吉田拓(カヌースラローム)は、未来を切り「拓く」。資金面の苦悩を越えて

2016.05.26 森 大樹

吉田拓

2度の五輪出場のチャンスを逃すも、次の東京五輪に向けて再び歩み始めたカヌースラローム・吉田拓。後編では選手として活動を続ける難しさの部分、そして人と自然の関わり方について、想いを語ってもらう。
 
前編はこちら

金銭的な苦労、選手活動を続ける難しさ

 
――選手として活動するための資金は今、どのように賄っているのでしょうか?
 
吉田拓(以下、吉田) 活動資金には苦労しています。リオに向けては後援会からの支援などもありましたがそれでも足りず、クラウドファンディングで資金の募集をしていました。
 
あとは「拓サマー」というレースイベントをここ3年間は開催しています。御嶽というフィールドを使い、吉田拓による、吉田拓を応援してもらうためのイベントです(笑)。そこでグッズを作って販売したりして、資金に充てていました。
 
4月からは株式会社協栄というところに就職し、アスリートと会社員を両立していく予定です。働きながらカヌーを続けていくという、また一つの新たな挑戦ですね。競技活動の応援はしてくれるので、東京五輪を見据えた環境づくりという意味合いもあります。
 
吉田拓
 
4月から株式会社協栄に所属
 
――他の選手はどういった形で活動資金を確保しているのでしょうか。
 
吉田 会社に就職したけど、勤務はほとんどせずに名前だけの人もいますし、オフシーズンだけ週3日程度働いている人もます。選手によって違いますね。
 
――水という不確定なものを相手にするとなると、経験が重要そうです。そうなると経験豊富なベテラン選手にもチャンスがあるのでは?
 
吉田 おっしゃる通りで、選手寿命は長いです。体力を技術でカバーして勝負できる競技です。いま世界トップの選手は30代半ばですし、40歳前後の人も多くいます。僕は今28歳なので、そうなると4年後には技術も上乗せされて、いい時期に東京五輪を迎えられると考えています。
 

何でも禁止すればいいわけではない

 
――水辺の事故というのが毎年暖かくなってくるとニュースになりますが、人と自然の関わり方について、感じていることを聞かせてください。
 
吉田 水難事故で毎年命を落とす人がいますが、それは知識がないことが一番の要因だと思います。ちゃんとした遊び方を知り、怖さも分かった上でやれば楽しいもののはずです。それができるような試みはしていくべきでしょう。
 
僕も川遊びをして溺れてしまい、大変な目に遭ったことがあります。でも今の子供達はそもそも川に入ることを禁止されています。これだけ綺麗な川があるのに、地元の青梅の子供ですら、学校で川に近づくことを禁じられているそうです。
 
でもそういうことが解決策ではないと思うんです。川で遊ぶことそのもの禁止するのではなく、何が危険でどうすれば安全なのかを教えればいいはずです。
 
一番まずいのは、何が危険なのかわからないまま大人になってしまうこと。知識・経験がないと危機管理能力が身に付かないので、危険な状態にあることそのものに気付けなくなってしまいます。それで危険な状況下で、自分の子供を川で遊ばせて命を落とす、という負の連鎖が生まれていくように思います。
 
そういう意味では、教育と僕らの競技を繋げていくのは面白いのかもしれませんね。
 
――ちなみに今までで一番川で危険な目に遭った時のことを教えてもらえますか?
 
吉田 僕らは水量が多かったり、滝から落ちたりするような、エクスリームな川下りも好きなんです。本当はまずいんですけど、刺激を求めているというか(笑)。でもカヌーでしか行けない場所というのもありますから。
 
一番危なかったのは、川一面に木が横たわっているところに行った時ですね。他の人はうまく木の上を通過することができたのですが、僕はそこで失速してしまって、木の下を潜って通ったんです。もしその途中で何かに引っかかったら、浮上できずに死んでいたと思うので、焦りました。
 
吉田拓
 
――ちなみに、もしカヌーをやっていなかったら何をしていましたか?
 
吉田 一般的なサラリーマンになっていたんじゃないですか。正直想像がつかないです。きっかけをくれた父もここまでやるとは思っていなかったでしょうしね。
 
――オフの日にやっている趣味を教えてください。
 
吉田 スキーやスノーボードをやりますね。でも体を動かすということは全て競技に繋がっていると思っているので、そういう意識は持っています。スキーならボーゲンした時に重心を低くするところとか、スノーボードなら雪の上にボードを浮かせている感覚とか、趣味でやっていることもクロスして考えることで何でも競技に活かせると思うんです。そうすることで時間の無駄にもなりませんし。
 
――食べ物の好き嫌いはありますか?
 
吉田 ないです。何でも食べます。でも海外に行くと日本食が恋しくなりますね。ヨーロッパなんかは基本的に芋とパンの文化じゃないですか。でもそれだと胃腸が疲れてきてしまうんです。本当はそういう面でも強くならないといけないのですが…だからどこに行っても米が食べられる準備はしていきます。
 
吉田拓
 
――それでは最後に読者へのメッセージをお願いします。
 
吉田 カヌースラロームを知らない人もいると思うのですが、この競技は観るだけでなく、やっても楽しいスポーツです。カヌーの上からでしか見られない景色もあります。なので、まずは興味を持ってもらって、一度体験してもらえたらいいですね。
 
あとは僕の「拓」という名前は親が「開拓」というところから付けてくれたそうなので、自分の道をこれからも切り“拓いて”いきたいと思います!
 
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