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水着美女、池田愛恵里とデート…セレッソ大阪・攻める広報の仕掛け人

2018.05.25 / 竹中 玲央奈

片倉庄一氏

 

「僕は好奇心旺盛な人間なので、クラブの仕事をしながらも元々ネタだけはすごく仕込んでたんです。こういうことやりたいなというのは100個ぐらい持っていて、少しずつ投下して行ったら数字が出たという感じです」

(セレッソ大阪広報:片倉庄一)

 

サッカーの日本代表にも名を連ねる柿谷曜一朗選手が、バスケットボールのBリーグ・大阪エヴェッサに電撃移籍というニュースが、2018年のエイプリルフールに話題になりました。また、水着ギャルのポスターを起用し、スタジアムに水着ギャル100人を集めるなどの前代未聞の企画を実施するなど、セレッソ大阪の広報戦略は非常に興味深いものが多いです。そして、こういった動きには、“仕掛け人”の存在があります。それが、クラブ広報を勤める片倉庄一さん。

片倉さんは、サッカー経験者でも、スポーツ業界経験者でもありません。数字と結果が求められた前職リクルートを経て、面白そうだと飛び込んだのがセレッソ大阪の営業の仕事でした。セレッソで営業だけでなく、様々な業務を取り組む中で出会ったのが広報の職。

片倉さんの“どう他者を圧倒するか、どう1人の人間として魅力的にみせるか”という考え方は、スポーツ業界で働くことだけにとどまらず様々な場面で役立ちます。スポーツ業界に飛び込んだ経緯から、どういう人材と共に働きたいかということを語っていただきました。

 

サッカーも大阪についても知らなかった

僕はもともとサッカーに関しては無知なんです。やってきたスポーツはボクシングと空手。辰吉丈一郎(※元WBC世界バンタム級王者)のことが小学校くらいの時からとても好きだったんですよ。学校の休み時間に見よう見まねでボクシングの真似事みたいなことをして、とてもやんちゃな少年時代を過ごしました。高校生になってからは空手部に入って、空手という格闘技の世界にのめり込んでいき、大学では空手ではなく、ボクシングの同好会に入りました。ボクシングは、視力が一定以上ないと試合に出れないという規定があるので、体育会ではなく同好会を選んだという訳です。

 

就職活動の当時、人材輩出企業としてリクルート、日本IBM、野村証券の3社が有名でした。その中でも、リクルートは“営業”で有名でしたので、リクルートで営業を学んでおけば将来絶対役に立つという印象があったので、リクルートで働き始めました。

リクルートでの仕事は求人広告の飛び込み営業で、ものすごくしんどかったですが、そこで働く人間は魅力的な人やスーパーサイヤ人のようなものすごい人がたくさんいたので刺激的でした!誰もが皆、“数字にこだわる” “結果にこだわる”という

姿勢でしたので、当時の経験は今でもすごく役に立っていますね。

 

その後、新しい世界で勝負したいと思い、登録していた転職エージェントからセレッソ大阪の求人の紹介がありました。“Jリーグクラブの求人”なんて初めて見たので、すぐに応募しました。結果、運良く採用していただきました。

後から話を聞くと「ちょっと違う考えの人、斜めの発想が出来る人間を採用したかった」と聞き、たまたま自分が運よくハマったのかもしれません。

 

ですが、「サッカーやってないし、大阪にも住んでないし、なんで来たの?」「よくそんなので採用してもらえたね」と周りからは言われました。サポーターからも言われることもありましたので、入社直後は超アウェイでした(笑)。

 

選手の顔も名前も一致しなかった

今の広報グループ長が広報に異動になった時に、僕を引き抜いてくれて、そこから広報としての生活が始まりました。前年まで一緒にイベント運営をさせていただいていたので、そこで評価してもらえたのかなと思っています。

Jリーグの広報は華型というイメージだったので、嬉しかったですね。組織として最も重要なのは営業だと思いますが一般的に憧れを持たれるのは広報じゃないかなと。選手と触れ合える、メディアと一緒に仕事をする、ということができますからね。

 

最初の仕事はクラブ広報としてHPの更新、プレスリリースやメールマガジンの作成で、2年目の、2015年からチーム広報に異動になりました。

チーム広報は常に選手と一緒に行動を共にします。日々の練習時は常にグラウンドに一緒にいて、キャンプ時も勿論チームと一緒に帯同します。主な仕事は、番記者の皆さんが取材しやすいような環境を整えたり、取材調整をしたり、あとはSNSを更新してチーム情報を発信することですね。

 

2015年は残念ながらJ2でしたので日々の取材対応は正直それほど多くはありませんでした。

そのため自分は特にSNSを鬼のように更新しました(笑)。多いときは1日10件ぐらい更新して、家に帰ってからも寝る前まで更新している時もありましたね。とにかく選手の顔と名前と魅力を多くの人に届けたかったんです。全選手を主役にしたくて。あとは更新しているスタッフの人間味も意識しました。投稿文は定型文よりも、更新する人の想いとか情熱が少しでも伝わればサポーターの皆さんが喜んでくれるかなと思って。おかげでフォロワーも少しずつ増えていったので、すごくやりがいはありました。

企画としては選手の日焼けを紹介する“日焼け選手権”、GWにイケメン写真とイケメンエピソードをひたすら投稿する“GWイケメン祭り”、選手の誕生日をブラジル流の粉かけでお祝いする動画などがよくバズりました。

 

ただチームの現場の雰囲気は想像以上でした。選手は1年毎の契約で働いていて、シーズンオフになったら半分ぐらいの選手がいなくなる。そういうところを目の当たりにすることで、シビアな世界に自分はいるんだなと感じたんです。その当時は現場広報とチームスタッフが同じ部屋だったのですが、隣にいたマネージャーが翌年いなくなったり、通訳がいなくなったりするので、すごくピリピリしているんです。なので浮かれた気持ちはほとんどありませんでした。「サラリーマンの僕が来ていい場所なのかな」とも思いました。

選手とのコミュニケーションも最初は大変でした。広報の立ち位置はすごく難しいです。メディアとしては選手を起用して露出を増やしたい一方、選手全員がメディア露出に協力的なわけでもない。その中間に立つのがチーム広報です。

 

選手の味方として選手の言い分を加味しながらメディア露出を図っていきたいのですが、選手の言うことだけを聞いているとなかなか取材調整が進まなかったり、取材が出来なかったりします。一方メディアからの要望だけを強く選手に押し付けても選手との関係が崩れてしまう。最終的には勿論選手側に立って対応しますが、選手の方々と口論になったことも、怒られたことは何度かありますね…。今思うと自分では選手側に立っていたつもりが、メディア側に立っていたのかなと反省しています。

 

僕の考えと選手の考えが対局になっているのは結構多いので、僕は選手と距離を置くようにしています。広報は選手と距離が近い感じがありますが、僕はビジネスライクです。しんどい時も仕事として伝えますね。もちろん2人きりの時は親身に話をするときもありますが、あまり近すぎることはありませんでしたね。

 

リクルート仕込みの営業力を活かして“攻める広報”に

広報の仕事は楽しいですよ!広報はクラブスタッフの中で唯一外部に情報を発信できる部隊です。話題やブームを作るのは広報だけに許された特権だと思っていますし、広報の発信の仕方一つでとんでもなく拡散されることだってあります。ただ一方、広報がさぼってしまうと何のメディア露出もされないので、責任を感じながらお仕事させていただいています。

ちなみに一番好きな瞬間はおもろい企画を仕込んで、情報公開まであと10分、というときです。指が震えながら文字を入力して、あとはエンターを押すだけ。エンターを押した瞬間に拡散が始まって、記者の皆さんが記事を書いてさらに拡散され、バズっていく。あの瞬間は快感です(笑)。

 

とくに今年のエイプリルフール企画(柿谷選手の移籍ニュース等)を仕込んで、手ごたえを感じた時は、興奮しすぎて1週間ぐらい眠れませんでした(笑)。これは「Yahoo!トピックスを狙う!」とプレゼン資料を作成して実現した企画で、結果、Yahoo!トピックスにも掲載されたので嬉しかったですね。広告価値換算も4,000万を超える数字になりましたので、本当にご協力いただいたメディアの皆様には感謝しかありません。

 

参考記事:異なるチーム間での大型移籍!?舞洲で行われたエイプリルフール企画の裏側

 

メディアの皆様に関してはもう一つありまして、去年の夏にセレフェスという水着を着てくると入場無料というイベントを実施しました。企画は営業スタッフが考えてくれて、自分はPRを担当させていただいたのですが、少しでもメディア露出につながるよう、スタジアムに100人の水着ギャルを集める、という企画を実施しました。メディア露出しないと自分の首がおそらく飛んでいた企画で、この時もメディアの皆様が事情を理解していただき、結果、試合前のイベントにテレビ4局、スポーツ紙全紙、一般紙、通信社と記者会見並みのメディアの方々(ほぼ男性)に集まっていただき本当に嬉しかったです。メディアの皆様が自分を男にしてくれたと思っています。

 

池田愛恵里の存在

クラブのプロモーションとして池田愛恵里さんに色々と協力していただいているのですが、もはや“キラーコンテンツ”ですね。池田さんご自身も積極的に楽しみながらクラブの告知にご協力してもらえているので本当にありがたいです。ツイッターのフォロワーも数千人増えたらしく、年度末にはご丁寧にお礼のご連絡がありました。本当にいい人です。

※“デートなう”については、SNSセミナーを聞きながらこんなことをやったらSNSユーザーが喜ぶなと思って、終わったと同時にツイートしたんですよ。池田さんのネタで載せたらみんな喜ぶと思って。

 

 

この時にSNSならではのコミュニケーションを活用してサポーターを思いっきり巻き込んでやってみたい!と思いました。

自分達が一緒に考えた企画だから、きっと応援していただけるし、結果が楽しみになるし、拡散もしてくれる。結果、このネタの関連ツイートだけで200万インプレッションを超える本当に大きな反響をいただけたので嬉しかったです。正直、SNSは匿名性が高いので、語りかける投稿をすることによって逆に炎上してしまうんじゃないかと不安はありました。でも新しいことにチャレンジして、“バズ”を狙いたかったんです。もちろん賛否両論はあるかと思いますが、結果Yahoo!ニュースなどにも掲載され少しでも“セレッソ大阪”の名前が広がることが出来てよかったです。

 

※アイドルや声優が自分の写真と「『彼女(彼氏)とデートなう』に使っていいよ」のハッシュタグを合わせてTwitterに投稿したことでこの動きがブームに。各Jリーグクラブも選手を使ってTwitterへの投稿を始めた中、セレッソ大阪は選手に加えてピッチレポーターである池田愛恵里さんを起用した。

 

話題を集めた、エイプリルフールネタの裏側

 

元々舞洲プロジェクトのPRの一環でオリックスさんがポスターで選手を入れ替えるという案を出してくれたのですが、メディアが取り上げてくれる要素がなかったので自分としては乗り気ではありませんでした。ただ話を進めていく中で、エイプリルフール企画に仕上げれば、前代未聞の企画になると思い、実行しました。ちょうど1年前にセレッソでは選手が丸坊主になるというエイプリルフール企画を実施していたので、話題にさせる自信はありました。

 

 

数値でいうとそれまでのRTで一番反響があったのが、初タイトル時の投稿で4,979RT。この企画は8,315RTでしたので、本当に大きな反響を得ることができました。

 

 

 

<エイプリルフール企画結果>

・広告価値換算 40,426,440(クラブ歴代1

Twitter RT 8,315(クラブ歴代1

Yahoo!トピックス掲載

・朝情報番組での露出

・朝日新聞デジタル4/1付総合アクセス1

 

ただ達成感はある一方で、今は“バズった後”というのをすごく考えています。

有名な電通の消費者の購買行動モデルでいうと、セレッソのことを知っている層(認知)がいて、その層がバズった企画を見て、ちょっと興味、関心を抱く。今はそこで終わってしまっています。だから直接的な動員、チケット購入にはなかなか結びついていません。なので、興味を持った方々がセレッソのホームページを見たときに、例えば分かりやすい初心者向けページを作成したり、チケット導線を見やすくしたり、限定クーポンを発行したりと、最後の背中を押す作業を今年はもっと意識してやりたいとは思っています。

 

集客に関しては告知が全てだと考えていますが、もう少しロジカルに攻めていきたいですね。

片倉庄一氏

若いJリーグが持つ可能性は無限大

とても抽象的ですがJクラブの広報で1番になりたいです。単純に1番になりたいです。基準はすごく曖昧で表現しづらい部分なのですが、何かしらの部分で圧倒的な1番になりたいですね。

自分は高校時代の空手でも県2位、リクルートでの営業でも全国2位で、1位をとったことがありません。だから、ずっとてっぺんに憧れていて。やっと自分の今までの経験、考えを生かしてそこを目指せる仕事につけたと思っています。

 

僕は全部のイベントをバズらせる自信があります。それを言える広報は、J1の中でも数名くらいしかいないと思うんですよ。広報は評価されづらい仕事なので、例えばバズらせた企画数、どれだけイベントを露出させることが出来たか、などで順位付けしてほしいですね。会社員である以上、“評価”や“結果”に関してはやっぱり気にします。

 

そういう中で、僕は“実行できる”、”実現できる”人と一緒に働きたいと思います。例えば、ポスターで水着ギャルを使いたいなんてことはみんな思うわけです。それを実現するまでにものすごい過程があって、その過程をしっかり乗り越えて実現できる人は強いと思います。なので、この世界を目指す人には0から1を創る経験をした方が良いと思いますね。企画して実現させることの積み重ねができてないと、ちょっとしんどくなるかなと。

Jリーグは25歳。まだまだ歴史は浅いので可能性は無限大だと思っています。そんな中で、大阪の代表として、まずはやっぱセレッソ大阪おもろいな!というメッセージを発信し続けたいですね!

片倉庄一氏