経営者、審判、コンサルタント。それぞれの立場で語るスタジアム・アリーナ

2017.12.21 AZrena編集部

TECH PLAY主催セミナー

11月9日。東京都渋谷区で『スタジアム・アリーナを起点に描く日本のスポーツビジネス』と題するセミナーイベントが行われた。

今回のイベントは、パーソルキャリア株式会社が運営する日本最大級のITイベント情報サイトおよびイベント&コミュニティスペース『TECH PLAY(テック プレイ)』が主催したものだ。

TECH PLAY(テック プレイ)

近年“スタジアム・アリーナ改革”に関する議論が活発化している中で、クラブ経営者、スタジアム・アリーナの専門コンサルタント、そしてサッカーの審判員というパネラーを招聘し、それぞれの立場から忌憚のない意見をぶつけ合った。今回は、白熱したパネルディスカッションの内容を一部抜粋してお届けする。

☆登壇者

石井 宏司 氏(ファシリテーター:SPOLABo 執行役員)

上林 功 氏 スポーツファシリティ研究所 代表

當麻(家本)政明 氏 サッカー国際審判員

藤本 光正 氏 Bリーグ栃木ブレックス 取締役副社長

橋本 大輔 氏 栃木SC 代表取締役社長

 

ウェンブリースタジアムでは自分の吹いた笛が聞こえなかった

-上林さんはスタジアム・アリーナの専門コンサルタントということですが、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

上林私はもともと設計事務所に勤めている建築士でした。ある日『君は胸板が厚いから』と言われたことがきっかけでスポーツ施設を任されました。それから12年間、ひたすらスタジアム、アリーナ、サッカースタジアム、陸上競技場、アイススケート場などスポーツに関するあらゆる設計をやらせていただきました。

建築業界というのは極めて分業が進んでいます。例えば、病院を設計するときに『医療コンサルティング』という人がプロジェクトの一員に加わります。よくお医者さんの事情を伺いながら、病院としてどのような機能を構築すべきか助言する専門家がいるのです。同じような形で『劇場コンサル』というのも存在しています。

ところが、いわゆるスタジアムとかアリーナのコンサルって存在しないんです。海外に目を向ければそういったことを生業にしている人がいる。それなら僕が日本で最初に、と。今は設計事務所で培った経験を活かしてスポーツ施設、特にスタジアム・アリーナの専門コンサルという形でご相談を受けている状態です。

 

-當間さんにお伺いしたいのですが、審判という立場で数多くのスタジアムのピッチに立ってこられたと思います。特に印象に残っているスタジアムはありますか?

當間僕は2010年にウェンブリースタジアムでイングランド代表対メキシコ代表の試合(2010年5月24日に行われたサッカーの国際親善試合)で笛を吹いたことがあります。屋根付きのスタジアムとして世界一の大きさを誇る上、座席が真っ赤。その威圧感たるや他のスタジアムとは全然違いました。

自分が吹いた笛が聞こえなかった、という経験をしたのはその時が最初で最後です。例えるなら音が“重み”として落ちてくるという感覚です。

ウェンブリースタジアムではホームチームが強いという話を聞いたことがあるのですが、それも頷ける気がします。僕たち審判も人間なので、公平に公正にと思っています。しかし、やっぱりサポーターの“圧”に影響されてしまうところがあるんです。もちろん意図してやっているわけではないですけど、心のどこかで恐怖心とか威圧感にジャッジを左右されるということは、無いとは言い切れません。

 

-なるほど。では国内ではどのスタジアムが印象に残っていますか?

當間ユアテックスタジアム仙台(通称:ユアスタ)です。なぜかと言うと、もちろん僕がベガルタ(仙台)のサポーターだからという訳ではなくて(笑)サポーターがすごく熱狂的なんです。さっきウェンブリースタジアムの話をしましたけど、このスタジアムは収容人数が2万人くらいなのに、それでも屋根に反響して声が落ちてくるんです。

僕が今まで行ったことがない国内のスタジアムは北九州のミクニワールドスタジアムくらいで、ほとんどのスタジアムでは試合をした経験があります。このユアスタだけが声が落ちてくるという風に感じます。そういった意味で、僕がレフェリーをしていて一番心地よく感じるスタジアムです。

 

上林ユアスタは屋根裏の形状自体が音を集める形になっているのではないかなと思います。実は劇場などの設計をする時でも、天井の形、スタジアムでいうところの屋根の形というのはかなり重要な要素を占めているんです。例えば覆われる形になっている天井は音を集めやすいといったことがあるんです。おそらくユアスタもサポーターの声が跳ね返ってくるような構図になっているのではないかと思います。詳しいところは図面を見てみないとわからないですが(笑)

 

重要なのは理念。スペックだけを追わないことがスタジアム設計の肝。

TECH PLAY主催のセミナー

-良いスタジアム、そうでないスタジアムには共通点があるのでしょうか。

上林大手の設計事務所やゼネコンさんなどにとって、実はスポーツ施設ってちょっと前までは新人の仕事だったんです。なぜなら、スポーツ施設ってものすごくスペックがはっきりしているんです。コートが何メートル×何メートルとルールブックに書いてありますし、スタンドの高さなんかもある程度は法令で決まっている。それから更衣室やトイレがおよそ何個欲しい、ということまで非常にハッキリしています。

ですが、そのようにスペックだけを追った、ビジョンや理念のないスタジアム・アリーナというのはダメなスタジアムになりがちだと思っています。むしろ『観客が一体感を感じるスタジアムにしてほしい』とか『もっと選手が興奮してたまらないようなスタジアムにしてほしい』というような要望をもとに、“それってどう作ればいいんだろう”と、設計者に考えさせなければ本当に良いスタジアムというのはできないんじゃないかなと思います。

そういう意味では、クラブチームだったりプロチームがそういう要望を設計者にガンガン言ってほしいんですよね。

 

-他にスタジアムを設計する上でポイントとなる点はありますか?

上林以前一緒にお仕事をした方に伺ったのですが、ものすごく熱意のある市長さんとか知事さんがいることは確かに大事。ですが、意外と良いスタジアム・アリーナを作るのに直結しないんだそうです。むしろ、熱意のある職員がいるかどうかというのが最も重要だとおっしゃっていました。

僕自身それをすごく感じたのが、マツダスタジアムの設計を担当させていただいた時です。広島市の新球場建設部というのが新たに立ち上がったんですが、そこに集まった方が広島市役所の中で選び抜かれた生粋のカープファンでした(笑)

スタジアムを建設する上で最後に選手に見ていただく機会があるんです。

マツダスタジアムの時は、同行していただく予定ではなかった広島市の職員の方が現場に来ていたんですよ。なんで来ているのかなと思っていたんですが、カープの選手が来たら「どうもどうも。担当している◯◯です。」みたいなやりとりをしていて(笑)
そんな光景から職員の方のカープが好きだという気持ちが伝わって来ましたね。

そのぐらいの生粋のカープファンが集まっていたおかげで、本当に仕事がスムーズでした。良いスタジアム・アリーナを作るためには、スポーツを自治体に根ざすために自分で動こうとされている方が集結する必要があるのではないかなと思っています。

 

市民・行政・クラブの理想の関係とは

-行政をどう動かしていくかというのは重要ですよね。

上林地域を巻き込むという意味で、近年は市民全員がステークホルダーとして一緒に考えながら、スタジアム・アリーナを作り上げていこうという話になってきています。

そして、その市民の代弁者であるのが市職員であり、行政であるはずなんです。そういう意味では、行政を目の敵にするのではなくて、味方につけるような形が一番良いのではないかなと思います。

 

藤本その話、すごく理解できる一方で、課題も感じます。栃木ブレックスの場合、行政の職員さんはすごく頑張ってくれているんです。窓口になってくださっている部署もそうですし、知事も市長も「何でも言ってくれ」みたいな感じでサポートしてくれています。

とはいえ、例えばトイレの数をもうちょっと増やしてください、と言うとします。そのためには予算が必要なので議会で承認をもらわなければ、という話になるんです。そして、「公共性はどうなんだ」という話に行き着いてしまう。それで、トイレが必要なのは栃木ブレックスが使うときだけじゃん、ということになると話が行き詰まってしまうんですよ。

それからBリーグは年間で30試合やるんですけど、その中で体育館を使用する時に市民の要望とバッティングしてしまうことがあるんです。地域に愛されなければいけないのに、むしろ恨みを買ってしまっているというケースもあります。そして、行政の方が僕らの代わりにそういう恨みを聞いてくれているんです。
そういう状況なので、行政の方も「ブレックスさんのために何とかしたいんだけど、市民の声をさし置いておいてまで新しいことをやるのはやっぱり難しい」と。そう言われてしまうと、何も動けないということがあります。

 

-クラブと行政の関係について、同じく経営者として橋本さんはどうお考えですか?

橋本やはり民意が高まれば行政も動かざるを得ないと思うんです。ピッチの芝の話になるんですけど、今年はあまり天候が良くなくて、芝の育ちが悪かったんです。栃木グリーンスタジアムは25年前から一度も芝を張り替えたことがないんですよ。だいたい10年で張り替えなきゃいけないって言われている中で、もう根腐れもしていて。指定管理者の方は本当にギリギリのところでリカバリーしてくれているんです。

それでも、対戦相手の社長とお話する時に芝の状態を心配されてしまうようなこともあります。そういう状況なので、サポーターの方のお叱りがクラブに来るんですよ。芝をどうにかしろ、と。あれがプロの試合をやる芝か、と。

ですが、そもそもグリーンスタジアムは栃木SCのものではなく、自治体の持ち物だということをご存知ない方もたくさんいます。なので、ぜひそういった意見を行政にぶつけていただきたいと思っています。

スタジアムをお借りして自治体と協力しながらいろんなことをやっていく中で、そこに民意も参加していただきたいですね。特に、今年は強く感じましたね。

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石井 宏司 氏 (ファシリテーター) SPOLABo 執行役員。1997年東京大学大学院卒。専攻は学校教育開発学。卒業後はリクルートに入社し、インターネット関連の新規事業や海外事業推進などを担当。2009年に野村総合研究所へ転職し、コンサルタントとして新規事業推進のほか、スポーツを絡めた事業戦略の提案などを行う。スポーツ庁未来開拓会議委員、日本女子プロ野球機構事業理事などを歴任。

上林 功 氏 スポーツファシリティ研究所 代表。建築家の仙田満に師事し、株式会社環境デザイン研究所にて主にスポーツ施設の設計・監理を担当。担当作品として「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」「日本女子体育大学総合体育館」など。2014年に独立、株式会社スポーツファシリティ研究所設立。

當麻(家本) 政明 氏 サッカー国際審判員。2005年から現在までサッカーの国際審判員およびプロ審判員として国内外にて活動中。Jリーグ等では「家本政明」の名義を用いることもある。Jリーグ主審/副審: 368試合/6試合 (2017年2月6日現在) 国際試合 102試合(2017年2月6日現在 *フレンドリーマッチ含む)

藤本 光正 氏 Bリーグ栃木ブレックス 取締役副社長。株式会社リンクアンドモチベーション入社。営業職、コンサルタント職などを歴任。2007年 ブレックスの設立に携わり、経営企画、選手獲得交渉、スポンサー営業、プロモーション、チケット、グッズ、スクール事業などほぼすべての職種を担当。2012年 取締役に就任。2016年 取締役副社長に就任。

橋本 大輔 氏 栃木SC 代表取締役社長。現在の株式会社栃木サッカークラブ設立時に発起人として立ち上げをおこなう。2015年に同クラブがJ3降格したことを機に2016年3月から代表取締役社長に就任、J2昇格を目指し、クラブの建て直しを行う。2017年栃木県サッカー協会副会長就任。