MARS CAMP仲島修平が考える、スポーツ業界で生きるための「3つの心得」

2016.08.25 森 大樹

仲嶋修平

“アスリートやスポーツの真の価値というものを分かりやすく社会に翻訳できるような人になりたい”というのが、自分の中での大きな軸となった(MARS SPORTS AGENT・仲島 修平)

スポーツ業界への行き方はまだ一般的な企業の採用活動のように確立されたものはなく、タイミングや運に左右されることも多いのが実情です。しかし、その可能性を高めていくことはできます。

MARS SPORTS AGENTはアスリートのキャリアサポート、スポーツ業界への就職・転職支援、そしてスポーツ業界人を育成する実践型スポーツビジネス講座・MARS CAMPを運営。MARS CAMPはこれまでに450人を超える業界人を輩出してきました。

その立ち上げメンバーでもあり、マネージャーを務めるのが仲島修平氏。門が狭いと言われるスポーツ業界。そこを目指す上で必要不可欠なマインドと行動とは一体何なのでしょうか。

第一歩は大学時代。日本初のフットサルショップの立ち上げから。

小学生の時は野球をやり、中高ではサッカー、大学時代はフットサルを学生リーグで少しやっていました。野球からサッカーに移ったのはアトランタ五輪で日本代表がブラジルに勝つのを観たからです。僕らの世代では結構それに影響を受けてサッカーを始めた人も多いんじゃないですかね?

でもどうせやるならトップレベルのところでやりたいと思ったので、とあるJリーグクラブのジュニアユースのセレクションを受けに行ったんです。すると書類にポジションを記入する欄があって、野球しかやっていなかった僕は「サード」と書きました(笑)でもなんだかんだで最終試験までいけたんです。足が速くて左利きだったからでしょうね(笑)結局合格とはならなかったのですが、多少の自信にはなりました。

それ以降サッカー、フットサルとスポーツを続けていくことになるわけですが、怪我もあり、選手としてトップにいくのは厳しいと途中から感じていました。もうサッカーから離れたいと思った時期もありましたが、自分にできることと言えばやはりそこに付随したものになってくるだろうと思って、安易な考えかもしれませんが、まずはスポーツ用品のショップという関わり方を考えました。

ただ、せっかく新しいことを始めるなら普通のサッカーショップではない方がいいと思っていて、そこでちょうど、日本で初めてのフットサルショップの立ち上げに伴いスタッフ募集をしていることを知ったので、大学1年の時からそこにアルバイトとして入りました。

今考えるとこの選択はすごくよかったと思っています。メーカー側も日本初ということで市場の状況が分からない中で、僕はユーザーでもあったので、例えば“ソールが薄くて軽く、耐久性の高い、この色”であれば絶対売れるということが分かるんです。新商品企画メンバーとしてシューズの塗り絵を渡されて、カラーリングをし、後日送られてきたその通りの色の商品を売るといったこともしていました。他のメンバーとも協力しながら、数千足の販売実績を作る経験を繰り替えし行っていた大学4年間でした。まさかメーカーの商品企画の仕事を学生時代にやれるとは思っていなかったですし、面白かったです。

そして就活の時期に差し掛かっていくわけですが、正直そのままそのメーカーに入る道もありました。でもそれが本当にいいのかと、冷静に考えてみたんです。

そこで日本のメーカーのすごいところは僕らが商品企画案として紙に描いたものをその通りに実物にしてくること、つまり、絵に描いた餅を“本当の餅”にしてくる技術力の高さであって、僕らがすごいわけではないと気づいたんです。そうなると自分の場合には確立された技術力がある場に行っても自分の存在意義は見出せないんじゃないかと思いました。

岡野雅行氏を招いたMARS CAMP毎回ビッグな業界人のゲストを招いて行われるMARS CAMPの講義(左はガイナーレ鳥取・岡野氏)

スポーツに関わる理由を再度自身に問うた上でのキャリア選択。

怪我もあっていつの間にか自分自身はトップ選手になることを諦めていたけれど、諦めずに続けてそこまでたどり着いている人も当然います。その選手たちは、現役中は社会を豊かにしてくれる存在だと思いますが、第一線を離れると自分自身の生活さえ豊かではなくなってしまうことも多くあります。社会的な矛盾を非常に強く感じました。

その矛盾した社会の仕組みを、抜本的に変えたいと思いました。“アスリートやスポーツの真の価値というものを分かりやすく社会に翻訳できるような人になりたい”というのが、自分の中での大きな軸となったんです。

僕のやりたかったことは平たく言うと「選手のセカンドキャリア支援」なわけですが、当時そんなことをやっている会社はなかった。でもそれならなおさらやらないといけないと思いました。

ただ、まだ自分で稼げもしない状態の人間がスポーツ界に行くべきではないと。スポーツの産業としての価値を上げたいと言っている自分が自身の給料分も稼げないなんて、嫌だったんです。

新卒でスポーツ業界を目指すための道として、今でこそうち(MARS CAMP)を含めたインターンも昔に比べれば多くなりましたが、当時はなかったですし、学生である自分にできることなんて何もなくて、ましてや「できる」なんて勘違いできるほどの経験値もありませんでしたから。

だから、またスポーツ業界に戻ってくる時には誰よりも活躍できる人材になっていることを前提に、まずは経営・人材という社会側を広く深く見た上で解決していくような事業を行って、それからスポーツの事業を形にしていきたいと考えるようになりました。

スポーツの価値を提供するのはあくまで社会に向けて、ということになります。そう考えると、前提として社会のことも知らない人間がスポーツ側に行って対話しようとしたところで説得力がないですよね。

就活で受けた全ての会社で自分が将来的に成し遂げたいことについて、話をしました。それは別に転職が前提でもなくて、まずは組織の中でできることを増やし、サービスを社会に提供して会社に貢献しつつも、自分がやりたいことの意思表示をして社内でスポーツを事業化させることができればいいと考えていたからです。

それで現在も在籍しているWILLグループに入社して、中小企業の採用コンサルタントとしてとにかく働いてできることを増やし、社会側の気持ちやニーズに対して理解のある人になって、伝えられるよう努力していきました。そして2008年、MARS SPORTS AGENT立ち上げに参画させてもらったんです。

MARS CAMP

サマーインターンには毎年多くの学生から応募があり、人気を集める

人手不足を痛感。認識した業界に求められている人材の育成の必要性。

当時、僕らの会社は3人しかいませんでした。当然それでは人手が足りない。まだまだ成し遂げたいことがたくさんあるのですから。

中で仕事をしてみて、こういった状態は僕らのみならず一緒に仕事をする業界内企業も同じだということに気づき、成し遂げたいことを実現するためにはもっとスポーツ業界に優秀な人材が集まってこないといけないと痛感しました。

それで僕は元々採用活動全般をプロデュースするのが得意だったこともあって、スポーツに特化した転職サポートを始めることにしました。

ただ、いい人がいてもいい労働条件を提示できないことも多いんです。これは採用する側とされる側、どちらが悪いという話でもないので、両者の間での落とし所を探っていくわけですが、なかなかうまくいかない。

企業規模として中小の企業も多い業界なので、正直こうなることは予測できていました。やはり優秀な人がスポーツ業界に入ってくる仕組みをつくりつつ、業界について理解していて、採用する側が「欲しい」と思う人材を育成する必要がある、と。

ということでスポーツ業界の最前線で活躍中の方々にご協力頂きながら、スポーツ業界の人事事情を1番把握している僕らがコミュニティをつくっていこう、ということで始めたのがMARS CAMPです。

MARS CAMP業界人のゲストの講義に耳を傾けるMARS CAMP受講生達

僕らだけでは当然できない部分も多くあるので、様々な業界人の方にご協力頂きながら、「スポーツ業界で活躍する人材」を脈々と輩出、継承され続けていくような場というか、空間というか…コミュニティを作ったということですね。

スポーツ業界は慢性的な人手不足なので、どこも人を雇いたい気持ちはあります。でも採用の多くは緊急度が高く、人が来ても求めている人材与件に満たないという悩みを抱えています。その状態では求人があったとしてもいつまで経っても業界側は求める人材と出会うことはできません。

よってスポーツ業界内の企業には喫緊の採用計画以外の活動ができるようサポートを行い、スポーツ業界に行きたいという人を業界で活躍できる状態にまで育成していく必要性があります。

仲嶋修平氏

スポーツ業界を目指す上で求められる、絶対的かつ根本的な考え方。

スポーツ業界の根本の課題は、しっかりと収益を上げられる仕組みを作っていくことにあります。

これまでスポーツはビジネスではなく、企業の広告宣伝や福利厚生などの“コスト”の要素が強かった。それ自体が悪いということではないものの、今後スポーツビジネスを加速させるには収益化しながら、社会に提供できることを増やしていく意識を業界全体で持ち、行動に移していかねばなりません。スポーツの価値を提供する先はあくまで社会にあり、そのニーズに合わせた方法を取っていく必要があります。

しかし、今“スポーツ業界に行きたい”と言っている人の10人中9人はその感覚がありません。こういう人は「自分」と「スポーツ」という二者間の関わりでしか満たされるものはなく、お金を払ってスポーツを消費する“ユーザー”でしかないです。二者間での関わりで満たされてしまう人はそれを仕事としてお金をもらってはいけないわけで、あくまで払う側ということになります。

もしスポーツを仕事にするならば、根本の部分として「自分」と「スポーツ」とさらに「その先の登場人物」にまで考えを広げていなければなりません。しかし、残念ながら驚くほどこの考えを持った人は少ないです。そして考え方が変わらない限り、アクションも変わることはありません。

反面、人を虜にするという意味ではスポーツはものすごい力を持っていると改めて感じますけどね。

スポーツは音楽とも近いと思うのですが、個人がそれから受けた影響力がとてつもなく大きいですよね。だからキャリアを選ぶ時も「スポーツで」となるわけです。人生の豊かさを追求したいと考えるのが人間です。しかし、仕事にするのであれば自分も満たされ、自分が関わったその先の人が満たされる。もっと広い視点で、スポーツの影響力を社会に対して最大化していくということを考えない限りは趣味で終わってしまいます。

仲嶋修平氏

「情報」「経験」「接点」を“AND”で持つことが不可欠。

スポーツを仕事にするために必要な要素としては大きく分けて3つあります。

1つ目は「情報」。まずはインプットをして、その中で選んだ自分の選択肢に対して確固たる動機付けをするためです。やりたいことを見つけたら、今度はそれにおけるクライアントに対して、どんな価値を提供できるのか、提供すべきかを考えます。

ここで多いのが、自分の興味のある範疇でしか学ぼうとしない人。自分が興味のあるサッカーのインターンしかやらない、球団の広報になりたいから、野球についてしか関心がない。好きは自身を突き動かすエンジンになるので良いことですが、活躍するということを考えると、パートナーやクライアントを理解しなければいけない。

例えばスポーツチームの仕事は人気ですが、チームに行きたい場合。チームは予算投下をしてくれているスポンサー側の実態を知り、抱えている問題を解決できる人材が欲しかったりするわけですが、その視点を持ってインプットをしていなければ求められている人材にはなりません。

業界に入れた人でもそのことに後から気付く人は結構います。実際にクライアントの顔が見える立場になったからですね。だからもう一回MARS CAMPを受講しに来る業界人も多くいます。

しかし、そもそもそこに気付けない“二者間での対話”で終わる人が多い。自分がスポーツを通して社会に与える影響力を考えたら、本当はそうはならないはずです。

2つ目は「経験」。学生であればインターン、社会人であればそれまでの実績・経験ということになります。自分が“やりたいこと”と“できること”が重なる領域を増やしていくということです。

そして3つ目は「接点」。公開求人も増えてきてはいますが、まだ別のところでの繋がりで採用が決まることが多いです。例えば僕らが行っているMARS CAMPでは講座の後に行われるその日の講師の方との交流会はまさにその「接点」の場であり、実際講師として来てくださった企業にCAMP生の採用が決まっていくことが多いのもそういった機会があるからです。

でも交流会に来る人が予想よりも少ない(笑)。これ以上のチャンスはないはずなのに…そう捉えられる嗅覚を持った人が少ないのと、一歩前に進み続けるアクションに、もっとパンチ力がほしいですね。

これら3つ全てがワンストップ、つまり“AND”で行われることが重要なのですが、それを分かっている人が果たしてどれだけいるのか。これはうちの受講生に限った話ではありません。

逆に業界に行っている人を見ると、どこの場に行っても居て、その中で意思表示をし、会う度に進捗が変わっています。スポーツ業界に行きたい、でも求人が少ない…では何をすべきなのか?そこまで考えたらすべき行動は分かるはずなので、その先はもう僕らも何も言いません。

どうすべきかを伝えることは簡単です。しかし、厳しいことを言うようですが、言わないと気付けない人が未成熟なスポーツ業界に入っても、その産業を更に前に推し進めることはできない。自分自身でインプットして、視点を高めた状態で体感して、自身の体感値からアウトプットするというステップをしっかり踏んできてほしいんです。なので、業界内の皆さんからもそこについては甘やかしすぎないように言われています(笑)

MARS CAMP座学、インターン、交流会という3つのアクションこそが業界への道を拓くことになる。

僕らはただスポーツ界に人材を入れるのではなく、スポーツという産業がより社会に与える影響力を高める状態をつくることがミッションであり、そういった人がもっと増え続け、切磋琢磨し続けるコミュニティをつくっているんです。だから甘やかしはNGということですね。

自身のキャリアの振り返りと今後の目標

もし今のようにスポーツに関われていなかったとしても、そこで活躍できるようになるために、自分の影響力を大きくするような仕事をし続けていたと思いますね。スポーツは僕の中で絶対的にブレない軸でもありますし、スポーツ業界に迷惑をかけるような状態で行こうとは全く思っていませんでした。スポーツの価値を社会に還元すると言っている人間が、還元されている立場にあってはいけないと考えていましたから。

また、スポーツ業界はその人で成り立っている、属人的で職人気質なところもあります。でもそれだと事業としてはスケールしていかない。スケールさせるためには標準化して、組織として全体的な総合力も上げながら新たなことにチャレンジしなければいけないわけで、その過程は決して簡単ではなく、苦しみます(笑)でも、特にこの業界においては今までにやってないことも多くあるので、絶対に必要なことだと考えます。

極論ですが、スポーツ団体は優勝を目指すと言っても、売上2倍を目指しますとは言いませんよね。でも一般的な企業は事業計画を立てて、売上を伸ばしていくことを考えています。スポーツの産業をより大きくしていくために、スポーツで社会にできることを分かりやすく増やしたい。社会側の問題をスポーツで解決できる事象を1つでも多く、大きい影響力をもって解決していくことがこれまでの、そしてこれからの目標です。

もちろん今までスポーツ業界で実現できたことはたくさんあります。でもそれに甘んじることなく、「社会は今スポーツ界でやっていることで果たして満たされているのか?」ということを常に自問自答し、形にしていく必要があります。それを業界全体でスピード感を持ってやっていかなければならないと強く思います。

仲嶋修平氏