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ラグビーと和菓子の異質なタッグ。未来を『共創』する秘策とは(シャイニングアークス×船橋屋)

2022.07.20 / AZrena編集部

シャイニングアークス(ラグビー)は、老舗和菓子屋の船橋屋と『スポーツ共創パートナーシップ』を締結しています。新たな『共創』の形を示す取り組みについて、かつては選手として活躍し、現在はビジネスデザインリーダー職に従事する石神勝(いしがみ・まさる)氏に伺いました。

2022年に開幕した新リーグ・NTTジャパンラグビーリーグワンに所属していたNTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安は、老舗和菓子屋の船橋屋と『スポーツ共創パートナーシップ』を締結しています。

(※2022年6月30日いっぱいで体制変更のためNTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安は活動を終了し、7月より新チームを立ち上げ予定です。本原稿では『シャイニングアークス』の名で展開いたします)

 

シャイニングアークスはNTTジャパンラグビーリーグワン2022開幕に合わせ、ホストスタジアムを東京都江東区の夢の島競技場に設定。浦安だけではなく、江東区エリアの地域活性化の起爆剤として同区発祥の船橋屋との取り組みを始めました。

そんな両社は22年2月から4月にかけて、知見や課題を共有し、パートナーシップの方向性を確認する計4回のワークショップを実施しました。注目すべきは参加者の多様性です。パートナーシップ担当者だけでなく、シャイニングアークスの選手やスタッフ、船橋屋からは製造、販売担当者などが参加しました。ラグビーと和菓子という、まったく異なる商材を扱う両社。幅広い部署からアイデアを持ち寄り、新たな共創の可能性を探ることが狙いです。

スポンサーシップからパートナーシップへ。新たな『共創』の形を示すシャイニングアークスの取り組みについて、かつては選手として活躍し、現在は「ビジネスデザインリーダー」職に従事する石神勝(いしがみ・まさる)氏に伺いました。

 

働きながらプレーすることで得られた幸せ

―まず、石神さんの職種について伺います。ビジネスデザインリーダーという職種は、新鮮な響きがあります。就任したのは、いつ頃なのでしょうか?

2020年です。選手を引退したのは2018年で、しばらくは学生や外国人のリクルーターをしていました。

実は、このビジネスデザインリーダーは、僕が就任するにあたって新たに設立された役職なんです。新リーグ開幕にあたって、地域との繋がりを強化する必要がありました。当初は、外部の経験者を呼ぶ選択肢もあったようです。

ただ、それでは予期せぬハレーションが起きてしまうかもしれない。母体企業とチームの繋がりが強いこともあり、会社やラグビーのことを知っている自分に声がかかりました。すべてが初めてのことだったので、最初は戸惑いもあり、今でも手探りでやっている状態ですね。

―ラグビーは長らく企業スポーツとして発展してきましたが、現役時代から仕事と競技の両立に負担はありませんでしたか?

個人的には、働きながら競技ができたことはよかったと思います。僕はチームがトップリーグに昇格した年に移籍加入しました。周囲からは「どうして昇格したばかりのチームに移籍するのか」と疑問の声があったのも事実です。

僕自身もIT企業に対して、真面目な人が多く、少し冷たいのではないかという印象がありました。ただ、秩父宮で試合があったときに、選手が会社の人に囲まれて話をしていたんです。その様子を見て「すごくいいな」と。一緒に働く人に応援してもらえるのは幸せですし、僕が引退するときも多くの人に見届けてもらうことができました。「社員でよかったな」と実感しました。

ディズニーの街・浦安に、スポーツでさらなる価値を

―新リーグ開幕にあたり、スポンサー獲得の動きにも変化はありましたか?

社内でも新たにスポンサーを獲得しようという動きがありました。ただ、NTTという会社の特性として、お客さんが幅広いという特徴があります。どこの業界、地域をターゲットにするのか、社内で議論を重ねました。ラグビー部再編の話もあったので、むやみやたらにお声かけすることはせず、最終的には検討を重ねて絞った形で提案させていただきました。

―ラグビーは単一企業の色が強く、スポンサー獲得においては他スポーツとは違った難しさがあると思います。

金額にこだわるのか、広告効果にこだわるのか、判断基準はさまざまなので難しいです。それに加えて、コロナ禍では協賛という形だけでは厳しいと感じます。コロナ禍で浦安市は税収が大幅に減少したとの報道もありますし、スポーツチームが金銭の話だけをしても受け入れてもらえません。お互いにメリットのある取り組みである必要があります。

―地域活性化には行政との関係性も重要です。

行政とのやりとりは、僕ではなくGMが担当しています。話を聞く限り、かなり綿密なコミュニケーションは取れているようですね。浦安といえばディズニーというイメージが強いですが、スポーツでさらなる価値を提供して、地域を共に盛り上げていきたいです。

―スポーツ界全体として、広告を売る時代ではなくなってきていますよね。

ラグビーの注目度を考えると、広告掲載にどれだけの価値を感じてもらえるかといえば……広告費を捻出してもらうのは難しいと思います。それ以外の部分で何ができるのか、どんなメリットがあるのかを考えることで、長いお付き合いに繋がると考えています。船橋屋さんは和菓子を取り扱う企業です。もちろんラグビーとは接点がないことを考慮したうえで取り組みをはじめました。

ーコロナ禍において、地域との繋がりをどのように構築するかは悩みどころではないですか?

チームだけでなく、企業としての制限があるなかでファンとの交流の機会をどう作るかはすごく考えています。もちろん難しい部分もありますが、その一方で新しい発見もありました。会社が早い段階でリモート化を進めていたので、その経験からオンラインで交流する環境はすぐに作ることができました。こういうやり方もあるのか、と。

理念の一致が、ラグビーと和菓子をつないだ

ー船橋屋さんとパートナーシップを結んだ理由はどこにあったのでしょうか?

「地域を一緒に盛り上げる」という理念が一致したことです。もともと浦安にラグビー部の本拠地や社員寮があるJALさんや、ディズニーランドなどを運営するオリエンタルランドさんとは、浦安地域の活性化としてパートナーシップを結んでいました。しかし、船橋屋さんは江東区に本社があります。正直、お声かけしようかすごく迷いました(笑)。

ただ、まったく接点がなかったわけではありません。江東区には、シャイニングアークスのホストスタジアムである夢の島競技場があります。以前から船橋屋さんは地域に根差した企業という認識がありましたし、地域を盛り上げるにはピッタリだなと。toC企業で消費者と接点をつくりやすいこともあり、地域の方に親近感を持っていただきやすいのも大きな理由です。

最終的にパートナーシップ締結にいたったのは、共通の考え方があったからですね。どの競技であったり、チームの規模は関係なく、地域の活性化というコンセプトが合致したから実現したパートナーシップだと思います。

ーもともと船橋屋さんはスポーツと関わりがあったのでしょうか?

なかったようです。ただ、社長がチャレンジ精神にあふれる方なんですよね。人気のアニメとコラボしたり、若者向けに表参道に出店したり。もしかしたらスポーツとの取り組みも、最初はチャレンジ感覚だったかもしれませんが、今回の取り組みを通してメリットを感じていただけたのではないでしょうか。

知見を共有し、ゼロから創り上げるパートナーシップ

ー名称を『スポーツ共創パートナーシップ』とした背景は?

ゼロから創り上げていこう、という意味が込められています。船橋屋さんとしてもスポーツチームとの取り組みは初めてで、すべてがゼロベース。どう地域に貢献できるか、一緒に考えていきましょうという姿勢です。今ではリーグも『共創』という言葉を押し出していますが、その先駆けになれたと思います。

ーワークショップ開催にいたった経緯を教えていただけますか?

両者の課題を解決する『共創』の機会をずっと考えていたんです。これまでは担当者のみで進めていたのですが、幅広い部署の方に参加してもらうことで、新しいアイデアを生み出すことができます。

企業側が主体となってチームを活用していただくのが理想ですが、スポーツに関わりがないと難しい部分もあります。多くの人が意見を出し合えば、知見を共有できますし、足りない部分を補うことができます。全員が異なった視点で物事を見ることで、課題の本質に近づくことができました。価値のある時間だったと思います。

ーかなり時間をかけて、4回も実施していました。その意図はどういったところにあるのでしょうか?

関係性の構築を重視したからです。一緒に活動するにあたって、どちらかが萎縮してしまう関係は望んでいません。同じ目線で、正直な意見を言い合える関係を目指しています。時間をかけたことで、全員が組織の垣根を超えて一つのチームになることができました。船橋屋さんとのワークショップは合計10人ほどでしたが、これからはさらに拡大させていきたいです。

 

『共創』の精神は忘れずに、ラグビーの楽しみ方を伝える

ー浦安という街の強みは、どこにあるとお考えですか?

街並みの良さはもちろん、利便性やビジネス界との繋がりも強みです。都内や空港へのアクセスがいいですし、企業の本社や社員寮なども多くあります。またJRが通っていて、沿線には千葉ロッテマリーンズや、アメフトなどスポーツチームの本拠地があります。さまざまな面でポテンシャルのある街なんです。

ーその中で企業や地域に提供できるチームの強みは?

グラウンドなどの施設を含め、さまざまなアセットがあるのも強みの一つです。活用する方法は無数にあると思うので、一緒に考えていきたいですね。

例えば、地域住民対象の健康プログラムを考えています。長い目で見た浦安市の課題の一つに、住民の高齢化進行への懸念があります。市内にはマンションが多いのですが、高価なので若い人はなかなか手が出せません。自然と、40代以上の方が増えてしまうんです。そうした人たち向けにグラウンドを開放して、選手と一緒に体を動かす機会を作るのも地域にとっては重要だと思います。選手が練習している時間は一日3時間ほど。それ以外の時間はグラウンドも空いていますから、活用していきたいですね。

ー最後に、これから取り組んでいきたいことを教えてください。

多くの人にラグビーを楽しんでもらえるようにしたいです。日本では、ラグビー観戦がまだまだ浸透していません。野球やサッカーと同じように、ご飯を食べて、お酒を飲みながら、気軽に見てもらえるようにしたいです。試合時間は80分と決まっているので、その前後をうまく活用したいですね。

それ以外にも、民間のスタジアムを借りて試合をしているので、環境面でも課題が多くあります。VIPルームの不足も一つです。先日も、ご招待した役員の方が試合に来てくださったのですが、会場に到着するのは試合の直前なんです。施設を充実させて、試合の1時間前に招待できたら、もっといろんなことができただろうなと反省しました。浦安にはホテルがたくさんあるので、そこのラウンジを使ったり、美味しい食事も提供できるかもしれません。企業さんの力を借りてラグビー界を変えていきたいです。

そして、大切なのは企業の皆さんにもメリットがあること。一緒に考える『共創』の精神は、僕たちが持つ最大の特徴です。この姿勢を忘れることなく、活動を続けていきます。