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「学校の体育施設を開放すれば、遊び場が60%増える」スポーツ庁が描く、地域で支え合う環境構築への道のり

2024.02.29 / AZrena編集部

スポーツ庁が進める「学校体育施設の有効活用推進事業」の取り組み。昨年には、博報堂DYスポーツマーケティングや流通経済大学と連携した実証も開催しました。本記事では、スポーツ庁 参事官(地域振興担当)付 参事官補佐の岡部将己さんに、実証の振り返りから今後の展望について伺います。

これまでAZrenaでは「誰もが気軽にスポーツに親しめる場づくり実現に向けて」と題し、学校関係者のインタビューや実証の実施レポートを通じて、スポーツ庁「学校体育施設の有効活用推進事業」の取り組みについてお届けしてまいりました。

最終回となる本記事では、スポーツ庁 参事官(地域振興担当)付 参事官補佐の岡部将己さんに、実証の振り返りから現状の課題、今後の展望について伺いました。

なぜスポーツ庁は、学校体育施設の有効活用を進めているのか?一連の取り組みの根幹にある、スポーツ庁の想いに迫ります。

学校体育施設の有効活用で、スポーツに親しめる場を増やす

ー岡部さんが所属される部署の主な活動内容や目標について教えてください。

岡部:私たちの担当は、誰もが気軽にスポーツに親しめる場づくりに取り組んでいます。具体的にはスポーツに親しめる場の量的な充実と質的な充実を進め、利用者のニーズを踏まえながら、地域において運動・スポーツがしやすい環境づくりを行っています。

ー誰もが気軽にスポーツに親しめるようにするために、現在直面している課題は何ですか?

岡部:まずは施設数といった量的な課題ですね。近年、施設の老朽化に伴い施設の集約化・複合化により、施設の数が今までより減少するとともに、財政的な問題から施設の更新や新設も難しい状況で、誰もが気軽にスポーツを行うことが難しくなっている地域も見受けられます。また、個人で気軽にスポーツを行う場も少なくなっている印象です。

しかし、スポーツを楽しむうえで施設は欠かせません。私たちは量的な充実を図るため、公共スポーツ施設の整備だけではなく、その他の施設や場を活用する取組も推進しており、そのひとつが学校体育施設の有効活用となります。

ー施設の絶対数を増やすことが、学校体育施設の開放事業の目的だったのですね。

岡部:実は、スポーツ庁が実施している統計調査の結果をみると、公共スポーツ施設の割合は全体の約25%程度に対し、学校体育施設は約60%を占めています。学校体育施設は、授業等で利用されていない時間帯もあることから、学校教育上支障がないよう適切なかたちで施設を開放して地域の方々が活用できる場にすれば、地域住民にとって、その60%分の場が増えるわけです。そのため、地域住民に最も身近な学校体育施設の有効活用を進める本事業を開始しました。

参考:スポーツ庁 Web広報マガジン|DEPORTARE(デポルターレ)『国内スポーツ施設の約6割!学校体育施設の有効活用の方法とは』
https://sports.go.jp/tag/equipment/6.html

公園での「ボール遊び禁止」に対する打開策は?

ー昔に比べて、現在は公園等でボール遊びが禁止されている場所も増えています。このような制約が子どもたちの運動能力にどのような影響を与えているとお考えですか?

岡部:因果関係について断言できませんが、体力の低下やソフトボール投げの距離が短くなっているという結果は見られるので、一因としては考えられるかもしれません。一方で、遊びの多様化に伴いテレビゲームやスマホゲームの利用など、他にも様々な要因があると考えています。近年はコロナ禍による生活習慣の変化によって事態が深刻化していましたが、最新の調査では改善の兆しが見られています。

参考:令和5年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果(スポーツ庁)
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/kodomo/zencyo/1411922_00007.html

ー新型コロナウイルス流行の前後で、子どもたちの運動機会に変化はありましたか?

岡部:流行の初期段階に集団活動が制限されたことやスポーツ少年団の活動が中止されたことによって、子ども達の運動機会は減っていたと考えます。

コロナ禍も明けて今では以前のように外遊びも可能になりましたが、そもそも都心部では子どもたちが自由に遊べる場所・環境が少ないという現状もあるかと思います。

地方部であっても住宅街にある公園ではボール遊びを禁止するところも多々見受けられます。大きな運動公園であれば問題ないのですが、小さな公園でのボール禁止は珍しいことではないと聞いています。

ーこのような状況を打開するため、どのような策を検討されていますか?

岡部:このような課題に対応するため、今年度事業のひとつのテーマとして、「子どもたちが気軽にボール遊び等ができる場づくり」を設定し、学校体育施設が公園の代替の場所にならないか検証するための取組を募集したところです。学校体育施設を個人に開放することができるか、利用者側にどのくらいのニーズがあるのか、そして、実施することによってどのような課題が生じるか等といった内容を検証したいと考えていました。

またスポーツ庁では、学校体育施設の有効活用だけではなく、公園、歩行空間、広場等といったオープンスペース等の活用も今年度から進めており、様々な環境下で運動・スポーツをどのように実施することができるのか検証を行なっています。

参考:オープンスペースの活用等による誰もがアクセスできる場づくり促進
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop02/list/1380329_00018.htm

ー学校体育施設の開放事業が目指す姿について教えてください。

岡部:本事業テーマが目指す姿は、個人が自由に遊べるような環境の創出です。現在も校庭開放などは行っているものの地域のスポーツ少年団やクラブチームといった団体利用が多く、個人では利用しにくい現状があります。特に、校舎と学校体育施設が一体になっていたり、子どもたちの動線と重複するといった施設面の課題もあり、学校の安全管理上、なかなか有効活用が難しい学校も少なくないはずです。

また個人で利用する際には、管理者不在によって、トラブル発生時の責任の所在について問題が生じるリスクがあります。現在は怪我やトラブルを防ぐためにボール遊びを制限している校庭も存在しますが、私たちとしては利用される方がより自由に遊ぶことができるように、さらなる環境づくりを進めていきたいと考えています。

課題は自走化。地域で支え合う組織体の構築へ

ー先日、流通経済大学付属柏中学校・高等学校のラグビーグラウンドで開催された実証の取り組みにご参加いただいたかと思いますが、その取り組みについての感想をお聞かせください。

岡部:実証の取り組みに参加していた子どもたちは、プログラムも楽しんでいたと思いますが、その前後の自由時間にボールを蹴ったり投げたりと思いっきり遊んでいて、普段抑えている何かを大いに発散しているように見えましたね。

また、人工芝のグラウンドという環境も良かったと思います。転んでも比較的安全で、遮るものがなく、親御さんがお子さんをしっかり見守れるサイズ感も適切でした。普段はあまり遊ぶ機会のない人工芝で自由に遊び回る子供たちの姿を見て、このような場を提供する価値を強く感じました。今後の課題は、この活動をどのように継続させることができるかということです。

ー現状、このような取り組みを継続させるうえでどのような課題を感じていますか?

岡部:今回は委託事業者が中心となって大学・大学生を含めたスタッフのおかげでプログラムを実施できたと考えます。しかし、同じ形式で定期的に行うのは、正直なところ難しいのではないかと考えます。この取り組みを自走させるためにも、地域の方々との連携や、ICT技術を利用した防犯カメラによる見守りなど、何らかの仕組みを取り入れる必要があると考えています。

そしてコスト面の問題もあります。コモンズという考え方のもと、地域の人たちが自然に集まるような場を作り、例えば、今回のように大人や学生が関わり、共に運動・スポーツを実施することに加え、地元を良く知る方が時折来てくださって、その土地の歴史や文化を子どもたちに教えるといった地域づくり体制が構築されるとよいのではないかと考えます。これは、スポーツ活動に留まらず、学校を核としたコミュニティ形成に近いかもしれません。

ー学生たちがこのような取り組みに参加することの価値や可能性について教えてください。

岡部:特に大学生には、可能性を感じます。大人としての自覚を持ち始める年頃ですし、日常生活で地域の方々と自然に接触する機会もあります。そのため地域に関わることで社会に対する意識が高まり、悪い行いを避けて地域貢献への意欲も高まるかなと。さらに、大学生が地域活動に積極的に参加することで、子どもたちにとって彼らが憧れの存在となり、良い循環を生み出す可能性もあると思います。

スポーツをする場が地域の子どもたちの「居場所」になる

ー今回の事業の実施にあたり、「コモンズ」という考え方をもって取り組まれていましたが岡部さんの視点から、この取り組みはどのように見えていますか?

岡部:「コモンズ」という考え方は良い考え方だと感じています。例えば、子どもたちが自由に校庭を使えるようにすると、昼間は良くても、夜間は騒音や照明の問題で苦情が出ることもあります。この理由としては、学校体育施設がスポーツをする人のためだけに存在しており、スポーツをしない人にとっては無関係な場であるから、生活への不利益が苦情につながってしまうのだと考えます。

しかし「コモンズ」の考え方を取り入れることで、その場所がスポーツのための場ではなく、誰もが気軽に訪れることができる地域コミュニティの場とするために、場を再定義することで、今まで自分には関係ないと思っていた地域の方々がその場所を自分の居場所として捉えるようになり、結果的には苦情が減るといった副次的効果が期待できると思います。運動・スポーツは、様々な取組への親和性も高いことから、スポーツをフックとし、地域スポーツ、地域コミュニティを担う場となることを期待しています。

また、このように学校体育施設が地域にとって重要な場所であれば、施設の改修や撤去が必要になった時でも「この場所は守るべき」といった声が上がりやすくなります。その点でも「コモンズ」という概念は魅力的です。スポーツ庁としても、単に運動するところではなく、地域に対する効果や価値を見出し、地域や地域スポーツにとってなくてはならない場を作っていきたいです。

ー最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

岡部:スポーツというと競技的な側面が強調されがちですが、フィットネスや体を動かすことは、ライフパフォーマンスを高めていく上で必要不可欠です。心身に多様な変化を与える運動・スポーツを実施し、それぞれのライフステージにおいて最高の能力を発揮できる状態を目指すことは、健康の保持増進はもとより、QOL(Quality of Life、生活の質)を高めることなど、生きがいのある充実した生活を送ることにも寄与します。室伏長官も日頃からこのようなライフパフォーマンスの向上に向けた目的を持った運動・スポーツの重要性を述べています。

もちろん積極的にスポーツをするに越したことはないですが、それ以上に重要なことは日常生活における身体活動を促進するための工夫です。引き続き、「地域において、誰もが気軽にスポーツに親しめる場づくり」を推進していきますので、ぜひ今後の取り組みに注目いただければ幸いです。

安心安全のスポーツ環境構築へ、地域の繋がりが未来を変える

これまで様々なステークホルダーの声をお届けしてきたなかで、未来に向けた気軽にスポーツに親しめる場づくりには、地域で生活するすべての人々が連携しながら安心で安全な環境を構築していくことが不可欠だということが分かりました。

特に、今回は子どもたちがのびのびと身体を動かし、その保護者が安心して見守ることができる。先日の実証で見ることができた、そんな光景を日本全国に広げていくために。今後もスポーツ庁の取り組みに注目していきます。

☆今回の流通経済大学付属柏中学校・高等学校の実証で開発した、ボール遊びと鬼ごっこを掛け合わせたプログラムの遊び方は、こちらからご覧いただけます。

①ハンドリングおにごっこ
https://youtu.be/V276cGzgirk?si=pSFeMWPjLguSf7IK

②パス追いかけおにごっこ
https://youtu.be/K-iyxZiBdf4?si=C8ksFTsbx1zoIUZ5

③ボール氷おに
https://youtu.be/qZIjExVX4NE?si=nv9QUhh7MPl03p8E

④チェイサーシューティング
https://youtu.be/GTwY8pgm91A?si=5zpVPPRyt29rw60F

全プログラム紹介
https://youtu.be/kwj48PR_B-Y?si=5KH-OLGXIcUKQL1M

<関連記事>誰もが気軽にスポーツに親しめる場づくり実現に向けて

第一弾 『子どもたちに自由な遊び場を!スポーツ庁が進める学校体育施設の有効活用に対する「コモンズ」の可能性とは』https://azrena.com/post/19783/

第二弾 イベントレポート『自由な遊び場は、すぐそこにある。学校施設開放イベントで見えた未来「また、ここで遊びたい」』https://azrena.com/post/19915/

第三弾 地域と子どもの繋がりが未来を変える。活動継続のために、スポーツ庁が「学校」に着目する理由