年間50万人達成!グランパスが取り組んだ、ホームタウン戦略の全ぼう

2020.04.07 竹中 玲央奈

明治安田生命J1リーグに所属する名古屋グランパスは、近年その“集客面”で話題となることが多い。2019年には目標としていた年間50万人を達成。これは、クラブ史上初の数字である。

“集客増”の要因としてマーケティングやプロモーションが貢献したことは間違いないが、実はその裏側には徹底的に地域に密着し、本拠地に住む人々に“愛される”ための施策を行なっていた。

グッズショップである「クラブグランパス」の大須商店街における再オープンや鯱の大祭典の裏側を、ホームタウン担当の田中希代子さんに話を聞いた。

 

 

行政が「自分たちのクラブ」と思えるか

ーそもそもですが、クラブにおけるホームタウン担当の役割は、どういった部分でしょうか?

“興味のない人に興味を持ってもらう”ということが、私たちのすべきことですね。名古屋グランパスの名前を知ってもらい、話題に出るようにし、スタジアムに来場してもらうまでの種まきです。

 

ー地域の人たちに知ってもらうことだと。

はい。その中で私たちは商店街を回ることを重視しています。2019年には21個ある商店街と連携を進めました。中には「グランパスを応援したい」と言ってくださるところもありますし、逆に私たちから「一緒に取り組みをしませんか?」と提案し「名古屋の街を一緒に盛り上げていきましょう!」と応えていただくこともあります。

グランパスが関わることで若い人たちやサポーターの方が近くの商店街に足を運んで買い物をする機会を作り、活性化させられれば。

活動を通じて街の人たちの日常会話に「グランパス、調子いいね」という言葉が出てきたら、私たちの活動の意味もあると思います。ただ、これを数字で計測することはできません。成果がわかりやすく見えるものではないので、限りのない仕事でもあります。

 

ーそういった地道な活動の中で手応えはありますか?

ここ2,3年、クラブはJ2に降格してプレーオフでJ1に上がって…という経験をしました。その中で、ホームタウンの街と一緒に応援できた感覚があります。商店街の皆さんや行政の方々と協力しながら取り組めたことは、とても大きな意味があり嬉しく思います。行政の方々に、「自分たちのクラブ」だと思ってもらうことはすごく重要です。職員の皆さんが市民の方々に対して「グランパスを一緒に応援しましょう」と発信してくれたのは非常に効果があったなと思いました。

 

ー行政との取り組みはどういったものがあるのでしょうか?

2013年から、栄の街中にバナー掲出をさせていただいています。本来、大通りは公共施設なのでこういった取り組みはなかなかできません。われわれは「でらスポ」という名古屋主催のトップスポーツチーム連携プロジェクトに所属しているので、可能になっています。こういったことは、行政の力なしにはできません。

豊田市役所さんは応援コーナーを設けてくださったり、グランパスロードのマンホールをマスコット仕様に変えたり、図書館の返却カードをグランパスのカードで作ってくださったり。いろんなことをやってくださっています。マンホールについては、豊田市の下水道局さんから「せっかくならスタジアムの付近はデザインを変えてみないか」とご提案いただいたんです。

また、練習場の最寄駅内にはグランパスの選手パネルやベンチを設置してくれたり、駅から練習場までの道のりにグランパスフラッグを掲出してくれたり、みよし市さんにも非常に協力いただいています。こういう形で、行政の方と一緒に盛り上げていこうと取り組みはじめたのが2017年のことです。

 

ーシャツは無料で配るのでしょうか?

いえ、1枚1,000円ほどでご購入いただいています。また、応援シャツを作成して、試合の前日と前々日の就業日には役所の皆さんに着ていただくお願いをしています。2017年の時はTシャツを、2018年はポロシャツを作りました。2019年は鯱の大祭典の柄に。

また2019年の「鯱の大祭典」応援Tシャツはホームタウン3市(名古屋市、豊田市、みよし市)だけで2,800枚ほどご購入いただきました。職員の方が、個人として応援してくださっています。

 

ーランドセルカバーも作られていると聞きました。

2019年からトヨタグループの企業さんから協賛をいただきランドセルカバーや下敷きなどを作ってホームタウンの小学1年生に無料配布をしました。

また、17年は、グランパスのマスコット「グランパスくん」をあしらった交通安全リフレクター11万人に配りました。交通事故発生防止の活動も地域の課題解決であり、ホームタウン担当の役目です。愛知県は、交通事故件数が残念ながら全国的にも非常に多く、事故発生防止の運動や防災活動は、重視して取り組んでいます。

 

 

クラブグランパス“復活”まで

ー2019年は、大須商店街に「クラブグランパス」(グッズショップ)が復活したのも大きなトピックでした。

そうですね。2007年の11月まで栄の広小路通に初代クラブグランパスがあったのですが、少しずつ来店されるお客様が減少し閉店しました。それから12年ぶりの復活となります。

 

ーなぜ、大須商店街にできたのでしょうか?

もともと、大須さんは名古屋の中でも栄くらい人が集まるところなんです。グランパスのサポートタウンにも入ってくださっていましたが、そこまで(サポートタウンとして)ご一緒する機会がありませんでした。

 

転機となったのが、2017年末。河村市長と社長の小西が会食した際、「大須で何かやりたいですね」という話をしたところ、河村市長が大須の近くに住んでいる同級生の方に「グランパスさんに協力してくれないか」と電話を入れてくれたんです。

それからトントン拍子で話が動いて、応援呼びかけ活動も河村市長にご参加いただきました。そんな折、大須商店街さんから、「東仁王門通(大須商店街の一角)に1店舗空いたので、グランパスさんどうでしょうか?」と話をいただいたんです。いつかはショップを復活させたいと思っていたので、2019年の再オープンに繋がりました。

 

ーリアル店舗は広告宣伝にもなりますし、“街、地域の象徴” と思えるので存在価値がありますね。

その通りで、グランパスとしても課題でした。ずっとどこに作ろうかグッズ担当も迷っていたのですが、大須商店街さんから話をいただけたので。ホームタウングループが繋げる縁だと思います。

大須商店街さんは、テレビの取材がよく入るんです。最近だとタピオカブームでカメラが回っていました。その中にグランパスのフラッグが映り込むたびにファミリーの方々がSNSで喜んでくださると、自分事のように嬉しいですね。

 

ー昨年は、年間入場者数50万を超えました。田中さんが以前、広報をしていたときに比べるとやはり増えた感覚はあるのでしょうか?

2019年に11,000人が入ったルヴァン杯の平日ナイター試合がありましたが、広報を担当していた時のカップ戦のイメージは6,000人ほど。バックスタンド側に人がたくさん居る光景は、あまり見たことが無いというのが正直なところです。

 

ー昨年、鯱の大祭典で平日の瑞穂で2万1000人を集めましたが、これはすごい数字かなと。ソフトバンクホークスの鷹の祭典をヒントにしたと別の媒体で見ました。

2018年に、社内のメンバー5人で鷹の祭典を視察に行きました。もともとグランパスでこういったことをやろうという話は出ていたのですが、実際のイベント期間中に福岡の街中やスタジアムで起こっていることを調べるために行ってきたんです。

その中で感じたのが、やはり街に協力してもらうことが大事なんだなと。その中でサポートタウンの商店街加盟店に「鯱の大祭典で行われる4試合を盛り上げていきたいので、色々と協力していただきたいです」と年初に行われた商店街の皆さんの集まりでお話しました。

具体的には限定ユニフォームを購入いただき、4試合に向けて盛り上がる機運を作っていただきたい、と。皆さんが協力的で「ぜひ応援したいからやりたい」と言ってくださりました。加えて、商店街のフラッグを全て鯱の大祭典仕様にお取り替えしていただいて。

 

 

 

また、「独自で皆さん何か企画をされたい方は申し出てください」と話したところ、2つの商店街からご連絡を受けました。

瑞穂通商店街ではイベント期間限定の応援メニューを作りたいということで、鯱の大祭典応援どら焼きを作ってくれたり、あるカフェではマスコットをあしあしらったシャチプレートを作ってくださったり。また、今池商店街では郵便局さんのショーウィンドウに応援の展示コーナーを作っていただきました。特に大きかったのは今池商店街さん発案で、郵便局の職員の方々が鯱の大祭典応援Tシャツを着てくださったことです。郵便局でこのような連携活動をする事は容易ではなかったので、とてもありがたいです。

 

ーちなみに、21ある商店街との関係づくりはどのように進めていくのでしょうか?

ホームタウン担当をそれぞれ振り分けて、日程を書いたポスターやグッズ、フラッグなどを持って挨拶へ行ったり、地域のお祭りがある場合はそこでグランパスくんに参加させていただいたり、「グランパスの選手を呼んでトークショーをやったらどうですか?」と提案したり。

 

ーかなりの地上戦ですね。

そうですね。でも、私はホームタウン担当の仕事としてこれが最も重要だと思っています。

 

ーホームタウン担当として、選手を動かす案件はより地域に提案したいところだと思います。一方で、強化サイドでは競技に集中するため選手を出したくない意向を持っているケースもあると思います。

うちのクラブは強化部もクラブにとってのホームタウン活動の重要性を理解いただいていますので、しっかりコミュニケーションとれてやれていると思います。

 

ー改めて、Jクラブにおけるホームタウン担当の重要性や存在意義を教えていただけますか?

サッカーの裾野を広げること。この活動をすることで、サッカーをする人、興味を持つ人、観戦する人が増えていくと思います。その“土壌”を作るのが、ホームタウン担当の役割かなと。

“相手が何に困っているのか”  “グランパスでお役に立てることはないか” 常に考えて活動しています。地域の課題を解決すると言うとおこがましいですが、お困りごとにグランパスを使っていただいて、解決に向かえたら。「グランパスと組んでよかったな」と思える活動にもっと取り組んでいきたいですね。