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東京のIT企業・じげんは、なぜ京都で3x3チームを創設したのか?名門・洛南バスケ部と共に描く未来とは

2025.07.30 / 宮川昇

東京都港区に本社を置くIT企業・株式会社じげんが運営する3x3(3人制バスケットボール)プロチーム『ZIGExN UPDATERS.EXE(じげんアップデーターズ)』が、高校バスケの名門・洛南高等学校バスケットボール部 RACCOONSとのパートナーシップを締結しました。

じげんアップデーターズは、京都を本拠地として2022年に設立。スローガンに「UPDATE the YOUTH ー若者の挑戦を応援ー 」を掲げ、持続的な地域の発展、挑戦機会の創出などを目的とした『EN プロジェクト』をスタートさせました。

今回は、株式会社じげん 広報・サステナビリティ推進室 杉原麻裕子(すぎはら・まゆこ)室長と洛南高等学校バスケットボール部 河合祥樹(かわい・よしき)コーチに、パートナーシップ締結の経緯や具体的な取り組み、今後の展望について伺いました。

■『EN プロジェクト』について詳しくはこちら
https://zigexn.co.jp/14695/

「京都×スポーツ×若者」に着目した理由

ーまずは、東京に本社を構えるIT企業が、なぜ「京都」でのプロジェクトをスタートさせたのか。その理由について教えていただけますか?

杉原:一般的に無形サービスを提供するIT企業にとって、サービス利用者以外との接点をつくりにくいという課題があると感じています。そういった背景があり、じげんでは私が所属する広報・サステナビリティ推進室を中心に、より多くの方と接点を持つ新たな取り組みができないかを考えてきました。

様々なプロジェクトを検討するなかで、当時はコロナ禍に突入したタイミングでもあり、若者が経験を積む機会が奪われてしまっているという社会課題があると考えました。

そこで社長の平尾(丈)が、学生が多く暮らす“京都”という地域に着目し、「学生時代に経験として残る機会を提供できたらいいよね」という話し合いが社内でスタートしました。

ー様々な選択肢があったかと思いますが、なぜ3x3のチームを立ち上げることにしたのでしょうか?

杉原:ちょうど東京オリンピックの開催が近づいていた時期でもあり、社会全体の盛り上がりも踏まえてスポーツ領域でのプロジェクトを進めることにしました。

ただ、当時の社内にはスポーツ事業を大規模に運営できるノウハウはまだありません。京都の皆さんと一緒につくりあげていくことを目指して、街中でも試合が開催できる3x3から取り組むことにいたしました。

ー既存のチームに経営参画をするのではなく、自分たちでゼロからチームを立ち上げるのでは苦労も多かったと思います。

杉原:2021年11月にプロジェクトが立ち上がり、そこから5ヶ月程で京都オフィスの準備や選手集めを進めました。最初に京都市スポーツ振興室の方に相談したときには、「この短期間で本当にチームをつくるつもりなのか」と(笑)

ただ、京都の皆さんが本当に温かくて。何も知らない私たちに対して、いろいろな事を教えてくださったんです。スポーツ振興室の方はもちろん、京都府バスケットボール協会(KBA)、洛南高等学校の関係者の皆さん……他にもたくさんの方のサポートのおかげで、ここまで来ることができました。

じげんアップデーターズと洛南高等学校バスケ部の出会い

ー洛南高等学校バスケットボール部との取り組みも発表されましたが、まずは両者が繋がったきっかけについて教えていただけますでしょうか?

杉原:KBAの理事を務めていらっしゃった洛南高等学校の𠮷田(裕司)監督に、チーム立ち上げの支援をしていただいたことがきっかけです。

選手集めの際にも𠮷田監督とのご縁を通じて、洛南出身の津屋一球選手(三遠ネオフェニックス)にお声掛けいただき、チームに加わってもらうことができました。また下田忠至選手はチーム創設時から今もチームの中心として活躍してくれています。

また、チームが定期的に活動できる場所を探していたときに、洛南高等学校の体育館を間借りさせていただけることになったんです。高校生の皆さんの隣で練習をさせていただき、時には練習試合のような形でご一緒させていただくこともありました。

河合:実は、我々もちょうど部内で3x3のチームを立ち上げたタイミングだったんです。5人制とはルールや戦術が異なるなかで、「どうすれば勝てるのか」「どう選手を育成していくべきか」と模索していた時期でした。

ー部内で3人制のチームも立ち上げるというのも珍しい取り組みなのかなと思うのですが、どういった背景があったのですか?

河合:洛南高等学校バスケ部は、毎年1学年につき約10名、チーム全体で30名ほどの部員が所属しています。ただ、5人制の試合でメンバー入りできるのは15名までと決まっているので、大会でベンチに入れない選手がどうしても出てきてしまうんです。

そんな選手たちにも何か活躍できる場を与えたいと考えたときに、「3x3の大会に出るのはどうだろうか」と考えました。そうして結成した最初のチームが、京都大会で優勝し、中日本大会も突破、いきなり全国大会に出場することができたんです。

その結果を受けて「選手を育成する場としてもチームをつくったら面白いのではないか」と。今では3x3の存在が、選手たちにとって大きなモチベーションになっています。

ープロ選手が身近で練習しているというのは、高校生にとっても貴重な体験ではないかと思います。河合コーチから見て、選手たちに何か変化などはありましたか?

河合:基本的には通常の部活動(5人制)の練習が終わってから、3x3の練習をすることになっています。なので、最初は「部活の練習だけでもキツいのに、その後にまた練習があるのか……」というような声もありました。

ただ、練習が終わると「すごく楽しかった」「もっとやりたい」という声が多かったんですよね。バスケットボールの醍醐味でもある「楽しい」という感情を強く感じられるのは、競技として大きな魅力だと思います。

あとは、身体の使い方など技術的な部分だけでなく、時間帯ごとに何を考えてプレーすればいいのかなど実戦的な思考も学べます。3x3は選手同士で多くコミュニケーションを取らなければいけない競技だからこそ、生徒たちも自然と会話力や考える力が身についていると感じます。


画像提供:じげんアップデーターズ

洛南バスケ部としても初の試み。パートナーシップで生まれるメリットは?

ー洛南高等学校バスケ部としては、今回のように企業と連携する事例は過去にもあったのでしょうか?

河合:こうしたパートナー契約というのは、今回が初めてです。ただ、近年は高校バスケ界でもこうした企業と連携する動きは盛んになっていて、日本バスケットボール協会(JBA)主催のリーグ戦などでは企業名をユニフォームに掲載できるようにもなっています。今回こうした事例ができたことによって、活動が活発になっていく部分もあるので感謝しています。

ーじげん側としては、洛南高等学校の皆さんと活動をすることでどのようなメリットがあると感じていらっしゃいますか?

杉原:そもそも立ち上げ当初は、どういった方向性でチームをつくりあげていくべきか模索しながらの船出でした。そんな中で、洛南高等学校のような何十年と歴史のあるチームとご一緒することによって、しっかりとした文化を根付かせる大切さを学ばせていただいています。

現在は『UPDATE the YOUTH ―若者の挑戦を応援―』というスローガンを掲げて活動しています。チームとしてどういった戦い方を目指すのかという部分から、地域との繋がりや若者との活動などを通して、自然とチームを応援したくなるような、じげんらしいチームをつくりあげていきたいと思っています。

ー実際に部の一員でもある河合コーチとしては、洛南高等学校バスケットボール部としての歴史の積み重ねについてはどのように感じていらっしゃいますか?

河合:私自身、4代目の顧問として伝統を引き継いだ立場ではあるのですが、これまで部に関わった皆さんが築いてくださった土台の上に、今のチームがあると強く感じています。そうした伝統は、決して色褪せてはいけないものだと思います。

そのうえで、バスケットボールという競技もどんどん進化していて、新しい技術や戦術が登場しています。そういった最新のトレンドは積極的に吸収していかなければいけません。その取り組みの一つが、3x3の導入にも繋がります。

京都府内の高校で、ここまで3x3に本格的に取り組んでいるのは、おそらく私たちぐらいではないかと思います。実際、他校の先生方からは「なんで3x3なんてやるの?」と聞かれることも少なくありません。

ただ私たちは、3x3の活動が5人制の強化に繋がることを肌で実感していますし、選手にとっても大きな意味があると感じています。伝統を守るだけでなく、新しい育成の形や未来のチームづくりに繋がるものを模索していく。それが私が果たすべき役割だと思っています。

ー京都でスポーツに携わっているお二人から見て、この地域のスポーツに対する熱量や浸透具合については、どのように感じていらっしゃいますか?

河合:例えば、「洛南です」と名乗ると、「ああ、バスケが強いところだよね」と、競技ごとに強豪校の名前が自然と出てくるくらい、歴史の長いチームが多い印象があります。伝統を受け継いでいく意識は、スポーツでも強いのではないでしょうか。

杉原:私もチームの立ち上げから京都の皆さんと関わってきたなかで、地域の声を大切にしていると感じます。子どもたちの教育にも地域の方が深く関わるなど、「地域で育てる」という意識が強いのかなと。

地元を大切にする文化があるからこそ、街中を舞台にした3x3のような競技は、より熱量をもって応援していただけるのではないかと期待もしています。

ー今後どういった取り組みを進めていきたいと考えているか、お伺いしてもよろしいですか?

杉原:まずは連携した情報発信を進めていきたいです。あとは、競技の技術的な指導から地域でのボランティア活動など、コート内外で取り組みを展開できたらと考えています。

河合:洛南出身の選手が、大学を経て社会人になり、再び地元に戻ってじげんさんのチームで活動するような流れができたら、それは指導者としてもすごく嬉しいことです。そういう形での関わりや循環も、今後はつくっていけたらと思っています。

杉原:それは実現できたら本当に嬉しいです。2025年1月には、じげん主催の3x3トーナメントを開催し、同志社大学や京都産業大学など地元の学生チームにも出場していただきました。ぜひ次回は洛南の皆さんにも参加していただきたいですね。

5人制バスケの選手でも、「3x3を知らない」「やったことがない」という方はまだまだ多いので、京都から関西全体にかけて盛り上げていきたいと思っています。また、選手たちに対しても「こんなチームがあるんだ」「3x3でもプロとしてキャリアが積めるんだ」といった部分も伝えていきたいです。

ー選手のキャリア支援という点では、株式会社学生情報センター(ナジック)との連携も発表されていますね。

杉原:実は最近、広島と鹿児島から「じげんでプレーしたい」と、トライアウトを経て入団を希望してくれた選手がいたんです。ただ、京都に来るにあたって、やはり生活が心配だという話がありました。まだ21歳と若い選手もいて、ご家族からも「仕事はあるのか」といった不安の声をいただいていました。

そこで学生マンションの運営などをされている学生情報センターさんにご相談をして、住まいの提供と就労支援の両方をサポートしていただけることになりました。3x3では多くの選手が仕事をしながら競技を続けています。だからこそ、生活面の不安を取り除いてあげることは、すごく大切だと考えています。

ー今後は垣根を越えた連携も期待できますね。それでは最後に、今後の活動に向けて一言ずついただいてもよろしいですか?

河合:共同での取り組みとしては、普及活動を中心に動いていけたらと考えています。また洛南高等学校としては、3x3だけでなく、5人制でも結果を出すことが非常に重要だと思っています。

近年、高校バスケは盛り上がりを見せているカテゴリーであり、新たなリーグ戦なども増えてきています。そこで結果を残すことによって、多くの人に興味を持ってもらうきっかけになりますし、じげんさんとの取り組みにも関心を持っていただけると思っています。

杉原:じげんとしても、いずれは京都から世界に挑戦できるようなチームになっていきたい。そのためには、代表選手を輩出できるような育成環境を整えていく必要があるので、選手同士の交流を重ねて、育成の哲学やチームづくりの姿勢を学ばせていただきたいと思っています。

そしてゆくゆくは、京都の皆さんにもっと応援していただけるチームのカルチャーを一緒につくっていきたい。バスケの魅力をより多くの人に伝えていけたら嬉しいです。


画像提供:じげんアップデーターズ