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黒岩茜が語る、ラクロスの魅力。「五輪競技になる日を心から願っています」

2016.08.12 / AZrena編集部

黒岩茜

現在日本で学生、クラブチームを含めた女子ラクロスチームの頂点に立っているのは明治大学である。それも日本一を決める全日本選手権だけでなく、大学選手権と所属する関東学生リーグで優勝という“三冠”を2年連続で達成している。そんな日本女子ラクロス界のトップに君臨する明治大学を創部初の日本一に導き、三冠達成の立役者になったのが、現在社会人クラブチーム・NeOに所属し主将を務める黒岩茜だ。彼女は明治大学初の三冠達成時に主将としてチームを牽引し、現在はNeOで競技を続けている。輝かしい成績を学生時代に残してもなお、なぜ上の舞台を目指し続けるのか。何が彼女を駆り立てるのか。その理由に迫る。

 

ラクロスの魅力と、チームスポーツの素晴らしさ

-まずはスポーツの経歴から教えてください。

幼い頃は兄姉についていって、水泳と柔道をやっていました。その後は小学3年から高校3年までバスケットボールを10年続け、大学からラクロスを始めました。

 

-大学でもバスケットボールを続けようとはならなかったんですね。

そうですね。大学では留学してみたいとか、バイトしてみたいとか、そのくらいのことしか考えていませんでした。高校最後の引退試合で左膝の前十字靭帯を切って手術をしていなかったので、スポーツを諦めていた部分もありました。ただ、大学に入ってサークルなどを見る中で、自分が気になるのはやっぱりスポーツを本気でやっている団体でした。ラクロス部を見に行ったきっかけは、高校の時のバスケットボール部の先輩から誘われたからです。実際に見学に行き、部の良い雰囲気を感じ取ったと同時に、自分と同じバスケットボール部だった人が日本代表だと知り「私もなりたい!」と思いました。あとは素直に、部の目標であった日本一という言葉に惹かれました。

 

-ラクロスのどういった部分に魅力を感じていますか?

人同士の壁がないところです。ラクロッサーだったら誰しもが感じていることだと思います。他大学、全国どこへ行ってもラクロスというスポーツで繋がれますし、ライバル・同志として刺激を受ける存在が自然と周りにたくさんできます。「うまくなりたい」という想いや「いいところを吸収する」という目的が、お互いにはっきりしているからでしょうね。だから、お互いの練習に参加したり、ホームステイをすることにも抵抗がないんです。本当に素敵な文化だと思っています。

黒岩茜

 

もう一つはラクロスに限ったことではないと思うのですが、積極性が養われ、先を考える癖がつくことです。振り返ってみれば、高校までは教えてくれる人がいて当たり前で、上手くなるためにコーチが本やビデオを貸してくれて、体育館に行けば練習できる場所も時間も道具もありました。活動にかかるお金も親からもらえるという、与えられた環境で競技をやってきたんです。大学という、自由度が高く自分次第の環境に置かれ、自ら考え行動できる機会が増えたことで気づいたことがあります。それは、“自分は何を得たいのか・どうなりたいのか”。その意志さえしっかりとあれば、周りに転がっているヒントに気づくことができ、チャンスも掴み取ることが出来るということです。

 

できなかったことができるようになる喜びや、何回やってもできないと悩んだり悔しい思いをすることって、本気で取り組まなければ、18歳というある程度成人に近づいた年齢ではなかなか出来ない経験だと思います。自分から積極的に学び、聞く姿勢、人からの意見を素直に受け入れる謙虚な心があれば上達は速くなる。こういった当たり前のことを改めて教えてくれたラクロスにとても感謝しています。

 

-明治大学のラクロス部やNeOは強豪で、部員人数も多いですよね。その環境だからこその難しさもありそうです。

女子特有のしがらみを感じたことは一度もないです。先輩、同期、後輩、周りに恵まれているからだと思います。

黒岩茜

 

-チームに所属することの良さとは何でしょうか?

人として豊かになれるところです。私はチームに帰属することの価値を、技術を高めることを除いた時、その環境でいかにプレー以外の面で豊かになれるかという部分に感じています。私が考える良いチーム像は、心の底からイキイキしている人が集まったチームなんです。だからこそ、メンバーひとりひとりの活力となるものを大事にしたいと考えています。もちろんラクロス自体が活力となっているのでそれだけでも充分なのですが、もう一歩上を目指したいです。頑張りたい、大切にしたいという、原動力がひとつでも多くある人の集団のほうが魅力的だと思っています。

ですから、チームの動きを決める時はメンバーのそういった時間を少しでも増やせるようにと考えています。練習時間を減らすという意味ではなく、せっかく色んな人が集まっているのだから、ラクロスの部分やそれ以外の部分でもプラスの関係になれたらベストで、そのために時間を大切にしようと話しています。小さなことですが、集合のメリハリや片付けなど、当たり前のことばかりです。第三者からチームを見た時も、そっちの方が何百倍も気持ちいいですし、応援されるチームって結局、人・物・時間を大切にできるチームだと思います。

こんな熱弁してしまいましたが、大切にしているのはNeOというチームを完成させることではなく、NeOで取り組んだ先にある将来です。ここを一番大切にしています。

 

-今の目標を教えてください。

ラクロスにおいては、靭帯を切ってしまったので、まずはフィールドに戻ることが直近の目標です。ラクロス以外だと、栄養学関係の資格試験を合格することです。選手として自分の知識に貯えたいという想いと、将来子供が生まれたときに役に立つ知識だと思います。

 

-怪我での焦りはありますか?

社会人になると高校の3年間、大学の4年間というように、区切りがあるわけではないので復帰までの焦りはないです。これから先を長い目で見て、今は無理する時期ではないと考えています。

 

 -怪我をしている間にチームが好調だと、複雑な気持ちになったりしませんか?

もちろん自分が活躍したいという欲や、代表の練習に参加したいという欲はあります。ですが、今はチームが目標に向かって一歩ずつ進んでいる実感があるので、不安というよりは素直に嬉しく思います。

NeO

競技普及のために、日本ラクロス界の最前線へ

-チーム(NeO)が目指しているものとは何でしょうか。

私たちが目指すのは、日本のラクロスが世界に通用するようになり、世界大会でメダルが獲れるようにすることです。そのためには競技人口の増加、ジュニアティーンズの活性化、クラブリーグの活性化、メディア進出、更には誰でもラクロスができる草ラクロス。こういった新しい文化の創造が必要であると考えています。その発信源が自分たちでありたいと思い、3年前に発足しました。私は創部当初のメンバーではないのですが、創ってくれた先輩方には感謝しています。

 

-普及する上で、競技人口を増やしていくために必要なことはありますか?

間口を広げるためには子供たちなど、まだラクロスをやったことのない人たちに広めていくことが大切です。それと同時に、奥行きを伸ばすために必要であると考えていることが2つあります。1つは、私たち社会人クラブチームのひとりひとりが、慢心せずプレー面も人としても成長し続けること。これができれば自然と、目指される存在になります。

もう1つは、競技自体は続けなくても、ラクロスに関わった人たちがラクロスの試合をまた観にいくこと。野球の甲子園だと、知らないチームでも「観にいっちゃう?」となるのは、そこになにか感動を期待しているからだと思うんです。まずはラクロスを知っている人たちが、ここにもその本気や感動があるんだよって、まだ知らない人たちに伝えていけたら素敵だなと思います。

 

 -今年のチーム目標を教えてください。

日本ラクロスの発展に最前線で貢献したいという想いがチームにあるので、日本一は何としても欲しいタイトルだと思っています。結果の伴わない組織の言葉ほど、説得力のないものはないからです。目的はあくまでも、世界で通用するラクロスを目指し体現していくことで、これが私たちNeOの日本ラクロス発展への寄与の仕方であると考えています。

ラクロスノート

 

前にチームの尊敬する先輩が、『エベレストを目指していたら自然と富士山の頂上は見えてくるんじゃないか』と教えてくれました。本当にその通りだと思います。ただ、それまでの道のりで転がり落ちたら意味ないので、エベレストに登る万全の準備をして、驕らずに一歩ずつ進んでいきたいです。

 

-ラクロスをやってきて一番嬉しかったことは何ですか。

2014年の全日本選手権優勝も印象的でしたが、それ以上に嬉しかったのは関東学生リーグ決勝で慶應義塾大学に勝ったことです。これは当時、私たちのチームみんなが思っていたことだと思います。慶應大学は日本ラクロスのパイオニアとして名実ともに本当に素晴らしいチームですが、3年生まで一度も勝ったことがありませんでした。

8月12日の学生リーグ開幕戦が明治と慶應大学なので、とてもわくわくしています。

黒岩茜

 

-逆に辛かったり後悔したことはありますか?

学生のときに、意見の相違に怯えてコーチや先輩と意見をぶつけ合えなかったことです。好かれようとしていた部分もあったとは思いますが、自分の弱さを知りました。当時の自分を思い出すと、今でもかっこ悪いなと思うので、二度と繰り返したくないです。そのためにも、今チームが何を目指しているのかというベクトルをはっきりと示して共有するようにしています。

 

 -そもそも社会人になって、配属が静岡になった中で、週末に東京まで出ていってラクロスを続けている選択に驚きました。

やっぱり好きなんですよね。チームに自分以外にも地方から来ている人がいるので、苦とは感じません。富山、仙台、新潟、名古屋、長野…去年までは九州から来ている人もいました。本当にバイタリティに富んだ人ばかりで、刺激をもらっています。今年の目標は、静岡でラクロスができる環境を見つけることなので、静岡のラクロッサーがこれを見ていてくれたら嬉しいですね(笑)

 

 -大学でほとんどの人が辞めてしまう中で、チームに新しい人を入れる大変さもありますよね。

一緒にやりたかった人が別のチームに行ってしまうこともあります。反対に、今まで違うチームだった人と一緒にプレーできる喜びもあります。同じチームでも違うチームでも、みんなラクロスが好きという同志なことに変わりはないので、喜ぶべきことですよね。

好きで続けている以上はもっと上手くなりたいです。そのためには、今まで以上に色んな人やプレーに触れることが大切だと考えているので、個人的にはクラブチーム間のテリトリー意識はいい意味でもっと低くあれたらいいなと思っています。