カバディは、月一千万円稼げる!? 知られざる集団スポーツの裏側
カバディは「究極の鬼ごっこ」とも呼ばれる、インド発祥の人気スポーツです。同国ではプロリーグもあり、数千万円稼ぐ選手も。その中で、日本人として初めて参戦したのが下川正將選手です。下川選手に、カバディの魅力について詳しく伺いました。
カバディ。インドで発祥した“究極の鬼ごっこ”と呼ばれ、近年数々のバラエティで取り上げられているスポーツです。「なんとなく聞いたことはある」という人も多いでしょう。
2014年にインドでプロリーグが発足したことを皮切りに、その人気はますます高まっています。それと共に、プロとして稼げる額も大きくなってきており、約1ヶ月のシーズンで数千万円を稼いでいるスター選手もいるそうです。
そんなプロリーグに日本人として初めて参戦したのが、2014年〜2018年までカバディ男子日本代表でキャプテンを務めた下川正將(しもかわ・まさゆき)選手です。今回は、カバディの魅力や、W杯やプロリーグについてのカバディの知られざる一面について伺いました。
撮影:市川亮
取材協力:株式会社Only1(https://only1-inc.jp/)
“究極の鬼ごっこ”・カバディの魅力
――そもそも、カバディとはどのような競技なのでしょうか。
下川:1チーム7人制の団体競技です。2チームが攻撃側と守備側に分かれて、攻撃側から一人だけ相手のコートに入っていきます。この攻撃している人をレイダーと呼び、守備側をアンティと呼びます。
レイダーは、アンティをできるだけ多くタッチして指先一本でも自分のコートに触れることができれば、タッチした人数分だけ攻撃側のチームに得点が入ります。レイダーは相手コートにいる間、「カバディ」と唱え続けなければなりません。
アンティは、レイダーを捕まえたり、コートの外に押し出したりして自分のコートに帰らせないようにすると得点が入ります。これを交互に繰り返して、合計得点を競います。
ルール自体はすごく単純なんです。触って逃げるか、捕まえるか。
動画引用元:日本カバディ協会
――確かに一見簡単そうに見えますが、下川さんがこの競技にのめり込んだポイントは何だったのでしょうか。
下川:コートが狭い上にタックルも自由にできるので、私も大学で初めて見た時には正直「簡単だな」と思いました。
でも、いざやってみると意外と難しくて。狭い空間の中で相手を触れそうでも触れなかったり、自分が見えていないところからタックルされて気づいたら捕まっていたりするんです。守備側でも、捕まえられると思って仕掛けたのになかなか捕まえられなかったりします。
シンプルなルールの中に奥深さがあって、できそうでできないもどかしさにどんどん引き込まれていきました。まさに“究極の鬼ごっこ”です。
――「カバディ」と言い続けるのも、意外と辛そうですよね。
下川:これも、想像するほど簡単ではありません。アンティにびっくりして違うことを言ってしまったり、気づいたら言うのをやめてしまっていたりします。最初のうちは、無意識で先輩に返事をしてアウトになったりしました。ちなみに、くしゃみもダメなんです。(笑)
W杯が“不定期”
――現在も日本代表としてご活躍されていますが、初めて代表入りを果たしたのはいつだったのでしょうか。
下川:大学3年生の時です。毎年、全日本大会後に強化指定選手として30人程度選ばれていて、毎週代表候補練習を行なっていました。国際大会があるたびに、その中から指定された選手の数だけ選抜されて行くという感じでした。
選ばれる前から、代表候補練習には自由に参加していたんですけどね(笑)。
――「代表の練習に自由に参加できる」なんてことがあるんですね(笑)
下川:はい。今は違いますが、当時は「参加させてください」というと自由に参加できました。練習場所もろくになかった時代です。関係者の方が幼稚園を運営されていたこともあって、幼稚園の園庭で練習していたこともありました。
――一番大きい大会は何なのでしょうか。
下川:4年に1度、アジア競技大会が行われます。あとは、W杯が不定期にあります。
私がカバディを始めてから最初に行われたW杯が2016年でした。それが9年ぶりの開催だったらしいです(笑)。開催地はインドがほとんどなのですが、近隣の国でテロがあって、延期になっていたんです。
――それにしても、W杯がいつ行われるのかわからないというのはなかなか…。
下川:もともとインドで発祥したスポーツで、国技でもあります。とにかくインドの影響力がすごいんです。カバディの国際大会を運営しているのも、インドの国際カバディ連盟です。もう、インドが決めるのを待つしかないんですよね。
――そのインドと戦ったときはどうでしたか?
下川:「カバディ=インド」だと噂に聞いていた通り、完敗でした。ロンダートみたいなことをしながら、相手のタックルを避けるんですよ。
対戦した際、前半に日本が1点も取れなかったんです。そこでインドが、わざと失敗して日本に点数をくれたんです。インドは、相手がカバディを嫌いにならないように弱い相手だと手を抜くんですよ。それこそ屈辱的ですけどね。
そこで初めて世界のレベルを肌で感じて、これまでの自分たちの甘さを実感しました。
――W杯には予選があると思いますが、どういった形なのでしょうか。
下川:私が初めて参加した2016年のW杯では、予選はありませんでした。インドが選んだ国が出られるという仕組みで(笑)。日本を含んだ12ヶ国が参加しました。
2016年以前は、W杯と言ってもアジアの国しか参加していなかったんです。2014年にインドでカバディのプロリーグが発足したことをきっかけに、世界的なスポーツを目指そうという風潮になったんです。そこから、W杯なのだから各大陸から参加国を呼ぼう、となったみたいです。
次に行われるW杯の予選は今年(2020年)の3月にあります。アジアは6枠で、そのうち4ヶ国はアジア大会の上位4ヶ国です。このアジア大会は既に終わっているので4ヶ国は決定しています。あとは開催国枠としてバングラデシュが入ってくるので、残りの1枠を奪い合うという噂です。
なんせ情報が曖昧で(笑)。最初のうちは、何もかもアバウトで驚きました。
国民の3人に1人が観戦。インドのカバディ熱
――下川選手は日本人として初めてインドのプロリーグに参加されました。どのような経緯でプロになられたのでしょうか。
下川:2014年にインドでプロリーグが発足した時に、国際カバディ協会から「外国人枠として各国から2名ずつ推薦して欲しい」という連絡があったんです。トップレベルのインドでプロとしてプレーできる機会は二度とないだろうと思って、迷わず立候補しました。すでに日本代表には入っていたので、推薦枠をもらうことができました。
――日本にいる時は、働きながらカバディをされていたんですよね。お仕事との両立は大丈夫だったのでしょうか。
下川:当時インドのプロリーグのシーズンは1年のうち約1ヶ月程度のみで、あとはオフシーズンでした。とはいえ1ヶ月ちょっと抜けることになるので、確かに社会人だと厳しいとは思います。私の場合、もともとカバディの活動に関して職場で理解していただいていたので、そこは大丈夫でした。
※現在はチーム数も増えてシーズンが3ヶ月程度になっている。
――カバディはインドで爆発的な人気を誇っていますが、選手もやはり注目されているのでしょうか。
下川:徐々にインドのテレビにおける演出が派手に放映されるようになって、エンタメ感覚で楽しめるようになりました。選手の地位もどんどん上がっていって、外にいるとサインや写真を求められるようになりました。自分が着ている洋服を子供たちが真似して着ていたりすることもありました。
インドでのカバディの視聴者数は日本の人口よりも多いと言われています。インドの人口が13億人なので、大体3人に1人は見ていることになります。
――プロの選手がかなり“稼げる”と聞きました。
下川:インドでは選手がどのチームに所属するかはオークションによって決められるんです。各チームのオーナーが選手の情報を見て、選手を落札していきます。選手が買われるんです(笑)。
そのオークションで1シーズンあたりもらえる金額が決まるのですが、私の場合は最初は40万円程度で、2シーズン目以降は100万円程度になりました。今もその金額はどんどん上がっていて、トップ選手だと1シーズンで3千万円弱稼いでいる人もいます。
今のところインドがかなり強豪国となっていますが、インド出身ではない選手がスター選手になることもあります。イランや韓国などの選手の中にはインドのチームでスター選手となっている人もいて、彼らは何千万円と稼いでいます。
――夢がありますね。
下川:そうですね。ただ、日本ではやっぱりまだまだ認知度が低いです。大学で知ってサークル感覚で楽しむ若い世代は増えてきましたが、協会に登録して競技として取り組む人は少ないです。
――今後日本でカバディの認知度を上げていくために求められていることは何でしょうか。
下川:そもそもカバディに触れる機会が圧倒的に少ないので、今後はそこを増やしていきたいです。現段階では、国内大会は1年に4〜5回です。その中でも年齢や経験年数によって制限のある大会があるので、実際に参加できるのは2大会くらいです。
大会以外でも露出を増やすために、日本のトップ選手を集めて試合を行うことを考えています。音響を使ったりして、エンタメ要素を追求できたらいいな、と。
最近だと小学校で教える機会もいただけるようになりました。でも、やっぱりその1回で終わってしまうんです。昨年、子供から大人までが参加できる横浜カバディクラブが設立されました。今後は、そうやって“続ける”環境を整えていくことも不可欠です。
カバディという競技に触れる機会を増やして、そこから続けることができる環境を作ること。これが、今後の日本のカバディ界で求められていることですね。