田中麻衣が、現役CAとビーチバレーを両立できている理由。
CA(キャビンアテンダント)としてお仕事を続けながら、現役のビーチバレーボール選手として活躍中の田中麻衣。今週末の10月24日(土)、25日(日)に行われるJVAサテライト品川SBAシリーズ第5戦・平塚大会にも出場予定だ。
ビーチバレーに出会ったのは27歳
――田中さんのスポーツの経歴を教えてください。
途中多少のブランクはあるのですが、小学4年生から高校3年生までインドアのバレーボールをやっていました。はっきりとは覚えていませんが、父親も母親もバレーボールをやっていたので、その影響を受けて始めたのだと思います。短大に進学してからは部活ではなく、サークルでバレーボールを続けていました。社会人になってからは、先輩に紹介されて会社のバレーボール部にしばらく所属していました。しかし週1回しか練習はできなくて、試合も年間で1、2回ほど区大会に出場する程度だったので、高校時代ほど熱くはなれず、私自身がそこまで真剣には取り組めないというのもあって、1年で止めてしまいました。それでこれからどうしていくか悩んでいたところでビーチバレー(ボール)に出会いました。
――ビーチバレーにはどういった経緯で出会ったのでしょうか。
21歳で会社には入り、ビーチバレーに出会ったのは27歳の時でした。それまではチームを探したりして、インドア(バレーボール)の道を模索していました。
そんな時、会社のバレーボール部にいた同期がビーチバレーを少しやっていて、誘ってもらったことがきっかけです。それで初めは遊び程度で誰でも出られるローカルの大会に出てみようという話になりました。
――一番初めにやった時のことを覚えていますか。
その大会に出る前に一度、ビーチに行って練習をした時に初めてビーチバレーに触れたのですが、真面目に空振りしましたよ(笑)スパイクを打とうと跳んだのですが、砂で足を取られてタイミングがズレたんです。あまりにできなくてショックでしたし、恥ずかしかったです。側からみたらバレーボール初心者に見えたかもしれません。ビーチバレーは思い通りにできないという難しさに対して、悔しい!と思って続けるか、そこで諦めてしまうか、すごく分かれる競技だと思います。
――その難しさの中で田中さんをビーチバレーに駆り立てたものは何だったのでしょうか。
スポーツ選手は誰でもそうだと思いますが、私も負けず嫌いな性格ですし、バレーボールもある程度のレベルでやってきていたので、悔しかったのでしょう。あとは誘ってくれた同僚の周りの環境にすごく魅力を感じたというのもあります。別の人から誘われていたら、もしかしたら続けていなかったかもしれません。
できるようになるまでは楽しいと思ったことはなくて、悔しさの方がずっと上回っていました。楽しいと思えるようになってきたのはつい最近です。競技を始めてから4~5年経って、初めてこの前の大会でベスト4まで勝ち上がることができました。そこまで行って初めて勝つ楽しさを味わえるようになってきました。それまでは思い通りにならないことが多すぎて、ただがむしゃらにやってきたという感じです。
――特にどのようなところが思い通りにいかなくて、悔しいのでしょうか。
やはり砂場との戦いですね。そこがうまくできなくて悔しい思いをしてきました。人数の違いなども難しい部分ではありますが、そこはもはやインドアとビーチバレーでは別の競技だと思って取り組むようにしています。インドアの感覚でビーチバレーをやっているとうまくいかないですからね。
風についても同様です。強い風が吹く中だと、経験豊富なベテランチームにはなかなか勝てないです。ビーチバレーは雷が鳴らなければ強風でも大雨でも基本的にはやります。
悪天候の場合、海外の選手は試合開催について意見することもあるようです。
――田中選手はどのようなコンディションがやりやすいですか。
跳びやすくなるので砂は固い方がいいです。海外の砂に一番近く、砂場が深いと言われている川崎マリエンで久々に練習をしたりするとなかなかうまくできなかったりするんです。そういう場所でやる時、踏み込みは特に意識してやらないといけません。逆にお台場は比較的固くてやりやすいですね。ただ私がやりやすくなるということは他の選手もやりやすくなるということになるので、どちらとも言い難いというのが本音でしょうか。
――普段はどこで練習することが多いですか。
今年は大学生とペアを組むことが多かったので、その選手の所属先である産業能率大学の専用ビーチコートによく行っていました。あとは先ほどの川崎マリエン、お台場の他、昔は平塚の方でも練習していました。
――田中さんはペアを変えることが多いですか。
昨シーズンは年間通して同じ選手と組んでいましたが、今シーズンは色んな選手と組ませて頂いています。
――田中さんはどういった選手と組みたいですか。
ブロッカーなので、レシーバーの選手が基本的には合うと思います。また、たくさん声を掛け合い、会話をしながら試合が出来る選手がいいですね。これまでの経験から、しっかりとお互いの意見を言い合える事がとても大切だと感じています。
――ビーチバレーの魅力はどういったところでしょう
インドアとは違って、すぐそこにトップ選手や日本代表選手がいることは大きな魅力の一つだと感じます。日本国内では特に競技人口が少ないというのもあると思いますが、私のようなアマチュア選手がそのような選手たちと同じ大会に出られるという点は他の競技ではなかなかないことで、日本代表という存在に手が届くのではないかという希望さえ抱かせてもらえます。また、ビーチバレーは練習した分、トレーニングした分実力が付いたと実感出来るのもいいところですね。
あとはやはり環境ですかね。ビーチという場所、雰囲気、そして音楽、試合にDJが入ると選手もテンションが上がります。海外では観客の皆さんもノリノリで踊りながら観戦したりと、とても人気のスポーツなんですよ。
――競技を続ける上でモチベーションになりますよね。
ビーチバレーがすごく頭を使う競技であるということもあります。実力が同じであっても、駆け引きや戦術によって結果は大きく変わってきます。例えば声を出して指示を出した方向とは違うところに打つ、といったフェイクを使ったりもします。
競技が仕事に影響することはあってはならない
――今まで競技を続けてきて、一番印象に残っていることを教えてください。
日本のビーチバレーの大会はレベルの高い順にシリーズA、その次にツアー、そしてサテライトというものに分けられます。サテライト大会で上位の成績を残しポイントを重ねていくと、ツアー等の大会に出ることが出来ます。
私はアマチュアとして、まずはサテライトで優勝するということを目標にやってきました。しかし最近まで、最高で5位という成績しか残したことがありませんでした。ただ今年の9月、サテライト大会で初めてベスト4の壁を破ることができたんです。その時には感極まって泣いてしまいました。本当にその壁は厚く、今まで何度も挑戦してきていましたが、越えられずにいたんです。勝ち進んでくるとレベルとしては同じくらいの相手との対戦になるのですが、フルセットの末破れたりして、悔しい思いをたくさんしてきました。その壁を破ったことは忘れられないです。
その大会では最終的にもう1つ勝って決勝に進み、準優勝することができました。でもやはりその感動よりもベスト4に進めたことが私にとっては大きかったです!
――反対に辛かったことを教えてください。
昨年8月にビーチバレージャパンという日本で一番大きな大会がありました。前日にロサンゼルスへのフライトから帰国し、夜20時くらいに家に着いて、次の日にその大会に出て、3試合こなしたというのはきつかったです!全身つりました(笑)そんな経験は初めてでしたね。普段は1日2試合のことがほとんどなので、試合数自体も多い方です。ただ、2勝1敗で次の日に勝ち進むことができた時には達成感がありました。
競技が仕事に影響することはあってはならないので、休みを有効に使って取り組むようにしていますが、仕事があることによって、競技に万全の形で臨めるとは限らないので、なかなか難しいですね。万全の状態で他の選手は試合に出場してくるので、それに比べて劣ってしまうところがあるのはもどかしい部分です。
――そうなるとトレーニングをする時間もなかなか取れないですよね。
そうですね。でも自分の中で無理をしないというのをモットーにやっています。無理をしてしまうと競技も仕事も何もかも崩れてしまうので、できる範囲でやることを心がけています。本当は休みの日も詰めてやればトレーニングもできるのかもしれません。しかし、それをしてしまうと体が持たなくなってしまうので、特にシーズン中は練習の方に重きを置いて、トレーニングはあまりせず、時間ができたら体のケアをすることで仕事に備えるようにしています。本当は満足に練習もできていなくて、休みの日にある試合と仕事を繰り返すような日々を送っています。今年は大会も多いので、できても試合の前日練習くらいですね。そこでいかに集中して取り組めるか、ということは意識しています。結局メリハリが重要だということです。
――競技と仕事を両立させる難しさがある中で、田中さんがビーチバレーに熱くなれる理由はどのようなところにあるのでしょうか。
たくさんありますが、その中の1つとしてこのように興味を持って取材をしてくださる方がいるというのはあります。私の記事がより多くの人に見られることで競技に興味を持ってもらいたいですし、ビーチバレーの普及に携わっていきたいという気持ちは常に持っています。あとは働く仲間にも良い影響を与えられる存在になりたいです。
選手としてゴールをどこに置くかというのは悩みどころではありますが、サテライトで優勝するというのは1つ目標にしているところではあります。
その目標を叶えられないと止められないです!自分が納得できるまで競技を続けたいです。
仕事をしながらスポーツをしている人はたくさんいると思いますが、私みたいに競技をずっと続けられる人は多くないでしょう。こうして私が仕事と競技を両立していくことでそういった方々に何かいい影響を生み出していきたいですね。
――田中さんを見て、勇気付けられてスポーツを始めたり、続けたりする人もたくさんいると思います。
なかなか社会人になってからもスポーツを続けるというのは難しいことだと思うんです。それでもやり方を工夫すれば続けられるということを発信していきたいです。
やっぱりスポーツっていいものじゃないですか!これから企業でもスポーツを続けられる環境づくりをしていってもらいたいので、微力ながらその手助けになっていければいいですね。
ビーチバレーもCAも体力勝負
――田中さんはお仕事もCAをされているということで、そちらもかなりハードだと思います。
海外へのフライトが入れば時差もあって、ほぼ昼夜も関係なくなりますし、気圧の変化とも付き合いながら仕事をしているので、中にはきつい、辛いと感じている人もいると思います。そうなると反動で休みを無駄に過ごしてしまう人も多いんですよね。でもそこでプライベートの時間を有効に使って、充実させるためにも私のことを知ってもらいたいです。それで少しでも私も頑張って何かやってみよう!という気持ちになってほしいです。
――実際に同僚の方のリアクションはいかがですか。
まだあまり周囲にも私がビーチバレーをやっていることは知られていません。客室乗務員だけで約7000人もいますからね。そのうちの100人ほどが知っている程度です。初めて会う人や普段あまり関わりがない人には肌が黒い人だな、くらいの印象しか持たれていないかもしれません(笑)でもこれからどんどん浸透させていきたいです。
本当は同僚に試合の応援にも来てほしいのですが、休みが不定休のため、残念ながらそれはまだ実現していないです。
――休日が不定期な中で競技と仕事を両立されているところがまた、田中さんの素晴らしいところだと思います。
そこは会社の大きな理解の下、やらせてもらっています。それがないと続けるのは難しかったです。
――仕事が競技に活かされていると感じる場面はありますか。
いつも思うのが、ビーチバレーもタフなスポーツですけど、CAの仕事も体力勝負なんです。私もそこで培われた体力があるから、こうして競技を続けられているのかもしれません。
――逆に競技に仕事が活かされているところはありますか。
いろいろな人と関わる仕事なので、それがビーチバレーという競技をする上でも活かされているところはあると思います。人とうまく接することで輪が生まれていったり、そこから練習の環境が整っていったりすることもあります。
あとは好きなことをのめり込んでやっているからか、何か体から溢れ出るプラスのオーラがあるみたいです。競技を始めてから同僚や先輩から元気をもらえる、一緒に働いていて気持ちいいと言われたりします。そこに私がいるだけで周りの人にいい影響を与えられているというのは嬉しいことです。
でも私自身は特に何か意識して変えた部分はないんです。確かに見た目は焼けてだいぶいい色に変わったんですけどね(笑)
――仕事上、日焼けにはやはり気を遣われているのでしょうか。
接客業なので、過度な日焼けはお客様に不快な思いをさせる可能性があるということでよくないので、最低限予防するようにはしています。特に顔は酷い焼け方をしないように気を付けています。でも強い日差しの中でプレーすることもあるので、ある程度は仕方ないですね。
――他に食事面などで気を遣っていることはありますか?
特に気を遣って食べているものはありませんが、量を食べるようにはしています。ビーチバレー選手の中でも私は細い方なので、体力を付けるためにもっと太るように言われています。本来、フルーツだけで食事を終わらせてもいいくらい食べなくても大丈夫な体質なので、意識的に食べないと痩せていってしまうんです。特に夏場は朝気持ち悪くて、食事を摂りたくないことも多かったのですが、それでも無理に食べるようにしていました。
――ちなみに好きな食べ物と嫌いな食べ物を教えてください。
梅干しが大好物です!塩分もありますし、試合中に食べるのもいいんですよね。遠征先にも必ず持っていきます。逆にレバーなどの内臓系や香草などが好きではないです。
――田中さんが大切にしている言葉や座右の銘はありますか。
先ほども言ったように無理をしないというスタンス、あとは昔から「一期一会」という言葉はすごく好きです。
――今後の目標を教えてください。
サテライトで優勝することです。そして仕事と競技を両立することで、今後の自分の活躍の道を広げていきたいです。
競技を続ける上で五輪を目標に掲げる選手も多いと思いますが、仮に私がそれを目指すのであれば仕事は辞めた方がいいと思っています。私は今のところ五輪を目指す予定はありません。私には競技だけを続けていってもいい未来を描くことができなかったんです。特に日本は厳しい世界ですから、五輪で活躍したとしても生活が保障されるわけではないという現状を考えると仕事をして、生計を立てていくことも大切だと判断しました。その上で夢があって、私には欠かせないスポーツを続けていこうと考えました。もしかしたらこのままビーチバレーを続けていって、五輪への光が見えたらまた考えも変わるかもしれませんが、今のところその可能性はないです。
――最後に読者の方へメッセージをお願いします。
いろいろなスタンスでスポーツを続けている人がいますが、その中でも私のようにCAをしながら競技を続けているのは異例のことだと思います。ぜひそこに興味を持ってもらって、会場に足を運んで頂き、あの人がCAをしながらビーチバレーをしている人か!と注目してもらえれば嬉しいです。そして、それが少しでもビーチバレーの普及に役立つきっかけになることを願っています。