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西尾公伸。異色の「弁護士アスリート」が、二足のわらじを履く理由は?

2017.05.15 / AZrena編集部

西尾公伸

数ある職業の中で、弁護士は簡単になれる仕事ではないものの1つであることは誰しも想像がつくだろう。難関司法試験に合格しなければならない上に日々の業務も多忙だ。そんな仕事をしながら、トップアスリートであり続ける選手がいることをご存知だろうか。

西尾公伸選手は、法律事務所オーセンスの弁護士として執務を行い、週末は社会人アメリカンフットボールのトップリーグであるXリーグに所属するノジマ相模原ライズの選手として戦っている。

弁護士でありながら、一流アメフト選手であり続けることは決して簡単なことではないだろうが、それを両立させられるのは一体なぜなのだろうか。

西尾選手にこれまでの経歴を振り返りつつ、二足の草鞋を履き続けられる理由を聞いてきた。

大学でアメフトと運命の出会い

まず、これまでのスポーツの経歴を教えてください。

一番長く、しっかりやっていたのは空手で、小学2年生から中学3年生までやっていました。学校に空手部がなかったので、町の道場に所属して、大会は学校の名前を借りて出場していました。

中学では、少しだけソフトボール部、それ以降もテニス部、陸上部、軽音部などにも一瞬だけ入っていました。

高校では、日本代表候補になるような方が指導者としていらっしゃったこともあって、テコンドー部に入部しました。1年でやめちゃったんですけど(笑)。

 

弁護士を志したのはいつのタイミングですか。

明確に司法試験を受けると決めたのは、大学4年生です。それまでは「その方向性も視野に入れながら…」、くらいの緩やかな感じでイメージしていました。

 

司法試験を受けるとなると大学4年間かなり勉強をする必要があったと思うのですが。

それはもう全くしてないです(笑)。普通の大学生です。元々どちらかというと物事が続かないタイプで、高校までは大体のことにどこか「やらされてる感」がありましたけど、大学って基本的に自由で、主体的に選択したことをやりやすい環境じゃないですか。そういう中で、「大学では、自分で決めたことをやりきりたい」と考えていて、司法試験もその中の一つではあったんです。

でも、スポーツはやれる期間が限られているし、当時は社会人になって競技にフルコミットするということはイメージしてなかったので、大学では自分が全力を尽くしてどこまでいけるのか試してみたいと思って、アメフトを始めました。

 

—他にも競技はあったと思いますが、なぜアメフトだったのですか。

団体競技をやりたかったんです。例えば一番長くやっていた空手は、自分と向き合う時間が非常に長いスポーツなので、一体感を持って達成感を得るとか喜ぶとかいうことが基本的にはなくて。

大学に進学するあたりで仲の良かった友人のお兄さんがラグビーをやっていたり、大学のアメフトが割と華やかな世界だからなのか周りの人から勧められることが多かったりというのでアメフトが選択肢に上り、「スポーツをやれる最後のチャンスかもしれないからやりきりたい」という自分の思いと合致したので、始めることにしました。

 

—学生時代、アメフトを続けるにあたって辛い思いをしたことはありましたか。

秋に地元で「だんじり祭り」があるんですけど、その辺の人は毎年当たり前に行くことになっているんです。所属していた地元の青年団には祭りを中心に一年間を回してるようなすごい温度感の人もいて(笑)。

そういった青年団との関係や司法試験を受けたい気持ちを、アメフトをやるには一旦捨てることになって、それは結構辛ったというか。「何かを得るために何かを捨てる」ということを真剣に考えた、人生の中でも大きな経験でした。

 

アメフトと弁護士、二足の草鞋を履く道へ

—選手として大学卒業後も続けたいと思ったのはどのタイミングですか。

大学時代、日本一になれなかったことは決定的に大きかったです。

実は、私が行ったロースクール(法科大学院)の試験の日が、4年生でチームのキャプテンとして目指していた関東の大学の代表を決める決勝戦「クラッシュボウル」と同じ日でした。

だから、大学4年の最後の一年間は、「ずっと勝っていったら試験を受けられない」、という状況で戦っていたんです。

「勝って残念ながら試験を受けられなかった」、という有終の美をイメージしてたんですけど、結果的にはダメで…。チームのみんながクラッシュボウルを観に行っている中、1人だけ新幹線で大阪に試験を受けに行くということになって、アメフトに未練が残ったんです。

ロースクールに入っても一年間はアメフトをやらなかったんですけど、1日十何時間も勉強していると、どこか集中できない自分がいて…。

たまたまその時に、アズワンブラックイーグルスにいた元早稲田のアメフト部の方に誘っていただいて練習に参加して、それがアメフトを再び始めたきっかけでした。

ロースクールの最初の一年間は人生で1番というくらい勉強だけをしていたのですが、残り2年間は、平日は勉強に集中して、週末は社会人アメフトで体を動かしていました。

 

—今まで勉強してた時間の一部をアメフトにあてるにあたって工夫する必要もあったと思います。

週7日勉強していたのを週5日にするわけですから、そこはものすごく不安でした。でも、そのおかげで自分が勉強に集中する時間の生産性を上げるという発想を明確に持つようになりました。

時間効率を上げることを意識するようになって、週末にリフレッシュとして体を動かすことと相まって、すごく成績も良くなりました。そこからアメフトとデスクワークのバランスを自分の中で取るようになっていきました。

西尾公伸

—そこには何か西尾選手流の勉強法があるのでしょうか。

例えば試験勉強だったら、「覚えること」。質問に対して、覚えたことの中から「何をアウトプットするのかを考えること」、そのアウトプットの過程で「実際に手を動かすこと」、の3つに分けて勉強していました。

「勝つために必要なこと」を分けて考えるという面では、アメフトと通じるものがあるかもしれないですね。今気づきました(笑)。

 

—アメフトをやっていて弁護士の業務で役に立ったことは。

まず一番は体力です。弁護士の仕事は比較的ハードなので、結構体力を必要とします。

あと、法律事務所オーセンスは、「チームで連携して、最良の仕事をしよう」という考えが強くて、「目標に向かって役割分担をしてお互いを信頼して」っていうアメフトのチームプレーの要素は活かされていると思います。

 

—弁護士の仕事はお忙しいと思うのですが、それでもアメフトを続けられる、その活力となっているものを教えてください。

アメフトを続けたいと思うのは、やっていて最高に楽しいからです。

自分のイメージ通りにプレーできたときは達成感がありますし、みんなで勝利した瞬間の喜びを共有するっていうのは、それこそ僕が団体競技をやりたかった理由の一つであり、かけがえのないものなので、自分が選手としてチームの役に立っている限りはしがみついてでも続けていきたいと思っています。そして、日本一になりたいですね。

 

—西尾選手のプレー面でのアピールポイントは。

一番前の真ん中の一番ボールに近いところで相手側のプレーを壊すチャンスを与えられているポジションだと僕は理解しているので、相手のプレーを破壊するときの、その最初のスタートの爆発と突破力みたいなものは評価していただけてるかなと思っています。

 

—ノジマ相模原ライズというチームについてはどういう印象を持っていますか。

「すごく恵まれている」っていうのが第一印象でした。地元の皆さん含めて応援してくれている人がとても多くて、声をかけてくださったり、チームも家族みたいな雰囲気があり、愛されているなって思います。

西尾公伸

時流を捉え、アメフトの価値を広めていきたい

—セカンドキャリアについて、これからの選手へアドバイスするとしたら何を伝えたいですか。

日本のアメフトの社会人リーグで「一生食べていける」という話が今目の前にないのがはっきりしている以上、セカンドキャリアについては競技人生の序盤に並行して考えなければいけないです。

もちろん競技のキャリアが仕事につながる可能性もあると思うんですけど、それを狙っていくのはなかなか難しいと思います。

 

—今後アメフト業界にどうなってほしいと思いますか。

アメフトはやるのもそうですけど、観るのもめちゃくちゃ面白いと思っていて、でもその面白さ、価値は残念ながらまだ日本においてはあまり知られていないので、それを広げる力になれるのであれば是非なりたいと思っています。

また、収益等を考えるとプロ化っていうのはなかなか険しい道のりだとは思うんですけど、TV以外のメディアも発展していて、既存のビジネスモデルが変化している今、そのハードルはだいぶ下がっていると思うので、時流をうまく捉えて、その中にアメフトも食い込んでいければ面白いだろうなと思います。

アメフトみたいに最後の何秒まで決着がつかないスポーツってそんなに多くないですし、好きな人はめちゃくちゃ好きだと思うので、そういうゲーム性の高さ、面白さとか、自分自身が感じているアメフトの価値をうまく世の中に対して伝えていきたいと思っています。

家族とか職場の皆さんに試合を観に来てもらうんですけど、「すごく面白かった」とか「また観戦しに行きたい」とか言っていただけることが多くて。

特に今、関東のXリーグは外国人の選手も増えて、エキサイティングなゲームも多くなってきていますし、楽しめる機会が抜群に増えたと思うので、もう絶対観た方がいいです!

 

—では最後に今後の目標と読者の皆さんにメッセージをお願いします。

まず今年、ノジマ相模原ライズは必ず日本一になりますので、是非応援していただきたいと思います。

私個人に限らず、仕事とアメフトの両立をして、なおもやっぱりアメフトに価値を感じて両方続けている選手はめちゃくちゃ多いので、是非そういった面でも関心を持って観ていただきたいなと思います。

そして、法律事務所オーセンスも宜しくお願い致します。

西尾公伸

西尾選手が所属するノジマ相模原ライズの次の試合は5/21(日)パールボウル第2戦、vs富士通です!

詳細はチームHPもしくはXリーグHPをご覧ください。