選手と識者が語る。W杯で終わらせないためのラグビーマーケティングとは

2019.11.22 定久 優美

2019年11月2日、ラグビーワールドカップ決勝戦が開始される4時間前に、ラグビーの在りたい未来像について検討するトークセッション「ノーサイドダイアログ」が実施された。

 

『ノーサイドダイアログ』は、ラグビーを通じた街づくりプロジェクトである『丸の内15丁目プロジェクト』の一環として株式会社Future Sessionsが主催しているイベント。11月2日の土曜日には「ラグビー×スポーツビジネス」をテーマに掲げ、NTTコミュニケーションズ シャイニングアークスで活躍する栗原大介選手協力のもと、現役ラグビー選手7名とスポーツビジネス領域で働くビジネスマン7名が語り合った。

 

 

現役選手にできることを考える「トップリーグリーダー会議」

参加者は、栗原選手や稲橋良太選手(クボタ スピアーズ)ら現役のラグビー選手7名と、スタジアムのある街づくりをしている建築家や、スポーツチームの価値計算をしている公認会計士、スポーツベンチャーを立ち上げた大学生など7名のスポーツビジネス従事者。

 

この日のノーサイドダイアログの目的は、現役選手の想いや活動と、スポーツビジネスに携わるビジネスマンの知見とを掛け合わせてラグビーの価値を最大化する方法を探ること。はじめに、栗原選手より「ラグビーの持つユニークな価値」についてプレゼンが行われた。

 

「まずは僕らのやっている活動を知ってもらえたら」とトップリーグリーダー会議の紹介を始める。『トップリーグリーダー会議』とは、トップリーグ所属の各チーム代表が集まる選手会。協会と選手の橋渡し役や、選手にできるファンサービス・社会貢献を検討する役割を担っている。2010年にその前身であるキャプテン会議が発足し、その後2017年にキャプテンにはオンフィールドでの役割を全うしてもらおうと、現在の形に組織変更された。その「トップリーグリーダー会議」において栗原選手は幹事長を務めている。

 

近いファンサービスはラグビー特有のもの

トップリーグリーダー会議の活動は主に3つ。1つは、被災地でラグビークリニックなどを行う「チャリティ」。もう1つは、子どもたちを笑顔にしたいとの想いからスタートした小児科や特別支援学校への訪問などを実施する「For Children」。そして最後の1つが、試合後に会場に来てくれたファンとハイタッチをする「ファンサービス」だ。

 

特に3つ目のファンサービスはサッカーや野球では考えられないほど距離感の近い、ラグビー特有のものであるるため「W杯で盛り上がったラグビー熱をトップリーグまで持続させるヒントになるのでは」と栗原選手は語る。

 

一方、他の競技と比較しての課題として「エンタメ性の不足」を挙げた。試合会場で両チームを平等に扱う原則があるため、トライを決めたときに花火を挙げるなどは相手チームの挑発に繋がる行為として禁止されている。それでも一部のチームは、ホーム戦での実況を自チームに有利な内容にしたり、会場入りのときにファンが花道をつくれるようにしたりと、“グレーゾーン”ではあるものの、盛り上げ施策を実施しているという。栗原選手は「それが本来あるべき姿なのだろうが、できなくてもどかしい。プロ化すれば、各チームが自由にいろいろできるようになるだろう」と話し、プレゼンを締めくくった。

 

スポーツをコンテンツにする方法

栗原選手に続いて登壇したのは、株式会社Future Sessionsの田上氏。株式会社ディー・エヌ・エーでスポーツ事業に携わった経験から「スポーツビジネスの方法論」についてプレゼンを行った。

 

「続くワークショップに向けたブレストのためだと思って聞いてほしい」と始まったプレゼンでは、スポーツビジネスの4大収益源(入場料・グッズ売上・スポンサー権料・放映権収入)に触れた後、コンテンツとしてのスポーツの例を列挙。バブルランなどの興行や、e-sports専用のホテル、温泉とフィットネスを掛け合わせた温泉施設、ランニングステーション、チームカラーにラッピングされた駅など様々な事例が紹介された。

 

田上氏のプレゼンが終了すると、ラグビー選手とビジネスマンでペアを組み1対1で意見交換をする時間が取られた。テーマは「トークを聞いて得た気づき/質問したいこと」と、「ラグビーを用いたビジネスをするとしたら何ができるのか」。それぞれ違う立場から交わされる知見が新たなアイデアに結びついたようだ。

頭脳派スポーツであることをアピールし、教育・医療の分野へ

ワークショップでは参加者が入れ替わりながら対話を続けることでテーマを深掘りする「フィッシュボウル」の手法を採り、「ラグビーを用いたビジネスをするとしたら何ができるのか」をテーマに40分間意見を交わした。


※フィッシュボウル:(※)内側の円が対話をする人々、外側の円は対話を聴く人々。内側には一つ空席が用意されている。外側の人は対話に参加したくなったらその席に座り、代わりに内側の一人が外側へ入って対話を進める。

 

栗原選手が「僕たちの見ていた世界は小さかったと感じた。ファンサービスをどうするのかというところばかり考えていたけれど、スポーツビジネスの視点からは、スポンサーがどうしたら興味を持ってくれるのかなどという点も考えなければならない」と切り出し、ダイアログがスタート。

ビジネスサイドの参加者からは、「ベスト8確定後、ラグビー選手がテレビに出演しているのを見て、フィジカルだけじゃなくて頭脳派なんだということがわかった。考えられる、という部分をビジネスに活かせそうだ」「ビジネスと絡ませるなら、なくならない教育と医療の領域に入っていくのも一手だと思う」といった意見が出ると、現役選手が「実はラグビー選手によるキャリア教育を修学旅行のプログラムに組み込んでもらっている。もっと発展させるなら、どんなことができそうか」と実際の取り組みを交えた発言が出るなど、対話が深まっていった。

 

発信力を強化し、もっと身近なスポーツに

商社に勤務しながらラグビーを続けている参加者からは「ラグビーを気軽に体験できる場をつくりたい。野球でいうバッティングセンター、サッカーでいうフットサルのようなものがラグビーにはない。バンコクなどで活発に行われていて、ラグビー歴1日の人とでも楽しめる10人制ラグビー大会を日本で実施しようと画策している」とすでに動きのある具体的な施策についての発言もあった。

 

これから挑戦していくことについて活発に話し合われる中、現状の課題も浮かび上がる。

 

それが“発信力の弱さ”だ。小学校の体験教室やごみ拾いを実施したときにしか更新されないSNSアカウントには「他にどんな発信ができるのか、各チームでバラバラに頑張るのではなくてスクラムを組んで考えていくべき」とラグビー用語を交えながら提案があった。ワールドカップが民放で放映されたことによる効果にも触れ、「ラグビーを目にする機会を増やせば身近なものと認識してもらえるはず」との声も挙がった。

 

終始白熱した議論が交わされ、あっという間に終了の時間に。感想を聞くと、現役のラグビー選手にとっても、ビジネスマンにとっても視野の広がる契機になったようだ。

 

W杯で一躍ムーブメントを起こしたラグビー界。4年前の二の舞を演じないようにと現役選手とスポーツビジネスパーソンが、それぞれ得意分野の知識をもとに真剣に考え、対話する姿が印象的であった。

 

2020年1月12日に開幕するラグビートップリーグまでの「空白の2ヵ月間」。にわかラグビーファンの心を掴み続けることができるかは、彼らの発想と行動にかかっているといっても過言ではない。大きなビジョンを設定することももちろん大事だが、すぐに実行に移せることからまずはコツコツ積み重ねていくのが吉なのではないだろうか。

 

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