エスパルスとカンボジアを救う。タイカが示す「社名を出さない」スポンサーシップ

2021.03.19 竹中 玲央奈

清水エスパルス(以下「エスパルス」)のユニフォームに、「カンボジア」の国名が入った。

一見するとアジアの国家がスポンサーになったように見えるが、そうではない。2017年からエスパルスとオフィシャルパートナー契約を結んでいる株式会社タイカ(以下「タイカ」)がスポンサーフィーを増額し、パンツスポンサーの枠にカンボジア王国の国名を掲載したのだ。

Jリーグの歴史の中で、特定の国名がユニフォームに載るのは史上初だ。しかも、カンボジア政府公認である。外務省の尽力もなければ実現しなかった。

タイカは2012年から、東南アジアの生産拠点としてカンボジアに工場を置き、雇用創出に寄与してきた。それのみならず、現地で女子サッカーチームを作ったり、フットサルコートを寄贈したり……と文化面のサポートも行なっている。両者の繋がりは強い。

そんな中、新型コロナウイルスの世界的流行によって、カンボジアの主要産業である観光業がダメージを受け、失業者も増えていることがタイカ・鈴木大登社長の耳に入る。

 

「不思議なくらいに、他人事ではないなと思いました」(鈴木社長)

同国を救いたいという彼の強い思いから、今回の取り組みが実現した。主たる目的はカンボジアにエールを送ることと、エスパルスとカンボジアを繋ぐことで、同国のサッカー文化の発展に寄与することだ。

サッカーボールやスパイクの寄付に始まり、現地でのサッカークリニックの開催も見込んでいる(※後者は新型コロナウイルスの流行が、ある程度収束した後の企画)。今年の夏に開催されるタイカの冠試合では、試合中継を始めとしたカンボジア国内に向けた発信の準備もしているとのことだ。

 

「今回の契約を機に、タイカ様とエスパルスが日本とカンボジアの架け橋になれれば、と強い思いを抱いています。カンボジアの皆様にサッカーを楽しんでいただき、またJリーグに興味を持っていただき、そしてエスパルスのファンになっていただければと思っています」

エスパルスの山室晋也社長は、強く意気込んだ。

 

黒子となり、二者を支える決意に至るまで

「スポンサーはただお金を出せば良いのではなく、出し方も考えないといけません。みんながそれを考え始め、知恵や意味をそのお金につけることによって、いろいろなものが生まれてくると思います。 “そこに自分の考えが入っているか”が重要なのかなと。

今回の件で言うと、自分たちが今できることを考えた結果、こういう思いを乗せてやりたいと思いました。カンボジアの観光大臣とJETRO(日本貿易振興機構)との面談記事で、カンボジアの観光業が大打撃を受けていることを聞いて、自然とカンボジアを応援したくなったんです」

鈴木社長は、経緯をこう語る。もともといち生産拠点でしかなかったカンボジアだが、日を重ねるごとに思いは強くなっていった。

 

そして、危機にあったのは友好国だけではない。日本のスポーツ産業も未曾有の危機に直面し、厳しい経営状況にある。自らが生まれ育った土地に根付いているクラブも、例外ではない。

一方でタイカは、幸いなことに業績の悪影響を抑制できている。背景にあるのは5GやDXという需要増だ。鈴木社長の言葉を借りれば、“余力がある”状況となった。

ともすれば、先行き不透明な状況下において、その余力は蓄えておきたい、と考えがちである。ただ、鈴木社長は「そのときゆとりがある人が、周りの人をフォローすることが人間社会において必要だ」と考え、支援に踏み出す決意をした。

「私は従業員に対して、『いつも主役であるべきではない』と言っています。それは私も同じで、社長だからと言って常に主役ではありません。時には黒子にも回ります。

企業としても、一つの事業で利益を出し続けるのは難しいです。だからこそ、違うところで補完する必要があって、それはどの組織でも必要になる。社会も同じです。スポーツで言えば、調子の良い選手は使い続けますが、悪ければ下げます。野球でも、同じ選手がずっと4番でピッチャーというのは成り立ちませんよね。

今回、たまたま私たちには余力があった。だから、黒子に回ってエスパルスやカンボジアを支えようと思ったのです。また、一期一会をどう捉えるかだと思います。『袖振り合うも多生の縁』という言葉があるように、関係を持ったからには何かを伝え、学び、支えたいと思います。こういう姿勢が私の中にあるんです」

 

2月22日に行われたスポンサー締結の会見には、在日本カンボジア王国特命全権大使のウン・ラチャナ閣下も足を運んだ。そして、こう話していたのが印象的だ。

「カンボジアにおいて、タイカ様はビジネスだけでなく、社会や地域の活動にも取り組んでいます。また、スポーツの発展に関して積極的に支援をされており、カンボジアの学校にフットサルコートを3面寄贈されています。タイカ様は他の企業が追随する模範となるだろう、という私の意見に、皆さんは同意してくださると思います」

著名なプロスポーツチームのスポンサーとなれば、ファンや関係者からの支持を集めることができる。そして、工場を構える国の名をユニフォームの枠に露出することで、“社会貢献”の姿勢を対外にアピールできる。そう考えれば、「自分たちも」と名乗り出る企業も少なくないだろう。

ただ、長く築いた信頼関係があったからこそ、今回の取り組みが実現したのだ、ということは声を大にして言いたい。

ウン・ラチャナ閣下(中央)を山室社長(左)と鈴木社長(右)で囲む

 

日本が繁栄するきっかけに

自社でフィーを出しながらも、黒子に徹し、社名露出もしない。ここに関して、鈴木社長はきっぱりと「費用対効果というものは考えていない」と言いきった。

「今回の取組を通じて『こういうことをしている会社だ』と、理解していただければ嬉しいです。そのためには、いつでも誰かのためになれるように、財務体制を整えなければいけません。

私たちも、こういった支援を通じて成長しています。クラブを始め多くの関係者の方々とお話しする中で、様々な勉強にもなり、自分の知見や思考の枠を広げられます。取り組み自体は日頃お世話になっているカンボジアのためにもなる。だからこそ、見返りを求める必要はないんですよ。

 

矛盾するようですが、今回のロゴを見て“タイカがやっている”と直接的に分かってもらう必要はないんです。むしろ『これはなんだ?』という好奇心から調べていただいた上で、『タイカはこういうことをやっているんだ』と知ってもらえたら嬉しいです。そのほうが記憶にも残りますからね。

生まれ育った地元に貢献しつつ、一緒にカンボジアに対して何かできるのは、自分の成長にもつながると思っています。私だけでなく、このような思いを通じた活動が各地で起きていけば、日本が繁栄していくのではないでしょうか。まずは私ができることをやらないといけない。そして、それが今回のエスパルスとともにカンボジアを支援することだと思っています」

タイカが示したこの姿勢とマインドは、これまでになかった新たなスポンサーシップの形と言えるだろう。だが、これはスタートに過ぎない。重要なのは“これから” だ。一過性のものとならず、広く長く受け継がれていくことを切に願う。