BリーガーやNBLスタッフが語る、テクノロジーが生むスポーツ界への効果とは

2017.08.23 AZrena編集部

Catapult Japan主催のサマーワークショップ

7月3日、都内でCatapult Japan主催のサマーワークショップが開かれた。日本国内でも様々なスポーツクラブに導入され始めてきている同社の製品は、独自のデバイスを選手が身につけることで走行距離や体への負荷など、さまざまなデータを取ることができるものだ。

怪我が減れば勝率もUP。Jクラブも導入するレスターの快進撃を支えたITの力

 

今回のワークショップにおいて、GPSではないテクノロジーから取得できる情報をどのように活用できるのかをテーマに、国内外のCatapultユーザーに加え、特別ゲストとしてBリーグはシーホース三河に所属する松井啓十郎選手を迎えたメンバーでトークセッションが行われた。

Catapultを利用することによって、スポーツ選手を悩ませる怪我のリスク削減・リカバーなどが可能になる。選手から一番求められているデータ活用方法とは何か、そして今後どういったデータ活用を目指すのか?様々な点について意見が交わされた中、その一部を紹介したい。

☆登壇者
キーラン・ハウル
(Catapult スポーツサイエンティスト)
ネイサン・スペンサー
(NBL イラワラ・ホークス スポーツサイエンティスト)

松井啓十郎
(プロバスケットボール選手・シーホース三河所属)

マット・スペンサー
(ノルウェースポーツ科学大学)

佐々部孝紀
(早稲田大学バスケットボール部 ヘッドトレーナー)

 

松井啓十郎

シーホース三河に所属する松井啓十郎選手もこのトークセッションのために来訪した。

 

チームが感じるCatapultのメリット

-Catapultを利用することで怪我のリスク回避という部分にも繋がりますが、そこはどう感じていますか?

松井:リスクのところが1番重要になってきます。怪我をすることが選手にとっては1番痛い。だからこそ、データで自分の身体のコンディションを管理できるのは嬉しいですね。歳も今年32歳になるので、そういった意味でも自分の身体が普段と比べてどうなのかを知られるのは非常に助かると思います。

 

−パフォーマンスの要素を分解すると、努力やモチベーションが重要になってくるということでしたが、プロの選手にもモチベーションを高めるためにフィードバックをしているのでしょうか?

ネイサンいえ、そこは全然違っていて、プロの選手は給料などでモチベーションを上げて欲しいですね。現在はシンプルな1ページでデータをフィードバックしています。例えば緑だったら調子が良いとか、黄色だったら身体のケアが必要だとか、赤だったら危ないよ、とかいうようなものを与えています。Catapultで採れるデータは非常に多くありますが、その多くのデータをそのまま選手にフィードバックすると混乱してしまうと思うので、裏方のアナリストなどといった分析を担当している者が見て、コーチや選手にはできるだけシンプルなデータをフィードバックすることが有効だと考えています。何をフィードバックするかが非常に重要で、そのミスで自分たちを陥れてしまうのは危険です。多く与えすぎるということは、本当に重要なデータ以上のものを提供するということにもなりますから。

キーランコーチやトレーナーが選手と信頼関係があってコミュニケーションがしっかりとれるかというところが重要だと思います。なぜなら選手のデータを予め見てフラグを立てて危険信号が出ていおり、やり過ぎなのであれば率直に選手に「データではこうなっているけど実際はどうなのか?」と聞いた時の回答もすり合わせることができれば、選手の怪我の管理が可能になりますからね。

比較の方法も重要

−Catapultで把握できる指標はたくさんありますが、選手として何を最も見たいですか?

松井:疲労度ですね。これはコーチ陣にも見てほしいです。例えば、バスケットボールだと、1stクォーターから2ndクォーターになるにつれて疲労度は上がってきて、運動量も下がってきます。そういったことをデータとして客観視できると、どこでもう少し頑張らなければいけないかなどが分かりますし、またその頑張り自体もデータで評価できます。

ネイサンプレーヤーがきつい時を基準値にして、ゲーム中にどれだけ維持できるかを見て、それを疲労度として捉えています。試合の中で疲労していく様子は、プレーヤーロード(※選手の前後左右上下の加減速を考慮した、Catapult独自の指標)の持ち幅などでわかりますが、それだけではなく2日前や前日などの日に比べてのその日の疲労も研究をしています。例えば今は、最高心拍数の85%以上で運動している時間が、疲労と関係があるのではないかという推測がされています。なぜそうなったかというと、練習前に毎回、疲労度を各選手に書いてもらい、疲労度のチーム平均の折れ線グラフとスクリーンイメージ、試合イメージの中での練習で85%以上の時間の折れ線グラフがかなり一致するからです。比較数値として疲労を聞くだけではなく、心拍数がいつもより高め、つまり動いている量は変わらなくても心拍数を高めにすることで疲労のコントロールは出来るのではないかと仮説立てて検証しています。

また、外的な疲労と内的な疲労があり、実際に選手がどういうリアクションを取っているかが重要になります。それを把握した上で、選手たちがそれぞれの練習メニューや試合内容によって、どのようなリアクションを取っているかを見ていくことが大事だと思います。

−プレーヤーロードで需要があるのは、選手間を比較するよりも選手自身でであったり、チーム全体を比較したり、ということではないでしょうか。

キーラン怪我を予防する上では自分自身のデータを比較するべきだと思います。もし他の選手と比較するのであれば、まずは同じポジションの選手や、同じ役割を与えられた選手と比較すべきだと思います。

 

キーラン・ハウル氏

Catapult本社でスポーツサイエンティストを務めるキーラン氏

マットまずは自分自身で比較するのが重要な理由として、個人差というものがあります。ポジション別だと、似たようなデータが出ることはありますが、選手によっては爆発的な要求が多い選手もいます。また例えば、ハンドボールの場合だと、無制限に交代が出来るのでその中でデータが狂うこともあります。選手によっても、効率的ではなくずっと動いている選手もいるので、コーチの主観とデータを組み合わせることでしっかり判断するのが大事なのではないかと思います。

ネイサン一方で、他の選手と比べたほうが良いというケースもあります。ホークスのある選手が、他のガードの選手と比べると数値が低かったことがありました。フィジカル的には特に問題はなかったのですが、彼に聞いてみるとストレスレベルが高かったり試合に出なかったりといったことがあったので、それが影響してきたのだと考えられました。つまり必ずしもフィジカルの問題ではなくて、メンタルも数値に影響したりするので、そういった繊細な部分も見るのであれば他の選手と比較することも良いことかもしれません。

 

マット・スペンサー氏

マット・スペンサー氏はノルウェースポーツ科学大学に務めている。

 

屋内スポーツに関しては発展途上

−今は見ていないが、これから見ていこうかなと思っていることはありますか?

マットまずなにが1番重要な指標なのかを見て、私としてはシンプルな指標で少ないところから広げていきたいと思っています。Catapultのシステムだと加速、減速、方向転換で。もっと細かく言えばどの角度からなどが言えます。ただ、どれくらい正確で信用出来るのかという検証はまだできていません。そのためまだ具体的には使っていないのですが、それができたら今後更に深く使っていくかもしれません。

キーランCatapultとしてはこのような指標の精度をどんどん高めていきたいです。自分たちが考えているものは出せていますが、それが再現性を持っていて、同じような数値が出せるかという話になると、もう少し検証が必要です。

ネイサンまた、データに関しては、屋内スポーツのデータが少ないですね。屋内スポーツの場合だと筋肉系、関節系の怪我は多いので、加速・減速といった指標で、怪我との関連性はプロのエリートレベルだとかなり活用出来ると期待しています。今後、屋外スポーツも含めスポーツに特化したアルゴリズムというのが、指標として出てくるのは非常に興味深いと思います。例えばハンドボールだったら、シュートの数や投げた数を見られると面白いなと。

佐々部孝紀氏

早稲田大学男子バスケットボール部ヘッドトレーナー・佐々部氏

 

ネイサン・スペンサー氏

イラワラ・ホークスのスポーツサイエンティストを務めるネイサン氏

トレーニングにおける”効率化”がメリット

−先ほど怪我の減少や怪我を少なくするためのいくつか話がありましたが、体の柔軟性なども怪我に影響してくると思います。メディカルと各個人の選手の身体の特徴と、データの関連性については何か考えていらっしゃいますか。

マット怪我のリスクはもちろんですが、リハビリといった点でも活用できますね。例えばドクターがOKを出していても、インテンシティレベルがまだ低いから許可を出せないといったことが、データを見て言えるようになります。そういった意味で、メディカルだけでなくデータの力は大きいのではないかなと思います。特に代表レベルなどの短期間で集まる時は有効だと思います。

 

佐々部例えば再発率が高いと言われている肉離れ。これに関しては、リハビリ時に部分的な筋力トレーニングと柔軟性トレーニングをメインで行なって、しっかりと身体に負荷をかけた方が再発率が低かったという研究があります。ですから、リハビリ中もプレーヤーロードをモニターして徐々に負荷を上げて、練習と同程度のプレーヤーロードをかけてから復帰するということが、再発予防に効果的になります。そこに関連して、方向別のデータを活用が有効だと思うのですが、怪我によってリスクになる方向性は違ってきてしまいます。例えば内転筋の肉離れとか内半捻挫は、左右の動きがリスクになるでしょうし、前十字靭帯の損傷だったら上下左右になります。リスクのない方向からトレーニングを積み重ねるという点でしたら、Catapultを使うことは非常に有効だと思います。