スポーツビジネスの登竜門・MARS CAMPが考える業界人事の実情
スポーツビジネスで活躍するための最速講座として、2010年からスタートした「MARS CAMP(マースキャンプ)」。プロスポーツ団体や大手スポーツメーカーを始め、スポーツ業界のあらゆる業種/職種に卒業生を輩出しています。
現在、スポーツ業界は2020年に控える東京五輪や、スポーツ庁が掲げる2025年までに産業市場規模を15兆円に拡大する目標を定めた事も契機となり、仕事の幅が拡大しています。
その中で、MARS CAMPは「スポーツ業界で活躍する仲間を増やす」コミュニティとして、スポーツ業界で活躍する人材をこれまでに600名以上を輩出し続けています。スポーツを仕事にしたい人々の現状はどのようなものなのでしょうか。また、スポーツ業界にはどのような人材が求められているのでしょうか。
MARS CAMPを創生期から支える“校長”の仲島修平さんと、MARS CAMPに2~5期生として参加し、現在は主に学生クラスのナビゲーターを務めている関谷秀さんにお話を伺いました。
スポーツ業界は、一人で簡単にたどり着ける場所ではない
―MARS CAMPの現在の状況を教えてください。
仲島: まだ始まって間もないこともあり、個々の状況を細かくは把握しきれてはいないものの、時間が経つにつれて、その人がどんな人柄で、今は何をやっていて、将来的に何がやりたいかという3点が見えるようになってきます。
MARS CAMP生以外にも、私たちは年間で約10,000人の「スポーツを仕事にしたい」と考える方々とお会いします。おそらく世の中で一番そういった属性の方と会っていると思いますが、だからこそ、学生・社会人両方のスポーツを仕事にしたいと考える方々の最新事情や肌感覚を把握してることが多いのではないかと思います。
―MARS CAMPにおいて、仲島さんはどのような役割を果たしているのでしょうか?
仲島:私はMARS CAMPの創設者でもあるので、受講生からすれば言わば話がしやすい校長のような立ち位置…ですかね(笑)
一方で、スポーツ業界企業の外部の人事としての立場でもあり、最新の採用事情を握っている立場でもあります。MARS CAMPの講義の中だと、学生クラスではパネリスト、社会人クラスだとナビゲーター兼パネリストを務めています。
―MARS CAMPは2010年にスタートしましたが、最初はどのようにキャンプ生を集めていたのでしょうか?
仲島:もともとMARS CAMPをスタートする前に、2009年の秋から1年間、単発的にスポーツ業界セミナーを何回か行なっていました。そのセミナーを受けてから後にMARS CAMP生になる方もいれば、HPからダイレクトに応募してきたりして、1期生が集まりました。今も昔も広告宣伝費は基本的に掛けていません。卒業生の後輩だったり、今はほとんどが口コミですね。
関谷:今はインターネットで「スポーツ」をキーワードに検索をしていたらMARS CAMPの存在に気付いて頂ける機会も増えてきています。私がMARS CAMP第2期に入る前は、スポーツ業界セミナーの情報は少なかったですが、たまたま検索して出てきたセミナーに参加して、その場でMARS CAMPの2期生の募集を見つけたのでラッキーでしたね(笑)。
仲島:当初開催していたスポーツ業界セミナーに関しては、MARS CAMPのキャンプ生を募集するというよりも、スポーツを仕事にしたい人たちの現状を把握したいという思いがありました。そこで1年間やってみて感じたことは、スポーツ業界で活躍する人を増やす為には、単発のイベントだけではダメだということでした。スポーツを仕事にしたい人たちの動きを定常的にウォッチして、本人が気が付かないうちに余所の道に行こうとしたらグッと戻してあげられるような、密着型の活動が必要だと思いました。特にスポーツ業界は、1人で泳いで簡単にたどり着けるような場所ではないですから。
―最初の卒業生には、MARS CAMPのカリキュラムを終えた後の出口は用意していたのでしょうか?
仲島:用意している出口と、用意していない出口がありました。私はMARSの前には中小企業を中心とした人事コンサルティングの仕事をしていたのですが、MARSで仕事を始めてスポーツ業界を見渡してみると、この業界には人事専任が少ないことが分かりました。例えば求人広告を出しても、応募者は多く来るものの、そもそも採用活動専任の担当者がいないケースも多いので応募者を対応し切れないという課題があったんです。
そういった意味では、スポーツ業界にエージェントは必要なものの、就職先・転職先を提示したとしても、年収が合わなかったり、自分が動きたいタイミングでやりたい仕事が世の中に出ていなかったりもします。「情報がなく、頑張り方が分からない…」という方も多かったので、ただ単に就職先・転職先を提示するだけでなく、そこまでのプロセス・活躍するために必要なことまでしっかりとサポートする必要があると感じました。
―スポーツを仕事にしたい人の中で、最も人気な業種を教えてください。
仲島:トップ3はスポーツ団体(協会・リーグ・チーム)、メーカー、メディアですね。競技でいうと野球、サッカーの人気が高いです。
1期生でバスケットボールを仕事にしたい人の割合は、1%くらいでした。それが今はBリーグが開幕して、10%くらいに上がっています。やはりお金をもらえないと生活できないので、ある業界が盛り上がり始めると、その道を志す人も増えてきます。
今はBリーグができてTリーグ・新Vリーグも立ち上がり、アリーナスポーツが盛り上がってきています。他のアリーナスポーツや事業化・プロ化を見据えた団体などがこれから盛り上がるのではないか?と想定して今動いている人がいるとすれば、とても感度が高いと思います。
メーカーはスポーツをしている人全員がお世話になっていることもあり、身近に感じやすいですよね。新卒では公開求人が出ていて、採用人数は一定数ありますが、採用企業数はそこまで多くないんです。一方で、エントリー数はかなり多いため、少ない企業を多くの人たちで争っている状態になっています。新卒だと採用されるのは英語ができる人か、国際大会に出場するレベルのアスリートか、早期から就職に向けたアクションを起こしている、いわゆる意識が高い学生を選ぶ傾向が強いと思います。
―メーカー志望の人たちは、MARS CAMPでどのようなことを学ぶのでしょうか。
仲島:MARS CAMPに参加しているメーカー志望の学生の中では、小売店でアルバイトをしている人が多いです。ただ小売店でアルバイトをしているだけでは、お客様やメーカーの営業側との接点はあっても、プロモーション側が何をやっているのかは店頭のPOPでしか分かりません。
例えばミズノ社が本田圭佑選手を広告として使っていても、彼とどのように契約して、どのように展開しているのかは未知な部分です。それがMARS CAMPに入っていることによって、メーカーの内部事情や仕掛けをあらゆる方面から知ることができ、関わり方が見えます。業種のみならず職種にも理解が深まり、仕掛け人としてのイメージが沸く。
また、そもそもメーカーという業種しか知らないという理由で、メーカーを希望している人も数多くいます。その曖昧な動機をもっと明確にしてもらうために、MARS CAMPを通してメーカー以外の業種のことも知ってもらって、その上でメーカーに就きたいという意思を固めてほしいんです。その過程として、スポーツチームでMD部門の業務をインターンとしてやって、異業種・同職種に近い実務経験を積む参加者も多いですね。
―志望動機が曖昧な人は多いのでしょうか。
仲島:95%くらいの人は、志望動機がふわっとしているように感じます。理由は明確で、知る手段や機会が今まで少なかったということです。何か確固たる原体験がない限りは、明確な志望動機はなかなか生まれないですよね。
関谷:私は元々メディア志望だったのですが、そこまで確固たる原体験はありませんでした。高校を卒業する前に、大学選びを含めて今後何をやりたいかと考えていた時に、スポーツが好きで、文章を書くことも好きだったので、メディアをやってみたいと思いまして。最初はそれくらいの志望動機になる学生はやっぱり多いのではないでしょうか?
大学では学生スポーツ新聞の活動や、マスコミ就職ゼミでの活動などを行なっていましたが、それ以外のスポーツの仕事の選択肢も広げたいという想いでMARS CAMPに入りました。ここではメディアだけでなく、チームやメーカーの話を講師の方から聞く中で、スポーツ業界には様々な仕事があることを知りました。その中で私がなぜメディアか?なぜスポーツか?を改めて考えてみると、もしかしたら本当にやりたいことはメディアではないのかもしれない、と思うこともありました。
また、講義以外にも実践的なインターンもあって、営業やイベントスタッフも現場で体験しましたし、ロンドン五輪の時にはgorin.jpのWebサービスの立ち上げにも携わることができました。やはり、そのように様々な業種や職種に触れてみる中で、本当にやりたいことをジャッジしていくことがベストだと思います。
仲島:他業種に触れてみないことには選択肢も増えないですし、いくら私たちが口で言っても、やってみないと気づかないことの方が多いのではないでしょうか。
-他業種に触れることに意欲的でない人には、どのように関心を持たせるのでしょうか。
仲島:大前提、入社ではなく活躍のために必要なことだと気付いてもらう働きかけをします。僕らからの発信だけでなく、講義で広く・深く情報に触れてもらい、インターン機会で実際にやる。例えば、人気のあるスポーツチームの仕事を志望している方の多くは最初はサッカーが好き、野球が好きなど、競技軸で自分が関心のあることに絞っている方が多い。でも、いざアリーナスポーツを見てみると、サッカーや野球からは学ぶことができない要素がありますよね。そうなると、他の競技にも興味を持たないと見識は広がりません。
MARS CAMP生の中でも、メディア志望の人は、テレビ業界の話はワクワクして聴きに来ても、イベント会社の話はお金を払っていても聴きに来ないことがあります。
関谷:事前にゲストの情報を見た時に、あまり自分が興味がある分野じゃなかった…という学生でも、講義後に開催しているゲストとの交流会の時には、「今回が一番面白かった」という話を聞くことは多くありますし、事実、アンケートでの満足度も高い。その仕事に自分が就くことに対して、現段階の興味が有/無で判断してしまうのは少しもったいないですよね。
仲島:競技者としての生活を振り返ると分かりやすいですけど、毎日紅白戦をやっていても、それだけでは強いチームは作れないように、やりたいフィールドで活躍するために、やらなければいけないことも理解し、動いていく必要があるんです。ただ、スポーツの仕事の勉強となると、やりたいことの中でしか学べない人が多いのが現状です。
そんな人たちにはMARS CAMPを通して、やりたいかやりたくないかだけではなく、知らないといけないことも多いということを感じてほしいです。業界の多方面から活躍するために求められていることを直接聞き、体験する場があるので。「好き」は強いエンジンになるので、それはそれでもちろんOK。その「好き」の強いエンジンを、ちゃんと目的地である求められる方向に一緒に向かうイメージですね。MARS CAMP生とうちの社員は毎週のように会ってますし、FBメッセンジャーやLINEでも伝え続けています(笑)
MARS CAMP創設者の仲島修平氏
スポーツ業界の求人は増えている
-最近はスポーツ業界で働きたいという人が増えてきているように思えます。
仲島:5~10年前と比べれば参入する業種や求人が増えてきているので、スポーツ業界で働くことが許されてきたのだと感じる人が多くなったのではないでしょうか。新卒ではリクナビやマイナビにはおよそ3万社の求人広告が掲載されていますが、掲載社数は年次で110から120%くらい伸びています。その中で、新卒スポーツ業界の求人広告は単年で150から200%くらい増えているんです。また、企業スポーツから事業化やプロ化を見据える団体の動きもメディアに報じられるようになってきたこともあって、サッカー・野球といった雇用が見えていた競技以外でスポーツに触れてきた人たちも、スポーツ業界で働きたいという人が顕著に増えていますね。
-一般企業の採用と、スポーツ業界の採用で違いはあるのでしょうか?
仲島:スポーツ業界の業種によっても異なりますが、採用という意味では「分かりやすい入口の数」「働き方を具体的にイメージをする機会の少なさ」が一般企業との大きな違いかと。元々のスポーツ業界の採用には少し閉塞感があり、その業界に何年いるかなどが大事にされる傾向があって、業界に入るという意味では「ソリューション」より「リレーション」が鍵を握るアクションだったかなと考えます。中途に関しては、特に一般企業に比べると採用総数自体が少ないので、自分のタイミングで動きにくいということもあったかと思います。
私たちが業界内の様々な企業から人事としてお任せ頂くのも、プロとして採用課題を解決することはもちろん、私たち自身がスポーツ業界のプレーヤーとして業界内で仕事をしていることも起因していると思います。スポーツ業界の仕事に理解があり、尚且つ人事の観点から企業人事/採用のことも分かる。企業課題の内の一つが人事課題なので、その両方の解決を求められることが一般企業よりも多いかなと思います。事業担当が採用担当も兼ねていることが多いということが分かりやすいですね。
-面接では、どのように人数を絞っていくのでしょうか?
仲島:まず前提として企業がどのような人を求めているのか、定量的な条件に従って絞っていきます。例えば、実務経験が何年か、実績はどのくらいあるのか。なおかつ、社内構成を考慮した上で、年齢・居住地などが条件に含まれることもあります。
そして、個人が成し遂げたいことと、個人の現在地とのギャップを見て絞っていきます。この仕事は一般企業の採用活動よりもかなり強く、ここは完全にアナログです(笑)アナログにやってくれるから助かると企業や団体側から言われることが非常に多いですね。
-スポーツ業界は中途採用が多いイメージがありますが、新卒採用は増えてきているのでしょうか?
仲島:中途採用が多いイメージ…そうですか?業界全体で見ると採用総数は断然、新卒採用の方が多いです。表に見える求人の数×1社あたりの採用人数を見れば明らかです。おそらく「スポーツ業界は中途採用が多い」というのは、割と分かりやすいスポーツ団体の採用活動をメディアが報じる機会が増えて、その印象からくるものなんだろうなと想定しますし、そう感じてしまってる業界を目指す人も多くなってます。
そのあたりは後半部分でも触れますけど(笑)中には表に出ていない求人もありますが、上述のように新卒採用も増えてます。2020年の五輪開催地が東京に決まった2013年くらいから、既存のスポーツ企業の採用人数と、新しく採用を始めるスポーツ企業が増えました。採用が増えたのと、関わる企業が増えたということですね。これは業界にとって非常にポジティブな要素だと思います。
私たちのところにも、今まで中途採用のみだった企業から、新卒も採用したいという話が増えました。スポーツど真ん中の企業だけでなく、スポンサー・パートナー企業・WEB関連サービスなど…業種としての登場人物が増えているので、弊社でも『Recruit CAMP』という形でスポーツに由来のある人と企業の集まるイベントを開催していますが、開催回数は毎年倍々で増え、首都圏開催にも関わらず全国から学生が参加しています。
「そもそも新卒採用を行なったことがないので、全般的に手伝ってほしいという」という依頼も多く、採用戦略の立案だけでなく、施策実行・面接・リテンションまで任せていただく事も多いです。「時間がないから短時間で採用フローを固めたい」とか、「限られた時間の中で採用したい人材と会うために、アクションをしっかりしている学生とだけ会いたい」とか…この辺はスポーツ業界ならではかなと思います。
-今もサッカーと野球の仕事の人気は根強いのでしょうか?
仲島:人気ですね、特にサッカーの仕事は野球と比べても全国的に興味がある人が多いですね。Jリーグはチーム数が多いので、より全国にサッカーの裾野が広がっていて、魅力に触れ、仕事にするチャンスも身近になっているのが大きいのでしょうね。スポーツ団体・メーカー・小売り・メディア・広告代理店・広告主・パートナー企業・選手サポート・イベント・スクール・施設運営・指定管理者等…立ち位置を変えても野球やサッカーに関われる可能性が他の競技に比べるとありそうなイメージがつきやすいこともあると思います。
競技としての盛り上がり感だけでなく、ビジネスとして前に進んだ様子・前に進めようというスタンス自体が表に出始めると、必然的にその競技に関わりたいという人が増えますね。
-関谷さんがその中でMARS CAMPの“中の人”になった理由を教えてください。
関谷:私はもともとMARS CAMP生として2~5期に参加していましたが、インターンや講義の中で、スポーツ業界で成し遂げたいことが明確になっていったことが一番大きかったです。
インターンや講義を通じて、改めて自分にとってのスポーツの魅力は何かと考えてた時に、人と繋がるキッカケをもらったり、繋がりを深めたりしていく機会を与えてくれることだと思いました。例えば部活動では共通の目標や夢を追うことができますし、様々な感情を共有することができます。その共有している時間が人との繋がりを深めていくのだと思います。
スポーツは自分の居場所や、居心地の良いコミュニティを作り出す力があります。大学を卒業する前にその魅力に気づくことができて、それならばスポーツを通じてコミュニティを作る事業を展開して、なおかつスポーツ業界に対して幅広くアプローチできるような環境に身を置きたいと思いました。
特定の競技に対する強いこだわりがあったわけではないので、出来る限り幅広く、代理店のような立ち位置で関われる仕事で、かつクライアントとの距離も近い立ち位置が良いと考えた時に、MARSに行き着いたんです。
そこに気付いてから時折「MARSに入りたい」というような事を伝えていたのですが、当時は弊社単体では新卒採用をしていなかった事もあり、断られていたんです。ただその後も大学を卒業するまでスポーツ業界に入るためのアクションを続けていたところ、卒業前に弊社の創業社長からランチに誘われて、そこで「立ち上げる予定の新規事業を一緒にやらないか?」と声を掛けて頂き、履歴書提出も面接もないまま新卒で入社することができました。
-その経験は講義で学生に伝えているのでしょうか?
関谷:もちろんです。講義という場だけでなく、懇親会や普段接する何気ない時も。メディアの仕事一本に絞って就職活動をしていた時は、「スポーツメディア志望の関谷君」として覚えて頂いている方もいましたし、ある意味そうした動き方をしていたからこそ得られた情報も沢山あるのですが、今ではそれだけではもったいなかったと感じることもあります。
「とにかくやってみる」の精神で活動をしていた時のほうが、仕事に対する視野が広がりつつ理解が深まっていく僕自身の実感値もありましたし、MARS CAMPの同期でスポーツ業界に新卒で入っていく人も、様々な所でアクションをしている人が多かったですから。
年間で3,000~5,000人の学生を支援している関谷秀氏
-多くの学生と面談をしているとのことですが、頻発する悩みとはどういうものでしょうか。
関谷:「資格を取ったほうが良いのか?」と聞かれることは結構あります。ですが、私自身はスポーツ業界に置いて資格が必要だと思ったことは一度もないです。やはりそういった悩みも含めて、業界で活躍するために必要な視点が明確でなかったり、動き方が分からない学生が多い印象はあります。
仲島:MARS CAMPでは、最初に1年後、3年後、10年後の自分のビジョンを、業界内と社会の両方のアプローチから書いてもらうシートを渡しています。例えば関谷のように業界の中でメディア志望なのだとしたら、なぜメディアを選んだのか?そもそもそのシートが書けるか書けないかというところも見ていきます。
最初は書けない学生だったり、書けても「どの立ち位置で働くか」しか書けていなかったりしますが、それをしっかり自分の言葉として人に伝わるところまで半年くらいかけてやっていきます。実は、それは社会人の方々も同じだったりします。
-社会人はどのような人が多いのでしょうか。
仲島:スポーツ業界に転職をしたい人・スポーツの事業を立ち上げたい人などを中心に、スポーツに出資(スポンサー)している企業の中の人で、スポーツ部門に行きたい人やスポーツ業界の中にいて、別業種に転職したい人…とか。年齢的にはだいたい25〜40歳くらいの年齢層が多いですかね。
学生の皆と違って、社会人の方々はビジネスの現場で「できる事」を元々保有していますが、「やりたい事」「すべき事」を見つけるアプローチはほぼ同じです。
-卒業生が実際の現場で活躍している印象はありますか?
仲島:活躍して…るのではないでしょうか(笑)定義づけが難しいですが、雇用元の企業から「頑張ってるよ!」とか仕事のパートナーとして「あっちこっちで卒業生と仕事してますが、活躍してますね!」と声をかけてもらうことは多いですが…もっと一緒に暴れたいですね(笑)
キャリアのフレームワークとして「Will、Can、Must」がありますが、すべき事とできる事で飯を食って、その上で業界・会社・個人の未来を創っていくことが、より求められるのが今のスポーツ産業の位置づけですよね。であれば、入社先の今の事業や仕事をそのまま単に担うということだけでなく、そこに自身でどう価値を乗せていくのか?その先で何がやりたいか?何を成し遂げたいのか?クライアントやパートナー、社会をどうワクワクさせていくのか?というものが強い人には推進力がありますよね。
-業界に入社した卒業生は辞めていませんか?
仲島:比較対象が難しいですが(笑)例えば今の時代、社会全体で見ると新卒社員の3割は3年で仕事を辞めると言われていますが、MARS CAMPの卒業生は1割もいかない。のっぴきならない理由での退職や、業界内の別の業種に転職するような例はありますが、事前の業界に対するギャップ解消や想いの強さが表れているはずです。
95%が…と話しましたが、最初の段階では志望動機がふわっとしていても良いと思います。ただ、最終的には明確な意思があってアクションし続けている人が強いですし、その1人に対して様々な業種からオファーが来ることも多い。
今は、求人自体は増え続けているものの、「採用バーに届かない」「なかなか欲しい人材を採用できない」というケースが増えてきています。スポーツを仕事にしたい人たちのアクションも含めた戦闘力をもう少し上げていく必要性を感じています。
-MARS CAMPの中でも個々人の戦闘力の差は広がっていくのでしょうか。
仲島:入った時は戦闘力が同じでも、出ていく時に差が広がっていることはよくあります。講義は月に2回程度ですが、ほぼ毎日Jクラブ・Bリーグクラブ・Fリーグクラブといったチームや、日本ソフトボールリーグなどのスポーツ団体でインターン機会や企画会議がありますから、当然その頻度によって出来ることはかなり変ります。営業・MD・集客・運営・ライティング・動画編集など職種も多岐に渡ります。社会人の方はなかなか仕事の都合で参加しにくいですが、学生は毎日やっているメンバーもいますね。
例えば、MARS CAMP生と一緒に日本ソフトボールリーグ広報・SNS企画の運用や、企画をしていますがプロジェクトメンバーとして関わる以上、正しい情報を発信する必要があります。そうなると、ミスをなくすための鍛錬が必要で、その鍛錬の過程は、地道な作業もあります。メディアの掲載情報を一つ一つ見て、普段配信している内容や、速報の中でやったほうが良いこと、やってはいけないことなども把握して、次のフェーズの仕事を任せることができます。「そんな地道な作業は嫌だ、これは自分がやりたいことではない」と道を閉ざしてしまう人はいます。
逆に、地道な道と分かっていても、前に進むために必要なことに気付ける人は着実に一歩一歩、前に進んで、試合当日の企画に反映されたり、企画がメディアに掲載されたりして、更にお客様の反応を直接見る原体験ができる。競技や職種の食わず嫌いも同様で、戦闘力を上げる場所と、戦闘力を見せる場所を考えてアプローチすることがすごく重要です。そのプロセスを経た上で明確な意思になると、できないといけないことがハッキリと見えるようになる。こうなったら強いですね!むしろここからがギュンと伸びるメンバーが多いです。
例えばメディア志望で、編集や執筆をやっているのであれば、「取材に全部連れていってほしい、インタビューも全部やらせてほしい!」と言えばいい。そういう人が果たしてどれだけいるのか。もし仮にそれを頼んでやらせてもらえなかったとしても、やらせてもらうために何が必要なのかが分かれば、頑張り方が見えてきます。意思表示しなければやれず、何が必要なのかというハードルも分からず、その場に立ち止まってしまいます。ここでグッと差の広がりが出ますね。
-そもそも、スポーツ業界はどのような人材を求めているのでしょう。
仲島:既存の事業を伸ばしていくタイミング・新規の事業領域を拡大するタイミング…企業やポストにより異なるところもありますが。エントリー数が集中しやすいこの業界は、新卒・中途問わず他の産業に比べて「その企業じゃないといけない理由」を求められます。
定量的に絞るという話をしましたが「未経験でも確固たる意思と熱量がある人が欲しい」という企業も少なくないです。にも関わらず、ただスポーツが好きだから業界に携わっていたいという人が、学生でも社会人の方々でも数多くいます。なので私たちが人事として動く時、最も重要視しているのは「アナログ」とお話した意思の部分です。
能力的なところだと、昔はマルチに色々なことができる人が求められていましたが、今は専門職採用になってきています。組織が大きくなるにつれて必然的なところもありますが、今の組織にいない人材を採用して事業拡大しなければいけないという前向きなスタンスに変化している企業が増えている証でもあります。業界全般でみるとWEBリテラシーが高い人や、動画などのコンテンツを作れる人、デジタルマーケティング領域に強い人材を求めている業態は増えてます。「経営人材」というワードが前に出る機会が増えましたが、プレーヤーとしてのスペシャリスト人材や、サービスとしての若年層へのリーチ拡大も見据えた若手人材の需要も多いですね。即戦力と平たく表現することもありますが、業種・職種によって変動してきます。それでも普遍的に求められていることでいえば、上記の意思の部分が反映されやすい「形」にする力や、「推進」する力がある人材でしょうか。
-スポーツ業界は、努力をすればたどり着ける業界といえるのでしょうか。
仲島:他の産業に比べると分かりやすく表に出ている求人は少ないですが、その分、アクションし続けている人・努力している人がたどり着きやすい業界だと思います。採用手段がまだリレーションの中での実施になっている企業も多いので、業界の中の人たちにできる事とやりたい事を発信し続ける人がたどり着いている場面を幾度も見てきました。時期によって求人も変動的なので、その変動的な要素も分かった上で狙い続ける人がチャンスをものにしてますよね。
例えば…動機の強さが分かりやすい事例として、スポーツ施設の指定管理会社に新卒で就いた卒業生などは分かりやすいでしょうか。「スポーツで地域を盛り上げたいという」目的があって「地域密着といえばチームだ!」とイメージする人は多いでしょう。ただ、残念ながらチームには就職が決まらなかったとします。業界の中の働き方に理解がないと「ここでなければ業界の仕事を諦めるか…」となる人も多くいますが、「業種や職種は手段であって目的は変わらない。むしろ、毎日地域住民との接点があって、スポーツで地域を盛り上げられる仕事があった…そのうちの一つが指定管理会社。」というところまで掘り下げ・拡げて見えている人は少ないです。業界を目指していた時は考えてもいなかった業態でも、ちゃんと情報収集して、目的に近しい仕事を見つけ、そこで活躍するために必要な経験が分かれば、努力の方向性が合ってきて、辿り着いている傾向が高いです。
-その話でいうと、スポーツ業界にどのような業種・職種があるのかを分かっていない人が多い気がします。
仲島:そうですね。ここは本当に課題だと思っているので、意図的に顕在化する機会を増やしています。業界に入るという段階では意思決定の材料としても大事ですが、業界で仕事を進める時には多くの登場人物を巻き込める情報になりますからね。特に今の領域から拡げていくことが前提のこの産業においては。
関谷:私の場合はスポーツメディアの仕事に就く夢を諦めきれず、就活をやり直すことに決めたこともあって、MARS CAMPに入ったのは大学5年の春でした。そうなると、多くの同年代は社会に出ているわけです。だからこそ、私はMARS CAMPでインターンに参加している時に、“学生”だからというフィルターを外して、仕事を任せてもらえるくらい動いていかないといけないという危機感を持っていましたし、興味があるメディア以外の仕事に対する経験を積むことも意識していました。
学生時代からスポンサー営業を任せていただいたり、一人で興行運営の現場に行ったりすることがあったので、良い意味で通常のインターンシップの枠を超えた「仕事」を経験させて貰ったことがキャリア形成に活きました。
当時よりも今の方がインターンシップの選択肢が社会的に増えていて、純粋に羨ましさはあるものの、与えられた機会以外の仕事を取りに行く動きはまだまだ物足りないと思っているので、自分自身のキャリアの為にも現役のMARS CAMP生には、そんな動き方を求めていきたいですね。
-最後に、MARS CAMPの今後の動向について教えてください。
仲島:MARS CAMPに限った話だけでなく、中途採用・新卒採用も含めて、今、私たちはとにかく危機感でいっぱいです。2025年までにスポーツ産業市場価値を15兆円に上げるという、スポーツ庁の目標はご存知だと思いますが、この数字はMARS CAMPにも大きな影響があります。
シンプルに産業市場価値を今の5兆円から3倍上げていく時に、生産性が高い働き方ができれば利益創出額を高めていけますが、働き手を3倍に増やしていくということも想定されます。その時に、今でさえ人を採用したい企業が、採用したい人に出会えていない事が増えている中、その数がより増えていくことも想定されます。
それならば、スポーツ業界で活躍をしたい人たちは、アクションし続けないといけないですし、私たちはその加速度を高めていく必要があって、更に業界を巻き込んで取り組まなければいけませんね。また、業界の採用状況を把握している立場としてこういったAZrenaさんのような記事も含めて、リアルの場所だけでなく、多くの方にしっかりと発信してかなければいけないかなとも思います。インタビュー中にもあった「スポーツ業界は中途採用が多いイメージがありますが…」というイメージ自体もそうです。業種によっては新卒採用の方が圧倒的に多いですからね。新卒積極採用の業種もあるし、中途積極採用の業種もある。同じ業種でも組織の規模感やタイミングで状況は変動しますから。
企業側はいずれにせよ即戦力にこしたことはないですし、目指す方々は今やりたいかどうかは意思です。なるべく早くやりたい仕事で活躍したいのであれば、新卒で行くべきですし、行けるように準備をするべきです。準備の段階で本当に無理だと自分で思ったら、そこで活躍するために必要な職能経験を得てから中途で行けば良いでしょう。そしてそのプロセスは、他人に言われた言葉だけで動くのではなく、自分の原体験を持った上で考えていってほしいと思います。業種も決まっていない段階で「なんとなく中途の方が良いと言われることが多くて…」という学生と出会う機会が非常に多いので、「それ、本当にそう思う?」と感じざるを得ないのが現状です。
例えば人気であるスポーツチームでの採用となると、一見すると新卒採用を行なっていなくても、NPBやJクラブのインターンなど、実務経験を積んできた人の場合は、新卒で採用されるケースも増えていますよね。チームの場合の多くは新卒ありきではなく、即戦力の要件を満たし「若くて活躍してくれる人材・してくれるであろう人材」に入ったからこその採用です。それでも、内定をもらって入社するMARS CAMP卒業生もいれば、一般企業に就職する卒業生も何人も見てきました。後者の場合は実際にそこで成し遂げたいことが見えて、それを形にするために必要なものが外にあったと自身で感じたことが中途で業界にアプローチする理由になるわけです。
MARS CAMPをはじめる時に、そもそも学生を受け入れるか否か、正直少し悩みました。ただ、企業が即戦力を欲しているのであれば、即戦力の要件を満たすプロセスを提供できれば話は早く、学生でも即戦力になることはできる。むしろそういった機会が非常に少ないことから、学生も対象にしました。まだ一年生は多くはないですが、もし1年から4年間しっかりやっていたら、正直モンスターになると思います(笑)「スポーツ業界には中途で来い!」というワードは、こういったプロセスの環境を端折って・業界の中の特定の場所・今の採用ポストに関しては…ということが抜け落ちて発信されていることが多くあります。そういった部分を私達がしっかり補足しないといけないし、企業が求める人材与件に関しても「今、あるべき姿」について対話をし、活躍する人材の採用に繋がるサポートをしていかなければと思います。