手を取った瞬間に運命が伝わる—。伊藤沙織が語る、競技ダンスの魅力とは?

2015.07.23 AZrena編集部

伊藤沙織

 

大学から競技ダンスをはじめて、日本のトップで活躍されている伊藤沙織選手のインタビュー。三笠宮杯全日本ダンススポーツ選手権大会では、石原正幸さんとのペアで4連覇されています。男女ペアで行う競技の魅力、ダンスの魅力について迫ります!

 

大学から始めた競技ダンス

 

–  まず競技ダンスについて知らない方もいると思うので、簡単に教えてください。

競技ダンスには(※)ラテンとスタンダードという2つのジャンルがあります。各々5種目ずつ曲目が分かれていて、その曲目に合わせて振りも違っています。ラテンは体を持ち上げる以外のことはある程度何をしても大丈夫ですが、スタンダードはペアと向き合い、手を繋いだまま踊ります。私はスタンダードを専門にしています。

※ラテン:チャチャチャ、サンバ 、ルンバ 、パソドブレ、ジャイヴの5種目
※スタンダード:ワルツ 、タンゴ、スローフォックストロット、クイックステップ、ヴェニーズワルツ の5種類。

 

–  伊藤さんが競技ダンスを始めたきっかけを教えてください。

きっかけは、大学に競技ダンス部があったからです。テレビ番組でダンスをしているのを見ていて、もともと踊ることに興味はありましたが、チャンスがなかなかありませんでした。それまでは小学校、中学校、高校と吹奏楽部に所属しており、大学に入るまでは何か特定のスポーツをしているわけではありませんでした。

 

–  吹奏楽と競技ダンスではかなり違う道ですが、吹奏楽を続けようとは思わなかったのですか。

大学ではスポーツを始めたいと思っていました。ただ、スポーツを始めるのにも球技だと経験者が多いので気が引けてしまいました。でも、ダンスならば新しく始める人がほとんどで、みんな同じラインからのスタートになると思ったのと、見学に行った時の雰囲気も楽しかったので、入部を決めました。

 

–  初めて踊った時の印象はいかがでしたか。

最初は本当に恥ずかしかったです。男の人と手を繋ぐこともそうですが、距離がすごく近いので踊ることよりも、恥ずかしい気持ちでいっぱいでした。

 

–  どうやってペアは決められるのでしょうか。

大学では上級生が相性を見て決めています。ペアは固定なので、卒業まで一緒です。大学1年の時は、ラテンとスタンダードのどちらも練習して自分に合う方を選び、それからペアが決まります。

 

–  大学から競技を始めてすぐに成績は出たのでしょうか。

1年生の時は男の子によって結果が左右されやすいのですが、組んだ相手がよかった事もあり、初めての大会では優秀賞をもらいました。カップルが決まる時にも、その相手と踊っていくことになり、早いうちから成績は出ていました。2人でディスカッションしながら練習を進め、トップの中に居続けることができました。

 

伊藤沙織

男女が手を取り合いながら行うという魅力

 

–  社会人になってからはどのようにペアを探すのでしょうか。

私の場合は大学卒業後、大学の時に習っていた先生から紹介してもらいました。一般的には相手を決めるためにダンスでお見合いをします。相手がいない人同士で試しに踊り、お互いの相性を確かめます。社会人になると相手を選べる自由度が増すので、いろいろな人と組むチャンスがあるのは楽しみなところです。

私も(※)石原正幸さんとペアを解消してから何名かお見合いをしましたが、手を取った瞬間に相手の感じは伝わります。今ペアを組んでいる相手は手を取った瞬間に運命を感じて、相性というものが本当にあることを知った瞬間でした。具体的にその相性の良さがどこから来ているのか言葉にできませんが、まさにお見合いです。恋愛の話みたいですね(笑)

※石原正幸:2013年にWDSFワールドオープン・スタンダードにて13年ぶりのファイナル進出、7位。アマチュア最高峰の大会の一つである三笠宮杯全日本ダンススポーツ選手権大会で11連覇を達成(2011~2014は伊藤選手とペア)2014年WDSF世界スタンダード選手権を最後に現役を引退。

 

–  2011年から石原正幸さんとペアを組まれて、数々の素晴らしい成績を収められていますが、特に印象に残っている大会はありますか。

石原さんと最後に踊ったウィーンで開催された世界選手権(2014)です。自分の中で一番理想のダンスができ、今までやってきて良かったと心から思える試合でした。最後の大会だったので、成績も気にせず、踊ることに集中できて、自然に入っていけました。表現するのは難しいですが、今思えばゾーンと呼ばれる感覚だったのかもしれません。

 

–  伊藤さんが思う、競技ダンスの魅力を教えてください。

男女がペアを組む競技、他人と手を取り合いながら行う競技は他にないと思います。ペア同士でも考え方が違う時や意見が合わないこともありますが、それも面白さであり、魅力だと思っています。私自身も、今まで3人相手が変わっていますが、人によって特徴があり、それがダンスにも現れるのは面白いです。個々での特徴を発揮しつつ、ペアになった時に生み出される、カップル間での協調を感じる事ができるのは、本当に素晴らしいです。

また、競技ダンスは男性と女性で役割が違います。男性がリードしていき、ステップの種類と方向を決めていきます。女性はそれを感じ踊っていきます。しかし、ただ受け身でいるだけではなく、積極的にその方向に対応していく必要があります。私は、相手のやりたいことがわかり、それに対応しながらも自分のダンスがうまくできた時が一番嬉しくて楽しいです。

 

–  踊られている姿を見ると本当のカップルのように見えます。

相手とは恋人関係ではないにしても、周りからそう思われるくらいの方がいいと思います。実際にそういった関係の方も多いですが、信頼関係を築き、良い距離感でいられることが、いいダンスに繋がっていくと思います。

 

–  反対に辛いことはありますか。

相手の意見を理解できない時、自分の意見がうまく伝えられない時が辛いです。他のスポーツでも例えばコーチやチームメイトの言っていることが分からない時があると思います。ダンスでは特に自分の気持ちや考えを言葉でうまく伝え合えるようにならないといけません。たまに伝えたいことが伝わらなかったり、受け取れなかったりすると辛いこともあります。本当にコミュニケーションが大切な競技だと思います。

 

伊藤沙織

 

–  競技ダンスの大会についてもう少し詳しく教えてください。

まず、演技内容はあらかじめ決めています。大会によっては1ペアごとに踊ることもありますが、基本的に予選は複数のカップルが一斉に踊ります。他の人とぶつかりそうな時もありますが、その都度修正します。リードするのは男性なので、方向を変える時はうまく女性に伝えなければいけないのですが、急に方向が変わった時は「そっちかい!」とツッコミを入れたくなります(笑)

試合では一斉に踊っている姿を審判が見ていて審査していきます。審判は多いと10人ほどいます。5種目を各1分半〜2分踊り、総合で評価されます。フィギュアスケートと同じように、点数で評価される大会もあります。

 

–  5種目もあるとその中でも得意、不得意が出そうですね。

それぞれに個性があって雰囲気も違うので私は全部好きです。ただ目に見えた数値(点数)として評価はされることはなかなかないので、自分の感覚だけが頼りになります。

自分の体を知ることの大切さ

 

–  世界の選手と日本の選手の違いはありますか。

日本のレベルは海外に比べると高くはありません。世界的にはヨーロッパが強いです。これは個人的な考えですが、国民性が出るのではないかと思っています。元々競技ダンスは欧米で生まれた競技です。欧米では男性が女性をリードすることや、ハグや握手などのスキンシップをすることが当たり前で普段から異性との距離が近いです。一方日本では男女の距離が遠いと感じます。例えば男性の場合はリードするのとはまた違った、黙って俺に付いてこい!といった印象をダンスにも感じます。

 

–  体型においても欧米人より日本人は不利だと思いますが、今後、日本が世界で戦う時はどのようなことが大切になると思いますか。

海外で勝つには、先ほど言った日本人的な要素を捨てることも大切だと思います。音の取り方に関しても、日本と海外では異なっています。うまく表すことが難しいですが、日本は音を点で捉えていて、海外は音を幅で捉えているようです。日本の音の取り方だとテンポに遅れてしまうので、海外の選手よりも余裕がないように見えてしまいます。また、日本の音楽文化にはワルツの曲、3拍子の曲がないので、それが苦手だと言われています。今までの感覚を変えるのは難しいですが、そこを乗り越えられる選手が強いのだと思います。

反面個人的には、合気道や柔道などの相手の力を受け流す種目が日本にはたくさんあるので、そういう日本人的な動きをダンスの中に取り入れることができれば、世界でも勝てるのではないかと個人的には思っています。

 

–  大会の時に踊る音楽は決まっているのでしょうか。

曲は何がかかるか本番までわからないです。競技ダンスはフィギュアスケートのように曲に対して踊りをつけるのではなく、テンポに合わせて踊りをつけるので、リズムに合わせられればどんな曲でも踊れます。種類によってテンポは決まっています。

 

伊藤沙織

 

–  見た目以上に激しく体力を消耗しそうですよね。

確かに一般的に行われている社交ダンスと競技ダンスではイメージが違うと思います。みんな笑顔で踊っているのでそうは見えませんが、(※)ラウンド数が上がると5種目連続で踊ることもあるので、1分半のダンスといっても連続で踊ることはかなりきついです。多いと7ラウンドもあるのでヘロヘロになります。

※ラウンド数:ラウンド(予選)ごとに半数以上のカップルを残すことが決められているので参加組数によって予選の回数は異なる。準決勝には約12カップル、決勝には6カップル(または7カップル)が進むことができる

 

–  特に女性の衣装は印象的ですがどのようにして決めているのでしょうか。

基本的には自分達で用意します。衣装は見た目だけではなく、踊りやすくするための機能性も重要になります。

 

–  今後の目標を教えてください。

海外の競技ダンスの選手は、女性が非常に積極的でそれがダンスの中にも現れます。私は男性にリードされるだけではなく、自分の仕事をしっかりするダンサーを目指しています。2人の本気と本気が合わさった、エネルギーを感じさせるカップルになっていきたいです。

また、 ダンスの練習にとどまらず、まずは自分の体を知ることが大切だと考えています。ダンスだけに意識が行きがちですが、自分の体を知ることの大切さを多くのダンサーに知ってもらうために、自分自身も考えの幅を広げていきたいと思っています。

 

–  ここからはプラベートについて質問させていただきます。

–  休みの日に行っている趣味はありますか。

喫茶店に行くことが多いです。あとは整体に行ったりして、体のメンテナンスをしたりしています。休みでもやはりダンスのことや体のことを考えている時間が多いですね。

 

–  体型を維持するために食事も気にしていたりするのでしょうか。

私はしっかり食べることにしています。普通の量ではすぐに体重が減ってしまうので、維持できるように食べています。大会1日で2、3キロ体重が減ることもあります。でも大会中に食べ過ぎては動けなくなってしまうので、食事には気をつけますね。だけど、基本的には食べたいものを食べたいだけ食べています。

 

–  最後に読者の方にメッセージをお願いします。

競技ダンスは身体的にも感覚的にも楽しめる競技だと思います。意識を持った他人と触れあって行われる競技だからこそ、自分の反応や相手の反応の変化を感じとっていく過程は難しさもありますが、そこがまた魅力です。

また男女の競技なので、出会いもたくさんあるかもしれません。興味を持った方はまず近くにある教室に足を運んでみて実際に見てみてください。