障壁を楽しみ尽くせ!女性パラアスリートが語る「挑戦の極意」とは。

2017.12.18 河合晴香


ウィルチェアーラグビー、別名「マーダーボール」。車いす同士の激しいコンタクトが認められている、唯一無二のパラスポーツだ。2016年のリオパラリンピックで、日本代表が銅メダルを獲得したこともあり、2020年の東京大会でもメダルが期待されている。

ウィルチェアーラグビーはその激しさゆえか、男女混合競技ながらも、男性選手の割合が圧倒的に高い。しかし2017年、女性として初めて、倉橋香衣(商船三井)がウィルチェアーラグビー日本代表に選出された。

2017ウィルチェアーラグビー競技大会速報動画

競技を始めて3年となる現在は、商船三井で働きながら、練習と両立させている。勤務は週に2回。うち1回は虎ノ門の本社に出勤し、あとの1日は在宅で仕事をしている。四肢麻痺(※両手足の四肢に起こる麻痺のことで、頸髄や脳などの損傷によっても起こる症状)という重度の障がいがあり、首から下は力が入らない。それでも一人暮らしをし、自ら車を運転して出社している。

彼女は、商船三井に初めてアスリート採用枠で入社した人物である。商船三井で働くことを選んだ理由を聞くと、「働きながらラグビーを続けたかった。会社を探しているときに、障がいも、ラグビーを続けたいという意思を、一番理解してくれたのがここ(商船三井)だったんです」と話してくれた。身の回りのことを自分で行い、生計を立てながらアスリートとして世界と戦う。常人には理解できないであろうハードな日常の乗り切るエネルギーはどこから湧いてくるのだろうか。今注目の女性パラアスリートの素顔に迫った。


(写真提供:商船三井)

代表選出という挑戦

「ぶつかっても怒られないんですよ、ウィルチェアーラグビーって。それがいいな、楽しいなって思うんです」
倉橋さんはウィルチェアーラグビーの魅力をそう話す。

ウィルチェアーラグビーは、1チーム4人で行われるスポーツだ。車いすバスケなど他のパラスポーツと同様、選手には障がいの程度によって、0.5点刻みの点数が付けられており、最も重い0.5点から3.5点までの7段階に分かれている。ウィルチェアーラグビーの場合、4人の合計点が8点以下になるようにメンバーを組まなくてはいけない。

男女混合競技であるウィルチェアーラグビーは、チームに女性選手が加わるときに大きな特徴がある。女性選手1人に対し、チームの持ち点から0.5点がマイナスされるのだ。倉橋さんの持ち点は0.5点。つまりそれは、チームに入ると0.5点が引かれるため、彼女自身の点数は実質「0点」になることを意味する。

「0.5点の男性選手と同じ動き、同じ活躍をできるようになりたい」と彼女は語り、練習は男性選手ばかりの中で行っている。なかなか厳しい環境に思えるが、そこへ入ることに抵抗を感じることはない。一番重い0.5点であっても、唯一の女性選手であっても、臆することなくぶつかっていき、そしてその環境を楽しんでいる。

リハビリが「楽しい」と思える強さ

倉橋さんは大学時代、トランポリンの競技中に首から落下し、頸髄を損傷した。それから3年間入院し、長いリハビリに励んだ。
「首から下に全く力が入らなかった。だから最初は寝たきり状態で、頭を起こすだけで貧血になったりして」と倉橋さんは当時の様子を笑顔で話す。ベッドから起きること、普通に呼吸すること、顔を洗うことから髪をとかすことまで、日常生活の全てがリハビリだった。スポーツ選手の中には、大きな怪我をし、自分のものとは思えないほどうまく動かなくなった身体に気を病む人も多い。しかし彼女は違った。できなくなったことがあるなら、またできるように頑張ればいい、そう考えていた。

「歯磨きできた、やったー!って言ってました。リハビリは楽しかったですよ。障がいを持ってもリハビリすれば、動けるしいいや、手紙もかけるしいいや、って思ってました。しゃべれるし、生きていたし」

できないことを嘆くのでなく、できるようになったことを喜んだ。

「入院中辛かったことは…特にありません。飽きることはありましたけど。また顔洗わないといけへん、めんどくさいなあとか。でも、それができないから入院してるんだなって納得していました」

変化は、人に不安をもたらすことが多い。今までとは違う環境、それまでとは違う自分。変わってしまうことで、怖くなり、前に進むことを躊躇してしまう。
しかしどんな状況に置かれても、倉橋さんは変化を楽しみ、変化することを望んでいた。