“付加価値”で満足度向上。西武ファンを虜にする電子チケットの裏側

2019.03.28 AZrena編集部

スポーツビジネスで活躍するための最速講座として、2010年からスタートした「MARS CAMP(MARSキャンプ)」は現在、第17期目を迎えています。2018年12月19日(水)の社会人コースでは「スポーツを再定義!スポーツ×事業戦略」をテーマに、約2時間の講義が行なわれました。

プロ野球・西武ライオンズでは、2017年7月から電子チケットサービス「Quick Ticket by MOALA(以下、Quick Ticket)」を導入しています。電子チケットには様々なメリットがありますが、チケットとしての機能面以外にも、さらなる“付加価値”を加えることによって、ファンからSNSで反響を呼んでいます。株式会社playground執行役員の河野貴裕氏に、開発の裏側と今後の展開について伺いました。

 

幅広い競技を含む10,000イベント以上で導入

2017年6月に設立されたplaygroundは、以前は株式会社Leonis & Co. として、小売業者向けにコンサルティングやシステム開発を行なっていた。その中で電子スタンプの技術を開発したところ、電子チケットの導入で活用したいとの声が上がり「Quick Ticket」として商標登録した。現在はサンリオ・ピューロランドや埼玉西武ライオンズなどで導入されている。

playgroundは「リアルイベントに、デジタル革命を」をミッションに掲げている。河野氏はこの背景として「ライブなどでの演出のデジタル化は進んでいるものの、インフラのデジタル化はほとんど進んでいない」という実情を指摘した。現在はライブ体験のすべてを電子化するプラットフォームとして「MOALA」を展開し、Quick Ticketを含めた様々なサービスを提供している。

 

Quick Ticketは2017年12月のリリース以来、10,000イベント以上で導入されている。スポーツ界では西武ライオンズのほか、女子プロ野球やVリーグなど、幅広い競技で活用されるようになった。

このサービスは専用アプリ不要で気軽に使えるほか、ペーパーレスや不正転売防止、アルバイトの経費削減にも繋がるなど、様々なメリットがある。それに加えて限定グッズの引換券や、入場者特典の待受けといった付加価値を与えることによって、ファンの満足度を向上させている。

 

自社投資の電子チケットシステムを“タダ”で提供

前述の通り、Quick TicketはLeonis & Co. 時代に開発した電子スタンプの技術をもとに生まれた。2016年夏ごろに電子チケットに活用したいとの問い合わせが数件あり、その意見を参考にプレイガイドや音楽レーベル、スポーツ団体などに「電子チケットアプリ企画趣意書」を持ってヒアリングに回ったとのことだ。

しかし、「ニーズはあるが誰も投資できない」「アプリ型の電子チケットは流行りそうもない」など、導入における様々なハードルがあることが分かった。そこでLeonis & Co. では、自社投資でブラウザベースの電子チケット発券システムを作り、チケットの仕入れや販売も行なわないため、“タダ”で提供することを提案した。

 

システムはアプリではなくブラウザベースで展開し、チケットの仕入れや販売は行なわないためプレイガイドの商材を奪うことはない。この提案には大手プレイガイドや大手興行主も「YES」と答えた。ここまでの流れは河野氏が独自で動いていたが、提案が功を奏した段階で代表取締役の伊藤圭史氏(現・playground代表取締役)に相談し、事業の立ち上げに至った。

日本のチケット販売は「興行主(Jリーグ、プロ野球など)」が「プレイガイド(チケットぴあ、イープラスなど)」に販売を委託し、プレイガイドが顧客への販売を行なうという流れが基本となっている。チケットの発券は「発券チャネル(コンビニ、郵送など)」が担い、顧客は発券チャネルに対して発券手数料や配送料を支払う。Quick Ticketはこの発券チャネルとして、発券手数料をもとにマネタイズを行なう方針があった。

 

デザインチケットやビクトリーフォトにはSNSで反響が

Quick Ticketを成功させるモチベーションとなったのが、「五輪よりもレベルが高い」という声もあった有名な大会で、ガラガラの観客席を目の当たりにしたことだったそうだ。そんな現状に、河野氏は「ITの力で日本のスポーツは変えられるのではないか」と感じ、Quick Ticketを通してスポーツの価値を最大化したいと考えた。

それでは、実際にQuick Ticketはどのように機能しているのか。2018年シーズンの西武ライオンズでは、「来場者限定コミュニケーション」として、以下のような流れでLINEにトークを送った。

  1. 試合前日のリマインド
  2. 試合当日のゲームレビュー
  3. 来場後のWelcomeメッセージ
  4. 試合中の抽選企画参加のお願い→結果の通知
  5. 試合後(勝利時)のビクトリーフォトの配布

 

この企画をホームゲーム全試合で実施している。チケットは試合ごとに券面画像が変わる「デザインチケット」となっており、ファンのコレクション性を高めている。このデザインチケットが好評だったため、2019年からは全試合で異なるデザインを検討しているとのことだ。抽選企画の景品にはサイン色紙や招待券を用意した。

Quick Ticketや、それに付随するビクトリーフォトなどの特典は「全球団で導入してほしい」「おもてなしがすごい」など、SNSで様々な反響を呼んでいる。河野氏は「こういった声を集めていくことによって、徐々に座席が埋まっていく試合が増えるのではないか」と、今後のスポーツ界の変化に期待を寄せている。

スポーツ業界を変革させるために、河野氏は「ファンの体験を高め、主催者にしっかり儲けてもらう」ことが必要だと論じた。日本ではスポーツはビジネスではなく、体育として捉えられがちだが「スポーツはお客さんを楽しませてくれるし、勇気を与えてくれるものなので、もっと投資されて良いはず。投資されれば、今後さらに良いコンテンツが生まれてくる」と、スポーツがビジネスとして成り立つべきであると主張している。