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いわきFC×ロート製薬。「良い香り」が試合のパフォーマンスアップを導く!?

2021.01.18 / 竹中 玲央奈

JFL所属のいわきFCは、パートナー企業であるロート製薬と、べレアラボが開発したグリーンの香りをロッカールームに取り入れ、選手の精神面にどう影響するかを調査。香りが選手の精神的負担を軽減させるという結論に至った。クラブがなぜ“香り”に着目したのか?いわきFCのCOO・岩清水銀士朗氏に話を聞いた。


<写真提供:いわきFC>
※2019年公式シーズンにて検証。上記写真片山選手は2020年シーズンをもってチームを退団。

ロート製薬が運営する「BÉLAIR LAB(ベレアラボ)」。12月1日には「上質な香りで空間を満たすことで感性を刺激し、日々の暮らしを豊かにする」(プレスリリースより)室内用フレグランスを発売したが、一般発売を前にスポーツの現場でとある実験が行なわれていた。

ロート製薬 香りと感性の研究所「BÉLAIR LAB」より空間の香りコレクションを発売

 

JFL所属のいわきFCは2019年シーズンに、パートナー企業であるロート製薬と共に当時東北社会人リーグの公式戦にべレアラボが開発したグリーンの香りをロッカールームに取り入れ、その有無が選手の精神面にどう影響するかの調査を実施。そして、この香りが選手の精神的負担を軽減させるという結論に至った。

広大なトレーニング施設を持ち、栄養面を始めとしたオフザピッチでのサポートが充実しているこのクラブが“香り”に着目した理由とは。そして、今回のような企業と連係したスポンサーシップの活用について、いわきFCのCOO・岩清水銀士朗(いわしみず ぎんじろう)氏に話を聞いた。

 

香り×スポーツの研究は世界では既に進んでいる

―ロート製薬さんとの取り組みの起点について教えてください。

最初はご紹介だったのですが、縁もありました。ロート製薬さんがべレアラボを立ち上げ、そのオフィスの内装工事をした方が、いわきFCパークの設計に関わった方だったんです。

ベレアラボさんは、スポーツで香りの検証をしたいという構想があったようでした。それであればクラブの戦略に「世界基準のチームビルディングを行なう」と掲げているいわきFCにと考えていただき、ご紹介いただいたのがきっかけです。

 

―そこからどういう形でこのパートナー締結は進んだのでしょうか。

何度か打ち合わせを重ねた中で、ロート製薬さんから「べレアラボとして香りを使った新しい取り組みをしていきたい」というお話を、改めていただきました。

そして、昨年1年間を丸々使ってべレアラボの検証をしました。丸1年かかったといえばかかったのですが、ロート製薬さんのご担当の方がすごくこの取組みを評価してくれたんです。会長さんとも直接お話しいただいて、「この取り組み自体はすごい面白い!」と会社の中でも高い評価を得られたようでした。

 

―実際にどういった形で実験を行なったのでしょうか。

東北リーグを戦っている中で試合前、試合中、試合後にロッカールームに香りがある日とない日を分けたんです。香りがある日はハーフタイム中もソニー製のアロマスティックで香りを嗅ぎました。 そして、選手にアンケートを取ると。このスキームはロート製薬さんと一緒に作りました。

先ほど申し上げた通りクラブのストラテジーの中に「世界基準のチームビルディング」というものがあります。ここに関わるものであれば、色々な取り組みをしていこうというマインドがクラブにあります。マインドにフィットするものは、基本的に全て受け入れる。

もちろん、取り組みとしてお金をもらえるから、という理由もありますけど「チームとしても良いものが得られるならやろう」という声が挙がります。本件も社内で賛同が得られたので、「こういう実証実験をするから協力してほしい」と選手に伝えたんです。

いわきFCでCOOを務める岩清水氏

 

―「アロマ系の香りが良い」というような話は聞きますが、印象論のような側面もありますよね。ただ、こういった実験を元に効果が実証されると、やってみようと思いますね。

以前、アンダーアーマーがアメリカのポートランドに持っている研究所へ田村雄三監督が行ったことがありました。本当に色々なものが最先端で驚きました。日本では見たことのないものばかりで、その中の1つに香りについての研究室がありました。「この匂いを嗅いだらリラックス効果が高まる」というようなことを実験している場所ですね。

香りとアスリートのコンディションの関連性を調査する取り組みは世界の最先端では行なわれていたんです。その印象が僕らの頭の中に強く残っていて、やってみたいという思いはあったんです。

 

―ドームアスリートハウスも持っていて、いわゆる“トレーニング面”の向上に力を入れていますが、フィジカルコンディションを上げるという意味ではこういった部分も関わってきますよね。

身体を大きくして強くなるために必要な要素はたくさんあり、香りから得られる効果もその1つかなと。もちろん食事も大事にしています。そのために栄養士がいるし、栄養が摂れているかどうかを見るために血液検査を2ヶ月に1回、実施しています。そこで、鉄分が足りてるかどうかを確認して、栄養士とドクターが会話をし、食事やサプリメントに反映していきます。

 

香り“以外”でもさまざまな取り組みを

―選手の反応はどうでしたか?概ね良い効果が出ていますが、前田尚輝選手(※)はかなり評価をしているみたいですね。

もともと、前田選手は自分の中でルーティンを持ってたみたいなんです。試合前はスマホを見ないようにしたり、目のストレッチをしたり。ボランチなので視野を広くするため、とのことでした。この香りによって「今日は試合なんだ」とスイッチが入ったり、精神的に落ち着いたり、と本人は効果を感じているとコメントしていました。

ただ、全体的に言うとそれぞれ匂いに好き嫌いはあるので、当然ネガティブなコメントもありました。でも、精神的に落ち着くとか疲労が和らぐという声は全体的に見られました。

(※)前田選手は2020年シーズンをもってチームを退団。

 

―香りのあり・なしで最も差が出た項目はどういうものでしたか?

緊張、不安、心配や焦りという精神的にネガティブな項目ですね。香りを使わなかったときと比べて、香りを使ったときの方が減少しました。

7月のリリースには出していないのですが、実はもう1つ面白い考察があります。それはあくまで選手の主観評価になるのですが、香りを取り入れた試合での走行距離です。毎試合、GPS装置をつけて選手の走行距離を測っているのですが、香りを取り入れた試合とそうでない試合のデータを試しに比較してみたところ、走行距離が伸びる傾向がありました。

とはいえ、対戦相手のレベルや試合ごとにメンバーも入れ替えているので、なかなか比べづらいところはあります。あくまでも「香りが関係あるのでは…」という仮説レベルのものです。全く同じ環境は作れないですからね。

 

―こういった実証実験や活動は来季も取り組んでいくのでしょうか?

異なった分野での検証について、ロート製薬さんとお話をしているところです。サッカーでもう一つ重要な要素である「頭脳」への香りの影響です。一定の時間内にランダムに1から100まで並べられた数字を1から順にチェックしたり、豆を箸で拾って皿から皿へ移動するなど、いくつかの集中力テストを組み合わせ生体反応をみていきます。この作業を香りありの部屋となしの部屋で分け、時間や達成度、集中力の差を測るというものです。

ロート製薬さんはクラブにとっても重要なパートナーさんですし、私達といわきFCの持つこの環境とかも含めて、かなり理解いただいています。今後も色々と取り組んでいければと思っております。


<写真提供:いわきFC>

恵まれた環境を利用し、企業と「価値づくり」を

―今後、クラブとしてはどういったことに取り組んでいきたいと考えていますか?香りのところ以外でも最高のパフォーマンスを出すためには他の要素もありそうです。

睡眠からくるパフォーマンスの繋がりという実験をしてみたいと言う声は上がってますね。よく寝れている選手の方がパフォーマンスが良くて、時間としては寝ていてもその眠りが浅いとパフォーマンスが悪い、というような。こういった実証実験もしていきたいですね。

 

―こういう“実験”ができる環境があると、スポンサーメリットを提示するときの「手札」として強いのかなと。「御社の製品のこういう実験もできます」と言えますよね。実際に営業時にそういったお話はしてるのですか?

はい。私達が持つこのいわきFCパークという施設、環境を使ってこういう取り組みができるという提案は積極的にしていますね。

 

―最後になりますが、スポンサーシップにおいて改めて意識している点を教えてください。

「お金をください」と提案はほぼ、やっていません。プレゼンをする際は“僕らが何を目指そうとしているのか”という点を重視しています。私達が持つミッションの話をする中で「サッカーで勝ちたい」というメッセージは良い意味で強く発していません。

それよりも地域のためにどう価値を作り、人を育てて地域と一体化してどういう街を作っていきたいのか。そういうお話をした上で共感いただき、ご協賛につながっています。そういう意味では街作りに近い部分がありますね。このスタンスは今後も変えずに、続けていきたいと思っています。