【後編】僕はヒーローになりたいー。格闘家・菊野克紀が闘い続ける理由と真の“強さ”

2014.09.03 AZrena編集部

菊野克紀

 

【前編】はこちら

 

世界中の格闘家が目指す大会に参戦

 

–  総合格闘技の一番の魅力を教えてください。

ルールが少ないところです。ただし、急所攻撃は禁止ですけどね。安全かつストレスがないのが総合格闘技だと思っています。総合格闘技で今まで死んだっていう話は聞かないし、基本的には安全です。そしてストレスがないことです。柔道をしていたときは、動きが遅いデブにも、襟つかまれて「エイっ」てされると投げられ負けるんですよ。「こいつ殴れば勝てるのに」っていう思いがずっとあったんです(笑)極真空手のときは、逆にこんなに近くにいるから、投げ飛ばしてやろうかと思います。このようなストレスが総合格闘技には少ないです。ルールの縛りが少ない上で戦えることは、自分に言い訳が出来なくなる。というところにも繋がるので、すっきりします。

 

–  いろいろな競技出身の相手と戦えることも魅力的ですね。

いろいろな競技の超一流が集まってしのぎを削ります。総合格闘技に強いって言うのは、ケンカに強いって言うのに結構近いものがあります。僕ら格闘家は、人を殴ってお金がもらえるんですよ。本来なら人を殴ったら怒られるはずですが、褒められてお金をもらえるのは、僕らの特権です。しかも、世界中の化け物と対戦できるんです。孫悟空と一緒です。「おめえ強えな!おらわくわくすっぞ!」ってなります。

 

–  実写版ドラゴンボールですか。

その世界を安全に体感できるんです。それが総合格闘技は可能なので、こんな魅力的な競技は他にない!と僕は言いたいです。

 

–  逆につらいと思ったことはありませんか。

ほとんどのマイナー競技に共通すると思うんですけど、やっぱりお金の問題ですね。今、日本でファイトマネーだけで食べている人って、ほとんどいないです。みんなバイトしたり、ジムで指導したりして、稼いでいるような状況です。テレビで放送されていた頃は、ファイトマネーでも食べれたんですけど、総合格闘技ってまだ歴史が浅く25年くらいです。まだ浸透していないのと、野蛮だと言われてしまったり、実際にそういう事件が起こったこともあって、社会的地位がまだ低いんですね。ほんとにみんな厳しい状況でやっていると思います。仕事して、練習して、試合で殴り合って、ケガして、仕事して。これを繰り返して、ケガだけ残って引退もあります。99%の人がチャンピオンにはなれずに引退していきます。

 

–  マイナー競技の課題は大きいですよね。競技の中でつらいこともありますか。

競技としては、つらかったり、難しいからこそ、おもしろいところでもあります。総合格闘技は打撃が強い、寝技が強いだけでは勝てないです。打撃、寝技、投げ。全ての能力が必要です。寝技の強い選手には、寝技に付き合わずに試合すれば勝てますし、打撃の強い選手には打撃に付き合わなければいいんですから。総合格闘技は何か一つが秀でていても勝てないです。全てをトータルしてできないと勝てない。これが難しくもあり、それがおもしろくもあるんですね。昔は「寝技vs打撃」みたいな試合もありましたけど、今は全く通用しないです。

 

–  欠けている部分があってはいけないんですね。菊野選手は海外の大会「UFC(Ultimate Fighting Chanpionship)」に参戦されていますが、なぜ海外の大会に参戦しようと思われたのですか。

日本でPRIDEやDREAMっていうさいたまスーパーアリーナでやる大きな試合が無くなってしまって、僕らが目指す大きな大会が日本になくなってしまったんです。それで、海外に目標を求めました。UFCは、トップ選手と認められないと出ることが出来ない大会です。それまでに日本で5連勝していたから出れたんです。

 

–  UFCにはいつから参戦されたのですか。

今年の1月から参戦しました。UFCは特にレベルが高いです。UFCが世界においてダントツで認められている大会なので、世界中の格闘家がUFCを目指しています。UFCでトップになれば、お金も入るので、夢があるんです。僕は、現在1勝1敗なので、次負けたら切られる可能性もあるし、トップランカーでもいらないと言われてしまえば、そこで終わりです。

 

–  結果を求められる世界ですね。1つの試合の重みがありませんか。

本当に厳しい世界ではあります。1試合1試合が人生の分かれ目です。でも、夢はありますね。まるで、天下一武道会のような感じです。

 

–  本当ですね。世界各国の猛者と戦うわけですから。総合格闘家になるときに、憧れの選手はおられましたか。

いや。基本的に憧れの選手はいなかったです。単純にヒクソン・グレイシーや桜庭和志さん、須藤元気さんなど、かっこいいと思う選手はいますけど、自分がこうなりたいと思う選手はいなかったです。憧れってある意味敗北宣言だと思っています。なれないから憧れるというか、僕はそこにいきたくて、ライバルではあっても憧れではないですね。倒してやるぞ!と思って見ています。

 

–  昔は弱虫で泣き虫だったと言われていましたが、気持ちは大分強くなりましたか。

今でも弱虫といえば弱虫ですよ多分。今は自信がついたからびびりの自分が出にくいですけど、本質はびびりなんだと思います。もし周りに自分より強い人だらけだとびびってしまうかもしれません。

 

–  実力とともに強くなっていったんですか。

強くなるにつれて気持ちに余裕が出てきたから、少しメンタルが強くなってきているんですかね。半分は鍛えて半分は強くなると共にという感じだと思います。ルールの中では死ぬことはないので、もし今、真剣をもって襲ってくる人がいたらバッと倒せるかどうかはわからないですね。僕はその時、自分自身にパッと動いて倒して欲しいとは思いますけど、実際怖いと思うのでわからないですね。少なくともオラオラとはいけないです。

 

–  どこでも立ち向かっていけそうに思ってしまいますが。

それは外側なんです。根っこはびびりです。電車で足踏まれたら「すいません!」ってすぐ謝ります(笑)

 

–  踏まれても謝るんですか(笑)

僕は踏まれて謝ってしまいますね。とりあえずすいません。って。根は争いたくないので。

–  菊野選手含めて、総合格闘家の方は優しい方が多い気がします。

ずっと格闘技を続けている方は、気が優しい人が多いと思います。弱い自分が嫌で、強くなりたいという思いがあるからだと思います。でも、元から強い人はそこまで続けるモチベーションはなかなかないのではないかと思います。なので、プロで現役で続けている方は、意外とオラオラではなく、優しいと思います。

ドラゴンボールの孫悟空のようなヒーローに

 

–  ここからは少し総合格闘技を離れて質問させていただきます。もし総合格闘技の世界に入っていなかったら、どんなことをされていたと思いますか。

僕は総合格闘技を引退してもやりたいことはたくさんあります。総合格闘技をしていなかったら何をしようではなく、全部やろうと思っています。

 

–  例えばどういうことをやりたいのでしょうか。

僕の最終目標はヒーローです。ドラゴンボールの孫悟空のようなヒーローです。スターではなくヒーロー!強くて優しくて困っている人を助けるかっこいい人というのが僕の中の定義ですが、実在する人で言えば、マイケルジャクソンとマザー・テレサを足した人です。

 

–  それは確かにヒーローですね。もう少し具体的に聞かせてください。

マイケルジャクソンを知らない人はいない、超スーパースターですよね。マザー・テレサは、人生をかけて困っている人を助けた博愛の人です。二人を足したような人が僕の中で理想であり、ヒーローです。そんなかっこいいヒーローになるのが僕の目標です。孫悟空も同じようなヒーローですね。フリーザを倒すじゃないですか、今の社会にフリーザはいないので、社会的な問題、例えば紛争であったり、食料問題、環境問題、難民であったりいろんな問題があるので立ち向かっていけるようになりたいっていうのが僕の夢です。

 

–  大きな目標で驚きました。ヒーローになる為の道は簡単なものではないですよね。

ヒーローになるためには力が必要じゃないですか。極端な話、お金がたくさんいるんですよ。だからお金を稼ぐ為には、どうすればいいかなあと今は悩んでいます。世界チャンピオンになれば多少はお金が入りますが、それを元手に何かをするとかを考えていかないといけないです。何かをするためには仲間、知識、人脈たくさんの力が必要なので、今は格闘技を通して身につけたいと思っています。

 

–  先ほどファイトマネーだけでは食べていけないという話がありましたが、菊野選手も何か他の仕事もされているのですか。

会社経営をしています。バイトではヒーローへの道になかなか繋がらないので、菊野マネージメント事務所を作ってスポンサーさんを集めたり、鹿児島で格闘技ショップを経営したりオリジナルグッズを作ったりもしています。学生や企業に講演する機会もいただいたりしています。とにかくいろんな経験をして力をつけたいです。

 

–  格闘技をやられている方で、なかなかそこまでやりたいことがあるという方は少ないと思うのですが。

少ないとは思います。格闘技を通して、少しずつ力を集めて、ヒーローになる。そのためにやりたいことはいくらでもあります。もちろん日本の格闘技も僕を育ててくれたので、盛り上げていきたいんです。格闘技の発展にも携わりたい、ビジネスも頑張りたい、社会福祉にも携わりたい、政治的なことも勉強していきたい、全部繋がることだとは思いますが、本当にやりたいことが多くあります。

 

–  話を伺っていると、こちらもわくわくしてきます。エネルギッシュな菊野選手の元気の源は何ですか。

人間ってわくわくどきどきするときが一番力を発揮するんですよ。僕は孫悟空になりたい!ってわくわくどきどきしています。だから頭も身体も動いてくれます。おかげさまで幸せです。後は結果が出ないと、バカヤローで終わってしまうので、結果を出します。沖縄拳法空手でもそうですけど、僕は人と違うことをしています。人と違うことをしていて負けたときはボロカスに言われます。そんなことやっているから負けるんだと。当然ヒーローになるっていうのも結果が出ないとふっと笑われるだけです。なので結果が出るようにしっかり頑張ります。

 

–  全力で応援します!

ありがとうございます。勝負事って絶対に運も必要だと思うんです。いくら強くても運がないと勝てないし、逆に弱くても運で勝つこともある。その運は人が持ってきてくれるものだと思うんですよ。だから応援してくれる人がいるっていうことはすごく自信になります。応援してくれる人が運を持ってきてくれると思っています。

 

–  総合格闘技での裏話や皆様が知らない話を聞かせていただけますか。

減量のことは知らない人が多いと思います。個人差はありますが僕は平常体重が80kgで今回からフェザー級(65.8kg)に出場するので14㎏の減量をします。試合の前日に計量が行われるのですが、最後の一日に水だけで4kgぐらい落とします。

 

–  水だけで落とすのですか。

要は汗をかいて水を飲まないんです。たくさん運動したら2~3kg汗で減ることはありますよね。その状態で水を飲まずに、小便やサウナ入ったり、出せる水を全部出して4kgぐらい抜きます。計量の前日に70kgぐらいに持って行って、1日で4kg減らして、計量後に6~8kg増やしたいと思っています。

 

–  減らした分を増やすのですか。

計量後は食べても飲んでもいいので。リバウンドさせるための減量でもあります。ダイエットは維持しますが、僕らの減量は、健康的にガンと落としてガンといかに戻せるが大事なんです。戻っても身体が動かないと意味がないですね。人によってはもっと落とす人もいます。

 

–  戻すときは水分で戻すのですか。

水分で落としたら、その分は水分で戻ります。プラス食べ物を摂ってさらに戻します。

 

–  喉が乾いて飲みたくなりませんか。

もちろんです。唾も出ないですよ。立ちくらみもするので、血がドロッドロなんだと思います。

 

–  戻すときに失敗することはないですか。

体重を落としきれずペナルティーを受ける選手もいるし、試合自体が中止になることもあります。それが成功してもリバウンドがうまくいかずに試合で力が出ないっていう人もいるので、それを上手くこなすのもプロの仕事ですよね。年齢によっても、季節によっても影響されるので、経験を積んでいかないと難しいです。今度、僕は65.8kg級に落とすんで、今は増えないように気をつけていて77kgなので、試合まで11kg程落とします。

 

–  11kgも落とすのですか。

なかなか大変ですがこの階級でも180~190cmの選手もいるので、それくらいが普通なんでしょうね。

 

–  今の菊野選手から11kg減るのが想像できないですね。

11kgの肉ってかなりでっかい塊ですからね(笑)2ヶ月くらいかけてじっくり落とす予定です。

 

–  最後にブログを読んでいる方々にメッセージをお願いします。

今日本の格闘技はテレビがなくなってしまいましたが、選手は増えてジムは増え大会も増えレベルもものすごく上がっています。日本格闘技はとてもおもしろいので是非見に来てください!

 

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