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コロナ禍で新規スポンサーが3倍増。アルビレックス新潟を支えるデータの力

2021.11.19 / 竹中 玲央奈

アルビレックス新潟では、2019年には5社だった新規スポンサー獲得数が2020年に14社へと増加。数字の裏側にはJ2降格に伴う方針変換と、とあるデータの存在がありました。アルビレックス新潟 営業部部長の野崎翔太さんに、苦境の中で成果を上げた背景を伺います。

新型コロナウイルスの流行により、経済が大きなダメージを受けました。スポーツ界も同様です。一方、この転換期に新たなアイデアが生まれ、スポンサーの価値についての考えや施策がアップデートされたとも言えます。

明治安田生命J2リーグに所属するアルビレックス新潟はその一つです。2019年には5社だった新規スポンサー獲得数が、コロナ禍真っ只中の2020年に14社へと増加しました。その数字の裏側にはJ2降格に伴う方針変換と、とあるデータの存在がありました。

アルビレックス新潟 営業部部長の野崎翔太さんに、この苦境の中で成果を上げた背景について伺います。

 

転機となった1年での昇格失敗

ーまず、スポンサー獲得の際に意識していることや取り組みについて教えていただけますか?

野崎:私が入社したのは2018年なのですが、15年ぶりにJ2を戦う最初のシーズンでした。2003年のJ2優勝時から観客動員数は増え、2005年は4万人を超えていました。このときは「大勢のお客さんが集まるスタジアムで露出ができる」というスポンサーセールスにとっても、圧倒的な強みがありました。当時は営業の際に、「東京ドームのジャイアンツ戦の動員数より多い」と言っていたという話も聞いたことがあります。これは相当なインパクトですよね。

しかし、2018シーズンからJ2に降格し、更には1年での昇格に失敗しました。そこで考えたのが、オンザピッチから離れてオフザピッチで価値を作ることです。そして、新規営業の際に、3つのポイントを意識しようと。

 

ーその3つとは?

野崎:1つ目が地域貢献と社会貢献活動。「CSR活動、SDGsの取り組みを一緒にやりませんか?」 という提案をしています。新潟にはBtoBの企業さんが多く、BtoB企業は広告宣伝に予算をあまりかけていない部分があるので、いきなり年間600万〜800万という契約は難しい。ただ、昨今SDGsに関連する取り組みの重要性が謳われている中、何をしたらいいのか分からないという悩みを持つ企業さんも多い。そこのサポートをする形ですね。

我々は新潟という地域に根付いているクラブという自負がありますし、「新潟のために何かやりましょう」という訴えかけに賛同してくれる企業さんは多いです。

 

2つ目が採用のところ。BtoB企業の課題として挙げられる採用面をサポートしていくことです。

最後に、企業ブランディングです。近年はスタートアップ企業が新潟でも増えてきていますが、私たちはそこもターゲットにしています。企業の取り組みを、アルビレックスを通じて発信していただこうと。

 

ーそれぞれの事例についても教えてください。

野崎:2018年にオフィシャルクラブパートナー(現トレーニングウェアパートナー)になったクラフティさんは、社長が新潟県出身なんです。新潟の湯沢町に廃校になった神立小学校という学校があるのですが、現在は撮影スタジオとしてクラフティさんが運営されています。湯沢町の子どもたちのために何か活動をしたいということで、2018年からこのスタジオを活用したイベントを実施しています。1回目のイベントは共にクラフティさんからご協賛いただいている新潟アルビレックスBC(ルートインBCリーグ加盟)と一緒に、子ども向けのサッカー・野球教室を実施しました。サッカー教室と野球教室を同時に開催することは滅多にないので、子どもたちはとても喜んでいました。

採用については、システム精工さんの事例が挙げられます。長岡に拠点のあるBtoB企業なのですが、採用に力を入れるために認知度を高めたいと。そこで、元選手でアルビレックス新潟営業部に所属する野澤洋輔が会社訪問する様子を我々の公式HPやSNSで公開したり、SNSを通じた情報発信のサポートをしたりしました。後者については、システム精工さんのTwitterアカウントを作成していただき、サイン入りコラボグッズのプレゼントキャンペーンを一緒に行いました。また、オンライン面接などで選手からのメッセージ動画を出したり、クラブとコラボした投稿や企画によって認知度も高まったと思います。

 

野崎:採用の点でいうと、パートナー企業限定の合同説明会を計画しています。サポーターの学生たちがそのままアルビを支援してくださる企業に入り、アルビを様々な角度からサポートするというストーリーを作りたいなと。

ブランディングでは健康食品を主に扱っている越後薬草さんが挙げられます。『まいキムチ』という商品はパートナーになった直後に2割ほど売上が伸びたと聞きました。SNSでサポーターがたくさんツイートしてくれて、購買に直結すると。越後薬草の塚田和志社長は新潟出身で32歳とお若いのですが、この世代は小さいころからアルビレックスが近くにあったので、この地域でアルビレックスがどういった存在で、どれほどの価値を持っているのかを知っているんです。

 

パートナーになれば、確実に商品が売れる

ー「スポンサー企業の商品を買う」というサポーターの行動特性はあると思うのですが、その事実は数字等で出ているものなのでしょうか?

野崎:そこも越後薬草さんの事例があります。パートナー締結を発表した翌日に「まいキムチが売り切れています」とTwitterで上げているサポーターの方がたくさんいらっしゃいました。実際に越後薬草さんが締結後にどれだけ売れたかという数字も出しています。

2021年9月にユニフォームパートナーに決まった代替肉を作っているNEXT MEATSさんにも同様の事が起こりました。パートナー契約締結をリリースした後、オンラインショップの商品が全て売り切れたんです。新潟県内の原信さんというスーパーでも販売しているのですが、そこでも完売。こういった現象は資料にまとめて新規提案の際に活用しています。

 

ー顧客満足度が高いのはどういったものでしょう??toC向けの製品を作っている企業に対して行うSNS施策でしょうか。

野崎:今はSNSが非常に大きいかなと。あとは、シンプルですけど選手の企業訪問ですね。元々は採用向けに2019年に初めて鎌ケ谷巧業さんと取り組んだのですが、非常に反響が大きかったです。

実際に採用の面は効果が出ているかはまだ分かりませんが、社員の方が非常に喜んでくれて、インナーマーケティングの効果があったと感じています。社員の方が喜んでくれると、経営者の方も非常に喜んでくれますよね。

 

コロナ禍での営業を助けたあるデータ

ー様々な業種に対して多様な提案をしている中、2020年からのコロナ禍において影響はあったのでしょうか。

野崎:コロナの影響はそこまで受けていないんです。新規顧客の数でいうと、2018年が4社、2019年が5社、2020年が14社。今年2021年は現時点で10社です。先に話した3つの部分を意識しはじめたり、とにかく電話をかけまくるという営業スタイルをとったりして、良い方向に動き出しました。

昨春にリーグ戦が止まって、試合ができない時期がありました。各クラブが代替となるスポンサー向けの施策に困っていて、Jリーグでも会議をしてアイデアを出し合っていたんです。結果として、アクティベーションの種類や、オンラインの施策の種類がだいぶ増えてきました。この期間を経て、より柔軟なアイデアが出せるようになりました。新規の数が増えた要因のひとつだと思います。

 

ー実際の商談における“術”に変化もあったのかなと。

野崎:これまでは「新潟のサポーターはロイヤリティが高く、パートナー企業に対してのロイヤリティも高い」という抽象的な言葉を使って企業を惹き付けようとしていたのですが、数字的根拠が足りないという課題がありました。企業の認知がどれくらい上がった、売上にどう直結したかという部分を数字で出さなければいけない、と。

そんな中、ニールセンスポーツさんのインパクト調査というものに出会い、2020年から取り扱い始めました。以前から活用していたメディア露出価値と併用することで、説得力が増しました。スポンサーになっていただくことで売上や企業認知、企業イメージなどにどれほどの効果を与えるかも数字で示せるんです。この資料があるかないかで全く違います。特に経営者の方は数字が大好きなので資料を渡すとずっと見ていましたね。

アルビファンの9割が、プロスポーツの発展にパートナーが必要だと考えている

<資料提供:ニールセンスポーツジャパン株式会社>

多くのファンが試合観戦やニュースのチェックをしており、パートナー活動が浸透しやすい。

パートナー商品への購買意欲も高い

<資料提供:ニールセンスポーツジャパン株式会社>

 

 

ーこういった数字があると、説得力がだいぶ高まりますよね。

野崎:今までは費用対効果の説明が曖昧なところがありましたが、インパクト調査の数字を根拠に説明できるようになってからは、経営者の方の納得感も違いますし、経営者ではない担当部署の方としても数字が明確なので上に話を持っていきやすいですよね。

 

ー認知度の拡大というところだと、スタジアムの命名権を持っているデンカさんはまさに知らなかった企業でした。

野崎:デンカさんはゴムの素材や、半導体向けの製品、インフルエンザのワクチンやコロナの検査キットの製造など、様々な事業をやられている企業です。デンカさんと共にユニフォームパートナーになっていただいているナミックスさんもBtoB企業なので、BtoC企業と比べるとまだ知らない方もいらっしゃると思います。そういったところは、僕たちと相性はいいんじゃないかと思います。

株式会社越後薬草さんのデータでは、コアファンにおいて95%の認知を獲得

<資料提供:ニールセンスポーツジャパン株式会社>

 

 

ーこういった資料があるとスポンサー営業の形も変わりますね。

野崎:これまでは「新潟のスポーツや子どもたちのために」と訴えかけていました。もちろんそれは重要なのですが、これを土台にしながら、数字や事業への貢献している事例を見せないといけないかなと。昨今の情勢下で多くの企業が広告費を削っている中で生きてく上には、ニールセンスポーツさんのデータは必要不可欠ですね。

 

ー最後に、新潟という地方ならではの特徴や、今後の展開について教えていただけますでしょうか。

野崎:県内での情報伝達が早いことはパートナーの知名度拡大に寄与しているかなと思います。新潟県民の皆さん、パートナー企業の皆さんは新潟日報さんを読まれているのですが、新潟日報さんで取り上げていただき県内に情報が広がっていく流れがあります。

NEXT MEATSさんと契約を結んだ際は、どのパートナー企業に挨拶へ行っても「新規パートナーの記事を見たよ、良かったね」と言われ、新規営業の訪問をした際も「この前新聞で見たよ」と言われたほど。ここでは情報の伝達が速いんです。

 

東京では多くの情報で埋もれてしまうものが、新潟ではそうはならない。それは強みかなと思います。また、横の繋がりも非常に強いです。様々なところに顔を出す中で、紹介を通じて新たなパートナー候補となり得る企業さんにお話しにいくことができます。スタートアップ系の企業さんで新たに進行中の話もあります。

我々としてもスタートアップ系の企業さんを多く巻き込みたいという思いがあり、創業5年以内の企業さんには特別プランを作っています。

 

こうやって企業との連携を深めて新たな価値を生み出していければ、新潟自体のイメージも変えていけるかなと。今年の初めに、サポーターの方が「アルビレックスが若手の経営者や企業を繋ぐハブになっている」とツイートしているのを見ました。まさに、そういうクラブになりたいですね。昔は観客動員数がありましたけど、今はそこで勝負ができない。

だからこそ、これからは県外の企業などにも「新潟に繋がりは全くないけど、アルビと取組んだら面白そうだな、新潟盛り上がっているな」と思ってもらいたいですし、パートナーを増やししっかりとパートナーへ価値を返すことが我々の価値向上にも繋がるのではないかと思います。