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固定観念を取り外していくー。それがフリースタイラー横田陽介のミッション

2016.05.13 / 田中 紘夢

横田陽介

 

今回は、フリースタイルフットボール集団Ball Beat Crewのリーダーで、株式会社Ball Beatの代表取締役も務めている横田陽介氏に話を伺った。横田氏は2008年にブラジルで行われた世界大会で準優勝を果たし、その後もフリースタイルフットボール界を牽引。現在は日本最大級の大会を運営するなど、競技の普及に尽力している。

 

まずは横田さんのパフォーマンス動画をご覧ください!

 

プロチームに加入後、世界大会で準優勝を果たす

 

-横田さんのスポーツ経歴から教えてください。

小学校3年生くらいの時にサッカーを始めて、高校3年生までやっていました。小学生の時から色々なスポーツが好きでした。

 

-高校時代は、都立久留米高校(現・都立東久留米総合高校)という強豪校でプレーしていましたね。

高校時代は3年間、ゴールキーパーをやっていました。入学当時は周りよりも下手だったので、他の選手とどう差をつけようかと考えた結果、誰よりも練習するしかないと思い、毎日朝早くグラウンドに行ったり、オフの日でも練習をしたりしていました。

リフティング自体は自分の中では特に意味のない遊びでしたが、1人きりで練習することも多かったので、それで自然とうまくなっていったんだと思います。

でも高校3年にもなると自分の将来がどうなるか、ある程度の想像がついてきて、プロになるのは無理だろうなと気づいていたんです。そこで指導者としての道を考え始めて、足技ができれば子供たちに教える時も役立つと思って練習していた部分もあります。

 

横田陽介

 

-高校の部活動を引退した後にRisky-Playというフリースタイルフットボールのチームを作っていますが、その経緯を教えてください。

引退後に本格的にフリースタイルフットボールを始めて、周りにやっている人はいないかと探していたら、近場で2人見つけることができました。その2人と一緒に練習しているうちに、チームを組んでパフォーマンスをしようという話になったことがきっかけです。

 

-当時からフリースタイルフットボーラーが集まって練習会を行うということはあったのでしょうか?

僕がそういう場を作りました。最初は立川での練習会を「立川蹴会」と名付けてやっていましたが、そこに千葉から来てくれる人もいたんですよ。だったらみんなが来やすいところでやろうという話になって、代々木公園でYJAMという練習会をするようになりました。最初は5,6人くらいで、月1回集まっていましたね。今でも第1回YJAMの動画がYouTubeに残っていますが、少し恥ずかしいです(笑)

 

-東京経済大学に在学中はLeao Pequeno(レオ ペケーニョ)というサークルを作りましたが、目的はなんでしょうか。

日本で初めてのフリースタイルフットボールサークルだったんですが、初めてのことはなんでもやっていこうと思っていて。Leao PequenoもYJAMも、そういう思いで始めました。単純に、一緒にボールを蹴る仲間を増やしたかったというのもあります。今もそうですけど、思いついたことはすぐやっちゃうタイプです。

 

-その後は「球舞」というフリースタイルフットボールチームに加入していますが、それにはどういったきっかけがあったのでしょうか。

僕がMOTG(Masters Of The Game)というオランダで行われている世界大会に招待されて、そこに今も球舞で代表をやっている(※)Marco.さんも招待されていることを小耳に挟みました。それでお互い連絡を取り合って、オランダで一緒に行動しようという話になって。初めての海外だった僕のことを現地で色々とお世話してもらっているうちに、Marco.さんから球舞への誘いをいただきました。当時日本で唯一のプロチームでしたし、世界一良いパフォーマンスをしていると思っていたので、願ってもない話でしたね。

※Marco.:日本初のプロフリースタイルフットボールチーム「球舞」のリーダー。「世界が尊敬する日本人100」に選出されるなど、フリースタイルフットボール界のパイオニア的存在として広く知られている。

 

-MOTGで世界のトッププレーヤーと対戦したことは、刺激になりましたか?

実はMOTGでの経験よりも、それまでの3ヶ月のほうが記憶に強く残っています。その3ヶ月間の経験が、今までのフリースタイルフットボール人生の中で一番の糧になったと思います。なぜかというと、MOTGに招待されたのはいいものの、全て実費で来てくださいと言われたんです。だから、昼間は8時間アルバイトをして、夜はフットサルに行って、深夜にフリースタイルフットボールを練習するという生活が続きました。朝4時まで練習して、9時に起きてアルバイトへ行くというような生活が3ヶ月も続きましたが、「ここで頑張らなかったらいつ頑張るんだ」という気持ちで耐えていましたね。

当時はスポーツショップでアルバイトをしていたのですが、お客さんがいない時間に立ったまま寝ていたこともあって、店長さんに迷惑かけました。すみません(笑)

今もフットサルはやっているのですが、元々の始めた理由は、フリースタイルフットボールのプロになった時に「あいつ、リフティング上手くてもサッカーやフットサルは下手なんだぜ」となめられるのが嫌だったからです。

 

横田陽介

 

-そして2008年には「Red Bull Street Style」というフリースタイルフットボールの世界大会で準優勝を果たしています。

世界2位になれたことよりも、決勝で負けてしまったことへの悔しさのほうが強かったです。一人ロッカールームで泣きました。

 

フリースタイルフットボールの普及に幅広く尽力

 

-横田さんがフリースタイルフットボールを定義づけるとすれば、どう表現しますか。

なんでしょうね、分からないです。人によっていろいろな定義があると思いますけど。音楽に合わせてやるものだとか、一人で遊ぶためのものだとか。でも、僕はそういう固定観念を持たずにやっているし、それを取り外していくことも自分の役割なんじゃないかと思っています。

 

-楽しみ方は人それぞれということですね。それでは、横田さんが思うフリースタイルフットボールの一番の魅力を教えてください。

誰でも気軽に楽しめるコンテンツであるという魅力があります。サッカーや野球のようなメジャースポーツは一番の楽しみが試合に勝つことだと思いますけど、僕らがやっているのは自分のことなので、誰でも楽しめると思います。

 

-チームやサークルなどの団体活動を頻繁に行ってきた横田さんですが、最終的には球舞から独立してBall Beat Crewという集団に行き着きました。

独立してから3年くらいはソロでプロ活動をしていました。Ball Beat Crewを作ろうと行動し始めたのは、2011年です。当時は東日本大震災の影響で全く仕事が入ってこなくなって、お金に困っていました。貧乏でもできることはなんだろうかと考えた時、やっぱり仲間とボールを蹴ることだと思ったことがきっかけでした。

Ball Beat Crewには上手いとかは関係なく、一緒に遊んでいて楽しいやつらを集めてます。もっとそういう仲間を増やしたいですね。

 

Ball Beat Crew動画↓

 

-横田さんが感じるソロ活動とチーム活動の大きな違いはなんですか?

一番ストレスを感じるのは、スケジュールを合わせることの難しさです。大学に通っていたり、ラーメン屋をやっていたりするメンバーもいるので、一緒に練習する時間を作るのが大変ですね。深夜に集まって、終電から始発くらいまで練習することもあります。

パフォーマンスの依頼があった時もソロの時はすぐに引き受けられましたが、チームだとメンバーのスケジュールを確認しないといけないので。移動や待ち時間の時、メンバーがいれば暇じゃないというメリットはありますけど(笑)

 

-Ball Beat Crewには、他のチームと掛け持ちしているメンバーが多い分、モチベーションに多少のズレはありそうですね。

僕は、Ball Beat Crewを1つの「船」だと思っています。メンバー1人ひとりが「Crew」(船員)で、各々自分がこうなりたいという目標があり、そこに向かって個々が船を動かしているという感じですね。途中の島で降りたいやつもいれば、島についてからの目的が違うやつもいる。チームは1つの目標に向かって動くというイメージがありますが、僕たちはみんなが違った目標を追いかけているんです。だからこそ、モチベーションがバラバラでもやっていけるところはあります。

 

-チームでパフォーマンスをする場合、ソロに比べて表現の幅も広がってくるのではないでしょうか。

正直、思っているほどそこは変わらないのが現状です。他のメンバーの成長に期待したいですね。ただ、ソロとチームでは少し伝えたいことが変わってきます。僕がソロパフォーマンスで伝えたいのは、好きなことを頑張ろうということですが、チームパフォーマンスで伝えたいのは、好きなことを頑張ったらこんなに楽しいということです。似ているようで、少しニュアンスが違います。

 

-パフォーマンスをする上ではどういったことを意識していますか。

依頼があった場合には事前にしっかりと情報収集してから、パフォーマンスを組み立てないといけません。子供向けだったり、大人の人しかいない現場だったり、いろいろありますから。伝えたいことがあるからこそ、伝える方法は選ばないといけないし、そこは日々研究しています。

時間を見つけては色々なイベントに遊びに行っています。いや、勉強に行っています(笑)こういう現場では、こういうことをすれば、こういう反応が返ってくる。ここにいる人たちは何を楽しみに来ているのかな、とか。

僕は遊びを提供する側なので、遊びを知らなければ絶対に良いものは提供できないと思っています。

 

-横田さんは、ソロで30分のパフォーマンスを任されることもあるそうですね。

ありますね。自分が伝えたいことが山ほどある中で、限られた時間で何を伝えようか考えながらやっています。「30分もある」という感覚よりは、「30分しかない」中で自分をどれだけ伝えられるか、という感覚です。僕は24時間しゃべる時間が与えられたら、本当に24時間しゃべり続けちゃうような人間なので(笑)

 

-横田さんのプレーを見ると、バク宙や倒立などを使ったダイナミックな技が目立ちます。ご自身が考える得意分野はなんでしょうか。

勝負をすることです。その時々の勝負で何をすればいいか、事前にどういう準備をすればいいか、頭の中で考えに考え抜きます。

今、僕が大会に出ないのは、フリースタイルフットボール界の中ではなく外の世界と勝負をしているからです。そのために、今は大会で勝つことは重要ではないと思っています。昔は自分が勝負する相手は日本や世界のフリースタイルフットボーラーだと思っていましたが、2008年に世界大会で準優勝できたので、ある意味で勝負には1回勝っているんですよね。それで、次の相手は日本の社会やエンターテインメント業界だと思っていて。フリースタイルフットボール界という人口の少ない世界で勝つよりも、いかに自分たちが社会の中へ出ていくかという部分で勝負しているということです。

 

-だからこそ、今横田さんはフリースタイルフットボールの環境づくりを行っているんですね。

もちろん自分でパフォーマンスもするし、難しい技をやるために練習もしています。

ただ、ここ2ヶ月くらいは主催しているJFFC(Japan Freestyle Football Championship)という日本一を決める大会の準備に集中しています。でも、大会は出る側が主役であって、僕はその器を作っているに過ぎません。みんなの理想を叶えられる大きい器を作っていきたいと思っています。

環境づくりのために大会の運営以外にもスクール活動やイベントの主催をしていますが、とにかく楽しいことがやりたいという一心で活動しています。

 

-第1回JFFCが昨年4月に行われましたが、選手からの評判はいかがでしたか?

社交辞令しか言われないので良く分からないです(笑)お褒めの言葉しか預かっていないので、ちょっとくらい文句も言ってくれればいいのにと思っています。

 

第1回JFFCダイジェスト↓

 

-JFFCは横田さんが代表取締役を務めている株式会社Ball Beatが主催していますが、会社を設立した理由を教えていただけますか。

一言でいうと社会的な信用を得るためです。プロでパフォーマーをやっているという人はごまんといますが、その世界に一生を捧げて頑張っていく覚悟でやっている人がどの程度いるかと言われると、どうだろう。経歴とかでなかなか測りづらい世界ですしね。でも一つの指針として会社をやっていると言えば覚悟や本気度も伝わるし、信頼を得ることにも繋がります。

あとは、単純に個人事業主より株式会社にしてしまったほうがこの先、もっと大きな勝負をできるんじゃないかと思ったので。

 

好きこそものの上手なれ

 

-それでは、今後の目標を教えてください。

プレーヤーとしては、もうひとがんばりして目立ちたいと思っています。近い将来にフリースタイルフットボールのレジェンドたちが集まる世界大会を開催する企画が持ち上がっていて、僕もノミネートされるはずなので、そこで優勝したいのはありますね。

あとは、僕がこんなにフリースタイルフットボールを楽しんでいるんだから、周りにもこうやったら楽しめるという方法を教えていきたいです。そのためにも、僕ももっと楽しまないといけないと思っています。

自分でいうのも恥ずかしいのですが、僕に影響を受けたフリースタイルフットボーラーも多いようで、世界大会に行くと会った時にすごく感動されることがあって(笑)昔作ったオリジナルトリックも、世界ではYosuke Stallと言われています。

 

横田陽介

 

-競技面からは少し離れますが、横田さんの座右の銘はありますか。

「好きこそものの上手なれ」です。この座右の銘には自分なりのメカニズムがあります。「好き・楽しい」という気持ちがあるから、「努力・頑張り」に繋がる。その「努力・頑張り」があるから、「上達・成功」がある。「上達・成功」があるからもっと「好き・楽しい」という感情が湧いてくる。最初はどこからでもいいですが、こういう3つのエレメントのサイクルで成り立っています。

例えば逆上がりが嫌いだったけど先生に言われて頑張って、成功したら楽しくなった。こんな風に「努力」から始めて器械体操をやっているという人もいるでしょう。とにかく好きなこと、楽しいことをもっと好きになり続けるのが大切だと思います。僕のスクールでも技術を伝えることはもちろんですが、そういう精神面のところを教えたいですね。

 

-ルーティンやゲン担ぎはありますか?

自由な生活をしているのでないですね(笑)高校生まではありましたけど、フリースタイルフットボールを始めてからなくなりました。今は打ち合わせや練習、イベントが夜中のこともあるし、決まった生活リズムがなくて困っています。規則正しい生活がしたいって思うこともあります。

 

-なるほど、生活もフリースタイルなんですね(笑)横田さんの生活に欠かせないものはありますか。

暇な時間は全部読書。いわゆる自己啓発本は苦手ですが、小説を中心にいろいろなジャンルの本を読みます。

昔からぼーっとするのが苦手なので、常に何かしていたいんですよね。テレビや映画は自分のペースで進められないじゃないですか。だから、僕は読書のほうが性に合っていると思います。

 

-オススメの本を教えてください。

面白い本があったんですけど、さっき電車でなくしちゃって(笑)

今ハマっている作家は、経済小説を書いている高杉良さんです。でも本当になんでも読むので、小中学生が読むハリーポッターのような娯楽小説とか、大人しか読まないような小難しい小説も読みます。

 

-好きな音楽はありますか?

好き嫌いなく何でも聴きますけど、特にヒップホップは良く聴きますよ。音楽としてのヒップホップも好きですけど、カルチャーとしてのヒップホップが好きなんですよね。

自分が好きなサッカーやヒップホップは地元を愛する文化があるので、それが僕の住んでいる国分寺市への愛着にも影響しています。サッカーは昔から地元のクラブを応援することが浸透していて、ヒップホップも自分の地元を(※)レペゼンする文化があるんです。その2つが好きでなければ、地元に魅力を感じていなかったと思いますけどね。今は世界で国分寺市にしかないような魅力を発信していきたいと思っています。僕自身が魅力になってもいいと思っているので、非公認で国分寺市のゆるキャラとして活動しています(笑)

 

※レペゼン・・・Represent(代表する)という意味の英単語から来ているHIPHOP用語。“~を代表する”という意味合いで使われる。

 

-最後に、読者にメッセージをお願いします。

とにかく好きなこと、楽しいことをいっぱいやりましょう!