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アクロバットで“非日常”を創り出す。舞台の世界で求められる、失敗しない範囲の限界での演技

2016.09.15 / AZrena編集部

有松知美

舞台は演出や流れる音楽も含めた、様々な要素が絡み合って成り立っているが、やはり出演者一人ひとりの芝居や歌、体の動きが最大の魅力であることは間違いないだろう。

有松知美さんもアクロバットパフォーマーとして舞台の魅力を創り上げている一人。著名なアスリートも数多く参加したマッスルミュージカルや、最近話題を集めたゲームの世界をモチーフとした「ドラゴンクエスト ライブスペクタクルツアー」の舞台にも出演している。

元は体操選手で、国体やインカレでも輝かしい成績を残していた有松氏がアクロバットパフォーマーとして舞台に立つようになった経緯や、競技と舞台における演技の違いなど、“魅せる”側という視点での話を伺っていく。

有松さんの練習、パフォーマンス動画

 

物心つく前から続けた体操。体重管理の辛さを味わった学生時代。

-まず、体操を始めたきっかけから教えて下さい。

2歳違いの兄がいるのですが、兄が幼稚園に入る時に、私が家で1人になってしまうと暇なので、母親に近くの体操教室にポイッって入れられました (笑)

 

-では始めた頃の記憶はあまりないのですね。

全く覚えていないですね。ただレッスンがずっと嫌だったみたいで、泣きじゃくっていたっていうのはよく両親から聞いていました。

 

-では何歳ごろから体操の思い出がありますか。

小学校1年生の時に、一般クラスから選手コースに上がるんだよと言われたのは覚えているのですが、あとはあまり覚えていません。

 

-体操を辞めたいと思った事はなかったのですか?

1回だけ辞めたいと思った事があります。毎日、体重測定をするのですが、毎日同じ体重を維持するのは辛くて。私はすぐ体重が増えちゃうタイプだったので、それがどうしても維持出来ないという時は、辞めようかなと思いました。

 

-それはいつぐらいの時ですか?

大学2年生ぐらいの時ですかね。私は食べるのが大好きなので本当に過酷でした。高校の時は先生が動きを見て、重いと判断したらただ走らされていましたが、大学では明確な数値で管理されるので、辛かったです。減らす方法は人によって違っていましたが、私は走っていました。

 

-体重管理は本当に大変なんですね。

でも、最近思うのはあの頃は本当に周りを気にしないで、自分の指先などに集中している感覚を味わえていて、自分自身にそれだけ集中出来る事ってもう一生無いだろうなと思っています。体操に行ったら、どんな精神状態であっても安定するというか、嫌な事があっても悲しい事があっても、練習に入ったらスイッチが入っていたので、自分をコントロール出来ていた場所だったと思います。

 

有松知美

舞台では絶対に失敗しない範囲での限界を求める

-競技としての体操から、パフォーマーとして舞台に立つようになった経緯を教えて下さい。

大学4年生の11月まで全日本選手権に出場していて、就職活動をしていなかったので、進路についてどうしようかなと考えていた頃に、以前お会いした事があったマッスルミュージカルの先輩に「オーディションないですか?」って聞いたらあると言われたので、受けてみたら合格しました (笑)

私は本当にタイミングが良かったと思います。アクロバットをしている女性の方がごっそり抜けちゃっていて、ちょうど人を探していたらしいです。

 

-でも体操と違い舞台は音楽や演出がある中で、自分のペースで出来ないと思いますが。

体操との違いは感じるのですが、ただただ楽しくて。競技というのは、いかに自分のベストのコンディションに持って行って、それを試合で出すかという感覚なので、うまくいかないこともありますが、舞台に立つときはショーを提供するので絶対に失敗は許されません。自分を売り物にしてやっていかないといけないという状況になった時に、最大限まで力を出したいけど、絶対に無理だというところまで足は踏み入れないようにしています。この演技を公演のある間、安定して出来ますかと言われた時に、それが難しいと感じたら1歩引いて、ショーで出来る中で最大限の力を出していく。それで慣れていったら徐々に力を上げていく。ドキドキしてイチかバチかという演技は絶対にやらないということは先輩に教えて頂きました。

 

-ショーを継続的に提供する上で、力をセーブする必要もあるという事ですね。

競技では1番高いものやすごいものを組み合わせるのですが、先輩から舞台に出て行く時には側転1つが商品だよと言われたことにはびっくりしました。自分の中では側転は簡単な技ですし、アップみたいなものだと考えていましたが、そのような動きをお客さんに商品として見せているのだという意識を持ちました。そういった考えは舞台で教えてもらいました。

実は競技としての体操をもう少し続ける道もあったんです。国体の開催地が他の県から社会人選手を呼んで出場させることがあるのですが、そのオファーをもらっていました。でも、やらせてもらえると同時にお金をもらって“やらなきゃいけない”という立場になったら私は頑張れるのかと考えるようになって。自分が地元国体の時にも、そういう県外の選手が来ていて、失敗されている選手の姿を見ており、大人の世界の言葉を高校生ながらに聞いて、私には耐えられないなと思いました。だから私は頭の中で、競技と舞台は別々のものだと考えています。

 

-有松さんは舞台での大きな失敗をした経験はありますか?

あります!ただ変な話、細かい失敗はしたとしても毎日来てくれているお客さん以外は分からないですから(笑)。でも隠し切れない失敗を3年前ぐらいに1回してしまったんです。

舞台での演技中にお尻からボンって落ちてしまって。頭が真っ白になったのですが、お客さんは日常にはない非現実的なものを見に来ているので、現実に戻してはいけないと思って3秒後ぐらいには、「今のは何だったの?」といった感じで何事もなかったように戻したつもりだったのですが、絶対やってはいけない失敗でした (笑)

 

-どういったアクションだったのでしょうか。

それがもうすごいシチェーションで。20人ぐらいのキャストで出ている中で私ともう一人の男の人がメインでアクロバットの演技をしていました。舞台上の周りの仲間がはけていき、ちょうど私達2人だけになったタイミングで、やってしまって…男の人に持ち上げられて倒立をするのですが、手が抜けちゃって支えるものが無くなってスコンと落ちちゃって。もうテディベアみたいになってしまいました (笑)

 

-失敗した後には仲間からフォローなどはあるのですか?

その失敗した演技が最後だったならまた話は変わるのですが、舞台は続いていたのでどうにか終わりまでやりきりました。 そういう時は全ての演技が終わった後に「大丈夫?」みたいな感じで言われます。

 

有松知美

自分にしか出せないものはー。パフォーマーの難しさと覚悟。

-舞台の演出の中でやってほしい技の依頼もあると思います。

1番最近であったのが、シルク・ドゥ・ソレイユとかでよくやっている「バンキン」という演目です。これは人の上で飛んで回って戻ってくるという演技なのですが、それをやるぞって言われた時は、「私が飛ぶの?」と思いました。小柄な子は飛んだりするんですけど、私は体操選手の中でも背が高いほうなので、あまり人の上に乗るという事が無いので。

 

-体操選手は小さい方が良いなど、身長は関係あるのですか?

もちろん筋力であったり、回りやすさで小さい方が有利とかはあります。体操で使用する器具自体の大きさは決まっているので。身長は大体150〜155cmの選手が多くて、160cmあれば大きいです。私は164cmあるので、技の見た目は大きくて見栄えは良いのですが、小さい選手より回転力やスピードは劣ります。

中国やアメリカのような強い国は、トップ選手の育成の段階から身長でふるいにかける事もあります。

私は大学の時にトップ選手には入れないと覚悟して、そこから自分はどのようにしたら印象を上げていけるか考えました。その結果、名前なんて覚えてもらうのはいいから、とにかく“でかい人”みたいな感じで認識してもらえたらいいや、と(笑)

今も一緒にアクロバットをやっている子達は私より小さい人ばかりなのですが、同じ演技をしても、体が大きい分私の方が目立てること、自分にしか出せないことはあります。

 

-複雑な動きが多い分、怪我も多そうです。

選手の時は、毎年何かしらの怪我をしていてギプスをしていました。でも、今はないですね。

 

-怪我をしなくなったのは何か変化があったからなのでしょうか。

舞台に出てお金をもらうようになって1番きついなと思うのは、休みたい時に休めないという事。部活もきつくてハードではありましたが、「今日は調子が悪いので休ませて下さい」と言えば休めたので。一方で舞台は自分のポジションを貰って、それを演じる仕事なので、風邪を引いたり、インフルエンザで家から出られませんっていう状態ぐらいでないと休む事は出来ないです。それに仮に休んでしまったらもう次は仕事を貰えないかもしれない。だからこそ、常に自分が動けるようにしています。

でも、昔から自分の身体と向き合うようにしていたので、何か異変を感じたら予防したり、その部分のトレーニングをしたりするようにしています。

 

-今までで、1番緊張した舞台を教えてください。

ずっとアクロバットだけをやってきた中で、ティシューのエアリアル(天井から吊るした特殊な布を用いた空中演技)をやる時は、もうドキドキして1番緊張しました。今思い返せばこれは舞台に乗せちゃダメだろ、みたいな事をやっていましたね。(笑)

もちろん緊張はしますが、今は幕があけたら楽しいという感情が先行します。競技と違うのは仲間と一緒に舞台に立てるところで、皆で声を掛け合いながら出来るので、楽しく演じることができます。

一緒にやっていると、この人はどこの演技が不安なのか、緊張するのか、などがわかってくるので、本番では頑張れ!って思いながら演じています。

 

-特に初めて舞台に立つ人はすごく緊張しますよね。

去年も初めて舞台に立った子が、すごく楽しい場面で顔が引きつっていたことがありました (笑)

 

-そういう人には声を掛けたりするのですか。

そうですね。話しかけて逆に頭が真っ白にならないように、あえて声をかけないこともありますけど。

 

-ご自身は、緊張したりしないのですか?

緊張を感じた時には、ひたすら喋るようにしています。ずっと喋り続けて、周りに私が緊張している事を言い続けます (笑)

 

有松知美

指導する立場にもある中で、子供に対して行っていること。

-話は変わりますが、有松さんは親子のコミュニケーションや、子供の教育の為に体操教室を開いていますが、始めるきっかけは何かあったのですか。

マッスルミュージカルが無くなった後に、1回母校に帰って体操競技を指導していました。その時は、試合に出てメダルを取りたいと言うような子に指導をしていて、自分もそういった気持ちでやっていたので、教え甲斐があり、頑張ってもらいたいという想いを持って指導をしていました。

でも、もっと小さい子供達に体操の導入は教えた事は1度もありませんでした。

そういった時期に、幼児と小学生と親子体操のクラスの3つを持たせて頂くことになりました。

ちゃんとやらないと怪我すると言っても、ふざけているような子供達に、どうやったら分かってくれるのか、悩みました。正直怪我をしないで他の子供達に迷惑をかけなければ、別に遊んでも、ふざけてもいいんですけど。

でも親子体操なども指導する中で、子供が本当にかわいく思えてきました。それで子供の成長について興味を持って調べていくと、乳児期に親御さんとのタッチの仕方で運動能力も変わってくる事が分かりました。それでベビーマッサージも行っていくことにしたんです。

 

-ベビーマッサージではどういったことを行うのでしょうか。

ベビーマッサージは簡単に言うと、親御さんと赤ちゃんのコミュニケーションです。赤ちゃんは言葉が発せないので分からない事が多いじゃないですか。毎日数分でも赤ちゃんと目を合わせて身体をタッチしていくことで、子供のちょっとした異変にも気づいていけます。それがお母さんの心の安定にも繋がりますし、赤ちゃんも毎日お母さんが居てくれる安心感から情緒が安定してきます。

触るという事自体が神経の刺激になるので、神経細胞が育っていきます。脳が活発になると同時に運動神経も刺激されていきます。神経細胞は幼少期に出来上がるのでそれをいかに早く刺激していくかを考えています。

 

-運動ができない子供が最近は増えているとも言いますね。

実は今の運動が出来ない子供は前回りをさせる時に「手を出して」と言ってもその手が出てこないんです。でもそのような子でも体操を始めて半年から1年経てば、前回り、後ろ回り、その他にも様々な動きが出来るようになってきます。これは自分の身体をしっかり認識できる力が付いてくるからなのかなと個人的には思っています。

 

海外の舞台経験の先に、日本のショービジネスを成熟させたい。

-有松さんの今後の目標を教えてください。

私は日本だけではなく、海外にも出たいと思っているので、そうなれるように、色々なパフォーマンスを頑張ってしていけたらと思っています。

海外でオーディションを受けてみたり、自分でチャンスを掴んでいきたいと思っています。

 

-立ってみたい舞台はありますか。

シルク・ドゥ・ソレイユの舞台には立ってみたいです。この舞台に立ちたいという漠然とした気持ちもあるのですが、日本のパフォーマーは、結婚して妊娠するという事を考えると、子供を産むか仕事を続けるかを天秤にかけながら仕事をしている部分があります。でも、海外はショービジネスが確立されているので、そういった部分がケアされていて産休や育休が取れたり出来るので、そのような場所でやりたいですね。今後それがもっと日本にも広まったら良いなと思うのですが、自分で広めないとただの夢物語になると思うので、私がその文化を経験することで伝えていきたいです。

 

有松知美

 

-ここからは少しプライベートな話をお聞きしていこうと思います。

舞台で音楽と常に接していると思いますが、普段どういった音楽を聞きますか。

暑い時はハワイアンミュージックをずっと聞きます。楽屋に居る時は、ここはハワイだって思い込むようにして聞いています (笑)

 

-食事面で何か気をつけたりしている事はありますか。

ショーが終わったら好きなだけ飲んで食べたりをするのですけど、ショーがある期間は、出来るだけ太らないように頑張っています。

その期間は出来るだけ野菜を食べたり、お酒を飲まないようにしています。

 

-食べ物は何が好きですか。

炭水化物が大好きです (笑) 丼とかパンとか、うどんも好きですね。

 

-逆に嫌いな食べ物はありますか?

トマトがダメなんです。調理済みは大丈夫なんですけど、生トマトの青臭さがダメなんです。

 

-オフの日などはどんな事をして過ごしますか?

基本的に寝てます(笑)

 

-それでは最後に読者にメッセージをお願いします!

最近は、何を表現し、何を伝えたいのか?っという表現の根本を見つめ直して日々取り組んでいます。私の演技を見て、「元気が出た!」「悩みが吹き飛んだ!」そう言っていただけるような、心にパワーの届く表現者になりたいと模索中です!お目にかかる機会がありましたら、是非見に来てください!