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専スタでサッカー以外の魅力を発信!ガンバ大阪が“#Gサマ”で挑むピッチ外の挑戦

2018.08.14 / 竹中 玲央奈

竹井学氏、島下大明氏

明治安田生命J1リーグに所属し、国内外で9つのタイトルを取った名門・ガンバ大阪にピッチ外での変化が起きている。攻撃的な“魅せる”サッカーでファンを多く集め、一度はJ2に沈んでしまったもの、昇格後に史上2クラブ目となる3冠(リーグ、天皇杯、カップ戦)を達成するなど、競技面で話題性を掴んできた彼らが、この7月22日から9月1日のいわゆる夏休みの期間のホームゲームで大々的なイベントを打ち出したのである。

その名も“ガンバサマーフェスティバル”、略して“#Gサマ”だ。これまでのクラブのイメージを転換させるとも言えるこのイベントはなぜ実施されたのか。本企画の中心人物である事業企画課の課長である竹井学氏と、PRを担当した広報運営課の島下大明氏に話を聞いた。

 

単発ではなく、夏休みを通じた大イベント

--Jクラブが行うイベントというものは試合に紐づけて単発でやるイメージがあります。それを2ヶ月かけて長いスパンでやるのは珍しいように思えました。そもそもどういう経緯でこの企画はスタートしたのでしょうか?


竹井
:今季ホームゲームイベントで試合の価値をあげてライトなお客さんに足を運んでいただくための“満員プロジェクト”というものを行っていました。その中で様々なイベントやプロモーションを打っていこうと。もともと1試合ごとに担当を決めて企画を考えてもらうということからスタートをしたのですが、開幕戦から春ぐらいまでイベントをやっていく中、単発でイベントのプロモーションをしても広く浸透しないなと。

そこで考えた結果、特に今年の夏休みはW杯の後でサッカーに関心を持った人も増えているだろうし、その人たちに「近くのサッカークラブであるガンバ大阪が大きなイベントやっている」ということを継続的に伝えやすくするように5試合連続で夏休み期間限定のサマーフェスティバルをやろうとなりました。7月22日の清水戦が最初のイベントになったので、8月15日のコンサドーレ札幌戦でやっと折返しになります。

 

--いざ折り返し地点まで来て見て手応え等はいかがですか?

竹井:天候の影響で一部中止になったり、延期になったものもありますが、手応えを感じています。我々が狙った通りにお客さんが来てくれて、思い描いていたイベントの様子になっているというのがその理由ですね。例えば7月22日はキッズ祭りという中で、夏休み最初の日曜日で子供向けのイベントをやろうということで、縁日をしたりポケモンのイーブイに来てもらったりしたのですが、誰もが「あの日は子供が多かったよね」と言ってくれていました。お客さんが求めるものを私たちが用意できればお客さんは来てくれるという手応えは感じましたね。

 

--こういったイベントを行うにあたって、仕込み期間どのくらいなのでしょうか?

竹井:GWぐらいですね。サマーフェスティバルと打ち出すにしてもどの試合で何をするのかを決めるところ、更にどういうプロモーションをするかを決めるまではかなり企画と準備段階は時間がかかりましたね。やろう決めたのは5月頭頃ですけど、そこから2ヶ月間はほぼ企画準備期間でした。反省点としてはプロモーションのところがイベントの準備で手一杯になっていたというところですね。もっとできたのかな?と思う部分もありましたが、ちょっとずつ今まで使ってなかった媒体を使ってイベントを告知するとか、取材をしていただけることで色々と変わって来たところはあります。今までホームゲームの取り組みを取材していただくとことはあまりなかったと思うので、そういうのが増えてきていますね。

 

 

チームの調子が良くないときのイベントは…?

--広報的な側面で島下さんへ聞きたいのですが、今までやって来なかった長いスパンでイベントを開催するのが決まったとき、プロモーションは肝だと思うのですが、そこで注意した点や得たものはありますか?

島下:最もフォロワー数が多いTwitterをこまめに更新していたのですが、「試合だけでなくイベントもあります」ということを割と短いスパンで発信していました。ただ、その中で成績は伴ってなかったので、イベントを出すごとにネガティブな声もたまにありました。「そんなことをしてないで補強しろ!」というような声もありました。ただ、それ以上に「ガンバ面白いことやってるやん」という声も拾えたんです。

 

企画とか事業系の取り組みを頑張っているという印象を、今まで全くやってこなかったわけではないですけど、定期的に出すことでそういう印象を植え付けられると。Twitterを見てる限りではその手応えはありました。ただ、反省としてガンバサマーフェスティバルが始まる前の段階でかなり強いインパクト、キックオフイベントができなかったという点は挙げられます。チームへの期待感もあまりなかった段階だったので…。そこが今後の課題かなと思います。もっとInstagramを使うとか、そういった部分もうまく活用できたらなと考えています。

 

--「そんなことをしていないで補強しろ!」というような声は、結構スポーツの世界であることじゃないかなと。例えば選手でいうと本田圭佑さんがビジネスをやっていることに対して「サッカーに集中しろ」というような声も出る。とはいえ、ガンバ大阪は企業として売上を作っていかなければいけないし、そういう意味ではサッカーという競技のところではもちろん、それ以外のところで人を集めるというのは重要なのかなと。ただ、なかなかそういう部分がファンにも伝わらなかったりしますよね。

 

島下:そこは少し感じましたね。広報としてTwittterのリプライや、Facebook、掲示板なども目は通すんです。お客さんの空気感をわからないといけないし、それを知らずに炎上してはいけない。嫌だなというのがあったので。正直最初は返信をいただくと凹むこともありました(笑)。

自分だけが言われているわけではないのですが、自分が言われているような感覚になりますから。ただ竹井が言ったように我々が提供できるのは勝利という価値プラスアルファとしてこのスタジアムに幸せな空間を作るということ。今はこういう時期なのでなかなか難しいかもしれないですが、いつか頑張ってサッカーの試合だけじゃなくて周辺のイベントも合わせて魅力的だと思ってもらえるようになるための1歩目ですから、今は多少割り切っている部分はあります。

 

竹井:踏み出すタイミングとしては決して良い状況ではなかったですね。

 

島下大明氏

 

島下:他力本願ではないですけど、サマーフェスティバルが始まって3回目にDA PUMPさんが来てハーゲンダッツが配れるという大きめの情報をお届けできて、かつほぼ同じタイミングでクラブOBの宮本が監督に就任するという話が出たんです。

 

そこからちょっとポジティブな意見も散見されるようになって来ました。「補強しろ」という声に対して他のサポーターが「(補強費を獲得するために)こういう時こそお客さんを集めるためにクラブが頑張っているじゃないか」とたしなめるという新たな流れもあって。そこで風向きが若干変わって来たかなという印象は受けました。

 

竹井:そういう意味ではありがたいですよね。チームはこれまでタイトルを9つも取っている。それを見るのは楽しかったと思うし、強いガンバを見てファンになってくださった方はたくさんいると思うのですが、それ以上にクラブを応援してくれる人がいるからこそ、勝てない時でも応援しようよというコメントを出してくれる。それはこれまでガンバが積み重ねてきたものの結果でもあるので。

 

狙いはファミリー層。そして新スタの存在

--お客さんが何を求めているかというのはその層によっても変わってくるのもあるのかなと思っているのですがその点はどうやって分析をしたのでしょうか?

竹井:それはまだまだ試行錯誤しながら、というところではあります。ただ、お客さんが何を求めているのか、どういう人たちが我々に興味を持って来てくれる可能性があるのか、というのを考える機会は増えました。ホームタウンのファミリー層といってもどういう人?という疑問はありました。元々サッカー観戦機会がある人、全く興味のない人、子供がサッカーしている人…色々とあると思いますが、そういう人たちはなぜ来ないのか。来たことあるけどなぜ2回目は来てくれないのか。もしくはすごく順調に1回来たらハマってしまって今年は年間パスを買ってくれた人もいると。では、なぜそうなるのか、という点について様々な事例を皆で共有しながら話すという機会は増えました。

 

恐らく今回のサマーフェスティバルでメンバーは手応えを感じているとは思うのですが、来場しているお客さんの顔を見ながら「どうやったら次も来てくれるのか」という部分について考え出しているところです。

 

--例えばですが、川崎フロンターレを取材している中でファミリー層の多さと言いますか、サポーターの年齢のバランス感が良いなと感じたことがあります。ガンバ大阪はどういう層が現状多くて、今後の施策におけるメインターゲットとしたいとお考えなのでしょうか。


竹井
:基本的には小学生とその親という組み合わせですよね。年齢でいうと40代前後の親と小学生の子供がメインですね。その次が20代後半から30歳ぐらいの友達連れになります。ただ、それぞれで一長一短もあります。

ホームタウン応援デーという、子供を無料にして保護者は4割引になるというようなこともやっています。経済的な理由から見ると行きやすいと思います。ただ、小学生の時は親と出かけますが、中高校生になると生活環境も変わるし、一緒に観に行くことも減ると思うんです。ですから、そのとき来てくれた子供がいずれ大人になった時友達を連れて来てくれれば良いと思っていますし、親も子供が手を離れたときに親だけで来てくれれば良いのですが、もう少し長いスパンで見ないとわからないというのが現状ですね。

 

だからやっぱりずっと同じ人に来てもらうことも大事な一方で、新しいお客さんを掴み続けなければいけない。生活環境が最も変わらないのは子供が自立して夫婦だけになったシニア世代の方だと思うのですが、この人たちは特に定年退職後などは週末の月に1,2回の楽しみとして継続して来てくれると思います。とはいえ、その人たちが本当にその年になってサッカーを好きになって観に来てくれるのかという点についてはまだアプローチできていないです。年齢層なり地域分布で「こういうところには可能性があるよね」という部分を探りながらいろんな層にアプローチできるようになれば総数として増やせると思います。ただ、今はまだメインのところ、ホームタウンのファミリー層を狙っているという段階です。

 

 

竹井学氏

 

--自分の周囲でも、きっかけが何であれ1度来たことで“ハマる”人はけっこういるなと思っているのですが、そのきっかけを創出するためのイベントだと。

竹井:そうですね。日程が決まっていて、対戦カードが決まっている中で、例えば常に家族で行けば何らか楽しいことがあるというのが浸透していけば、試合の日はスタジアム行くという行動が習慣化されると思います。おそらく川崎はそうなっていると思いますし、期待を裏切ってはいないと思います。「負けてしまったけど楽しかったよね」というのを川崎は残せているんじゃないかなと。そういう意味ではガンバもそういう姿になりたいと思っています。

 

--このタイミングで新スタジアムができたのは大きかったですね。

竹井:このパナスタの臨場感と一体感は世界のどのスタジアムにも負けないんじゃないかと思っています。ホームゲームの質というのは誰に対しても自信を持ってお勧めできます。日本においてここでしか味わえない観戦環境があるという部分を、自信を持って言えるのは、自分たちの活動の後押しになります。もちろんその中で勝つこともあれば負けることもあり、苦しむこともあれば勝って優勝できることもあります。

そこの浮き沈みはあって良いと思うのですが、我々が提供しないといけないのは勝ち負けにかかわらず「楽しかったね」「次もまた来たいね」と思って帰ってもらうこと。あとは、来る前にワクワク感を与えて、スタジアムに行くのを楽しみだと思ってもらいながら1週間を過ごしてもらいたいです。だからこそ、続けていかないとなと。

 

--新スタジアムが出来たことによってやれることも増えたと思います。

島下:ここ3、4試合はアウェイも帯同したのですが、他のスタジアムに比べて断然仕事もしやすいですし、陸上競技場か専用スタジアムかというところの差は非常に大きいかなと。1つイベントをやるにしてもそのショーアップ具合というか、映え具合が全く違うなと感じます。

サッカーを観るのもすごく面白いし誇れるスタジアムではありますが、中でプロジェクションマッピングもできるようになりましたから。そもそも皆さんから寄付をいただいてできたスタジアムでもありますし、支援してくれた方々は最高に盛り上がって臨場感と一体感のあるサッカーを観たいという期待を持っていたと思うんです。それに応えなければいけないとは思っています。

「募金したけどあんまりお客さん入ってないし盛り上がっていないじゃん。」と思われてはいけない。サポーターの方も屋根付きのトラックのない良い環境でガンバが見たいと感じていたと思いますから。

 

ピッチ内外で目指す最高の地域貢献

--ちなみに今回の施策で一番の肝はどれだったのでしょうか。

竹井:マグロの解体ショーですかね。本当は7月22日の清水エスパルス戦でやる予定でした。事情があって入れ替わってしまったのですが、元々は「清水だしマグロかな」というところから始まり、ビールとマグロをおし出そうと。結果として7月28日の鹿島戦にずれてしまったのですが、めちゃくちゃ告知をしたわけでもない中、インパクトが大きかったのか「今日はマグロの解体ショーやる日でしょ?」といろいろな人から言われました。

マグロの解体ショー自体はあまり珍しいイベントではないと思うんですよ。ただ「普通、スタジアムで試合の日にマグロの解体ショーやるか?」というような驚きのインパクトがあったと思うんですよ。そして親子で普段なかなか見られないものが見られて、かつサッカーも観られて楽しかったというような体験を提供できればなと思っていました。普段あんまり見たことや触れたことのないものをサッカーの現場で提供するということで、「面白そう」と思わせられる。どうインパクトを与えるかというところは常日頃から考えなければいけないなと強く感じましたね。

 

 

--これからはどういったイベントが控えているのでしょうか

竹井:8月15日のコンサドーレ札幌戦は相手が北海道のチームということでそれにちなんだものを出します。スノーマシンと、台風の影響で鹿島戦からずれた、冷凍車の中にガンバボーイの氷像があって、フォトスポットとして写真を撮ってもらうというものですね。

最後は9月1日の川崎フロンターレ戦になるのですが、そこではビアフェスをやります。泡にちなんでバブルプールや長いグラスを使ったドリンクの早飲みイベントをします。ただ、さすがにアルコールの早飲みはダメだろうということで(笑)、でもせめて炭酸にはしたいなと思ったのでそれで実施します。飲んでいるときに詰まったりする画は面白かったり、盛り上がりもあると思うので。あとは「乾杯上手は誰だ!」という、スタジアムの中のビジョンで乾杯している人を写してあげて、盛り上がっているグループに賞品をあげるというようなイベントをやります。

 

--今回のイベントを経た上で、今後、ピッチ外という観点でG大阪をどうブランディングしたいとお考えでしょうか?

島下:満員のスタジアムというのは人が4万人近く来て初めてできるものですし、ただ人が集まるだけではなく、サッカーが好き、ガンバが好きという人が集まってその一体感ありきで生まれると思います。

チームが持つ最高のスタジアムでガンバを応援する楽しさや臨場感というのを地域の人に提供していきたいです。それがガンバができる1番の地域貢献なのかなと。「ガンバがあって吹田のスタジアムがあってよかった」「自分の人生に必要だった」と思ってもらえるような最高の環境作りをしていきたいです。

 

竹井:プロのサッカークラブなのでもちろん勝利を目指しています。ただ、クラブの価値は勝敗だけじゃないと思っています。サッカーのプレイ自体の面白さを提供するという部分は間違いなくありますが、それ以外にもイベントや事前のプロモーションも含めて、いつ誰がどのタイミングでパナスタに来ても楽しい幸せな空間を提供できるクラブを作っていけたらなと思いますね。

竹井学氏、島下大明氏