menu

遠山健太が挑む、トレーナーの育成と地位向上。

2015.10.30 / AZrena編集部

遠山健太

 

【前編】はこちら

 

タレントを「発掘」することが果たして本当に正しいのか

-今回板橋区に新しく、子供達に運動指導をするためのジムを立ち上げられることになった経緯を教えてください。

トレーナーとして10年以上活動してきて、様々な出会いがありました。その人脈を使って、何かできないか考えた中で、今回治療できる場所と、運動できる場所が一体となった施設をつくることにしました。

いろいろな人に自分の施設を持つのはリスクがあると言われましたが、実際に「箱」を持つことによってできることもあると思い、思い切って始めることにしたというわけです。

 

-施設は広くて、のびのび子供達が運動できそうですね。

でも実は接骨院の部屋を造るより、芝と空調に一番お金がかかったんですよ。特に芝は柔らかいものを用意しました。子供達がここで跳ねたりして遊べる環境がいいと思ったからです。

接骨院

接骨院

 

-競技力向上に向けて、スポーツエリートを早い段階から育てるということですね。

ただ、私はこのタレント「発掘」という言葉が好きではありません。中国ならあれだけの人口がいるわけですから、優秀な人材を発掘するというのも分かります。しかし日本はそもそもスポーツ人口も少ないですし、競技の人気も偏っています。その中で「発掘」するということが果たして正しいのか、私には疑問に思えてきました。まずは競技者を増やさなければ発掘に繋がらないわけで、そのためにはどうしたらいいか、ということを考えると運動好きな子供を増やす必要があると思うようになっていきました。

 

-だから、それに関連した本を出されたりしたわけですね。

私は大学も元々教育学部で、アメリカで小学校の教員免許も取得していましたから、この分野については比較的スムーズに入っていけました。

そして1冊目に出した「スポーツ子育て論」を読んで頂いていた学研パブリッシングさんから声がかかり、そういった幼児体育教育のプログラムを開発して欲しいということで、「リトルアスリートクラブ」というプログラムを作成しました。そのプログラムを取り入れている施設にうちの会社から指導者を派遣しています。具体的には桐杏学園という学習塾で受験対策の体操や、クランテテという保育所で体育指導を行っています。

 

-受験科目に体育があるんですね。

有名な大学の附属学校や進学校には大抵入っています。その体育の指導をリトルアスリートクラブとしてやらせて頂いています。

あとは今後は学校教育にもっと入っていきたいと考えています。小学校には跳び箱、縄跳び、鉄棒、マットという4大体育種目というものが存在しています。それに加えて季節に応じて、持久走、水泳もありますよね。

我々が小学生の時を思い出してみると分かりますが、これらの種目ができる子というのはクラスのヒーロー的存在になれます。反面、できなければ冷やかしの対象になります。でも子供に責任はありません。小さな頃からそういった動きをしていなかっただけの場合もありますし、外で遊んでいればできるようになるものであっても、親がそういう環境を与えていなかっただけかもしれません。

 

-確かに活発に外で遊ぶ子はみんな何でもうまくやりますね。

そして子供にとって一番大事な時期を過ごす小学校には体育専任の先生がいることが少ないです。体育が得意でない先生はうまく教えられないということになります。つまり小学生の運動能力は担任の先生で決まってしまうことになるケースもあると考えられるんです。もしかしたらこういう状況が子供の低体力化を招いているのではないか、と私は考えました。小学校低学年で体育に対して苦手意識を持つとどんどんやらなくなっていきますからね。

今は地域によりますが、小学校には専任の先生というのは2人までしか置けないことになっています。大抵の学校は音楽と家庭科、もしくは図工の先生で、体育の先生がいるのはかなりのレアケースです。

 

-小学校で体育専任の先生はなかなか聞きません。

小学校体育の現状を目の当たりにして、まずは体育の指導をしっかりできる、そしてグループ指導が上手に出来る指導者の育成を考えました。現場では子ども達同士での譲り合いの精神や挨拶の部分まで教えられることも大事です。現在は指導者育成のための一般社団法人「子ども運動指導技能協会」を立ち上げ、豊島区の教育委員会とも一緒に仕事をさせて頂いています。専門の指導者を小学校に入れて体育の授業をする取り組みを行っています。子ども達だけではなく、先生方にも感謝されることがとても嬉しいですね。

 

-子供にパーソナルトレーナーを依頼する場合、親の要望はやはり運動能力を人一倍向上させてほしいという要望が多いのでしょうか?

本来であればバク転や空中逆上がり、二重跳びやはやぶさをできるようにしてほしい、と言いそうですよね。でも親の要望は違うことが多いです。クラスで平均的にしてほしい、というのが現状です。理由はうまく出来ないと冷やかしの対象になるからです。子どもがある程度までできるようにすることを望まれているので、トレーナーとしてはやりがいのない要望だったりしますが(笑)

今はいわゆる「お受験」のための体育指導というものもあります。受験科目に体育が入っている学校では例えば四つん這いで歩かせる「くま歩き」やスキップの他、ただ遊ばせているのを観察したりして、点数を付けたりするところもあるようで、集団内での行動を見るとことが目的だそうです。

 

遠山4

トレーナーが活躍できる場を増やしていきたい

 

-遠山さんがトレーナーとして得意なことや、その分野を教えてください。

 

将来性豊かなトレーナーになりそうかどうかを見極るということはできるようになってきました。うちが人を採用する時には早い段階で私が面接をします。その前のハードルとしては作文を書いてもらっています。うちの求人票は「今後トレーナーにはどんな資質が求められますか」といった内容の質問が1つ書いてあって、それに対して文章を手書きで書くことになっています。書いてある内容でだいたい人間性を掴むことができます。その上で面接をするのですが、基本的に相手に話させやすい内容を聞いています。今さら自分に何ができるのか、というようなアピールを聞くことよりも、その人がどういう人生を送ってきたのか、という事に興味を持っています。

 

-緊張してしまって、その人の素が出せずに終わってしまうのはもったいないですよね。

この仕事はある程度自分が売れるようになるまで、我慢しないといけない期間があります。その我慢ができるのか否かを判断するような質問を散りばめるようにはしています。

トレーナーとしての得意分野はベーシックストレングスと呼ばれる、ウェイトトレーニングの基礎を指導することです。

 

-特にトレーナーという個人で活躍していく必要があるような仕事は自分を売り込めるようになるまで時間が必要ですね。

我慢できるかどうかというのは、その人が育ってきた家庭環境などに大きく左右されるので、家族の話はよく話題に出します。特に自分で物事を決めてきたかどうか、というのは重要です。何をするにも自分の意思を持ってやってきた人は信頼できると感じています。

ただ、基準を満たせば割とスムーズに受け入れるようにしています。問題は辞める時で、どれだけ手厚いケアをしてあげられるのかは考えたいところです。スタッフが職場を辞める時、「辞めたいなら辞めれば?」といった、ドライな考え方をする企業もあるようですが、特に繋がりで成り立っている部分も大きい業界ですので、辞め方にもよりますが、いつかは戻ってきてほしいという願いを込めて送り出したいですね。実際にそれで戻ってきてくれる人もいました。

 

遠山健太

 

-今後の目標を教えてください。

 

施設を都道府県に1つずつ、47ヶ所作りたいです。アスリートとしての場ではなく、一般の人や頑張ってきたトレーナーや指導者が管理能力を身に付け、運営をするという場所を増やしていきたいです。そうしてトレーナーの活躍の場をたくさん作っていければと考えています。活躍する人が増えれば、トレーナー自体の地位の向上にも繋がりますし、そういった人達が自分の施設をつくって運営するようになっていけばまたそこで人を育てることができて、いい循環を生み出すことができます。

 

-そもそもまだトレーナーという仕事がどういったものか知らない人も多いと思います。

まだ世間の人からするとトレーナー=マッサージをする人というイメージが強いようです。実際そういう方もいらっしゃいますが、それだけではないんですよね。そのイメージを変えたいです。いずれは国家資格にもなってほしいですが、まずは我々が社会的地位や認知度の向上に貢献していきたいですね。

 

スポーツを通して豊かな未来を

-ここからは遠山さんご自身について伺っていきます。オフの日は何をして過ごしますか。

私は海外生活が長かったので日本の文化に触れるため、散歩で寺社周りをすることが大好きです。昔は「とお散歩」というブログを書いていたほど、歩いてどこかに行くことが好きなんです。出張で地方に行った時にはつい立ち寄りたくなるような社をチェックします。御朱印帳もいつも持ち歩いていて、今使っているもので3冊目になります。これで商談が成立したこともあるんですよ!先方の担当の方も寺社周りが好きで、御朱印帳を見せたら話が盛り上がり、取引することになりました(笑)

あとは食べ歩きです。「孤独のグルメ」という番組を見てから、食の時間を大事にするようになりました。有名店に入るのではなく、雰囲気のあるお店に入ります。そういうことをするようになってからよくあるようなチェーン店には入らなくなりましたね。

 

-もしトレーナーの道を選んでいなかったら、何をしていたと思いますか。

どのようなビジネスかは分かりませんが、会社の経営はしていたと思います。父が会社をやっていたのを見ていましたから。父としては会社を継がせたいという気持ちもあったようです。ただ、僕にはまだゴルファーの夢もあったので、両親にそこまで強く言われることはありませんでしたね。

でもいつか僕の7歳の息子も経営している父の姿をみて同じように経営者になりたいと思ってくれればそれはそれで嬉しいと思います。

 

-ゴルファーの道を諦めた時のお父様の反応はいかがでしたか。

応援してくれていましたが、怪我なら仕方ないと言っていました。ただ、台湾大地震の時に一時帰国していた日本から父親の様子を見に行った際に、たまたま一緒にラウンドする機会があって、僕がすごくうまくなっていたことを喜んでいたので、ゴルフ選手として親孝行にはなったとは感じています。今はトレーナーや経営者としてテレビなどのメディアに取り上げて頂く機会も増えており、それを見て喜んでくれているのでよかったと思っています。

 

-座右の銘をお持ちでしたら、教えてください。

「自由(フリースタイル)」です。うちの社訓にもなっています。型にはまらない、自分の考えをそのまま取り入れています。オンとオフの切り替えをしっかりして、メリハリを付けて仕事をするためには「自由」ということの重要性を知っておく必要があります。だからうちに若干堅いトレーナーが入ってきた時にはメンバーがみんなで柔らかくします(笑)私が“フリースタイル”スキーチームに関わっているのも何かの縁だったのかもしれませんね。

 

-遠山さんご自身の魅力はどのようなところにありますか。

良い意味でお節介、世話焼きだと言われます。自分が人に助けられて生きてきたので、困っている人を放っておけないんです。経営者として攻めきれない時もありますが、それはそれでいいと思っています。

でも僕自身はあまり話す方ではありません。会社で懇親会などがあっても、そういう場の雰囲気は好きですが、基本的に黙っています。だから第一印象はあまり話さないので怖い、無口と言われることは多いですね。

 

-それは意識的にやっているのでしょうか。

自分が話すことよりも、相手の話を聞くことの方が大切です。なので、相手に話させるように持っていきます。現場に行った時も黙って後ろで見ていることがほとんどです。

現場での施術の指導に関しても私がやるのではなく、基本的にはまずやらせます。だから新人はやってみるように言われると驚きますね。しかも当日までやることは教えません。一方で慣れている人はやらされることを分かっているので、ある程度予測して準備をしてきます。それを見て、若手は勉強していくということです。でも優しい先輩であれば、何をするか教えてくれる場合もあるようです(笑)

 

-先輩の姿を見て、自分なりに考え、行動していくようになるということですね。

トレーナーは思考の瞬発力がとにかく重要です。現場に行ったら何が起こるか分かりませんし、トレーニング環境が整っていない施設かもしれないわけです。その状況で自分がどう行動しなければならないのか、瞬時に判断する能力が問われています。うちにはインターンも数人いますが、現場に来たら彼らにも必ず何かさせます。

せっかく現場に来たのに何もしないというのはもったいないです。見ることももちろん勉強ですが、実際にやらないと分からないこともたくさんあります。

 

-分からないなりにも挑戦してみることが大切なんですね。

そこでパニックになって何もできなかったら、後で反省会をして自分で直させます。

 

-息子さんにやってほしいスポーツなどはありますか。

僕の持論ですが、専門種目は中学生以降になってから選べばいいと思っています。理想は高校生までは部活に所属せず、助っ人として様々な部に週末になると駆り出されるような存在になったらいいですね(笑)

今はいろいろな競技・種目を極力生で、できなければテレビで観戦させています。

 

-でも習い事に誘われることもありそうです。

本人の意見は尊重しますが、なるべく断ろうと思っています。その競技が本人に合うかも分からない段階でルールに縛られて、プレーをするというのは違うと感じているからです。ちなみに私の息子は両投両打が可能です。蹴るのも左右蹴ることができます。これは僕がやらせたわけではなく、本人がやりたくなるような流れを作ってあげました。

 

-具体的にはどういった形で流れをつくったのでしょうか。

息子も私に負けず劣らずの阪神ファンなので、選手の真似をしながら、左打者に左投手だと打ちにくいといった情報をさりげなく教えます。そうすると勝負で勝つために左で打ってみようとするわけです。他にも阪神の投手の様々なフォームを見せて、その投げ方にはどういったメリットがあるのか、を話したりします。最近はアンダースローにハマっています。

 

-うまく誘導していますね(笑)

命令するのではなく、自らやってみたいと思わせることで、左右均等にできるようになってもらいたいです。

私としては自分が情熱を傾けられる競技であれば、どれをやってもらっても構いません。ただ中学生までは専門的にやらないでほしいということです。

 

-中学生から本格的に始めたとしてもまだ取り返せるチャンスはありますよね。

実際に中学や高校から野球を始めて、大学でドラフトにかかったプロ野球選手もいます。そしてルーキーイヤーにプロで1勝を挙げている投手もいます。約10年で競技のトップレベルまで登り詰めることができるのであれば、そこまで焦る必要はないということです。

うちの息子の場合、スポーツに触れることで何事にも意欲的になっているので、それはいいことですね。その下の妹は兄のその姿を見ているので、さらに能力は高いと思います。まず、右投げの息子を相手にすると対面する娘からは左に見えるので、初めから左投げになりました。それもフォームが非常にきれいなので、投げの専門家に映像を見せたところ、完璧だというお墨付きを頂いたので、将来が楽しみです(笑)

 

-最後に読者の方へメッセージをお願いします。

 

「Promising your future through sports.(スポーツを通して豊かな未来を約束する)」を我々は指導の際の合い言葉にしています。人それぞれ目的は違っていても体を動かすことで明るい未来が待っていることは間違いないです。競技になれば勝敗は付きますが、楽しいものであることには変わりありません。皆さんもぜひいろいろなスポーツに挑戦してみてください!

 

【前編】はこちら