企業のマーケティングに「スポーツ」を。Instagramが示す新たな可能性

2020.02.10 竹中 玲央奈


世界的なSNSであるInstagramが“スポーツマーケティング”に特化した「The Heart Of Sports」という特設ページを公開したのをご存知だろうか。世界中のスポーツファンやアスリートが利用するプラットフォームとしての特性を活かし、企業のマーケティングをサポートしていく。こういったメッセージが込められており、今後の“スポーツビジネス”を加速させていくための大きなヒントとなりえるものだ。

 

そして、これはInstagramを運営するFacebookの日本法人、フェイスブック ジャパンが企画した日本独自の取組みである。

https://business.instagram.com/a/heartofsports

なぜこのタイミングで“スポーツ”に特化したマーケティングを支援するスタンスを打ち出したのか。また、日本と世界の“SNSマーケティング”の違いとは。

フェイスブック ジャパンでこのプロジェクトに主要メンバーとして関わる水谷晃毅氏に話を聞いた。

 

“スポーツが盛り上がる3年”に向けて

−Instagramが“スポーツ”をここまで押し出すのは喜ばしいことだと思いました。この取組み、サイト自体のターゲットはどういった人たちになるのでしょうか。

サイト自体は一般企業のマーケターおよび、広告代理店の方々をターゲットとしています。また、アスリートにも見て頂いて「Instagramを使ってみようかな」と思うきっかけの1つになれば良いかなとも考えています。これはスポーツマーケティングにおけるInstagramの役割を考える総合的な活動の一部で、他にもアスリートや企業向けのイベントやワークショップを実施したり、アスリートを起用したマーケティングプランを企業や代理店と一緒に開発したりしています。全体で色々な取り組みをする中での1つの情報発信という位置づけですね。

 

−“Instagram×スポーツ”という切り口でのこういった打ち出し方は全世界的にやっているものではなく、日本のみなのですね。

海外でもスポーツチームがInstagramを積極的に活用した例、アスリートを起用した広告キャンペーンの成功例などはあるものの、今回のように総合的な取組みをするケースは弊社でも珍しいと言えます。というのも、直近の日本は“スポーツが盛り上がる3年”だと言われています。ラグビーW杯があり、オリンピック・パラリンピックがあり、ワールドマスターズが開催されます。数年前、この取組みの構想を検討していた中で、「Instagramを使ってアスリートが影響力を獲得することで、彼らのセカンドキャリア形成に貢献できるのではないか」という仮説が生まれました。スポーツというコミュニティにおいてInstagramの存在価値や役割を発信していくことができれば、アスリートや企業の課題解決にもつながるのではないかと思っています。

 

海外のスポーツ市場はとても大きく、クラブチームの売り上げも大きいです。それゆえにメディア予算を多く投じたり、人材も豊富にいるのでデジタルメディアを多く使ったり…という現状があります。弊社のプラットフォームを活用した例を見ていても、海外の方が多くの成功事例があります。日本にもせっかくこの3年がくるので、盛り上げて行きたい、そういう思いもありました。

 

−その動きの中心に水谷さんがいらっしゃると。

私のメインのミッションは“FacebookやInstagram広告などの弊社ソリューションを通して、日本企業や代理店のビジネス成長をサポートする”ことです。ただ、スポーツ文脈でこのミッションを達成するためにはアスリートにInstagramを積極的に活用していただく、企業側にInstagram上での情報発信にアスリートを起用することの利点を知っていただくなど、前提条件がたくさんあります。そこを整えながら企業と選手がWin-Winになるようにしたいんです。

 

“インスタが上手い”タイ代表の選手

−アスリートやスポーツチームとInstagramの親和性というのはどういうところが挙げられるのでしょうか。

競技をしている姿自体がビジュアルとして引きがあり、Instagramとの親和性が高いですし、競技以外でファンが求めているコンテンツ=プライベートの姿を発信しやすい。Instagramストーリーズという機能がまさにそうです。言葉で発信することが苦手なアスリートもいらっしゃると思いますが、ストーリーズは投稿した写真や動画が24時間で消える上、スタンプやフェイスフィルターなどの加工も簡単なので、手軽に発信できる魅力があります。もう1つは、やはりアクションを促せるプラットフォームというところです。これはInstagramの特徴でもありますが、投稿を通じて商品やサービスを発見し、ウェブサイトで詳細を調べたり、店頭で買い求めたりする利用者が多くいることが分かっています。また、スポーツ文脈でいうと、アスリートに影響を受けて商品を購入したことがあるInstagram利用者が60%もおり、ブランドコンテンツとの相性も良いと言えます。

 

−そういう面でいうと、北海道コンサドーレ札幌に所属するチャナティップ選手が上手くInstagramを使っていると聞きました。

選手を取り巻く環境でいうと、JリーガーやBリーガーは東南アジアの選手に比べると待遇が恵まれていて、給料も高いです。逆に東南アジアは、チームからもらう給料が高くない分、自分でインフルエンサーとして活動してお金を稼ごうというモチベーションが高く、そのためにInstagramなどのSNSで情報発信を行って自身のブランディングに役立て、企業とのコラボレーションをすることに積極的なようです。

 

 

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@mizunothailand สีใหม่ครับผม 💓🙇🏼🙏🏽

Chanathip Songkrasin(@jaychanathip)がシェアした投稿 –


−サイトをオープンして以降、企業から問い合わせは来ているのでしょうか。

はい。企業の方も、契約している選手はいるものの、彼らをどう起用して良いのかアイディアやノウハウがない、というケースがかなり多いです。「とりあえずテレビCMに出てもらう」というような、いわゆるトラディショナルなやり方で止まってしまっている企業もまだまだ多い。そこに対して「Instagramを使うとこんなことができるんですよ」と提示させていただける機会は増えてきましたね。

 

−海外のほうがアスリートを使ったプロモーションは進んでいたり、プロスポーツクラブが自社のInstagramアカウントをうまく活用してスポンサー満足度を高めていたり、というのがあるかなと。参考となる事例があれば教えていただきたいです。

例えばIGTVを使っているNBAのチームは多いですね。試合の途中や練習シーン、プライベートの姿などの動画を作成し、IGTVに投稿しています。ストーリーズだと動画は最大15秒という制限がありますが、IGTVは縦型で最大60分の動画を投稿できます。IGTVで撮った動画のプレビューをフィードに投稿したり、ストーリーズにリンクを追加できるようになっているので、「続きはIGTVで見てね」という使い方をしているクラブチームも多いです。

−ファンの方が見たいと思うものは、海外と日本で違うのでしょうか。

日本で調査をしましたが、グローバルと似た結果が出ました。「選手のプライベートや舞台裏をInstagramで見たい」という声が多いです。つまり、練習風景やオフの姿などを見たいというニーズが高いということです。アスリートのそういった姿を知った上で競技を見るのと何も知らずに競技を見るのとでは、実際の試合を見たときの面白さも違ってくると思います。普段の姿を見ていると、どこか親戚を応援しているような気持ちになりそうですよね。

 

試合のハイライトを見たければ動画プラットフォーム、結果を知りたかったらリアルタイム性の高いSNSなど、目的によって使い分けている人が多いと思いますが、舞台裏を知ることでより試合が楽しくなる、Instagramの役割はそこにあるのかなと考えています。

 

 

Instagramの投稿は“重く”ない

−狙いとしてはアスリート個人の発信を増やして価値を高めるという部分もあると思いますが、“企業がアスリートやスポーツをどう活用するか”というところをもっと広く教えていきたいのかなと。今でも企業がアスリートをPRに起用しますが、一番の目的はどこにあることが多いのでしょうか。

ブランドの語り手、代弁者としてアスリートを使うケースが多いです。好きなアスリートに影響を受けて購買行動を起こしたInstagram利用者が60%だという調査からも分かるように、アスリートを起用することでブランドや商品の価値が効果的に伝わり、売上などのビジネス結果につながることが見込めます。

 

また、企業として「アスリートにInstagram 上で商品を紹介してもらい、結果どれだけ売れたのかを追いたい」と思うのは当然ですが、今まではそれを追うことができませんでした。しかし、それも今後は変わってくるかもしれません。まだアメリカのみですが、インフルエンサーがショッピング機能を使って商品を紹介し、そこからECサイトへの流入を見ることで、どの程度売れたのかを測るという機能のテストも行っています。

 

その機能が日本に入ってくれば、Instagramの投稿をきっかけとした購買数が追えるようになります。例えば、堂安律選手が商品を紹介したらその投稿からどの程度売れたのかを裏側で追うことができる。これができると企業も、ブランディングだけでなく販売チャネルとして選手を活用できることになります。今は本当に過渡期というか、フェーズが変わっていくタイミングですね。

 


Instagramを使って色々とプロモーションをしたいと思っている中、様子見のチームもいるのかなと。

トライしたいけどデジタルに精通した人がクラブ側にいない、というケースは多いです。よく見るのが、チームのSNSよりも選手個々人のSNSの方がよく発信されていて、チームスタッフよりも選手の方がむしろ詳しいということもあります。

 

また、チームの方からすると、Instagram上での投稿を重く考えすぎてしまうという傾向が若干あるように感じます。実際には利用者の方はそこまで重い気持ちで見ていないですよというのは伝えたいですね。一語一句こだわってテキストを考えて投稿するよりも、もっと気楽に選手同士のトレーニング後の姿を撮ってあげるくらいで良いと思います。

 

特にストーリーズは、しっかりと文章や写真を構成してから投稿するのではなく、何気ない瞬間を撮影してシェアするのに向いています。ブーメランやアンケートスタンプ機能など様々な機能があるので、気軽に使って投稿してもらいたいです。

 

−海外の事例ではどういうものがあるのでしょうか?

サッカーチームでいうと、レアル・マドリードも効果的に活用していますね。オーガニックの投稿だけでなく、彼らはちゃんと広告も活用しているんです。これはFacebook広告ですが、ビジュアルにも動きをつけてモバイルに合わせたクリエイティブを作っています。


こういう形でグッズや年間チケットを売っていっています。普段の投稿だけではなく、InstagramやFacebookの広告も併用しながら、ビジネスを伸ばしています。「さすがレアル」という感じですね。

 

−自社のサービス、ブランドのPRだけではなく、スポンサー企業を絡めた動きもできそうですね。

テニスのジョコビッチ選手はアシックスさんと契約しているのですが、ジョコビッチ選手を起用したブランディングムービーやCM素材をアシックスのアカウントの投稿から投稿するだけではなく、さらにジョコビッチ選手にブランドコンテンツタグを付けて彼のアカウントからも投稿してもらっています。そうすることによって、ジョコビッチ選手のアカウントからもファンに効果的にリーチし、ブランドメッセージを発信することができます。

 

“本当に選手自身が好きなプロダクトを紹介しているかどうか”という点がこのような広告では大事になってきています。インフルエンサーマーケティングでは、多額のギャラを払って1回限りの投稿で商品を紹介してもらうというケースも見受けられますが、それだと利用者もわかってしまうんです。スポーツ選手とスポンサー企業の関係でいうと、ある程度の期間継続して選手を支援するというケースがほとんどですので、選手がブランドに対して持っている愛着や思い入れが投稿にも反映され、利用者にも伝わると思います。

 

売りや露出が数値化され、スポンサーメリットに

−スポンサーに対してどういう形でリターンを出すのかというのを苦心しているチームは多いかなと思います。

ブランドコンテンツツールを活用いただけると、企業側でも、チームやアスリートがした投稿が見られた回数や、いいねの数などのパフォーマンスを全部追えるようになります。例えばアディダスさんからすると「レアルから投稿してもらうとエンゲージが高まるので、これだけのスポンサーフィーをお支払いしても効果はあるよね」といった会話が生まれると思います。Jリーグのチームなど、国内のスポーツチームにもぜひ活用してほしいですね。

 

 

 

−プロスポーツクラブもInstagramを1つの商材として売っていくのは良いのかなと。

ありだと思います。おそらく年に1回スポンサーと契約の見直しがあると思うのですが、「今年払った金額の価値はありましたか?」というような話は絶対にあると思っています。そういう時、「私達のチームはデジタルの使い方をわかっていてInstagramをこういう風に使っていて、御社にこうしてお返しができますよ」ということを言えると良いのかなと。

 

−将来的に取り組んでいきたいことを教えていただけますか?

今後もアスリートやクラブチーム側にInstagramをよりうまく使っていただけるようにアプローチしていきたいです。もう1つは、企業とアスリートが効果的にコラボレーションする方法の情報発信です。アスリートはアスリート、企業は企業でセミナーをやることが多かったのですが、一同に両者が集まる場をもっと作っていければと。スポーツを取り巻く色々な人たちを集めて、Instagramというプラットフォームをどう使っていけば皆にWINがあるのかを一緒に考えるイベントを継続的にやっていきたいと考えています。