味合いは地元の人間にしか分からないところもあるとは思いますが、疑問に感じています。規制すべきところももちろんあるでしょうが、あまり縛りすぎるのもよくないと思います。

 

2001年J2最終節、3位仙台が後半終了直前得点での劇的な勝利を収めてJ1昇格を決めたことで、引き分けに終わった2位山形は昇格できなかった。結局山形の初のJ1昇格は2009年まで遅れることになる。

 

-しかし罰則を受ければ最悪の場合、無観客試合や勝ち点の剥奪などクラブに迷惑をかけることにもなりかねないですね。

もちろん他クラブの暴れるようなサポーターを肯定するわけではありません。しかしそれぞれが持っている個々の意見を規制で縛りすぎてしまっては面白くなくなります。

少し違うかもしれませんが、プロ野球では最近、「くたばれ〇〇」と特定の球団を挑発するような応援を禁止するような流れが生まれているようですが、そのチームが嫌いなのであれば僕は大いにやればいいと思います。いつも強いチームは嫌われるんです。憎たらしい補強をして、憎たらしいほどに強い。だからこそ嫌われるわけです。

 

-ヒール役の存在も大切だということですね。確かに「強い」ということを認めている、その裏返しから生まれてくる憎らしさでもあると思います。

一方で日本のJリーグにはまだそのような存在になりきれているクラブはありません。でも例えば今ドイツにはあるんです。(※)RBライプツィヒというチームで5部から短期間でどんどん昇格していき、現在2部まで上がってきました。そこのチームがアウェイに遠征に行くとあからさまに中傷するようなコールや旗を出されます。そのような役割のチームがJにあっても僕は面白いと思います。

 

RBライプツィヒ:ドイツ2部のサッカークラブ。2009年の当時5部にいたチームのライセンスをレッドブルが買収し、発足。10年以内の1部ブンデスリーガ昇格を目指しており、2014-15シーズンは2部で5位という成績を残している。

 

-ライバルはベガルタ仙台だということですが、東日本大震災の時には何か一緒にしたのでしょうか。

被災地に行って仙台サポーターと一緒に物資を届けたりしました。支援は「人道的」な部分であり、自発的に行いました。試合とは全く違う部分の感情です。

ただ震災以前のように煽ったり、過激なことを言い合ったりすることはなかなかできなくなっています。本来ダービーマッチはそういうことも言い合って、勝負に熱くなれるものです。煽りや過激な応援が大切というわけではないですが、デリケートな部分を気にせず、思う存分勝負に熱くなれるダービーマッチが行えるようになって、初めて本当の復興と呼べるのではないでしょうか。

震災は同じ東北の人間として悲しみや辛さを共有していますし、一緒に乗り越えていきたいと思っています。だからといってスタジアムでも手をつないで何でも一緒にやろうというのは違うということです。

 

海外の挑発的なバナー

海外では挑発的なバナーを掲げるサポーターもいる

 

-ライバルとして認めているからこそ、お互いに過激なことを言い合ったりするわけですよね。

そしてモンテディオ山形には同じ東北のJ1クラブ、ベガルタ仙台というライバルチームがいます。昔から(※)昇格を止められたり、向こうのホームゲームでアウェイ席を著しく狭められたり、様々な因縁があって、山形vs仙台の試合は「東北ダービー」と呼ばれています。僕は「東北ダービー」を日本一のダービーマッチにしたいと考えています。もちろんケンカするとかそういうことではなく、熱気に溢れた試合にしたいんです。今は日本各地でダービーマッチと呼ばれるものがたくさん生まれていますが、本来は伝統の一戦であり、昔からチーム間に何かしらの因縁があったりするものです。

本来はそういったライバルへの対抗心のようなものがフットボールの文化を人々に根付かせていくと思うので、規制が厳しくなってそういうことができなくなっているのは悲しいです。

 

-大場さんの中で試合前に行うゲン担ぎやジンクスのようなものはありますか。

僕がユニフォームを着ると勝てないと感じたので、あまり着ないようにしています。他にも日常生活においてはいろいろありますが、どれもゲン担ぎというよりはこだわりという方が正しいかもしれません。

でも最近、試合前の応援はその場の雰囲気を見て変えています。毎回同じだとつまらないですよね。例えば歌手のライブなら当日のセットリストが気になるものです。それと同じように今日はどうなるのかを楽しみにしてほしいです。

試合中の応援も状況を見て、その場で決めています。

 

大場脩

大場さんのなかなか見られないユニフォーム姿

 

-今後の目標を教えてください。

まず山形に関してはゴール裏を常に満席にしたいです。ゴール裏の全員が跳ねて声を出して応援すればすごい迫力を生み出せると思います。

あとは「東北ダービー」を日本一のものにするために、まずはダービーに関する山形側の文化を作る必要があります。そのためにもまずはJ1に残留したいです。

Local Football Japanの方ではやはり1つ媒体を作りたいです。ただ作るだけではなく、資金がそこで回るような仕組みを作りたいんです。それが継続して発行されれば日本でもサポーターの文化が発展していくと思います。

 

-最後に読者の方へメッセージをお願いします。

アスリートやスポーツの試合自体は取り上げてもらえる機会がありますが、見る側、応援をする側はなかなか注目される機会がありません。これを機会にもっとサポーターを見るという点に興味を持ってもらえればと思います。

サポーター活動というものは抽象的で答えがありません。しかしそれが面白いところです。そしてサポーターとしてチームを応援することで盛り上がり、地域を潤す可能性があるからこそ僕らはやっています。

生でサッカーを観たことがない人はどのようなカテゴリの試合でもいいので、ぜひ近くのスタジアムに足を運んでみてください。そうすると地元の新しい発見やサッカーの面白さなど発見があると思います。

テレビの中の日本代表を強くするのはそこら辺でやっている草サッカーであり、JFLであり、Jリーグであるということを忘れないでほしいです。そしてぜひスタジアムに来てください!

 

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