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デジタルで新規ファン開拓を。川崎ブレイブサンダースのTikTok活用術

2021.02.26 / 竹中 玲央奈

Bリーグクラブ初となる、TikTokとのパートナーシップを締結したDeNA川崎ブレイブサンダース。独自の企画を次々と展開し、勢いを増す同クラブのTikTok活用術とは? 事業戦略マーケティング部の藤掛直人さんに、お話を伺いました。

コロナ禍において、プロスポーツクラブが強化に励んでいるSNSマーケティング。その分野で先駆者となっているのが、Bリーグの強豪・川崎ブレイブサンダースです。

YouTubeで驚異的な視聴者数を誇る同クラブは、2020年10月、Bリーグクラブ初となるTikTokとのパートナーシップを締結。新規ファンの獲得に向けて、デジタル領域を拡大しました。それ以降、海外のスポーツクラブでも例を見ない、独自のTikTok企画を次々と展開しています。

 

人気TikTokクリエイター「伊吹とよへ」とのコラボ動画は、410万再生(2月16日時点)超え。2021年2月7日には、彼らが試合当日のとどろきアリーナに潜入し、チアリーダーの楽屋や演出リハーサルなど、裏側の様子を届けるライブ配信を実施しました。

2021年1月末に投稿された辻直人選手の動画は、人気バスケ漫画「黒子のバスケ」を連想させるプレーで海外でも反響を呼び、350万再生(2月16日時点)を記録。さらに、3月27日に行なわれる滋賀レイクスターズ戦において、TikTok日本人女性No.1フォロワーを誇る景井ひなさんの来場が発表されました。

 

勢いを増すブレイブサンダースのTikTok活用術とは? 株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース・事業戦略マーケティング部の藤掛直人さんに、お話を伺いました。

 

選手名ではなく、肩書きを出す

ーまずは、TikTokとパートナーシップを締結した経緯を教えてください。

私たちは、以前からYouTubeチャンネルを運営していて、再生回数が100万回を超える動画もありました。YouTubeが集客に貢献していたので、次はTikTokで新たな層を開拓したいと考えていて。TikTok様と繋がりのある社員からの紹介で、お話する機会をいただき、パートナーシップの締結に至りました。

 

ーYouTubeでは、具体的にどのような成功体験がありましたか?

バスケのプレー以外にも、YouTuberのようなエンタメ系動画を出していました。その影響で知名度を上げた一人が、日本代表の辻直人選手です。エンタメ系動画で彼を知って、その後にプレー動画を見た視聴者からは「ジーツー(辻直人選手の愛称)って、意外とバスケ上手い!」というコメントがありました。

バスケファンの方は「日本代表選手に『意外と上手い』なんて、何を言っているの?」と思うかもしれません。ですが、それだけエンタメ系動画が、バスケファン以外の方に選手を知ってもらうきっかけになっていたということです。

これは定性的な例ですが、定量的にも効果が出ています。チケット購入者を対象としたアンケートで、「どの媒体を見て購入したか」と質問すると、YouTubeと答えた方が圧倒的に多かったんです。

 

ークラブの広報活動に対して、選手がかなり協力的な印象があります。

そうですね。そもそも、選手の皆さんが「バスケの魅力を広めたい」と考えてくださっているのが、ベースにあります。クオリティの高い動画を実際に出してみると、ものすごい反響があって。選手の耳にも届いたようで、その後はさらに選手から自発的にアイデアを出してくれるようになりました。

とはいえ、競技に対するコンディショニングが第一。選手が出演するコンテンツに対しては、「量よりも質にこだわる」というスタンスで取り組んでいます。

 

ーTikTokで新規ファンを獲得するにあたって、心がけていることはありますか?

バスケの知識がないユーザーさんでも理解できて、楽しんでいただけるコンテンツを作っています。「篠山竜青」や「辻直人」と選手名を出すのではなく、「日本代表キャプテン」や「日本を代表するシューター」と表現する。選手を知らなくても、肩書きですごさが伝わるようにしています。

 

ー実際に運用してみて、効果はいかがでしょうか。

他のSNSと比べて明らかに、今まで川崎ブレイブサンダースを知らなかった方からの視聴が増えました。印象的だったのは、チアリーダーの動画の視聴数が伸びることです。以前は選手やマスコットに人気が集中していましたが、TikTokはチアリーダーの投稿に対する反応も良くて、選手の投稿を上回るものもあります。チアリーダーのモチベーションアップにも繋がりますし、ポジティブな結果だと思います。

@brave_thunders#cheerleader #チア #川崎ブレイブサンダース #bリーグ♬ I CAN'T STOP ME - TWICE

 

TikTokとバスケの相性が良い理由

ーTwitterのインプレッションのように、TikTokでも数字は追っていますか?

いいね数と再生回数などを見ています。TikTokはおすすめフィードで、既存のフォロワー以外のユーザーに露出できる機会が多いので、バスケファン以外への拡散性が強いです。TwitterとInstagramは既存ファンの熱量維持、YouTubeとTikTokは新規ファンの獲得というふうに使い分けています。

 

ーデジタル領域に強いDeNAだからこそ、SNSを上手く活用できている部分もありそうです。

クラブとして3本柱を設定していて、その中にもデジタルは含まれています。

1つ目が「コミュニティ」で、著名人や企業、作品とのコラボや、継続的なコミュニケーションを実現すること。2つ目は「ソーシャル」で、SDGs(持続可能な開発目標)や社会貢献活動を強化していくこと。そして3つ目が「デジタル」です。

デジタル領域で試行錯誤しているクラブは多いと思います。その中で、スポーツ界ではブレイブサンダースがNo.1だと言われるようになりたいですね。

 

ーDeNAは、プロ野球の横浜DeNAベイスターズも運営されています。競技の違いによって、デジタルの活用法も変わってくるのでしょうか。

野球はバスケと比較して試合数が多く、シーズン中のデジタル施策への選手稼働は難易度が高いです。ベイスターズはベーシックなアプローチをいかに精度高くやり切るか、という点に重きを置いている印象があります。

ブレイブサンダースでは、そのマインドを大切にしつつも、先程お話ししたようなYouTubeでのバラエティ企画など、チャレジングな施策にも力を入れています。

野球はファンの年齢層が高いこともあって、デジタルをどこまで導入するかは模索段階です。バスケはBリーグが開幕して間もないので、チャレンジしやすいという側面はあります。

 

ーバスケは野球やサッカーと比べて、女性ファンが多い印象もあります。

野球やサッカーは男性ファンの割合が7〜8割くらいですが、バスケは男女比が半々。しかも、選手との距離が近く、イケメン選手も多いので、バスケを知らなくてもハマる女性は多いんです。

 

ーTikTokは短い動画コンテンツをメインにしているので、スポーツの迫力を凝縮して伝えやすいように思えます。

バスケは得点が多く入るので、ハイライトが作りやすいスポーツです。ダンクシュートやスリーポイントシュートを切り取ったり、身長の高さにフォーカスしたりと、いろいろなインパクトの与え方があると思います。だからこそ、TikTokとの相性が良いと思っています。

以前、YouTuberのはじめしゃちょーさんとコラボさせていただきましたが、彼は身長が186cmもあるんです。それなのに、うちの選手と並んだら全然小さく見えてしまう。その画像が「えっ、はじめん(はじめしゃちょーの愛称)が小さく見える⁉」とTwitterでバズっていました(笑)。

 

ーTikTokでは、選手のセルフ解説動画も出していますよね。これはアマチュアのバスケ選手にとって、参考になるのではないかと。

そうですね。YouTubeでも一度出しましたが、尺が10分程度になってしまいました。環境や人によってはヘビーになってしまうので、TikTokでワンプレーごとに出すのも良いかなと。これは結構好評ですね。

@brave_thunders#篠山竜青 #セルフ解説 #tiktokスポーツ教室 #バスケ♬ オリジナル楽曲 - 川崎ブレイブサンダース

 

苦しい時の発信が、クラブのストーリーになる

ーYouTubeは今後、どのように運用していきたいと考えていますか?

純粋に、面白い動画を出し続けることだと思います。そのためには、選手のやらされている感をいかに出さないようにするか。

撮影は、選手と仲の良いカメラマンにお願いしています。選手の素を引き出してくれますし、選手同士も仲が良いので、撮影を楽しんでいて。だからこそ、良いコンテンツが作れるんです。

 

ーバスケットボール界を盛り上げるという意味では、ブレイブサンダースだけでなく、各クラブがデジタルを強化していく必要もあると思います。

スポーツクラブには、2つの強化が求められています。1つはチームの強化で、もう1つは事業の強化。仮にチームが弱かったとしても、事業を回していかないと、投資対象が狭くなってしまいます。

 

私は先日、中村憲剛さん(元川崎フロンターレ)の引退セレモニーに出席しました。中村さんは大学卒業後にフロンターレへ入団して、当時J2だったクラブをJ1に押し上げました。その後は優勝争いに絡んでいたものの、“シルバーコレクター”と言われた時代もあって。

その苦境を乗り越えて、キャリアの終盤に優勝を経験。セレモニーを通じて改めて追体験ができて、本当に感動しました。

こういったストーリーは、苦しい時に発信を続けることによって、厚みが出るものだと思います。だから、上手くいっていない時こそ、発信する必要がある。現状のチームの強弱に関わらず、どのクラブもデジタルは強化するべきだと思います。

 

ーデジタル領域の強化を通して、今後はどのようなことを成し遂げていきたいですか?

将来的には、新しいアリーナの建設も視野に入れています。現在の本拠地・とどろきアリーナは、コロナ禍による制限がなかったとしても、収容人数が約5,000人。仮に1万人規模のアリーナを新設したら、あと5,000人のギャップを埋めなければいけません。ファンを増やすきっかけとして、TikTokは今後もフル活用していきたいです。

SNSを武器にスポンサーを獲得することも考えています。アリーナの広告看板や来場者数には限りがあるので、デジタルを通してスポンサー企業をPRするという形です。その他にも、リアルの試合とデジタルの連動など、様々な形で先駆者になれたら嬉しいですね。