「考え方をシンプルに」。樋口雄也が説く、ダーツの技術論から脱却すべき理由。

2015.07.16 森 大樹

樋口雄也

 

今回はプロダーツプレーヤー・樋口雄也選手のインタビューです。樋口選手は大学卒業後に就職したレジャー関連のお仕事をされる中でダーツと出会い、その魅力に惹かれ、現在はプロ選手としてご活躍されています。昨年はPERFECTプロソフトダーツトーナメントの開幕戦・横浜大会で優勝、ツアーランキング5位という成績を収められています。

 

誰でもできるというダーツの魅力

 

-まず始めにダーツに至るまでの経歴を教えてください。

スポーツというと中学時代にバレーボール部に所属していたくらいですね。僕は今身長が183cmあるのですが、当時既に175cmほどありました。

元々僕の父が音楽をやっていて、自分もやりたいというのがあったので、高校からはブラスバンドをやりました。大学も父と同じところに進んでジャズのビッグバンドのサークルでトロンボーンを吹いていました。

 

-そこからどのようにしてダーツと出会ったのでしょうか。

卒業後はサービス業の会社に就職したのですが、土日が休みではなく、音楽活動がなかなかできませんでした。それで日勤の後にビリヤードをやってお酒を飲んでから帰るというのを趣味にしていました。大学時代からよく友人と一緒にビリヤードはやっていたんです。そこにダーツも置いてありました。ビリヤードはお酒を飲みすぎてしまうとよく分からなくなってしまうんです(笑)ダーツの方がより手軽にできるということもあってやるようになりました。でもなかなかうまくできなくて、その原因を考えるようになっていき、だんだんとのめり込んでいきました。

 

-まだダーツについて詳しく知らない人もいると思うので、簡単に説明して頂けますか。

ダーツにはハードとソフトに分けられます。

ハードダーツは主にイギリスを中心とした英語圏で盛んで、1番大きい大会になると会場に2万人ほどの観客が詰めかけます。日本ではその様子をスポーツ有料チャンネルで放送しているところもあります。

使用するボードは麻を圧縮したものを使用し、そこに前端が金属の針になっている矢を投げて刺していきます。矢を抜いても圧縮された麻がまた元に戻るので、長くボードを使い続けることができます。

ソフトダーツというのはハードダーツがアメリカにおいて少し的を大きくした上でデジタル化されたものです。ボードには細かな穴が開いており、そこに向かって先端がプラスチックでできている矢を投げ、穴に刺さると機械が反応し、場所に応じた得点が上の画面に表示されます。普段皆さんが目にされるものはこちらの方が多いかもしれません。今は機械がオンラインになっていて、自分専用のカードを差し込むと今日どこでプレーしているのか、過去の自己ベストは何点なのかなどを見ることができます。

 

樋口雄也

2014年のPERFECT開幕戦・横浜大会を制した樋口選手

 

-樋口さんが思う、ダーツの魅力を教えてください。

誰でもできるということです。ダーツに腕力はほとんど必要ないので、老若男女問わず一緒に遊べます。むしろコツが重要な競技ですからね。小学校3年生くらいから一緒に遊べると思います。楽しんでやる分には的に届くように決められた線より前から投げればいいので、中には子供連れでお店に来る人もいます。

あとは他の競技の皆さんでも自分が上達していくということに魅力を感じて続けている方が多いかと思います。ダーツは比較的その上達を実感しやすい競技だと思います。ダーツ未経験の人でも30分も基礎を教われば少し上達して、面白いと感じて頂けることができるのはないでしょうか。

もちろん1人で黙々と練習することもできる競技なので、人によってはそこも魅力かもしれません。ご家庭でもボードをかければ練習することができます。

そしてダーツは絶対に勝敗が決します。引き分けがないということはそれだけ熱くなりますし、面白いです。

 

-今も自分で上達した瞬間というのを感じることはありますか。

あります。でも当然うまくいかない時もあります。ちょうど最近は調子が良くないのですが、それには技術や考え方に間違いがあって、結果としてうまくいっていない状態なのだと考えるようにしています。ある瞬間からまた何かをきっかけに好転するだろうと思っています。

 

樋口雄也

 

-ご自身の練習にはどのくらい時間を割いていますか。

あまり自分だけの練習の時間は作っていません。来たお客さんと繰り返し一緒に投げることが練習で、打ち込み稽古をしているようなイメージです。そこでいい点数が出ても出なくても次の試合には一切関係ないわけですから、お客さんとの対戦の中でいろいろ考えて試すようにしています。

何より楽しくやることが一番

 

-ダーツにおける日本のレベルは向上してきているのでしょうか。

必勝法のようなものはないですし、技術論もあるような体で語られることも多いですが、本格的に日本にソフトダーツが入ってきてから10数年と日は浅いですし、まだ確立はされていません。でもその中で飛躍的にレベルは上がっています。

僕は擦り切れるくらいまで見たDVDがあります。映っているうちの何人かは今もトップで活躍されているのですが、まだ当時はその方達もアマチュアで趣味としてやっているレベルだったんです。そこから考えると日本も今は世界レベルになってきているのかもしれません。

ただ日本ではうまくなる方法や投げるまでの正しい所作について求める傾向が強いと思います。たぶん欧米人の方がそういったことに対して無頓着で、その代わりにしっかりターゲットへ投げることに意識が向いているのではないかと感じています。

 

-より考え方をシンプルに持つということですね。

そうです。ダーツ自体がすごくシンプルな競技だからです。対戦相手はもちろんいますが、自分が思った通りの場所に打てていれば勝てるはずです。ディフェンスという考え方が他のスポーツと比べてあまりありません。戦略的にここを決めれば対戦相手にプレッシャーをかけられるという場合はありますが、相手に直接的な攻撃をするわけではないので、自分と戦うことの方が多いです。もし相手との駆け引きになったとしても思い描いている通りに実行できるかは結局自分次第ですからね。ゲームによってはある程度定石が決まっているものもありますが、それを実現する力が自分になければ意味がありません。

僕はその定石を崩して相手にプレッシャーをかける部分を評価して頂いています。おかしい、とよく言われます(笑)ただそれも考えている通りに展開を組み立て、実行できる技術がなければならないですから、自分次第という部分では同じです。本当は一本も狙いを外さずに先行逃げ切りで完璧に勝つことが理想ですが、今まで海外のトップの公式戦でも2回続けて(※)パーフェクトは出たことがありません。結局のところ、外れるということです。

※パーフェクト:501ゲーム(501点からスタートして、点数を減らしていき、0点ちょうどになれば勝利)を3投(180点・180点・141点)で終わらせること

 

-ある程度運の良さも関係してきそうですね。

「運が悪くない」ということが大事です。どんなに狙いが正確で、同じように飛ばしていたとしても矢が弾かれてしまうことはあります。失投が運良くうまく刺さることより、運が悪くて外れてしまうことがないように願いたいです(笑)それが勝敗に直結してくることもありますので。

 

-今までご自身で考えられてきたことを書き留めたりはしていないのですか。

昔はブログに書き込んだりしていました。でもその内容だけで僕のことを判断されてしまうこともあると思ったので、最近はしなくなりました。長文で書いたところで全部はうまく伝えられないので、今はその日感じたことがあれば少し書き留める程度です。ただ書かない一番の理由は書くのが面倒くさいからです(笑)

 

-プライベートでダーツバーなどにプレーをしに行くこともありますか。

ありますよ。お店にいるお客さんにもちろんシングルマッチであれば負けることはありませんが、工夫次第でいくらでもいい勝負にすることができます。例えば僕と初心者の方がペアを組んで、ある程度の経験者ペアと対戦すれば勝負は分からないですよね。そうやって実力差や経験差があっても楽しめるのはダーツのいいところですし、人とのコミュニケーションツールとしても最適だと思います。

 

樋口雄也

 

-当然試合の時には緊張すると思いますが、メンタル面で意識していることはありますか。

常に楽しもうと思っています。少し不真面目に聞こえるかもしれませんが、調子が悪いということを真剣に捉えないようにしています。調子が悪ければ練習をすべきだという意見も正しいと思いますが、うまくいかないままで練習を繰り返し、深みにはまっていくぐらいならその状態を受け入れてしまった方がいいと考えています。なぜなら不安に駆られてしまうからです。そのうちまた調子が上がる時が来ると思って、乱されずに平常心を保つことが大切だと思います。なので基本的に自分だけの練習の時間は取りません。お店に出勤していれば投げなくてはいけない時間が仕事として存在しているので、その中でどうするかのみ考えています。

 

-なるほど。しかし力み過ぎない姿勢を保つのもなかなか難しいように思います。

始めは難しいことなので、意識的にそうするようにしていました。以前は他の仕事をしながらプレーをしていたので、週末試合があったとしても練習できない場合があり、落ち着かないことがよくありましたね。

「練習したい」ならいくらでもすればいいと思いますが、「練習しなくてはいけない」という気持ちに駆られてやるのはよくないと考えています。

 

-樋口さんのアピールポイントやプレーの面で心がけていることはありますか。

追求しているのはダーツが綺麗に飛ぶことです。

 

-樋口さんの中でまだ自分に足りていないと思う部分があれば教えてください。

これはまだ自分でも答えを出せていない部分ではありますが、執着心や闘争心が足りていないのではないかと感じています。これは諦めないということともまた別です。僕も勝負事なので当然最後まで全力は尽くしています。むしろ僕の諦めない部分を評価してくださる方もいるので、長所だと思っています。トップの選手と比べて技術的にまだ遅れを取っていることを自覚し、追求していくということは前提にある上で、大会そのものへのモチベーションや執着心がまだ足りていないのかもしれないと考えています。しかしまだそこに関してどう取り組んでいくのかは模索中ですね。

 

-これからダーツを始めたい人にアドバイスをお願いします。

ダーツもだんだんと技術論ができてきているのですが、僕は逆にそこから脱却していくべきだと思っています。細かいことは置いておいて、どうしたら楽に自分の意図したところにダーツが飛んでいくかを追求したらいいと思います。細かいところを気にすればするほど、嘘になるのではないでしょうか。そして何よりダーツを楽しくやることが一番です(笑)

 

樋口雄也

身体的に投げられなくなるまでダーツを続けたい

 

-今後の樋口さんの目標を教えてください。

まずは日本一です。あとはやめるまで成長し続けていたいです。そうすれば結果も付いてきますし、きっと楽しいと思います。競技としてやるかは分かりませんが、僕は身体的に投げられなくなるまでダーツを続けたいです。

 

-ここまではダーツについてお伺いしてきましたが、樋口さんご自身についてもお聞きしていきます。

-時間がある時にしている趣味はありますか。

時間も限られてきてしまうので、改めて趣味として特別何かをしているわけではないですね。おいしいものを食べてお酒を飲むことが好きです。お酒は何でも飲みますが、ダーツをしながら飲むとなるとあまり酔えないので基本的にビールです。ダーツを始めてからずっとそういう生活なので、痛風に怯える毎日です(笑)

 

-樋口さんの場合、遠征費はどのようにして捻出しているのでしょうか。

僕の場合遠征費はお店に勤務して頂いたお給料から出しています。道具はスポンサーの方に頂いています。その辺りは選手によって様々で、例えば遠征費をすべて出して頂く代わりに賞金の何割かを渡さないといけない選手もいます。

 

樋口雄也

 

-樋口さんご自身で思う自分の魅力を教えてください。

客観的に見て、自分が魅力ある人間かは分からないので難しいですが、僕が本当にダーツ好きであるということが他の人に伝わった時はプレーヤーとしては嬉しいです。

当然ビジュアル面でどこの分野においても注目を集めそうな選手がいる中で、僕のことをプレーヤーの中で一番好きだといってくれる方もいます。何を魅力に感じてくれているのかは分かりませんが、喜ばしいことですね。

 

-もしダーツをしていなかったら何をしていたと思いますか。

もしかしたらビリヤードをやっていたかもしれませんが、そこまでうまかったわけではないではないので、追求していたかどうかは分かりません。サービス業の会社ではなく、他の仕事をしていれば今でも音楽を続けていたでしょうね。

 

-ダーツ選手としての活動に関してご家族の反応はいかがですか。

基本的には肯定的です。始めた時からそうですが、今は結果も出たのでより応援してくれています。もちろん不安はあったと思いますが、反対されたことはありません。父も自分の好きな音楽という分野で努力して名を残し、生活できるようになった人なので、僕がダーツをすることに対して理解があったことは大きいです。もし堅い仕事をしている父であれば一蹴されていたと思います。今まで様々な部分でサポートしてもらいましたが、一番は好きなものを追求して名を残し、生活できるようになるのを目指すこと自体を支持してくれたことに感謝しています。

僕の歳にもなればそれなりに出世する人が出てきます。反面僕は悠々自適な生活を送れているわけではありません。でもおそらく今僕がある日突然死んでしまったら、様々な方がダーツを通して僕のことを知っていてくださるので、業界の中ではそれなりにニュースになるでしょう。お金などももちろん大事ですが、僕はそれでいいのだと思っています。

 

-それでは最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

ダーツに対していろいろなイメージを持っている方がいると思いますが、この記事を通して競技として追い求めている人もいるということをまず知って頂きたいです。

そして誰にでもできるダーツなので、ぜひ一度遊んでみて頂ければと思います。