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えとみほが語る、コロナ後のJクラブ。「広告媒体としての価値を高めたい」【後編】

2020.12.10 / 澤山大輔

明治安田生命J2リーグにおいて、いち早くデジタル化に成功しつつある栃木SC。 前編では TikTok運用による新規顧客の獲得や、選手SNSによるスポンサーメリット提供の可能性について伺った。後編となる今回は、クラブとしてのデジタル戦略の展望について深堀りしていく。

明治安田生命J2リーグにおいて、いち早くデジタル化に成功しつつある栃木SC。

前編では TikTok運用による新規顧客の獲得や、選手SNSによるスポンサーメリット提供の可能性について伺った。後編となる今回は、クラブとしてのデジタル戦略の展望について深堀りしていく。

(取材日:2020年10月6日 聞き手:澤山モッツァレラ)

 

タダ券で新規が来る時代は、終わったんです。

―本取材の前日(10月5日)、えとみほさんのnoteがバズっていましたね。今回伺いたいお話ともリンクする、非常にタイムリーな内容だと思いました。

えとみほ:キャリアメールに対する怒りが沸点を超えてしまって(笑)、休日だったのですが勢いで書いてしまいました。本当に、キャリアメールって届かないんですよ。

 

―限られたリソースを活かすための方法を、現場目線で綴っている。素晴らしいnoteだと思いました。以下、見出しを抜粋します。

『1.各種の手続きをオンラインで行うこと
2.連絡先にキャリアメールを使わないこと
3.クラブ発信の情報を極力受け取ること
4.DAZNに加入して毎試合視聴すること
5.JリーグIDを取得してグッズやチケットを買うこと
6.パートナー様主催のイベントに参加すること
7.公式のSNS投稿を拡散すること
8.観戦ルールを守ること
9.サポーター同士で揉めない、新参者を排除しないこと』

この順番は、かなり気を遣って書かれているのではないでしょうか?

えとみほ:そうですね、「簡単なことから始めましょう」ということですね。

 

―とりわけ「各種の手続きをオンラインで行うこと」「連絡先にキャリアメールを使わないこと」を最初に持ってこられたのは、強い意図を感じました。

えとみほ:申込みをする際「面倒だから手書きで書いちゃえ」って人は結構いると思うんです。キャリアメールを使っておられる方も。

そういう人たちに、「デジタルで入力するとこんなメリットがあるんです」とお伝えすれば、少しでも協力していただけるのかなと。

 

―職員のリソースを温存できれば、それだけサービスを向上できますよね。他にも「観戦ルールを守ること」は印象的です。

えとみほ:そうなんです。いま、「応援ってなんだろう?」って考えている人たちも、きっと多いと思うんです。

この状況下で何ができるのか、サポーターの方々から非常に多くの意見をいただきます。「お金を使わなくても、こういうことをしてもらえたら」という思いを書いてみた感じですね。

 

―個人的には、「サポーター同士で揉めない、新参者を排除しないこと」を書いてくれたのがよかったです。これは、ある層とは本当に断絶があると思います。

えとみほ:ある一定の年齢層以上の方には、「タダ券を配れば新規が来る」と思っている人が結構います。「サッカーは人気スポーツだから」って。

でも、実際に私たちが置かれている状況は非常に厳しい。タダ券くらいでは、アクセスの悪いスタジアムには来てもらえません。

ゆえに、来てくれた新規の方は貴重なんです。そういう方々に、「二度と来たくない」と思わせてしまうのはすごくつらいんです。

ご新規さんに関しては、「クラブが相当なコストかけて来場してもらった人たち」と認識してもらえたら。わがままかもしれませんが、そう思っています。

 

―本当にそうですよね。J開幕から27年、当時では存在しなかった娯楽がたくさんある。Jリーグ観戦は余暇の選択肢の一つであり、「人気スポーツだから」来てくれることはない。

えとみほ:これだけ娯楽が多様化する中、一度ファンになった人がずっとファンでいてくれる率は下がっていると思うんです。サッカーが嫌いになったわけではなくても、家で楽しめることが増えたとか。こうした環境の激変を、直視しないといけないと思っています。

 

うちのような地方クラブは、AKB方式しかない。

―非サッカーファンの若い人たちが自然に競技に触れる接点は、なかなか少ないのが現状です。いまの10代にとって、サッカーに触れる最初のきっかけはやはりSNSなのでしょうか?

えとみほ:スタジアムに来ているお子さんに関しては、親御さんの影響が多いように思います。逆に言うと、親御さんがファンやサポーターという方以外なかなか来る機会がないんですね。

SNSで触れる層は、まだ多くないですね。例えば那須大亮さんがやっているYouTubeとか、ああいったものを見るお子さんは増えていると思いますけど。

 

―日本のメジャースポーツは、地上波テレビと紐づいて発展してきたと思います。スカパー!やDAZNは有料なので、当然ながら既存ファンがメインとなる。どうやって新規を獲得するかは、積年の課題ですね。

えとみほ:そうですね。今までみたいにフル代表とマスメディアから恩恵が下りてくる形が、通じなくなってきているのかなと。

例えば、遠藤保仁選手がジュビロ磐田に移籍しましたが、あれくらい知名度があって集客できる選手ってほとんどいないんですね。いても40歳を超えるか、海外組になってしまう。

 

―そうですね、本田圭佑選手や香川真司選手、長友佑都選手然り。

えとみほ:知名度のある国内選手は、アラフォーなんですよね。今後、そうした年齢層の選手は引退していくので、どうするか。

うちみたいな地方クラブは、AKB方式しかないと思っています。「会えるアイドル」みたいな(笑)。実際、選手のファンになったきっかけでも「学校に講演に来てくれた」「スクールで来てくれた」「体操教室に来てくれた」など、要するに「会ったことがあるから、応援する」といった声を多く聞きます。

 

―私もマイナー競技の選手に友人がいますが、「あいつが頑張ってるから見に行こう」という気持ちになります。

えとみほ:いかに「知り合いが出ている」ようにするか、知り合いが出ていることを広めるか。J2以下に関しては、それが一番良いのではと思っています。

SNSは、フォローしただけで知り合い、いいねをもらっただけで友達になったような気持ちになれます。SNSは、今後もっと使っていきたいですね。

 

DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めたい

―今後、クラブとしてオンラインで実現していきたいことはありますか?

えとみほ:クラブ全体として、DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現したいと思っています。

内部では、かなり進んでいます。例えばStockというサービスを使って、情報を集積し、属人化しない取り組みはできています。一方、社外に対してはまだまだですね。

 

―具体的に、できていないことはどういうことがありますか?

えとみほ:例えば、シーズンパスやファンクラブの申し込み。現在は、いびつな形になっているんですよ。オンラインで申請を受け、情報入力を外注し、郵送で送る必要があったり。そのあたりは、今シーズンで整えたいです。

 

―えとみほさんは栃木SCに入社されてから、ずっとDXに取り組まれているようなものですよね。

えとみほ:そうですね。ただ、実現するのは5年先かなと思っていたんです。コロナによって周囲のリテラシーが上がり、環境が改善されました。ある意味、チャンスだと思っています。

 

―コロナ以後で、KPIは変化しましたか?

えとみほ:以前までは入場者数を、クラブ全体の目標としていました。でも、現状はマックスで3,800人、拡大しても5,400人までしか増やせません。何に振り切るかは難しいですね。

 

―UGC数を指標にされたりはしないんでしょうか?

えとみほ:それもありますね。SNSのフォロワー数、言及数、YouTubeの登録数など露出のところはコロナ後に見るようになりました。

以前は「フォロワーだけ増やしても意味がないかな」と思っていたんですけど、今はスポンサー獲得のために必要な指標になってきているので。SNSのフォロワー、ビュー数、UGCの数などはすごく見ています。

 

―来年いっぱいは、これらの数字が重視されそうですよね。観客が戻れば、そこに入場者数も指標に戻ってくるというか。

えとみほ:そうですね。SNSに注力するとか、動画メディアに注力する流れはコロナが落ち着いても続くだろうと思います。

スポンサーさんに甘えず、広告媒体としての価値を。

―コロナ禍で、経営的な影響はどの程度ありましたか?

えとみほ:幸い、今季はそこまで大きくないです。シーズンチケットとファンクラブ会費ではすでにお金をいただいており、返金もそこまで多くなかったためです。

 

―サポーターの方々が、返金を希望されなかったんですね。

えとみほ:そうなんです。返金希望を募ったんですけど、希望者は1割未満でした。スポンサー収入もいただいているので、今季に関してはそこまで経営に深刻なダメージを与えるほどの大きなマイナスにならずに済みました。

問題は来季です。一生懸命SNSのフォロワーやビュー数を増やしているのも、来季のスポンサー獲得が目的です。来季なんですよね、大きな影響が出てくるのは。

 

―ご自身でも、営業活動はなされているのでしょうか?

えとみほ:積極的に回ったりはしていないですが、やっています。うちはいろいろなITの会社さんからサプライしてもらっていて、例えばformrun(ベーシック社)とかStock(Stock社)、KAIKOKU(カイコク)というWEBマーケターのマッチングサービスとか。サービスを無料で使わせてもらい、その代わり看板を出すといった営業をしています。

 

―スポンサーフィーを振り込んでくれる会社の見通しは、いかがでしょう?

えとみほ:幸い、影響は少ない見通しです。他クラブの営業さんとも話すんですが、うちのクラブには良くも悪くも地域のためにお金を出してくれる会社さんが多いんです。本当にありがたいですね。

 

―来年も今年なみにスポンサーフィーを獲得できたら、現在のSNSマーケティングを具体的なスポンサーメリットに繋げられる可能性がありますね。

えとみほ:そうですね、スポンサーさんに甘えているのはよくないので。広告媒体としての価値を出していきたいです。今、栃木の会社さんで困っているのはSNSやネットを使ったプロモーションなので、そこでお役に立てればと思います。

 

―多くのJクラブにとって課題だった「広告媒体としての価値」を、引き出す動きになっていますね。

えとみほ:選手SNSの価値については「今までなんで気づかなかったんだろう?」と思いました。業界全体でメンタルブロックがかかっていたかもしれないですし、選手自身が気づいていない部分も大きかったかもしれません。

 

―名古屋は、グランパスくんの投稿を頑張っていますよね。地域によっては、選手よりもマスコットのほうがうまくいく可能性もあるんでしょうか。

えとみほ:そうですね、マスコットは移籍しないので(笑)。選手を使うマーケティングの欠点は、移籍してしまうこと。これは初年度で思いましたね、「うまく使えるようになったな」と思ったら翌年いない、みたいな(苦笑)。

 

―とはいえ、選手にとっては契約交渉時に「これだけの広告効果を生み出した」という話ができますよね。それは、選手のマーケティング面での価値を引き上げると思います。

えとみほ:そうです。選手自体がメディアを持つことは、今後めちゃくちゃ重要になると思っています。

極論、札幌のチャナティップ選手みたいにインスタグラムで200万フォロワーがいる選手はすごく価値があるわけです。今後、日本の選手にもそういった意識が出てくるんじゃないかなと思っています。