menu

老舗の和菓子屋が、ラグビーチームと組む理由。ファンと刻む、新たな歴史。

2022.07.22 / AZrena編集部

老舗和菓子屋の船橋屋は、2022年に開幕した新リーグ・NTTジャパンラグビーリーグワンに所属していたNTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安と、『スポーツ共創パートナーシップ』を締結しています。和菓子とラグビーで創り上げる新たな価値とは。シャイニングアークスとの取り組みに至った経緯や、船橋屋が目指す未来について、伺いました。

1805年に創業した、老舗和菓子屋である株式会社船橋屋。同社は、2022年に開幕した新リーグ・NTTジャパンラグビーリーグワンに所属していたNTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安と、『スポーツ共創パートナーシップ』を締結しています。

(※2022年6月30日いっぱいで体制変更のためNTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安は活動を終了し、7月より新チームを立ち上げる予定です。本原稿では『シャイニングアークス』の名で展開いたします)

船橋屋の看板商品であるくず餅は、亀戸天神のお土産として長く愛されています。そして近年は、健康提案企業として、くず餅の新たな魅力を発信。従来の形にとらわれない新商品の開発や、積極的なSNS配信など、時代に合わせた取り組みを展開しています。

シャイニングアークスの本拠地は千葉県浦安市ですが、NTTジャパンラグビーリーグワン2022開幕に合わせ、ホストスタジアムを東京都江東区・夢の島競技場に設定。共に、江東区エリアの地域活性化を目指し、取り組みを始めました。

そんな両社は22年2月から4月にかけて、知見や課題を共有し、パートナーシップの方向性を確認する計4回のワークショップを実施しました。ラグビーと和菓子という、まったく異なる商材を扱う両社。幅広い部署からアイデアを持ち寄り、新たな共創の可能性を探ることが狙いです。
ワークショップについての記事はこちら

和菓子とラグビーで創り上げる新たな価値とは。シャイニングアークスとの取り組みに至った経緯や、船橋屋が目指す未来について、広報の月岡紋萌(つきおか・あやめ)さんに伺いました。

老舗でも、挑戦する姿勢は忘れない

-老舗和菓子屋である船橋屋とラグビーの組み合わせは、意外に感じる部分もありました。次々と新しいことに取り組んでいる印象がありますが、どのような社風なのでしょうか?

月岡:挑戦を大切にしています。そんな会社を作り上げているのが社長の渡辺(雅司)です。渡辺は先見の明があって、改革を通してくず餅の可能性を広げています。もともと亀戸天神の定番のお土産屋さんだった船橋屋を、健康提案企業に発展させたんです。

くず餅に独自の乳酸菌を発見したことがきっかけで、''飲むくず餅乳酸菌''という商品が誕生しました。販売されると品薄になるほどの人気商品になりました。

時代に合わせて、会社の組織体制もどんどん良くなっています。新卒採用にも力を入れています。会社の中で新卒社員が成長し、ブランドの理解もより深まる。年齢に関係なく、意欲がある人が活躍できる環境です。

―広報には、どのような役割が求められていますか?

月岡:一つは、メディアリレーション。テレビや新聞やWEBメディアに取り上げてもらって、認知してもらうのが主な仕事です。あとはSNSでの発信です。一方的ではなく双方向のコミュニケーションになるように意識しています。

情報社会となった現代は、一方的に情報を載せてもなかなか消費者には届きません。なので、ファンの方と共により良い船橋屋を創り上げようと思っています。

対面のコミュニケーションにも力を入れていて、ファンの方にインタビューをすることもあります。「なんで好きになっていただけたのか」、「どこに魅力を感じてリピートしてくださっているのか」。知りたいことはたくさんあります。ファンの方とディスカッションしながら、理解していきたいなと。

もとからある仕事を引き継ぐだけでなく、新たな価値を創り上げていくことが、広報に求められています。ブランディングに近いかもしれません。船橋屋として大切にしている軸に基づいて、取り組みを広げていくことを期待されています。

noteでも発信しているのには驚きました。

月岡:もっと私たちの思いを伝えたいと思ったんです。Twitterなどで気軽に発信を見てもらいながら、noteでは長文の発信をしてファンを増やしていくことが狙いです。

「何ができるか、いっしょに模索しましょう」という姿勢に惹かれた

―ブランディングとしては、今回のラグビーとの取り組みなど、新たな一面も見せていますね。

月岡:船橋屋は、2019年から2022年の中期経営計画で『くず餅 ReBIRTH宣言』を掲げました。亀戸のお土産屋さんから、健康提案企業に生まれ変わる。くず餅の新たな価値を見つけようという計画です。その一環として、今回のシャイニングアークスさんとのスポーツ共創パートナーシップを組ませていただきました。

最初は、スポーツチームと何ができるのか未知数でした。しかし、「何ができるかいっしょに模索していきましょう」というスタンスでお声かけいただき、面白いことができそうな兆しを感じました。

もし、はじめが「協賛金をお支払いいただき、スポンサーになりませんか?」という提案だったら断っていたかもしれません。広報としても、ブランドを深く知っていただける方を増やしたいと思っていたので、お金だけではない取り組みに惹かれました。

―たくさんのスポーツがあるなかで、ラグビーにはどんなイメージがありましたか?

月岡:どの競技かは、あまり気にしなかったです。そもそもスポーツチームと何かをやろうと考えたことがなかったなかで、「地域を盛り上げるために」と提案してくださったのがラグビーチームだったということです。

和菓子とラグビーを繋いだ、"地域"と"ファン"

―"地域"という共通項があったのは大きいですね。

月岡:企業としても地域に対してできることはやっていきたいと考えていましたし、そういったご縁があるなら、なおさらやってみたいなと思いました。

スポーツチームは、すごくファンを大切にしているイメージがあります。船橋屋も、くず餅というまだまだマイナーな和菓子を取り扱っているので、ファンの方に支えられている部分が大きいです。ファンを大事にする姿勢は共通していたので、まずはそこで何かできたらいいなと。考える過程で広がることもありますからね。

逆に、船橋屋になにができるのか不安はありました。ただ、双方のファンの方に喜んでいただけたらと思い、いっしょに取り組みを実施しています。

―健康提案企業へのシフトとも繋がるのではないですか?

月岡:健康提案企業への動きはありましたが、スポーツ選手はもっとストイックに食事にこだわっているイメージでした。あくまでも私たちは嗜好品を売っているので、そういった部分で関わり方は未知数でした。

しかし、シャイニングアークスの栄養士の方が「くず餅は、試合前の食事に適している」と太鼓判を押してくださったんです。選手からも好評で、こんな光栄なことがあっていいのかと。社内で興奮気味に話しています(笑)。

―これまで栄養的な面は押し出してこなかったのですか?

月岡:もちろん健康価値も打ち出していきたいと思っていますが、やっぱり「おいしいから買う」という方が多いので…広報としても、どのくらい健康食品として取り上げるかは難しいところです。

そんな中、栄養士の方や選手に召し上がっていただいて、感想をいただけたのは、これ以上ないチャンスだなと思いました。私たちが発信する以上に、アスリートの方の言葉は説得力がありますからね。

セッションから生まれた予想外の未来

―月岡さん自身は、スポーツ経験はあるのでしょうか?

月岡:スポーツは、大学のときにチアリーディングをかじっていたくらいです。中学は体操部、高校は帰宅部でした。球技はやったこともなければ、見たこともなかったです。ラグビーの知識もなかったので、チームの方と会うたびにラグビーについて聞いています(笑)。

―スポーツが好きすぎても視野が狭くなってしまう可能性がありますし、知らないからこそ別の観点から考えられるのは強みだと思います。

月岡:先日開催されたセッションの目的も、似た考えですね。私だけではなく、船橋屋のメンバーにもシャイニングアークスを知ってもらうきっかけになればいいなと思いました。

一部の部署を除いて、基本的に社外との交流はそこまで多くありません。せっかくならといろんな部署から集めました。職人さんや、販売部の方、採用、社内活性化を担当している方、通販の責任者など。いろんな視点を持つ人が集まることで、良いセッションになったのかなと思います。

―セッションを終えて、具体的に実現した取り組みはありますか?

月岡:まずは、くず餅職人と選手の対談です。「一つの道を進むなかで、こだわりを持っている」という共通点があるという意見が出たのをきっかけに実施して、船橋屋のnoteで公開しています。
<船橋屋noteはこちら>
https://note.com/funabashiya/n/nbf55c993f595

―職人と選手の対談は興味深いですね。

月岡:反響も多くありました。シャイニングアークスのファンの方がnoteを読んで感想をくださったり、こんなに喜んでくださるのは新しい発見だったので、これからもいっしょにできたらなと思います。

―他にはどういった取り組みがありますか?

月岡ファン感謝祭では、オリジナルラベルのくず餅を販売させていただきました。今後は大きな会場を使ったイベントも実施してみたいですし、ただ商品を販売するだけで終わらない繋がりを作っていきたいです。

面白いと感じたのが、お互いの教育の場が生まれたことです。シャイニングアークスのコーチに船橋屋の若手社員の研修をしていただき、入社2年目から5年目の社員が、チームビルディングについて学んだり、船橋屋からは渡辺が選手に講演したり。

研修後は、仕事に対する意識が全然違います。船橋屋の社員は、入社後は販売部として各店舗に配属されるので、個人で頑張る部分も大きいと思います。ラグビーはチームで戦います。球技のなかで人数が最も多いラグビーで、チームとは何なのか、人の多様性を知って、自分の強みをどう出していくか学べたのではないかと思います。

得たものが、しっかり社内で生きていると思います。双方のブランド価値を上げられたなら良い成果かなと思います。

―投下してお金をすべて売り上げで回収するのは難しいじゃないですか。ですが、意外と求めがちですよね。数字以外の例は、すごい良いと思います。

月岡:こうした活動も、予想していなかった未来だなと。時間をとってセッションしたから、生まれたものかなと思います。セッションの中でお互いの課題を知って、ヒントをいただけたかなと思います。

―今後は、どのような取り組みをしてみたいですか?

月岡:経験価値を高めるために、リアルの場での活動を増やしたいですね。船橋屋としても店舗での施策に力を入れていますし。スタジアムに来てくれたラグビーファンの思い出に残る取り組みをしたいです。

お互いの価値を高められる兆しがあることなら、とにかくやりたいです。やりたいことがあったらやる、という関係性はこの1年で築けていると思うので、妥協せずにやっていきたいと思います。パートナーとして共に成長していけるというのは、メリットかなと思います。

ラグビーはスポーツのなかでは比較的マイナーな競技、くず餅もお菓子という広い括りのなかではマイナーな部分もあるので、まだまだ知ってもらう余地はあると思います。お互いの可能性をいっしょに模索していけるのはこれからの楽しみです。