追い風吹くアリーナスポーツ。テクノロジーの力でさらなる加速を[PR]

2019.03.17 AZrena編集部

三宅諒氏(中央)、矢野良子氏(右)

アスリートやスポーツマーケティング分野が抱える課題を、指導者・競技団体・研究者・スタートアップ企業などとの交流を通じて、テクノロジーを活用したソリューションの実現やスポーツ分野でのイノベーション創出を目指すプロジェクト、「Athlete Port-D」。

2016年にバスケットボールのBリーグ、2018年に卓球のTリーグが新たにプロリーグとして開幕するなど、盛り上がりを見せているアリーナスポーツは、室内で行なわれることもあり天候に左右されず、なおかつ多彩な演出ができることが強みとして挙げられる。

今回はアリーナ競技編と題し、フェンシングでロンドン五輪銀メダリストの三宅諒選手、女子バスケットボール元日本代表で、現在は3人制バスケットボール日本代表の矢野良子選手、そしてハンドボール元日本代表キャプテンの東俊介氏が登壇。「アリーナスポーツのスマートスタジアム」をテーマにトークセッションを行なった。

Athlete Port-DのHPはこちら

 

選手側とテクノロジー側で生じるギャップ

スマートスタジアムとは、ICT(情報通信)技術を駆使したスタジアムのことで、場内でのフリーWi-Fiの完備や、座席から飲食物を注文できるデリバリーなどがサービスの例である。そのほかにも様々なサービスが存在するが、今回は「データ」が論点とされた。

近年は試合中に様々なデータを取得し、モニター上でそのデータを観客に向けて開示することが可能となった。しかし、これはあくまで観客を楽しませるための工夫である。それでは、選手自身は試合を通して、どのようなデータを求めているのだろうか。三宅氏は次のように語った。

「対戦相手との距離のデータが欲しいですね。この選手は、この距離になるとこの技に頼るというのが数字で分かるようになると、すごく良いです」

 

フェンシングのような1対1の競技では、相手との距離感が勝敗の大きなポイントとなる。もちろん相手の動きを予測することもできるが、予測にも限界はある。距離をデータ化することができれば、より相手に合わせた対策も打ちやすくなるだろう。

また、矢野氏はデータの充実によって、分析スタッフの負担を軽減できるのではないかと指摘する。

「バスケの場合は、一台のカメラで撮った映像を、人間の目で何度もチェックして分析しているチームがまだほとんどで、それだとかなりの労力が必要になります」

矢野良子氏(中央)、東俊介氏(右)

アリーナに複数台のカメラを設置してトラッキングできれば、こういった負担の軽減だけでなく、さらなる有益なデータの取得も期待できる。

一方で、スポーツにテクノロジーを取り入れる上では、選手側とテクノロジー側の間で、熱量のギャップも生じかねない。いくらテクノロジー側が選手を後押ししても、選手側が必ずしもそれを受け入れるわけではないだろう。

 

ギャップを埋めるヒントは“フェンシング”にあり!?

Athlete Port-D自体も「スポーツ界とテクノロジー界には谷があるのではないか」という仮説を起点に始まったプロジェクトである。選手側が欲しいデータと、テクノロジー側が提供しているデータには、ギャップが生じてしまっているのでは、というように言い換えることもできるだろう。

特に団体競技であると、選手によってテクノロジーやデータへの理解度に差が生じてしまうことを矢野氏は気にかけている。

「どんどん活用していきたいという選手もいれば、全てデータにしようとすることに疑問を持っている選手もいます。これまで通りに、個人としての感覚やセンスを重視していきたいという選手もいるわけなので、そういった選手たちとテクノロジー側がどこで折り合いをつけるのか。その点は個人的にも非常に気になっています」

 

当然ながら、アスリート全員がITリテラシーを持ち合わせているわけではない。そもそもテクノロジーがどのようなもので、どういった効果が期待できるのかを選手たちに明示することは、提供する企業にとっても必要不可欠の作業である。

東氏は、選手側とテクノロジー側の距離を埋める上で、互いの分野に関心を持つことの重要性を訴えた。その中で、日本フェンシング協会の(※)太田雄貴会長を一例に挙げた。

※2008年の北京五輪、2012年のロンドン五輪と2大会連続で銀メダルを獲得。2015年には世界選手権で優勝を果たした。2016年に現役を引退し、翌2017年から日本フェンシング協会の会長を務めている。

東俊介氏

「太田会長であれば、東京グローブ座も含めて色々な会場に自分で足を運んで、その中で『こういうふうに見せたい』という具体的な考えが生まれてきて、じゃあグローブ座でやろう、となっているはずなんですよ」

東京グローブ座とは、新宿に位置する劇場である。通常はミュージカルなどで使用される舞台で、2018年にはフェンシングの全日本選手権が開催された。チケットは完売となり、劇場ならではの演出が会場を魅了した。

フェンシング協会の試みを参考に、東氏は「お互いが歩み寄ろうとしないうちは、イノベーションは生まれてこない」と意見を述べている。しかし、選手やスタッフのパフォーマンス向上にテクノロジーが重要だと理解した上で「やはりスマートスタジアムはお客さんに面白さを伝えるためにあってほしい」と主張している。

 

スマートスタジアムが解決すべき点

データや映像などのテクノロジーは、競技をより分かりやすく見せるために格好のツールである。フェンシングでは「電気審判機」が攻撃の有効性を判定し、オレンジのランプでどちらに得点が入ったかが表示される。また、モーションキャプチャーとARの技術を駆使して、剣の軌道を可視化している。このように、ルールの分かりづらさをテクノロジーを用いた演出でカバーする手段もあるのだ。

東氏は、テクノロジーを導入する上で「選手側とテクノロジー側で話を進められがちだが、観客側の視点が必要」だと捉えている。

「強い競技にお金が集まるわけではないです。僕もジャニーズのコンサートに行ったりして体感しているから分かりますけど、やはりエンターテインメントに集まってくるじゃないですか。スマートスタジアムが解決しなければいけないのはそういうところで、観客は何が見たいのか、どうすれば楽しめるのか、そこを掘り下げていく必要があって。選手の声を聞いているだけではダメですし、ただ強くなるだけではお金は集まらないということも考えるべきです」

 

前述したフェンシング協会の試みも含めて、競技を盛り上げるヒントは他のエンターテインメントに転がっているのかもしれない。他のエンターテインメントと比較した時に、スポーツの強みと弱みが見えてくるのではないだろうか。

 

スポーツの真の目的は何なのか。2020年には東京五輪が控えているが、金メダルを獲ることが目的なのか、それとも会場を超満員にすることが目的なのか。「それによって、スマートスタジアムに対する取り組み方も全然違ってくる」と語るのは三宅氏だ。

三宅諒氏

もちろん、勝つことで快楽を得ることを目的に、競技を続けている選手もいるだろう。しかし、東氏にとっては勝つことは目的ではなく、好きになってもらうための“手段”だという。

「勝つことが全てではないんです。それを知るために、目標を『好きになってもらう』に設定することが重要ですし、そこに向けて努力していくことも必要だと思います。現に私が引退した後にいろいろと仕事ができるのも、ハンドボールが上手いからというわけではなく、私のことを好きと言ってくれる人がいてくれて、そういった人たちと面白い仕事ができているわけですから」

 

勝つための議論だけでなく、好きになってもらうための議論を。議論の内容はもちろんだが、矛先を意識することも重要である。

日本のスタジアムは、欧米に比べるとスマートスタジアム化は進んでいない。裏を返せば、方向性次第でいくらでも伸び代があるということだ。テクノロジーは今後、選手と観客をどのように結びつけていくのだろうか。