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サッカーで社会的課題への取り組みを。グラスルーツ推進部のビジョン

2016.02.16 / 竹中 玲央奈

松田薫二

 

【松田 薫二(まつだ・くんじ):日本サッカー協会・グラスルーツ推進部 部長)】

前編では松田さん自身のルーツやグラスルーツ推進部設立の背景にある日本のサッカー環境について伺ったが、後編となる今回はグラスルーツ推進部として行った取り組みや将来のビジョンなどを語ってもらった。

 

【前編はこちら】

 

サッカーやフットサルで、社会的課題への取り組みを

 

-ホームページには現場の声を聞くためのアンケート調査結果を公開していましたが、キーワードが興味深いものでした。

JFAグラスルーツアンケート調査報告書(リンク)

6つあります。”引退なし”というのはそこに住んでいたらずっと継続していけるようなみんなの居場所を作るということ。"補欠ゼロ”というのはチームに人が多くなった際、試合に出られない人がたくさん出ているということを解決するために、レベルに応じた試合環境を構築し、みんなが試合に出られるようにしていくことです。あとは、先に話した”障がい者サッカー”ですね。

加えて、ハード面という意味での”施設の確保”と”他スポーツとの協働”というものもあります。特に幼少の頃はサッカーだけでなく色々なスポーツをやることによって神経系も発達します。今は少子化と言われて久しいですが、その中で子どもたちの限られたパイを取り合うのではなくて、一緒になって子どもたちを育んでいくということをやっていかなければいけないですよね。

最後に、”社会的課題への取り組み”という点です。地域社会に存在する様々な社会的課題、たとえば認知症患者の増加、子供の体力低下、ひきこもりや不登校増、若年無業者やホームレス、少年犯罪など多くの課題がありますが、気軽にフットサルやサッカーなどを楽しむことで解決の一助になれるのではないかと。サッカーやスポーツにはその力があると感じています。スポーツに関わっている人たちがスポーツを通じて社会的課題に目を向けていくことで、スポーツ自体の価値も上がっていくんじゃないかなと思います。

そういう6つのテーマを作って、「こんな考えでやっていきたいのですが、どう思いますか?」と提示して、現場の人達に賛否を問うた訳です。1500名近くの人から回答を頂いたのですが、ほとんどの人が賛同してくれました。

 

-どこにアンケートを出されたのでしょうか。

ネット上ですね。見てもらえればわかると思いますけど、記述が多く、答えるのにすごく大変だったと思います。6つのテーマについて賛同するかどうかと、その理由や実際に活動されていること等を書いてもらったんです。なので、コメント数でいうと8000近くになりました。それを全部読んでアンケートをまとめました。回答者にとっては時間もかかると思うのですけど、良いことも悪いことも含めて、しっかりとご回答頂きました。中央団体にいると、現場との繋がりはなかなかないものなので、新たな試みとしてトライしました。やはり、何をするにも現場を知ることから始めないといけないと感じたんです。

 

-JFAが主体となってそういった労力のかかることやった事例はあるのでしょうか?

現場の人達を対象にしたアンケートはなかったと思います。コメント数が多かったので、纏めるのも大変でした。建設的な意見として賛同しないというのはありましたし、『それ以外にももっとこういうことが大事でしょう』というような意見もありました。なので、そういったご意見も記載しています。

 

-聞けば聞くほど、ものすごく壮大なプロジェクトのように思えます。

範囲が広すぎて大変ですね。要はまちづくりというか、コミュニティ作りですからね。どんどんなくなっているコミュニティをスポーツで作っていこうという。それを形だけのものではなくて、その人達がずっとそこに関わりたいと思えるようなものを作ろうということなんです。

でもスポーツセンターのように『こういうプログラムを作りましたから、来てください』というようなものとは少し違います。ヨーロッパのクラブは、サッカーをやりたい人たちが集まって始まって、施設をどうやったら持てるかというのを考えながら、施設と共にサッカーを楽しむことが広がっていった。そういう歴史があるので、日本にもそういった形が出来ていけばと考えています。

それが何十年かかかるかはわからないですが、そうやって出来ていくクラブも実際にあるんです。ラグビーの北海道バーバリアンズというクラブはラグビーをやりたい素人の大人が10人くらい集まって始まったのですけど、今では日本トップクラスのクラブチームになっているんです。企業チームとは違うんですけど、安く土地を買って、自分たちでピッチと雨天練習場も作って、“揺りかごから墓場までラグビーを楽しむ”という環境を作ったんです。それが実現されているんです。都会ではなかなか難しいかもしれませんが、やろうと思えば何かができるかもしれない。そのためには自分たちが楽しむだけではなく、地域社会に目を向けて、地域社会の課題に好きなスポーツを通じて取り組んでいくという姿勢も大事ではないかと思うのです。

そういうことによって違う広がり、サッカー界以外の繋がりができて、その地域のために無くてはならないものになっていくのではないかなと思うんです。企業チームが廃部になって消滅してしまうのは、地域に必要とされていない表れではないかと思います。ラグビーの釜石シーウェイブスみたいに企業チームが存続危機に陥っても地域に必要とされていれば地域クラブとして残っていく。横浜FCにしても、横浜フリューゲルスが合併された後に、サポーターが集まってできたもの。地域を取り巻く人たちに必要されるかどうかというのはすごく大事で、それはプロだけでなく、町クラブでも同じだと思いますし、それをやっていくと、地域も変わっていくのではないかなと感じています。

 

サッカーを通じたコミュニティづくりのハブ役に

 

-松田さんが色々と視察などで訪れた国の中で、最も影響を受けた国はありますか?

プロの試合や雰囲気はプレミアリーグですね。初の海外サッカー観戦はトッテナム・ホットスパーの試合をロンドンで見たときです。3万人超のスタジアムが一杯でした。ピッチも近くて、ゴール裏からいきなり歌が出たと思ったら、他の席からも歌がわっと出てくる。「何でこんなに一斉に声が出てきてくるんだろう」と思いましたね。当時の日本リーグの応援って、都市対抗の野球の応援のようにブラスバンドとチアガールで何か違和感を感じていたのですが、イングランドでゲームと観衆が一体化した劇場空間的なものを感じ、「これだ!」と思いました。

「こんなところにスタジアムがあるの?」という街中にスタジアムがあるし、週末になるとみんながスタジアムに集まったりバーで盛り上がったりして、本当に街の中心にサッカーがあるという楽しい雰囲気でした。ドイツはクラブ組織やゲーム環境などトータル的に凄いなと思いました。日本にも総合型のスポーツクラブができましたが、子供からお年寄りまで同じスポーツを継続して楽しめる環境まで行き着いていない。そういう面で言うとドイツのクラブ組織とゲーム環境の仕組みというのはすごく参考になります。

 

松田薫二

 

-様々な構想や思いがあると思いますが、最後に松田さんご自身の目標を教えて頂きたいです。

芝のピッチとクラブハウスを有し、誰もが生涯にわたってサッカーやスポーツを楽しめるような理想的モデルとなりうるクラブを地域の人達と一緒に実現したいです。障がい者もそうですし、ゲーム環境についてもそう。例えば自分の近くの中学校に芝のピッチとクラブハウスがあり、休日に行ったら仲間が居て、気軽にボールを蹴ったり会話したり、様々なゲームを観戦できたり、そんな環境が欲しいですよね。クラブ文化の醸成やサッカーを通じたコミュニティづくりで、ハブ役となることで力になっていきたいです。

Jリーグで働いていたときもゼロから何かを作るというのをやっていたので、楽しかったんです。だから、今もそれをやっているという感じで、不安も結構ありますけど、それよりもやり甲斐が感じられて楽しいですね。

 

【前編はこちら】